表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
362/394

360.驕りを捨てる

ルマたちの潜在能力を引き出した翌日の朝、ギルバートとリーンがシフトたちのところにやってきた。

「やぁ、シフト君たち、おはよう」

「ベル、シフトさんたち、おはようございます」

「ギルドマスター、リーンさん、おはようございます。 身体のほうはもう大丈夫ですか?」

「ええ、1日しっかり休んだからもう大丈夫です」

リーンは身体を動かして全快したことをアピールする。

「リーンお姉さま、無理はしない」

「ベル・・・ありがとう」

これまでのリーンならベルに対して熱いくらいな行動を示していたが、今は姉らしい振る舞いを見せている。

「リーンさん、まるくなりました?」

「そ、そんなことはないわよ?」

シフトの質問にしどろもどろするリーン。

ベルはリーンの言動を敏感に感じたのかシフトに抱きついた。

「ベル?」

「リーンお姉さまでもご主人様は渡さない」

「え? ちょ、ちょっと何を言っているの、ベル? そ、そんなわけないじゃない」

ベルの言葉にリーンは頬を赤く染めて否定する。

あまりにもわかりやすい言動にリーン以外が疑いの目で見ていた。

「ち、違うんだからっ! わ、私はそ、そんな目でシ、シフトさんを見ていないんだからっ!!」

リーンはつっかえながらもシフトへの恋慕を否定する。

(リーンさん、もうそれ以上口を開かないで)

シフトから見ればリーンが口を開けば開くほど襤褸が出ているように見えてならない。

「ところで2人は僕に何の用ですか?」

改めてシフトがギルバートとリーンに問いかける。

「シフト君にお願いがあってきたのさ」

「あなたがベルの潜在能力を引き出したって聞いてね・・・できれば私とギルバートさんの潜在能力を引き出してもらおうとお願いに来たの」

ギルバートとリーンは真剣な表情でシフトにお願いする。

「ギルドマスターもリーンさんも今のままでも十分強いですけど・・・」

「いや、あの少女と戦うなら今のままでは心許無い」

「私の場合は1度死んでいますからね」

2人は先の戦いで少女たちに苦戦した。

身体能力や武器の性能もあるだろうが、心の中に強者である自負もあったのだろう。

それが驕りとなり油断に繋がったわけだ。

「僕としてはあんな無様な醜態は2度としたくないからね」

「そうね、私としてもベルを悲しませたくないわ」

「・・・わかりました。 2人の潜在能力を引き出すことに協力します」

「シフト君、ありがとう」

「恩に着るわ」

話が纏まったところでシフトたちは朝食を取りに行く。

食事を終えてシフトたちは南の断崖下まで行くとプラルタの協力を得て、シフトは【未知経験】を使って早速2人の潜在能力を引き出すことにした。

最初はギルバートの潜在能力を引き出し、昼食を挟んでリーンの潜在能力を引き出すことに成功する。

これによりギルバートとリーンはそれぞれ自分の能力が底上げされたことを実感していた。

試しにローザと模擬戦をさせたら達人改め名人同士の戦いへと発展して決着がつかないほどだ。

「シフト君、ありがとう」

「この力ならば次は負けないわ」

ギルバートとリーンは潜在能力を引き出されたことにより力を得た。

「それはよかった。 だけど、油断は禁物ですよ」

「わかっている」

「2度と同じ過ちは繰り返さないわ」

2人とも先の戦いを教訓として受け止めているようだ。

今のギルバートとリーンと戦ったら苦戦は必至だろう。

もっともシフトも新たなスキル()を手に入れているので余程油断しない限りは負ける要素がない。

「それじゃ、僕たちは戻るよ」

「あ、ちょっと待ってほしい」

ギルバートとリーンが戻ろうとするとローザが声をかけた。

「ん? ローザ君、どうしたんだい?」

「リーンさん、これを」

ローザはマジックバックから龍鱗の槍を取り出してリーンに渡す。

「これは!」

「リーンさんのために龍の鱗から作った槍です。 以前お貸しした槍と同等の力を有しています」

「ローザさん! ありがとうございます!」

リーンは嬉しそうに龍鱗の槍を受け取った。

見た目はシフトたちが持っている龍鱗の武器と同じだが違う点が1つある。

それはギルバートの龍鱗の剣とリーンの龍鱗の槍には魔石の嵌め込む場所を作っていない。

魔法武器に関しては今も秘匿状態なので、ローザが意図的に嵌め込み口を作らなかった。

とはいえ鉄や鋼、ミスリルよりも遥かに優れた威力と耐久力を誇り、使い手次第ではオリハルコンと同等の威力を発揮できるはずだ。

そして、潜在能力を引き出された今のギルバートとリーンの実力ならば龍鱗の武器を十二分に使い熟すことができるだろう。

2人は礼を言うとそのまま王城のほうへ立ち去った。

それと入れ替わるように人化したエルドが戻ってくる。

「エルドさん、どこかに行っていたのですか?」

「グラント殿と話をしていてな、中々に良い話を聞けた。 それで我はそろそろドラゴンの国に戻る」

「そうなんですか? 急な話ですね」

エルドから突然の帰国を聞いてシフトは驚いた。

「元々は夢が気になったからここ(王国)へ来たのであって、本来は霊峰山で同族を纏めたり当面の目標である霊薬(ソーマ)を手に入れる準備をしたりと色々やらねばならぬことがあるからな」

