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34.【錬成術】

ご主人様が遠くに見える立派な館を見ている。

その目は今まで見たことがないほどに怒りに満ちていた。

「ご主人様、どうかされましたか?」

私が尋ねると我に返ったのか怒りが霧散しいつも通りの対応をした。

「! ルマ、なんでもないよ」

『なんでもない』という感じではなかった。

私は最初にお仕えするときに言われた言葉を思い出す。


『僕の目的・・・『復讐』だ』


「ご主人様、あの館に『復讐』したい方がいるのですね?」

私の言葉にご主人様は驚いた顔でこちらを見た。

「・・・顔に出てたみたいだね。 それに『復讐』の対象者は話したことはなかったけど・・・」

「過去の・・・最初にお仕えするときのことを思い出しただけです」

「はは・・・ルマには隠し通せることはできそうにないかも・・・」

ご主人様が無理矢理作った苦笑いがとても痛々しい。

「『ご主人様、あなた様にどこまでもついてきます』、『命令とあらばどんな汚いことでも手に染めましょう』」

私はご主人様に助けていただいた時の言葉を紡ぐ。

「・・・ルマ・・・」

ご主人様との良い雰囲気・・・だが、

「もう、ルマちゃん、ご主人様を独り占めとかズールーいー」

「ん、ルマ、ズルい」

「場所は考えたほうがいいぞ、ルマ」

「ルマさんも意外と乙女ですわね」

フェイたちに邪魔された。

「わ、私はご主人様のお心が乱れているから・・・」

「はいはい、とりあえず宿屋に行きましょう」

フェイの提案で私たちは近くの大きな宿屋へ足を運んだ。

宿を取り、部屋に入るなりフェイが切り出した。

「それで、ご主人様。 どうするつもり?」

フェイが今までにない冷酷な声色でご主人様に質問した。

ご主人様の敵はフェイにとっても敵であるのだろう。

フェイの態度にご主人様以外みんな驚いていた。

「まぁ、落ち着いてくれ。 少し試したいことがある。 ルマ、ベル、ローザ、3人に買い物を頼みたい」

「何を購入してくればよろしいでしょうか?」

「フード付きの全身覆い隠せるマントをそうだな・・・実験の分を含めて10着お願い。 あとは食料品の補給を頼む」

「「畏まりました」」

「食料はベルに任せて!」

「それじゃ3人とも頼んだよ」

ご主人様から硬貨が入った革袋を受け取ると私たちは市場に向かった。

「ルマ、どうする?」

「そうね、まずはマントから買いましょう」

「ん、ベルも同じ意見」

「そうだな、ここはご主人様が必要とされた物を最優先に買うのがいいだろう」

まずは衣類を見て回ることにする。

フード付きマントはすぐに見つかり、ベルの鑑定を使って丈夫で目立たない物を10着購入した。

ついでに顔を隠す布も10枚購入する。

続いて食料もベルの鑑定を駆使して必要とされる分を確保する。

何事もなく買い物が終わった帰りにローザが話しかけてきた。

「それにしてもよくご主人様の態度が変わったってわかったな」

「ベルも気づかなかった」

「顔には出てなかったわよ。 だけど目を見たときにね・・・」

私は話しながらご主人様が領主の館を見ていた目を思い出す。

(そう、あの目を私は知っている。 あれは憎悪に満ちた目だ)

