35.フェイと潜入捜査
ヤッホ~♪ みんな元気? ご主人様から一番の寵愛を受けているフェイちゃんだよ~♪
まずは今までのぼくとご主人様の愛に満ちた過去を特別に教えちゃうよ。
え? そんなのはいいからさっさと本編を読ませろ?
まぁまぁみんな落ち着いてぼくの話を聞きなよ・・・っていうか聞け!!
ぼくは元々安住の地を持たない遊牧民なんだ。
季節が変わる度にある地域を順番に巡っていたんだ。
そんな民族大移動していたある日、ぼくたちは魔物であるビッグコブラの群れに遭遇してね・・・
あ、コブラの強さはスモールコブラ、ミドルコブラ、ビッグコブラ、ヒュージコブラ、キングコブラの順に強くなってるからね。
みんなで戦って勝つには勝ったけどビッグコブラがぼくの右足を噛んで毒を流し込まれて、オマケに民族は半壊したんだよね。
え? 民族半壊のほうが重要じゃないの? いやいやぼくの右足のほうが重要でしょう。
本来なら解毒薬を飲めばいいんだけど、生憎解毒薬なんて代物はない。
稀有な能力である【治癒魔法】の使い手もいないし、薬師が重傷者を最優先に助けているのだ。
ビッグコブラの毒は全身に回ると死ぬって聞かされたので泣く泣く右足を切断、本当に痛いから・・・本当だよ!!(涙)
で、この足じゃ旅ができないから民族の活動資金を得るためにぼくを始め多くの障害を持った同民が奴隷商に売られたの・・・可哀そうなフェイちゃん。
それから1年以上経ったある日、ついにその時がきた。
そう、ご主人様が奴隷商に来てぼくを即決で買ってくれたんだよ。
でも、ご主人様が泊っている宿までお姫様抱っこで運ばれたのはハズい! ハズすぎる!! ハズくてぼくの黒歴史ナンバー1にいつまでも残るだろう。
だけど女の子扱いされて嬉しかったのはここだけのひ♪・み♪・つ♪
部屋に運ばれてこれまたビックリ! なんて豪華な部屋なんでしょう・・・と、周りを見るとフードを着た子が3人。
ご主人様はぼくを置いてまた出かけたのでお互いの自己紹介をすると全身だけでなく顔も隠しているのがルマちゃん、目を閉じているのがベルちゃん、俯いて現実を逃避しているのがローザちゃんと3人とも奴隷で女の子だ。
もしかして、ご主人様は無類の女の子好きかな? そんなバカなことを考えているとルマちゃんの介護あって少しは正気に戻ったローザちゃん。
いろいろ話しているとご主人様がもう1人奴隷を連れて戻ってくる。
他言無用と言って目の前で何もない空間にミシミシバリバリと音を立てて裂けていくのだ。
夢を見ているのではとおもった矢先にご主人様は美しい柄をした5本のポーションを取り出し、みんなに1本ずつ渡して飲むように命令する。
ぼくは渋々ポーションを口にするとすぐに身体の違和感に気づいた。
右足を見ると一瞬光り、それは骨、血管、神経、筋、皮膚と次々に形成していき最後には足ができていた。
切断した傷が一切なく、足の甲とか見ると血管に血液が流れており、右足の指を自分の意志で動かせた・・・
ぼくの足が治ってる! ぼくは素直に喜びご主人様を見ると最後に連れてきた子にキスしてビンタを喰らってる?! なんで?!?!?!
その後は可愛い服を着たりお風呂入ったり食事したりと今までの人生で一番裕福な時間を過ごせたね。
こんなことされたら誰だって好きになっちゃうでしょう? ぼくもご主人様のことが好きになって初めて恋しちゃったよ。
食後ぼくたちがまったりしているとご主人様が自分の目的をみんなに打ち明けた。
『僕の目的・・・『復讐』だ』
もう驚いたよ! 復讐だよ!! 復讐!!!
ぼくたちを買った理由が復讐だとは想像の斜め上行ってたね。
ルマちゃんに先を越されたけどもちろんぼくもご主人様についていくよ。
気に入らないのが1つ・・・それはユールちゃんという娘の回答がご主人様へのキスだった!
さっきはご主人様をビンタしたのに今度はキスとか心変わり早くない? ぼくも回答はキスにすればよかったよ。(涙)
だけどそのあとの一言でぼくの気持ちは天にも昇った。
『結婚してくれ』
まさかのプロポーズにぼくだけじゃなくルマちゃんたちも固まってたね。
だけど嬉しすぎて言葉が出ないので身体で表現・・・ってみんな同じかい!!
