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367.フライハイト

シフトはフライハイトの出方を待っていた。

先ほどみたいな不意打ちも考えられるからだ。

「シフト、来ないのかい? それなら僕から仕掛けさせてもらうよ」

フライハイトは臆することなくシフトへと突進する。

シフトは【五感操作】を発動してフライハイトの距離感と平衡感覚を狂わせた。

案の定、フライハイトの攻撃はシフトには届かず空を切る。

「?!」

「無駄だ。 お前の攻撃は届かない」

「それはやってみなければわからないだろ?」

フライハイトは尚も攻撃を仕掛ける。

シフトの背後に回り込んだフライハイトが続けて攻撃を繰り出す。

いつもなら【五感操作】の影響を受けた者の攻撃は絶対に当たらないが、シフトはこのとき嫌な予感がして直感に従ってその場をすぐに離れる。

その直後、フライハイトの攻撃は今までシフトがいた場所へ正確に行われた。

「!」

フライハイトは【五感操作】の影響を受けている。

にも関わらず、シフトに攻撃を当てるところだった。

(確認してみるか・・・)

シフトは【五感操作】を発動してフライハイトの視覚と触覚を剥奪した・・・はずだった。

しかし、フライハイトはシフトへと突進して攻撃を仕掛けてきたのだ。

シフトはフライハイトの猛攻撃を躱しながら考える。

以前、帝国の皇帝陛下が目を瞑ることで距離感と平衡感覚を破ったこと。

皇国の天皇陛下が己の分身体には【五感操作】が効かなかったこと。

ゴーレムみたいな仮初の生物や不死者みたいなすでに死んでいる者には【五感操作】が効かなかったこと。

五感を失っても【回復魔法】を使うことで五感を回復した者がいたこと。

色々な事例があるが今回のフライハイトにはどれも当て嵌まり、どれも当て嵌まらない。

フライハイトは生者であり最初の【五感操作】で距離感と平衡感覚を狂わせていたのは間違いない。

だが、それ以降は【五感操作】の影響をまるで受けていないのだ。

目を閉じてもいないし、【回復魔法】を使った形跡もない。

シフトはフライハイトが一瞬にして分身体と入れ替わったか、あるいはゴーレムや不死者と入れ替わったと結論した。

問題は本体がどこにいるかだ。

フライハイトの気配は未だに目の前で攻撃を仕掛けている者から感じた。

訳が分からない状態に陥るシフト。

とりあえず攻撃に転じることにした。

シフトは龍鱗のナイフで攻撃する。

ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!

フライハイトはオリハルコンのナイフでしっかりと攻撃を受け止める。

(今だ!)

動きを止めたところにシフトはフライハイトをすばやく蹴る。

が、その攻撃は空を切った。

「なっ?!」

「えっ?!」

「擦り抜けた」

「当たってないだとっ?!」

「嘘っ?!」

「どうなってますのっ?!」

否、シフトの蹴りがフライハイトの身体を擦り抜けていったのだ。

(クーリアみたいな透明化の能力? いや、違う! そんな能力では断じてない!)

シフトが戸惑っている隙をついてフライハイトはナイフで攻撃してきた。

完全なるタイミングで避けられない。

シフトは【空間転移】を発動すると上空に存在する雲へと転移した。

「消えたっ?!」

フライハイトは突然消えたシフトに周辺を確認する。

ふと影ができて上空を確認すると巨大な氷の塊が降ってきた。

シフトが【空間収納】からルマ特製の氷の塊を取り出すとフライハイト目掛けて落としたのだ。

「嘘だろっ?!」

フライハイトは避ける暇もなく直撃する。

ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!

氷の塊が地面に落ちたことでものすごい音と振動、それに衝撃波がルマたちを襲う。

「「「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」

ルマたちはその場でなんとか耐えきる。

地面に降りたシフトは周りを見渡す。

(いる! まだ倒せていない!)

シフトが警戒していると急に動けなくなる。

「なっ! 動けないっ!」

「ふぅ・・・危ないな・・・もう少しで死ぬところだったよ」

氷の塊の奥から現れたのは無傷のフライハイトだ。

「あのタイミングで躱した? いや、上空から見ていたけど避けていなかったはず・・・無傷で堪えるなんてありえない」

「そうだね。 もし僕がそこいらにいる人間と同じ能力なら今頃潰れてぺしゃんこになって死んでいたよ」

シフトは注意深く周りを見る。

するとシフトの動きを封じる黒い影を発見した。

「そうか・・・お前の能力・・・それは『影』だな?」

「! ふ、ははははは・・・まさか僕の能力を見破るとはね・・・」

「なるほど・・・僕が戦っていたのはお前の影分身だったということか・・・」

「正解」

フライハイトの能力、それは【影魔法】だ。

【影魔法】もほかの魔法みたいに多種多様なことができる。

シフトとの戦闘中に【空間魔法】みたいにアイアンゴーレムやミスリルゴーレムなど者や物を影の中に入れたり出したりしたのも、アイアンゴーレムやミスリルゴーレムを操っていたのも、自分は影の中に隠れて影で作った分身を戦わせていたのも、今シフトを影で拘束したのもすべて【影魔法】によるものだ。