かつて私が全身大火傷してこの世の全てを憎んでいた時の私の目とそっくりだった。

「なるほど、それで以前わたしたちに話したことを思い出したと?」

「そういうこと」

「・・・」

ローザもベルもそれ以上余計なことは言わなかった。

ベルはともかくローザはこの都市で誰が聞き耳をたてているかわからないので余計なことは口に出さないようだ。

そういう意味では最初に『復讐』を口に出してしまった私は今更ながらに失言したことを後悔した。

何かを察したのかローザとベルがフォローしてきた。

「ルマ、あの時はあれが最善だとわたしはおもうよ」

「ベルもローザと同じ。 ご主人様が暴走するのはよくない。 ルマはご主人様を止めたからえらい」

「ローザ、ベル・・・ありがとう」

その後は他愛のない話をしながら私たちはご主人様が待つ宿へと戻った。

「ただいま戻りました」

私たちが部屋に戻るとご主人様が声をかけてくれた。

「お疲れ、大変だっただろう」

「いえ、大したことはありません」

「ご主人様、これ」

「市場で良い物が手に入ったから期待してくれ」

ご主人様の能力で空間を歪めると私たちが買ってきた食料品をその空間に収めて歪みを閉じる。

「ベル、お願いがあるんだけど」

「何? ご主人様」

ご主人様は買ってきたマントを広げると、

「このマントに【錬成術】でスキルか魔法を付与してほしい。 できるか?」

「ミルバークで【錬成術】を駆使して特定のアイテムにスキルや魔法の付与について教わったからできる。 だけどベルのスキルでは【鑑定】だけ、魔法は使えない」

「ベル以外の第三者・・・僕たちのスキルか魔法を付与はできるか?」

「できる。 だれかの力をそのマントに付与するの?」

「その通り」

ベルの回答にご主人様は笑顔で答えた。

「何を付与するの?」

「そうだな・・・フェイ、【闇魔法】で姿を闇に同化させる魔法とかあるかな」

「うん、あるよ」

「ユール、【光魔法】で光を屈折させる魔法とかあるかな」

「ありますわよ」

「それじゃ、ベル、フェイの【闇魔法】とユールの【光魔法】をこのマントに付与してほしい」

「ご主人様、今のベルの実力だと1つしか付与できない・・・それとあとから追加することもできない・・・未熟でごめんなさい」

「謝るのは僕のほうさ。 無理を言ってごめん」

ご主人様がベルの頭を撫でた。

(あ・・・)

それを見た私は胸がギュッと握り潰されたような感覚を受ける。

(ベル・・・お願い・・・私のご主人様をとらないで!!)

手を少し動かしてハッと気づく。

(私は・・・今・・・何を・・・)

役に立っているベルを見て私は・・・嫉妬していた。

「うーーーん、それならやっぱりフェイの【闇魔法】かな? ベル悪いけどフェイの【闇魔法】をこのマントに付与してほしい」

「わかった」

「やったぁ!! ご主人様、大好き!!!」

「そんな・・・」

フェイは喜びを露わに、そしてユールはorzに崩れ落ちた。

ベルはフェイに付与するタイミングを教えたあとマントに手を置くと【錬成術】を発動する。

しばらくすると手が薄く光った。

「フェイ、今!!」

「まっかせて!!」

フェイは【闇魔法】を発動するとマントに魔法がどんどん吸い込まれていく。

「もう・・・少し・・・」

「くぅ・・・」

突然マントが光り輝いたがしばらくすると光が消えて何事もなかったようにマントがそこにあった。

「ベル、どうだい?」

「ちょっと待って・・・うん、成功」

「はあああああぁ・・・疲れた・・・」

成功したことにベルとフェイが安堵した。

「フェイ、このマントに付与した魔法はなんだい?」

「暗闇限定だけど自分の姿を認識しづらくするよ」

「ベル、このマントに付与した魔法はどのように使うんだい?」

「ただ羽織ってマントに魔力を流すだけ」

部屋を暗くしてから試しにローザが羽織ってマントに魔力を流すと【闇魔法】が発動しローザの周りが暗くなる。

「こちらから見ると暗闇でローザさんを認識するのが難しいですわね」

「ローザ、そちらからはどう見えますか?」

「わたしからは普通に見えるな、特に魔法による影響もない」

部屋を明るくするとローザはマントを脱ぎ自分の身体に違和感がないことを確認した。

「成功のようだな」

「じゃあ、ぼくも」

フェイがローザからマントを受け取って着た。

「なるほど、これなら魔力を感知されずに闇に潜める。 僕の【斥候】や【暗殺術】との相性もバッチリだね」

フェイの中では闇夜や【闇魔法】を使って闇に紛れてから【暗殺術】などで敵を葬るのだろう。

ご主人様は喜んでいるフェイを見て考え口に出した。

「・・・フェイ、君に命令だ。 遠くに見える立派な館にはヘルザード辺境伯領の領主であるザール辺境伯が住んでいる。 彼はオークみたいな外見をしている。 彼がいたら・・・」

「ご主人様、わかってます。 私の手で消します」

フェイが冷酷な声色で回答するもご主人様は首を横に振る。

「あれは僕の獲物だ・・・いくらフェイでも手を出せば・・・」

「し、失礼しました。 ではあの館を調査します」

「ああ、行動は今日の夜をお願いする。 それと少しでも無理だと感じたら即帰還すること」

「畏まりました」

フェイは自分の失言を謝罪すると今夜の行動について早速考え始めていた。

「・・・ついに始まるか・・・」

「「「「「・・・」」」」」

ご主人様が何気に呟いた一言にみんなが静まりかえる。

『復讐』を始めたらもう後戻りはできないのだろう・・・

例え世界を敵に回しても私は最後までご主人様、あなたについていきます。


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