361.逃げた先で・・・
『この手に自由を』と魔族がガイアール王国に攻めて返り討ちにあってから数日。
シフトたちがリーンを助けたり潜在能力を引き出している中、とある洞窟では1人の不死者と6人の少女が奥へ奥へと進んでいた。
不死者は自分の身体と精神が少しずつだが崩壊していってるのが手に取るようにわかる。
「早く・・・しないと・・・このままでは・・・身体が・・・維持できなくなる・・・」
「「「「「「・・・」」」」」」
洞窟の最奥を目指す不死者の名はレザク。
数日前までは魔族であり、ドラゴン化してシフトたちと対峙するが力及ばず倒される。
だが、その直後に誰にも悟られずに不死者の中へと魂を逃がすのに成功した。
それから同じく倒されたキウン、メタム、スパッジャ、グラッビィの魂を自分の核ともいえる黒い球に回収してスパッジャが得意であった【空間魔法】で転移して王都スターリインから脱出する。
行き着いた先はレザクが知らない洞窟だ。
もしかすると黒い球に封じ込められている何万という魂の中の誰かがこの洞窟を強くイメージしたのだろう。
しばらくしてレザクは身を守るためにメタムと協力して作り出した6人の少女を転移させて自分のところに戻した。
転移した先が洞窟だったのはレザクにおいて幸運である。
身を隠すのにこれ以上ない打ってつけな場所であり、レザクが自分の核ともいえる黒い球を宿すに値する強力なモンスターが潜んでいる可能性もあるからだ。
レザクは少女たちを引き連れて洞窟の中へと入っていった。
洞窟の中は1層ごとに広く深く、出てくるモンスターも地上にいる者など比べ物にならないほどの強さを持っていた。
レザクや6人の少女は生者ではない故に襲われることはほぼないが、稀に襲ってくるモンスターは少女たちによりすべて返り討ちにしていく。
「ダメだ・・・こんな中途半端な・・・モンスターに・・・託すことなど・・・できない・・・」
レザクは自分の力を最大限に揮える肉体を求めて洞窟の奥へと進む。
あれから何日が過ぎたのだろう。
洞窟特有である暗闇は今が昼なのか夜なのか時間の感覚がない。
特にレザクと6人の少女は1度死んでそれぞれ人とは異なる肉体に魂を宿している。
そのため空腹にならず、眠気もなく、疲れることもなく、痛みを感じることもない。
もし、生前の肉体であれば洞窟内のモンスターに力及ばず、今頃は死んでいただろう。
今の人外な姿だからこそ洞窟を攻略できているといっても過言ではない。
時間は流れレザクと6人の少女はもう何層降りたことだろう。
レザクは自分の意思を維持するのに精一杯でどこまで降りたかなど数えてない。
そして、ついにレザクの不死者の肉体が限界を迎える。
「・・・うぅ・・・俺は・・・もう・・・ダメなのか・・・」
諦めかけたその時、目の前に未知なるモンスターが現れる。
そのモンスターは遥か昔古代文明の時代に作り出された究極の破壊兵器だ。
見た目は十本足の3メートルほどの巨大な蜘蛛で動きはロボットのようにぎこちなく、6人の少女たちと同じく金属でできている。
蜘蛛ロボットはレザクと6人の少女を敵と認識し襲い掛かってきた。
その力は6人の少女を相手にしても圧倒的で少女たちは1人また1人と倒されていく。
最後の少女が倒されてレザクは万事休すかと心が折れそうになる。
しかし、神はレザクに微笑んだ。
その蜘蛛ロボットは最後まで残った少女の1撃で重傷を負い動けなかった。
「こいつだ・・・これが・・・最初で・・・最後の・・・チャンスだ・・・」
レザクは蜘蛛ロボットに近づき不死者の肉体から自分の核ともいえる黒い球を抜き出すと、蜘蛛ロボットの露出している部分に埋め込んだ。
『───』
黒い球が抜かれたことにより不死者の肉体は崩れ落ち、2度と立ち上がることはなかった。
突然異物を埋め込まれた蜘蛛ロボットは苦しみだし、しばらくすると動きが止まる。
次に目を覚ますと自分を殺した人間に対する怒りが満ち溢れていた。
『ニンゲン・・・コロス・・・コワス・・・』
そこにはレザクやほかの魂の意思すらない。
オレンジ髪の少年に対する殺意しか存在していなかった。
蜘蛛ロボットはメタムが得意とした【金属魔法】を発動して自分の身体をオリハルコンへと補強・修復する。
続いて6人の少女も同じく【金属魔法】でオリハルコンへと補強・修復した。
幸い少女たちの核である黒い球は破壊されずに残っている。
蜘蛛ロボットは次にキウンが得意とした【一騎当千】を発動すると蜘蛛ロボットが1000匹に増加した。
