368.『この手に自由を』
シフトの拳の弾幕を受けるフライハイト。
勢いのままに吹っ飛ばされる。
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
「がはぁっ!!」
背中から叩きつけられる音が響く。
(ブリヘイド・・・リベルタ・・・シアーシャ・・・エレフセリア・・・みんな、ごめん・・・僕1人じゃ夢を叶えられなかったよ)
フライハイトは幼馴染であり冒険者仲間たちに心の中で深く謝罪する。
フライハイトは辺境の貧しい村の出身だ。
同年代にブリヘイド、リベルタ、シアーシャ、エレフセリアという4人の男女がいる。
彼ら彼女らはそれぞれの家の三男三女以降に生まれた者たちだ。
フライハイトたち5人は仲良しで幼い頃から集まってはよく遊んでいた。
「今日は何して遊ぶ?」
「駆けっこ」
「疲れるからヤダ」
「お飯事がいい」
ブリヘイド、リベルタは男の子だけあって身体を動かす遊びが好きだ。
対するシアーシャ、エレフセリアは女の子なのでちょっと年頃の女性がやる家事の真似事をしたい。
「駆けっこにしようぜ!」
「お飯事がやりたい!」
ブリヘイドたちはいつも遊びで対立している。
「フライハイト、お前はどっちがいいんだよ?」
「そうよ、どっちを選ぶの?」
やりたいことはいつも2対2。
最後の判断を委ねられるのもいつもフライハイトだ。
「うーん、僕はどっちでもいいかな・・・」
「なんだよ、優柔不断だな」
「そうよ、それじゃ将来結婚できないわよ」
「あははははは・・・ごめん」
優柔不断なところからブリヘイドたちに怒られるのがいつものパターンだ。
結局最後はじゃんけんで決まることが多い。
「「じゃんけん・・・ぽん!!」」
「くー・・・負けたー!!」
「勝ったわ!! それじゃ、お飯事ね」
シアーシャがじゃんけんに勝つとブリヘイド、リベルタは嫌な顔をするが、最後にはみんなで仲良く遊ぶことになる。
「ほら、みんな、遊ぶわよ! フライハイトも」
「うん」
フライハイトとしてはいつも5人でいられればそれでよかった。
それから年月は流れ5歳の誕生日を過ぎたある日、町から年老いた神父が村にやってきた。
神父は教会の中に入り、代わりに熟年のシスターが外を出て大声で村人たちに呼びかけた。
「これよりスキル鑑定の儀を執り行います! 今年5歳になった子供たちは今すぐ教会に集まってください!!」
神父の到来に両親はフライハイトを連れて教会へと足を運んだ。
フライハイトがスキル鑑定の儀で賜ったスキルは【影法師】。
【影魔法】を始め、影に纏わる能力を神から与えられた。
この時ブリヘイドたちも神からそれぞれスキルを与えられる。
ブリヘイドは【火術師】、リベルタは【風術師】、シアーシャは【火術師】、エレフセリアは【光術師】のスキルを授与された。
「あーあ、【土術師】じゃないのか・・・」
「僕もハズレ・・・」
「あたしも・・・」
「私も・・・」
「・・・」
フライハイトたちは【土術師】のスキルが欲しかった。
これがあればこの貧しい村でも農業で生きていけるからだ。
だが、5人とも農業とは無縁のスキルを与えられる。
それからしばらく経ったある日、両親はフライハイトを捨てた。
理由はいくつかある。
・長男・次男・長女・次女ではないこと。
・農業とは無縁のスキルであること。
・家が貧乏なので3人目以降は養えないこと。
貧しい村でも生きていくためには身内でも切り捨てなければならない。
下男下女として売れればいいがわざわざ辺境まで買いに来る者はいない。
結果としてフライハイトたち5人は少ない路銀を渡されて親より捨てられた。
行く当てもなければ帰る場所もない。
フライハイトたち5人はこれから過酷な世界を自力で生きていくことになる。