1日を振り返るとお姫様抱っこでしょう・・・足の完治でしょう・・・ひらひらスカートの可愛い服でしょう・・・お風呂に・・・豪華な食事・・・そしてプロポーズ!! 夜伽と夜這いは失敗したけどとても濃厚な1日だったよ。
いやぁ、本当夢のような1日だったなぁ・・・ここだけ無限ループしてほしいくらいだよ。
次の日は冒険者登録していざ依頼を頑張ろうと森に行くとゴブリンキングに出会った・・・って、この森ゴブリンキングが出るの?! ぼくが逆立ちしても勝てる訳がないだろ!!
しかし、ゴブリンキングはご主人様を襲って逆に額に斧が刺さって絶命した。
え?! たしかゴブリンキングの討伐依頼難易度はAだったはず・・・何をしたのかわからないけど瞬殺ってご主人様強すぎでしょ!!
この一報を受けて翌日ゴブリン討伐するもゴブリンキングと同じくらい強そうなゴブリンエンペラー、ゴブリンナイトメアが攻めてきたんですけど!!
なんなの?! ゴブリンキングといいゴブリンエンペラー、ゴブリンナイトメアといいボス級モンスターのオンパレードっておかしくない?!
無理無理!! 無理ゲー過ぎるわ!! 敵の戦力がありえないでしょう!!!
そんな中敵が誰でもお構いなしなのがご主人様クオリティー、ゴブリンエンペラーもゴブリンナイトメアも返り討ちにするんだからもう言葉が出ないよ。
冒険者になってたった2日で体験することじゃないよね。
ボリュームありすぎてお腹パンパンだよ。
それから2ヵ月はまったり時間が流れてたな・・・
最初の1ヵ月は草原で料理と模擬戦と露天風呂。
料理はベルちゃんが作ったんだけど、最初は覚束なったけど日増しにベルちゃんの腕が上がっていくんだよ。
いつの間にかベルちゃんの手料理楽しみになってたし・・・そういえばご主人様もベルちゃんの【料理】に期待していたっけ?
今ならご主人様の気持ち解かるな・・・ぼくもこんな手料理が毎日食べられるならベルちゃんを嫁に欲しいもん。
食後の運動にご主人様1人対ぼくたち5人で模擬戦。
ご主人様がぼくたちを馬鹿にしたように5人同時に相手するって言うんだもん。
さすがにカチンときたけど、その後のご主人様の蜂蜜よりも甘い一言でやる気が出ちゃったよ。
『僕に勝ったら僕ができる範囲で1人1つずつ願いを叶えよう』
もうこれは殺るしかないでしょう♪・・・んん、やるしかないでしょう。
もし、ご主人様に勝ったら絶対あれをやってもらうんだ・・・えへへ・・・
だけど現実って時に残酷だよね・・・毎日毎日挑んだけど結局ぼくたちは1度も勝てなかった。
ああ、ご主人様との愛の語らいが・・・ぐすん。(涙)
模擬戦が終わると露天風呂で疲れをとるんですよ。
ルマちゃんとユールちゃんが残りの魔力を全て使い即席露天風呂を作成。
お風呂って本当に気持ち良いよねぇ・・・ルマちゃんとユールちゃんがいれば毎日入れるんだから、2人には感謝だよ。
あと、ここでもベルちゃんが大活躍~♪
ご主人様を混浴に誘って一緒に入れるんだから、流石だよベルちゃん。
風呂に入って大胆になったのかご主人様が遠慮なくぼくたちの胸を見てくる。
ルマちゃんとユールちゃんはぼくの遥か上だし、ローザちゃんもぼくより少しあるし、この中だとベルちゃんだけにしか勝ってない。
いつか・・・いつかぼくだってルマちゃんやユールちゃんみたいに大きくなるんだ!!(涙)
みんな入って終わりではなく毎回必ずご主人様のラッキースケベイベントが発動している。
被害者(幸運者?)は毎回ランダムでご主人様に触られてうらやま・・・んん、けしからんことである。
これが最初の1ヵ月の出来事で、後の1ヵ月はベルちゃんの【錬金術】とローザちゃんの【鍛冶】のスキルレベルアップに費やされた。
そして、ぼくたちはミルバークの町を旅立つときがきたのです。
町で知り合った人たちにチャチャっと挨拶して目指すはヘルザード辺境伯領・・・って、大陸最北端にある場所っすね。
ミルバークの町を出てから森路や獣道などの悪路を進むこと6ヵ月、ついにヘルザード辺境伯領に入領したよぉ。
途中、魔物に襲われたり、盗賊退治したり、女の子たちを助けたり、ご主人様の生まれ故郷に行ったりと紆余曲折しながら首都ベルートに到着。
で、今に至るのですよ・・・どうです? すごいでしょう!!
