357.リーンの蘇生
暗い・・・ここはどこだろう・・・
私は前後左右上下を見渡すがそこは黒く塗り潰された空間だ。
なぜ私はこんなところにいるのだろう。
私は生前の記憶を思い出そうとする。
生前の記憶? 何を言っているのだ私は。
それではまるで私が死んだみたいに・・・
『!』
その時、私の頭の中に電撃が走った感覚を受ける。
私は死ぬ直前の記憶を思い出した。
私は国際会議が閉幕された後にグラント国王陛下より直々に王都スターリインに残存してほしいとお願いされたのだ。
スターリインはヴァルファールからもそれほど離れてないし、国王陛下にはベルと爵位の件でお世話になっていたこともあり、私は二つ返事で了承した。
念のため国王陛下の命によりスターリインに残る旨の書簡を一筆してヴァルファールにいる母様へと送ってもらう。
そのあとすぐにベルたちは『この手に自由を』についての代弁者としてドラゴンの国へ向かった。
本当なら主人であるシフトさんだけ行けばいいのにと言いたかったが、ベルに嫌われたくないので黙秘する。
王都スターリインに残存したのは私のほかにあのS級冒険者として名高いギルバート殿も一緒だ。
私のスキル【槍聖】とギルバート殿の剣術があれば余程の事態でもない限り対応できると確信していた。
ベルたちが戻ってくるまで王都は平和な日々が続いていた。
ギルバート殿と模擬戦をしたり、マーリィア王女殿下とお茶を嗜んでいたり・・・
しばらくしてベルたちが王都へ戻ってきてドラゴンの国について国王陛下に報告する。
ベルたちはドラゴンの国だけでなく魔族の国にも行ってきたらしい。
ほかにも魔族に襲われた各国に足を運んできたとか。
だから戻ってくるのが遅かったのね! いくらベルの主人だからって私のベルを連れ回すなんて!
文句の1つも言いたかったけどベルに嫌われたくないので黙っていることに。
魔族が次どこを襲ってくるかわからないのでベルたちは王都で待機するとか。
うふふふふふ・・・ベルと一緒にいられる時間が増えてラッキーだわ。
敵かもしれない魔族様々ね。
だけどベルはユールさんと一緒に毎日何かをしていて私に構ってくれないの。
王女殿下を出し抜けないし、国王陛下からは邪魔されるしベルとの2人きりの時間がもっとほしいわ。
そんなとき『この手に自由を』が攻めてきた。
私はこの日のために新しい槍を用意しておいたのだ。
前回の化け物たちが攻めてきたときに長年愛用していた槍が破壊されてしまったので、王都内にある武器屋で私に合った槍を探した。
自分に合った槍が見つからず苦労したが、それに見合う分の良い品を手に入れられて満足している。
私はベルたちと平民街にやってくると『この手に自由を』と一緒に魔族も攻めてきたとか。
魔族に関してはベルの主人が引き受けるといったので私は『この手に自由を』を対応することにした。
本当はベルと一緒がよかったのだが拒否されたので泣く泣く1人での行動に。
ある程度『この手に自由を』を倒したところで現れたのがあの少女だった。
私の本能が相手は危険だと訴えている。
そういう相手とはなるべく戦わないほうがいいのだが、国王陛下に任されている以上ここで逃げるわけにはいかない。
私はその少女と相対する。
少女は剣を抜くと私に斬りかかってきた。
驚いたのはその構えや太刀筋である。
見たことがある、いや見間違えるはずがない。
あの構え、それに太刀筋は紛れもなく父様だ。
ありえない、なんでこの少女が父様の剣技を使うのだ? 私は頭の中でパニックを起こしていた。
「あなたは一体何者なの? なぜヴァルファールの剣技を使えるの?」
「・・・」
少女は何も語らずに構えをとる。
「喋らないのか、それとも喋れないのか・・・どちらでもいいわ。 あなたはここで倒す」
「・・・」
私と少女はこのあと何合と打ち合う。
「はぁはぁはぁ・・・」
「・・・」
私が息を切らしているのに少女は息が上がっていない。
いや、少女は息をしていないのだ。
(父様並みの強さに息切れしないとか反則過ぎるわよ)
私と少女が睨み合っていると路地のほうから逃げ遅れたのだろう、女の子がこちらに向かって走ってくる。
少女は私を無視して女の子に斬りかかろうと走っていく。
「来ちゃダメエエエエエェーーーーーッ!!」
私は咄嗟に女の子のほうへと走った。