『ニンゲンヲ・・・コロセ・・・』『ニンゲンヲ・・・コロセ・・・』『ニンゲンヲ・・・コロセ・・・』『ニンゲンヲ・・・コロセ・・・』『ニンゲンヲ・・・コロセ・・・』・・・
殺戮マシンと化した蜘蛛ロボットたちはスパッジャが得意とした【空間魔法】で地上へと次々に転移する。
999匹の蜘蛛ロボットが転移し、残された蜘蛛ロボットは【金属魔法】を発動してオリハルコンでできた兵を次々と作り出す。
モンスターに似せて作った全身金属でできた魔物や魔獣、ゴーレム、果てはドラゴンまで創造する。
兵だけでは止まらず剣、槍、斧、鎌、鎚、棍、棒、杖、爪、牙、籠手などの武器まで用意した。
ただ、このままでは金属兵は動かない。
そもそも動かすための核がないのだ。
蜘蛛ロボットは上の階に赴くとそこにいる最強クラスの魔物と戦った。
進化したことで外装に傷1つつけることもなく一方的に嬲り殺し、地面に落ちた魔石を拾って金属兵がいる下の階まで戻る。
手に入れた魔石を金属兵の体内に嵌め込む。
魔石は洞窟内に満ちた魔素を吸収していき、それが動力となることで無機質だった金属兵の目が赤色に輝くと意志を持ったように動き出す。
それから蜘蛛ロボットは上の階に行っては魔物を殺して魔石を持ち帰り金属兵に嵌め込む作業を繰り返した。
最後の1体の金属兵を稼働させると蜘蛛ロボットは動きを止めて停止する。
次に起動する時は人類抹殺が完了しているか、あるいはオレンジ髪の少年が目の前に現れるかのどちらかだろう。
一方、地上へと転移した蜘蛛ロボットたちはオレンジ髪の少年を殺すために動き出す。
といっても、蜘蛛ロボットたちがいる場所がどこなのか、オレンジ髪の少年がどこにいるのかわからない。
そこで蜘蛛ロボットたちは四方八方に分かれて行動を開始した。
地上を這うように移動する者もいれば、グラッビィが得意とした【重力魔法】で浮いて移動する者もいる。
最初に襲われたのは蜘蛛ロボットのいた洞窟の近くにある村だ。
この村は近くの洞窟を攻略しようとする冒険者たちのために作られたといっても過言ではない。
まだ誰も攻略したことがない洞窟で、命知らずの冒険者たちは自分が1番に最奥まで行くという無謀ともいえる夢を抱いてやってくる。
「よし、今日こそは俺たちのパーティがあのダンジョンを攻略するぜ」
「何言ってるんだ? お前たちのパーティじゃ無理だろ? 俺たちのパーティが1番最初に最奥に行くんだよ」
「それなら、最初に最奥に辿り着いたほうがなんでも1つ言うことを聞くっていうのはどうだ?」
「お! いいね、その賭け乗ったぜ!」
その日も100人近い冒険者が洞窟に向けて出発する予定だった。
しかし、突然現れた3メートルほどの巨大な蜘蛛ロボットが行く手に立ち塞がる。
「おい、あの金属みたいに輝く蜘蛛はなんだ?」
「ダンジョンの奥から出てきたとか?」
「被害が出ないうちにさっさとやっつけようぜ」
『ニンゲンヲ・・・コロセ・・・』
最初に蜘蛛ロボットを舐めてかかった10人弱の冒険者たちは全員死亡した。
「気をつけろっ! こいつおそろしく強いぞっ!!」
「全力で挑めっ! でないと死ぬぞっ!!」
尋常じゃない強さを感じた冒険者たちは本気で戦いに挑む。
「これでもくらえっ!!」
キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
「剣による攻撃が弾かれたっ?!」
「この魔法ならどうだっ?!」
パアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
「魔法が効かないっ?!」
だが、蜘蛛ロボットの装甲はすべての物理攻撃を弾き返し、あらゆる魔法攻撃を跳ね返す。
「やばいっ! 逃げるぞっ!!」
「お前ら、どけっ! 俺が先に逃げるんだっ!!」
「嫌だっ! 死にたくないっ!!」
勝てないと判断した冒険者たちは自分以外を盾にしてすぐさま撤収する。
「なんだっ?! あれはっ?!」
「冒険者たちがこっちに逃げてくるぞっ!」
「今すぐ女子供を連れて逃げろっ!!」
村民たちも蜘蛛ロボットを見て戦わずに逃げ出した。
「金属でできた蜘蛛の化け物だとっ?! よく見たら複数いるじゃないかっ!!」
その村にはグラントの影も常駐している。
何しろ王国・・・いやこの大陸でもっとも危険な場所の1つである洞窟を放置するわけにはいかないからだ。
「なんてことだっ! 早く国王陛下に知らせなければ・・・っ!!」
影はグラントにこの状況を一刻も早く伝えるべく【空間魔法】を発動すると王都スターリインを目指して転移した。