え、長すぎる? もう少しコンパクトに説明できないのか? これでも頑張って重要な部分を押さえて話したんですよ。
褒めるべきであり、文句を言われる筋合いはない!!
話を戻すと・・・今日はなんとご主人様から直々に命令を受けたんだ。
内容はザール辺境伯が住んでいる館の調査。
正直ご主人様のお手を煩わすことをしたくないからザールという人物をさっさと殺したいけど、それやっちゃうとぼくが怒られるからね・・・
そういう訳で夜になったら行動するので今の内に休んでおくことにするよ。
夜───
(ついにきたあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!)
おっと失礼、待ちに待った夜が来ました。
では早速昼間ベルちゃんが作ったマントを着ていざ館へ潜入調査開始!!
「それじゃご主人様行ってきます」
「無茶はするなよ」
「解かってますって」
ぼくは宿から出ると暗い裏路地に入りフードを深くかぶるとマントに魔力を流した。
(これで認識はされにくいはず・・・)
前から3人の男が歩いてくるので試しにすれ違ってみる。
「? おい、今誰かいなかったか?」
1人の男が周りを見渡すとほかの2人も辺りをキョロキョロ見る。
「誰もいないみたいだけど?」
「気のせいじゃないか?」
「それもそうか・・・じゃあ、向こうの酒場で飲もうぜ」
「おう、行こうぜ」
「朝まで飲むぞぉ」
男たちは何事もなく酒場に続く通路に消えていった。
(流石ベルちゃん♪ マントの錬成は完璧だよ。 実験も大成功だね。 これならぼくが気配を放出したり感情的な行動をしない限りはバレる心配はなさそうだ)
ぼくは領主の館の裏手に移動すると潜入を開始する。
まずはそこら辺に転がっている小石を掴むと館に向けて投げた。
塀より高く放物線を描くように庭に落ちた。
コツコツコツ・・・
今の小石の音で館の警備兵が来てもおかしくないのに誰も来ない。
(まずは結界系の魔法の使い手はいないかな。 警備兵が来ないことを考えると探知系の魔法の使い手もいないとみていいだろう)
問題ないようなので塀を越えて庭に侵入する。
館を見上げると3階建てといったところかな。
ぼくは館に近づくと窓やドアを調べていく。
どこも閉まっているように見えたが1ヵ所だけ開いていた。
(この館の警備笊過ぎる)
とりあえず館の中への侵入に成功したぼくは領主の部屋を探すことに決めた。
途中館内にいる警備兵を見かけるもやる気がなさそうな表情で警備していた。
(ぼくとしては楽できて良いんだけどね)
館の主がいるのは上階と相場が決まっているからね。
ぼくは警備兵の横を通り過ぎると3階まで階段を上った。
領主の部屋を探して廊下を歩くとある1つの部屋の前に赤毛で鶏冠立てた警備兵が椅子に座ってだらけていた。
(どうやらあの警備兵がいる部屋が領主の部屋らしいね。 さて、どうしたものかな?)
「どうしもしないさ。 お前はここで死ぬんだからな」
座っていた警備兵が立ち上がるとこちらを見たのだ。
(な?! こちらに気づいた?!)
「ん? 姿が見えないな・・・【闇魔法】で隠れてるのかな? なら・・・」
警備兵の目が突然輝き始めた!!
(な?! あれは?! まずい!!)
バリイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
ぼくはすぐに窓ガラスを破って外へと逃げ出した。
3階の高さ(約7~8メートル)から落ちていくが地面に激突する寸前に【風魔法】を使って問題なく着地する。
ガラスが壊れた音に館の警備兵がこちらに向かってくる。
(足音から10~20人ほど・・・捕まるのも時間の問題!! 撤退するしかない!!!)
ぼくは潜入捜査を諦めて塀を越えて館から脱出した。
(このまま宿に戻るのは不味い)
ぼくは行き先を変更してこの都市のスラム街を目指した。
ご主人様のところへは明朝戻るとして問題は・・・
(あの警備兵、ぼくの心を読んだということはレアスキルの【読心術】・・・それにあの目はベルちゃんと同じくレアスキルの【鑑定】だ。 間違いない!! あと戦闘力もぼくより上だろう)
正攻法で戦ったら勝ち目はないし、搦手を使おうにも【読心術】と【鑑定】のせいで勝てないだろう・・・
(【読心術】と【鑑定】でぼくの情報がどこまで盗まれたかも気になるし・・・)
潜入捜査に失敗して朝になるまで闇に身を隠すフェイちゃんでした・・・くすん。