少女と女の子の間に無理矢理割り込んだ。
その直後背中に鋭い痛みが走る。
よく見るとお腹から何か出ていた。
それは少女が持っていた剣の剣身だ。
脳が理解したことにより私は口から血を吐いていた。
「がはぁ・・・」
傷口からも血が滲み出て剣先へと伝わっていく。
ポタッ・・・ポタッ・・・
「ぁ・・・」
女の子が蒼褪めた顔で私を見ている。
「に・・・げ・・・て・・・」
私の意識はそこで途絶えた。
そうか・・・私は殺されたんだ。
ならここは死後の世界なのかな? 何もない真っ暗な空間が永遠に広がっているようにしか見えない。
私は当てもなく彷徨い続けた。
それからどれだけ時間が経ったのだろう。
暗闇が私に孤独感を与える。
ベル・・・寂しいよ・・・ベル・・・
この真っ暗な空間には私だけしかいない。
ほかの魂など見当たらない。
更に時間が経過すると絶望感が私を支配する。
ベル・・・助けて・・・
このまま私は消滅してしまうのか? そんなことを考えていると不意に光が私を照らす。
なに? 一体何が起きているの? 私はその光が射すほうを見た。
温かい・・・まるで誰かに抱きしめられているようなそんな温盛を感じる。
いつの間にか私は光のほうへと引きつけられていく。
けど、不快な感じはなく、むしろ心地良いくらいだ。
光は徐々に光度を増していき、やがて真っ暗な空間全体に広がっていった。
私がそのまま移動しているとその先にベルがいる。
ベルは口を開けて何かを私に伝えようとしていた。
ベル・・・何を言っているの・・・
私はベルの口の開き方に注目して見る。
お・・・き・・・て・・・
『おきて?』
その瞬間私の意識が覚醒した。
「ぅ・・・ぅん・・・」
私は目を少しずつ開ける。
そこにはベルが心配そうな顔をして覗き込んでいた。
「ベル?」
「ぁぁぁ・・・リーンお姉さま・・・リーンお姉さまあああああぁーーーーーっ!!」
ベルが涙を流して突然私に抱き着いてきた。
夢? 私は夢を見ているの? 何が起きているのかさっぱりわからない。
誰か説明をお願い。
そんなことを考えているとベルが歓喜な声を上げる。
「良かった・・・本当に生き返った!!」
「ベル・・・私死んでたの?」
「うん・・・だけどユールやご主人様の力でリーンお姉さまを生き返らせることができたの」
私はベルの主人であるシフトさんとユールさんを見る。
2人とも私とベルを優しい目で見ていた。
「あの・・・ありがとうございます」
「無事に助かって良かったよ」
「ふぅ・・・肩の荷が下りましたわ」
そこに国王陛下が声をかけてきた。
「リーン名誉伯爵、無事に戻ってきてくれて良かった」
「グラント国王陛下」
私が姿勢を正そうとすると国王陛下は手で制した。
「今は無理をするな。 それと余の命令とはいえ命を落としたことを詫びねばならぬ。 本当にすまなかった」
国王陛下は私に頭を下げる。
その行動に私は慌てて止めた。
「へ、陛下! お止めください! 臣下の1人である私に頭を下げるなど・・・」
「いや、これについては余にも非がある。 それに命を賭して戦ってくれた者を蔑ろにはできぬ」
「陛下・・・」
「リーン名誉伯爵にはあとで褒美を与える。 期待しているがよい」
「あ、ありがとうございます」
国王陛下は頭を上げると今度は質問してきた。
「ところでリーン名誉伯爵に聞きたいことがあるのだが」
「陛下、なんでしょうか?」
「戻ってきて早々悪いがあの場で何があったのか教えてくれぬか?」
「・・・はい」
私は死ぬ直前に対峙した少女について詳しく話す。
「・・・ということがありました」
「そうか・・・そんなことがあったのだな・・・よくぞ話してくれた感謝する」
「はっ!!」
国王陛下との会話が終わると今度は王女殿下が話しかけてくる。
「まったく・・・あなたがいなくなってベルがどれだけ寂しい思いをしたかわかりますの?」
「マーリィア王女殿下・・・」
「帰ってこないのであれば私がベルを独占する予定でしたわよ」
「殿下、いくら殿下でもベルは譲れません」
「ベルはご主人様のもの。 2人のものじゃない」
私と王女殿下が睨み合っているとベルが私から離れて冷や水を浴びせてきます。
「ベルゥ・・・そんなこと言わないで・・・」
「そうよ・・・私が悪かったわ・・・」
「しらない」
私と王女殿下が取り繕うがベルは顔を背けるのであった。