以前ライサンダーたちを連れてシフトたちから逃げた時や、皇国でイーウィム率いる翼人族が攻めてきた際にも【影魔法】で影を経由してその場を離脱した。

シフトのスキル(【ずらす】)と同じ万能ともいえる能力だ。

欠点らしい欠点もないので相手にするとこれほど厄介な魔法もない。

「シフト、降参しろ。 いくら君が強くてももう勝ち目はない」

「何を言うかと思えば影で拘束した程度で勝ったつもりか?」

「強がるのはよせ。 動けない君を殺すのは簡単なことだ」

「それなら僕も本気で相手にするとしよう」

シフトはそれだけいうと【空間転移】を発動するとフライハイトの目の前に転移した。

「!!」

突然目の前にシフトが現れて驚くフライハイト。

そこにシフトの拳が炸裂する・・・かと思いきや殴ったのはフライハイトの影で先ほどよりもしっかりとシフトを拘束する。

地面の影から新たにフライハイトが現れた。

「いったはずだ。 君に勝ち目はないと」

「僕もいったけど、拘束した程度で勝ったと思うなと」

「何をいって・・・」

シフトは【時間操作】を発動するとシフトを中心にしてセピア色が広がっていき、世界そのものの時を止める。

「・・・」

止まった時間の中動けるのはシフトだけ、フライハイトは止まって動かない状態だ。

「さてと・・・」

シフトは【空間転移】を発動して自分を拘束している影から抜け出す。

目の前にいるフライハイトの身体を触ろうとするが擦り抜ける。

「今のフライハイトは本体ではなく、影で作った分身体か・・・以前戦った皇国の天皇陛下が使った分身体にそっくりだが、こちらは攻撃終了後に身体が消えない・・・」

次にオリハルコンのナイフを触る。

触感からして本物だ。

「ナイフは本物か」

フライハイトをじっくり観察する。

「そうするとフライハイトの本体を影から引き摺り出さないことには始まらない。 この状態ではいくら攻撃しても無駄というわけか・・・」

時の止まった中ではフライハイトの本体を影から引き摺り出すなど不可能だ。

「仕方ない。 これ以上時を止めていても悪戯に魔力を消費するだけ・・・」

そこでシフトはあることを思いついた。

「試してみるか」

シフトは止まった時間を解除するとセピア色な世界が段々と色鮮やかな世界に戻っていった。

「・・・いるんだ?」

目の前から消えたシフトを確認しようと周りを見ようとするフライハイト。

シフトは影分身と知りつつフライハイトを攻撃した。

影分身に攻撃は通じない。

そして、影は再びシフトを拘束して別の影からフライハイトが現れる。

「無駄無駄、何回やっても同じことだよ」

「やってみなければわからないだろ?」

シフトは【空間転移】で今出現したフライハイトの背後に転移すると後ろから攻撃した。

先ほどと同じように影分身であるため攻撃は通じない。

その影はまたシフトを拘束して別の影からフライハイトが現れる。

シフトはまた【空間転移】で今出現したフライハイトの背後に転移すると後ろから攻撃した・・・

このパターンを何回も繰り返す。

同じことを繰り返すシフトにフライハイトは内心失望していた。

(シフト、君もほかの者たちと同じなのか・・・それならいっそ僕の手で葬ってあげる)

フライハイトはシフトが疲れて動けなくなったところで止めを刺すことを決めた。

だが、フライハイトは知らない。

シフトの桁違いの魔力を、そして、フライハイトの魔力が底に近づきつつあることを。

ついにその時が来た。

もう何十回目になるのだろう。

シフトは影分身を攻撃する。

その影が拘束するはずだった。

だけど、影はシフトを拘束しなかった。

否、もう拘束することはできない。

なぜならフライハイトの魔力が底を尽きたからだ。

当然、影の世界にいることすらできずに弾き出されて本来の世界に戻される。

「なっ?!」

驚いているフライハイト。

そこにシフトの拳がフライハイトの腹にめり込んだ。

「ぐふぅっ!!」

その勢いでフライハイトは盛大に吹っ飛ばされた。

ダアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!

背中から勢いよく叩きつけられる音が響く。

「がはぁっ!!」

フライハイトは息を詰まらせるが、それでもなんとか意識を保って立ち上がる。

「はぁはぁはぁ・・・な、何だ? 何が起きているんだ?」

自分の身に何が起きたのか見当もつかないフライハイト。

そこにシフトがやってきて答えをいう。

「どうやら魔力が尽きたようだな」

「魔力が・・・尽きた?」

シフトの言葉にフライハイトは目を見開く。

そう、フライハイトは自分が有利だからと魔力管理を怠った。

その結果、魔力が底を尽きて元の世界に戻されたのだ。

「くぅ・・・しまった。 まさか、僕の魔力が先に尽きるとは計算外だ」

フライハイトもマナポーションは持っている。

しかし、本人が持ち歩いてちょっとしたミスで割れるのを恐れてかいつも影の中に入れておく習性があった。

マナポーションだけでなくお金や物もそうだ。

フライハイトは盗難を避けて【空間魔法】と同じように【影魔法】を便利に使っていた。

魔力が残っていれば取り出して魔力を回復させるのだが、魔力が尽きた今影の中にあるマナポーションを取り出すことはできない。

「さて・・・これで終わりにするよ」

シフトはフライハイトに向かって突進した。

フライハイトはなんとかオリハルコンのナイフを握るとシフトの攻撃に備える。

先ほどの失望を感じていた自分を思い出すといつの間にか笑みがこぼれていた。

シフトの突進に合わせてフライハイトはオリハルコンのナイフで攻撃するも躱される。

その隙をついてシフトはフライハイトの腹に手加減した拳をしこたま打ち込むのであった。


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