「ああ・・・治世者も大変ですね」

「まったくだ。 同族たちももう少し我の身にもなって考えてほしいものだ」

あの我儘なドラゴンたちを纏めるエルドが如何にすごいか理解できる。

エルドは人化を解くとドラゴンの姿に戻った。

『さて、では我は霊峰山に戻る・・・といっても同族を何匹か引き連れてまたここ(王国)に戻ってくるのだがな』

「あれ? また戻ってくるんですか?」

『ああ、引き籠っている者を引き連れてな。 少しはシフト殿の役に立ってもらわないとな』

「ん? 役に立つ?」

『気にするな、こちらのことだ』

エルドの含みのある言葉にシフトは嫌な予感しかしない。

(もしかして僕に手が付けられないドラゴンたちを押し付けるとか? さすがにそれはないだろう・・・ないよね?)

シフトとしては面倒ごとを押し付けられるのはごめんだ。

『シフト殿、我が戻るまでプラルタのこと頼みますぞ』

それだけいうとエルドは翼を羽搏かせて上空に舞い、そのまま東へとものすごいスピードで飛んで行った。

「ちょっ?! エルドさんっ! エルドさーーーんっ!!」

その声も空しく、エルドに届くことはなかった。

「はぁ・・・行っちゃった・・・」

『まぁまぁ、長も戻ってくるって言っているんですし気長に待ちましょう』

プラルタは能天気なことをいうとその場で蹲る。

「プラルタさんもちゃんとした人化を練習したらどうですか?」

『えええええぇーーーーーっ!! 疲れるから嫌ですぅっ!!』

シフトの提案をプラルタは拒絶する。

「エルドさんみたいに完璧な人化ができればここ(断崖下)で退屈な時間を過ごすことはなくなりますよ?」

「人の姿にはちゃんとなれているので、あとは服をイメージすれば問題ないわね」

「精神面が弱いから人化が解けないように集中力を鍛える」

「せっかくだから人化している時間も長くしたいところだな」

「プラルタちゃんの【魔力自動回復魔法】を自身に使い続ければ維持は簡単そうだけどね」

「プラルタさんはやればできる子なのにもったいないですわ」

『皆さん、なんでわたしに努力させようとするんですか?!』

シフトたちは説得しようとするがプラルタは頑なに拒否し続ける。

「プラルタさん、エルドさんに『頑張ってポンコツでないところを見せてあげます』って言ったじゃないですか?」

『またその手ですか? それには乗りませんよ!』

「ちゃんとした人化できればこんな美味しいものも食べられる」

ベルはマジックバックからクレープを取り出す。

マジックバック内の時間がほとんど進んでいないため、クレープは出来立てほやほやで甘い匂いが充満する。

『うわあああああぁ・・・良い匂い・・・』

プラルタがベルのほうに顔を近づけようとするよりも早くベルはクレープを口に入れて感想を述べる。

「甘くて美味しい」

『わたしにも一口ください』

「ダメ。 今のプラルタ(ドラゴン)の口だと一口で全部食べちゃうから。 どうしてもというなら人化する」

『そんなぁ・・・』

ベルのダメ出しにプラルタは凹んでいじける。

それを見たシフトは良い案が浮かび、懐から金貨1枚を取り出してプラルタに提案した。

「プラルタさん、それならこうしようか。 もし、長時間安定して人化することに成功したら金貨1枚分のスイーツを食べさせてあげるよ」

『うーん・・・シフトさん、質問ですけど金貨1枚だとベルさんが今食べているもの(クレープ)がどのくらい食べられるのですか?』

「えっと・・・ベル、金貨1枚だとそれ(クレープ)どれくらい買えるんだ?」

これ(クレープ)1つで銅貨10枚だから1000個は食べられる」

それを聞いたプラルタのやる気にスイッチが入った。

『1000個?! シフトさん、皆さん、人化できるように頑張りますっ!!』

プラルタも雌ドラゴン(女の子)、甘味には弱いのだ。

それからプラルタは人化の練習に励むことになった。

しかし、この時のプラルタはまだ知らない。

これが如何に過酷で茨な道であるかを。

そして、約束が果たされるのがそれから数十年後であることを・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

「君を愛することはない」と言いますが、そもそも政略結婚に愛なんて不要ですわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

婚約破棄? それならとっくの昔に言い渡されておりますわよ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