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356.エリクサー

東の空に月が上り夜空に星が輝いている頃、シフトはプラルタとエルドの2匹と雑談をしていた。

「それにしても賢者の石は実在したとは・・・それならエリクサーも実在している可能性が極めて高いかも」

『エリクサーか・・・我は見たことがないので知らぬが、死んだ者を生き返らせたという話は聞いたことがある。 それが伝説の蘇生薬エリクサーなのか、それともスキルや魔法なのかは知らぬがな』

「後者ならもうどうしようもないですね」

『もし、スキルや魔法である場合はその娘(リーン)を助けることは絶望的ではあるな』

シフトとしてはエリクサーが実在することに賭けている。

でなければ今までのベルとユールの苦労がすべて水泡と帰すだろう。

そんな会話をしていると誰かがシフトたちのところにやってくる。

「ご主人様」

「お話がありますわ」

現れたのはベルとユールだ。

「ベルにユール、どうした?」

「実はわたくしにもご主人様の【未知経験】を使っていただきたいのです」

「【未知経験】を?」

「ベルさんから聞きました。 【未知経験】を使えば自分の遥か未来に経験した情報が身に着けることができると」

「スキルを行使するのは簡単だけど・・・」

「それもベルさんから聞いておりますわ。 苦痛が伴うと。 わたくし、覚悟はできていますわ」

ユールの意思は固いようだ。

「わかった。 それじゃ・・・」

「ご主人様、待って。 ユール、1つアドバイス。 未来の経験だけに絞って考えたほうがいい。 未来の体験を含めるとそれこそとんでもない情報量で押し潰される」

「わ、わかりましたわ。 ベルさん、ありがとうございます。 ご主人様、それではお願いしますわ」

「わかった。 それでは改めて始めるよ」

ユールの額に手を触れるとシフトは【未知経験】を発動する。

するとユールの頭の中には未来で経験するであろう膨大な情報が一気に押し寄せてきた。

「くぅ・・・こ、これはベルさんに聞いていなければ危ないところでしたわっ!!」

ユールは奥歯を噛んで膨大な情報を頭に取り入れている。

(ベルさんはこれほどの痛み(情報量)に耐えたんですもの・・・わたくしだって!!)

自分自身に負けまいとユールは情報の波に耐え続ける。

能力を発動してから約3時間が経過した。

ユールが不意に痛みから解放される。

「ユール?」

「ユール、大丈夫か?!」

シフトとベルはユールに声をかける。

「ええ、なんとか・・・それにしてもこれが未来のわたくしが生涯を賭して得る知識ですか・・・」

シフトは能力を解除すると[鑑定石]でユールの所有している能力を見た。


名前 :ユール

スキル:★【治癒術〔【生命力回復魔法】 レベル6:超越、【欠損部位治癒魔法】 レベル6:超越、【活性化魔法】 レベル6:超越、【状態異常回復魔法】 レベル6:超越〕】 レベル6:超越

    A【薬学】 レベル5:究極

    A【光魔法】 レベル5:究極


【薬学】も【光魔法】もすべて最高まで上がっている。

【治癒術】に至ってはベルと同じ人類の壁であるレベル5:究極を超えたことによりレベル6:超越へと昇華していた。

「ユール、いけそう?」

「まだ試していないのでわかりませんが、たぶん今のままでは失敗するかもしれません」

『なら我の出番だな』

「エルドさん? 出番というのはどういうことでしょうか?」

ユールの疑問にベルが答える。

「ベルはエルドの能力で【錬金術】のレベルをレベル5:究極からレベル6:超越に一時的にレベルを上げた。 それでこの賢者の石ができた」

「なるほど・・・ところでエルドさんの能力は痛みを伴うのですか?」

「それはない。 身体への負担もない」

「そうなんですの? それは助かりましたわ」

ユールとしても痛みを伴うのは好きではないだろう。

「ユール、早速作る」

「そうですわね」

「2人とも待った!!」

やる気が漲っているベルとユールにシフトが待ったをかける。

「ご主人様?」

「どうされましたの?」

「やる気があるところ悪いんだけど明日にしないか?」

そういうとシフトは上空を指さす。

そこには月が優しい光を放っている。

「さすがにこんな夜更けから始めては途中で集中力が切れる可能性がある。 今日は部屋に戻って休み明日の朝から作業に入ろう。 それに作成するのにエルドさんとプラルタさんの助力は必要不可欠だ。 そうするとここに道具を持ってこないといけないだろ」