「俺たちこれからどうなるんだろうな・・・」
「やっぱり死ぬのかな・・・」
「ちょっと滅多なこと言わないでよ!」
「怖いよ・・・」
「・・・」
フライハイトたち5人はとりあえず町を目指して歩き出す。
薄汚い服装で武器になるようなものは持っていない。
歩く度に体力を削られ空腹を知らせるようにお腹が鳴り続ける。
その音を聞いて魔物が現れた。
それは狼の魔物だ。
フライハイトたちの足の速さでは狼からは絶対に逃げられない。
生き残る方法はただ1つ、戦うしかない。
フライハイトたちは必死になって戦った。
無我夢中に戦い、そして、狼を殺して勝利する。
ナイフなんて持っていないからリベルタの【風魔法】で狼をバラバラに切断した。
狼の体内から綺麗な石が出てきて、シアーシャは倒した記念に持っていくと懐に入れる。
捌いた狼の肉はブリヘイドの【火魔法】で焼いた。
スキルを使い慣れていないのか焦がしてしまったが、それでもフライハイトたちにとってはありがたい食料だ。
文句も言わずに狼の肉を食べる。
食事を済ますとフライハイトたちは町を目指して再び歩き出す。
進む度に魔物に襲われ、その都度力を合わせて撃退して食にありつく。
こうしてフライハイトたちは徐々に強くなっていった。
町に着くとフライハイトたちは冒険者ギルドに向かった。
扉を開けて受付まで行くと受付嬢から話しかけてきた。
「いらっしゃい。 坊やたち、何か用かな?」
「俺たち冒険者になりたくて来たんだ」
ブリヘイドが代表して答える。
「冒険者になりたい? わかったわ。 すぐに手続きするわね」
受付嬢はフライハイトたちの前に[鑑定石]を置く。
「それでは1人ずつ冒険者登録を発行していくわよ。 まずはこの[鑑定石]に触れてね」
「それじゃ、俺からお願いするぜ」
ブリヘイド、リベルタ、シアーシャ、エレフセリア、最後にフライハイトの順番に冒険者登録を行った。
「はい、ご苦労様。 こちらが冒険者登録証よ。 身分証も兼用しているので紛失しないでね。 初回は無料だけど、再発行の際は銀貨1枚が必要になるからご注意してね」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
フライハイトたちは自分の冒険者登録証を受け取った。
冒険者登録証を見るとEランクと書かれている。
「冒険者のランクは通常A・B・C・D・Eの5段階で最高ランクがA、最低ランクがEよ」
「これで俺たちも冒険者だぜ! くぅ~、早くランクを上げてAランクになりたいな!!」
「そうね。 どうせならAランクになって村のみんなを見返してやりましょう」
ブリヘイドとシアーシャが自分たちを捨てた親を見返そうと躍起になる。
「ところで坊やたちはパーティー登録もしておくの?」
「パーティー登録?」
「そう、パーティー登録しておくと1人だけの依頼と違って、受けられる依頼の範囲が広がるのよ。 見たところ坊やたち全員仲間なんでしょ?」
「ああ、俺たちは同じ村の出身で仲良し5人組だ。 それなら、そのパーティー登録? だっけ、それもお願いしてもいいかな?」
「ええ、すぐに登録してあげるわ。 それじゃ、冒険者チーム名を教えてね」
フライハイトたちはチーム名を考える。
「なぁ、何か響きの良いチーム名ってあるか? 俺は思いつかない」
「僕もこういうのは苦手だ」
「あたしもそういうのはちょっと・・・」
「私も良い名前が出てきません」
「・・・」
フライハイトが黙秘しているとブリヘイドが声をかけてきた。
「フライハイト、お前何かチーム名はないか?」
「えっと・・・それなら『この手に自由を』っていうのはどうかな?」
「『この手に自由を』? いいんじゃないか、それ」
「僕もそれがいい」
「あたしも『この手に自由を』に賛成よ」
「私もみんなと同じです」
フライハイトの一言で『この手に自由を』が採用された。
「フライハイト、受付の人にいって!」
「ぼ、僕が?」
「そうだな。 名前を決めたのはフライハイトだからな」
「わ、わかった。 すみません、チーム名なんですけど『この手に自由を』でお願いします」
「あら、決まったのね。 チーム名は『この手に自由を』・・・と、それでは冒険者チーム『この手に自由を』で登録するわ。 チームリーダーは誰がやるの?」
「俺だ!!」
「あたしよ!!」
ブリヘイドとシアーシャがチームリーダーをやると同時に立候補した。
「おい! ここは俺だろ!!」
「あたしに譲りなさいよ!!」
2人は自分がチームリーダーをやると1歩も譲らない。
「「むむむむむ・・・」」
「ブリヘイド、シアーシャ、落ち着け」
「ここはいつも通りじゃんけんで決めましょう」
「そうだな」
「そうね」
結局じゃんけんでチームリーダーを決まることになった。
「いっておくけど、恨みっこなしだからね」
「ああ!! それじゃ・・・」
「「じゃんけん・・・ぽん!!」」
「くっ・・・ま、負けたわ・・・」
「おっしゃぁ! 勝ったぜ!! それじゃ、俺がチームリーダーだ」
ブリヘイドがじゃんけんに勝ち、シアーシャが膝を折った。
「それじゃ、チームリーダーは俺、ブリヘイドでお願いするぜ」
「わかったわ。 チームリーダーはブリヘイド・・・っと、それでは皆さん、冒険者登録証の提出をお願いするわ」
フライハイトたちは受付嬢に冒険者登録証を渡すとすぐに登録して返却した。
「はい、これでパーティー登録は完了よ。 それでは改めて冒険者チーム『この手に自由を』のメンバーの皆さん、ようこそ冒険者ギルドへ。 ギルド一同あなたたちを歓迎するわ」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
こうしてフライハイトたちは冒険者として活動を開始する。
最初に道中で手に入れた大小様々な魔石を売ってお金を調達すると5本のナイフを購入して1人1本所持した。
ランクの低い依頼を熟し、雨風を防げる程度の激安の宿に泊まり、必要最低限の食事でなんとか毎日を過ごす。
それでも村にいた時よりは充実した日々を送っていた。
冒険者稼業に慣れてきたフライハイトたちは今日もランクの低い依頼を熟すと、帰り際にブリヘイドが唐突に声をかけてきた。
「なぁ、俺たちも目標を立てないか?」
「目標?」
「そうだぜ。 こう誰も達成したことがないことをやろうぜ」
「あ、それいいわね」
「賛成だ」
「私も賛同します。 目標を持つことで生きる意味ができると思います」
「フライハイトはどうだ?」
ただ闇雲に生きるよりも目標を持つことで生活に張りをもたせることは良いことだ。
偶にはブリヘイドも良いことを言うとフライハイトは感心した。
「僕も賛成するよ。 それで何を目標にするんだ?」
ブリヘイドは悪戯しそうな笑みで目標を掲げる。
「それなんだけどこの王国に未だ攻略できていない大陸最大のダンジョンがあるんだ。 その名も『デスホール』! 俺たちが誰も成し得なかったことをやってやろうじゃないか!」
「ダンジョンか・・・それならしっかり力をつけて挑まないとね」
「力だけでなく連携も必要になると思います」
「並の冒険者では攻略できないんだから準備も必要かな」
「できれば今わかっている分の情報もほしいね」
フライハイトたちの言葉に満足したブリヘイドは声を大きくしていった。
「それじゃ、俺たちの目標は大陸最大のダンジョン『デスホール』の攻略だ」
「「「「おおー!!」」」」
それからフライハイトたちは大陸最大のダンジョン『デスホール』を攻略するべくまずは力を身に着けることから始めた。