「・・・たしかにそうですわね」

「ご主人様の言う通り」

「そういう訳で2人とも部屋に戻ってゆっくり休んできて」

「「はい、ご主人様」」

ベルとユールはシフトの言う通り王城に戻って休むことにした。

「エルドさん、プラルタさん、明日はよろしくお願いします」

『うむ、我の力を役立ててくれ』

『任せなさい!!』

シフト、エルド、プラルタは明日に備えて休むことにした。


リーンの死から6日後───

朝早くからシフトが【空間収納】から霊薬(ソーマ)、ドラゴンの心臓を予め取り出して待っているとルマたち、グラント、マーリィア、ギルバートがやってきた。

ベルが賢者の石の作成に成功してから心做しか明るい雰囲気が漂わせている。

「ご主人様、おはようございます」

「みんな、おはよう」

「ユール、早速エリクサーを作ろう」

『うむ、それなら我の能力でその娘の能力を上げよう』

エルドはユールの【薬学】のレベルをレベル5:究極からレベル6:超越に一時的にレベルを上げた。

ユールは薬学に関しての知識が一段階上がったことを認識する。

「これならいけますわ! まずは・・・」

エリクサーの作り方が書かれた紙を見て読み上げる。

霊薬(ソーマ)の中に賢者の石を入れて100年間そのままにしておく・・・」

「「「「「「100年間?!」」」」」」

「またそれか・・・」

ルマたちはあまりの年月に驚き、シフトは賢者の石の時と同じかと呆れている。

「ごごごごご、ご主人様! ど、どうするのですか?! いくら何でも時間がかかり過ぎます!!」

「ああ・・・それに関しては大丈夫・・・かな? ユール、とりあえず霊薬(ソーマ)の中に賢者の石を入れてみて」

「か、畏まりました」

ユールはベルから賢者の石を受け取ると霊薬(ソーマ)が入っている無色透明な水差しの中にそっと入れた。

賢者の石はゆっくりと底のほうへと沈んでいく。

コトン・・・

水差しの底に賢者の石がぶつかり小さく音を立てた。

完全に底まで沈んだことを確認する。

「さてと・・・」

シフトは【時間操作】を発動して水差しの中の時間を最高加速にした。

魔力消費量は激しいがその分プラルタの【魔力自動回復魔法】のおかげでシフトの魔力はすさまじいスピードで回復していく。

時間が経つにつれて霊薬(ソーマ)が無色から徐々に黄色へと変色していった。

4時間後、時間加速により100年以上経過した霊薬(ソーマ)が透き通るような黄色から変色しなくなる。

「これ以上は変色しないようだな」

「とりあえず第一段階は完了ですわ」

シフトは能力を解除すると【念動力】を発動して水差しの中にある賢者の石を取り出した。

「さて、これからが本番ですわ」

ユールは世界樹の根を少量取り出すと細かく摺り下ろして霊薬(ソーマ)の中に入れてゆっくりとかき混ぜていく。

分量がわからないので時間をかけて少しずつ入れて様子を見る。

霊薬(ソーマ)が黄色から徐々に緑色へと変色していく。

やがて色が変わらなくなることを確認する。

「これ以上の変色はないようね」

「とりあえず第二段階は完了なのかな?」

ユールはドラゴンの心臓を少量切り出すと細かく摺り潰して、霊薬(ソーマ)の中に入れてゆっくりとかき混ぜる。

霊薬(ソーマ)が緑色から徐々に赤色へと変色していく。

そして、透き通るような赤色へと変色したとき、突然変化が起きた。

それは今まで何の反応もなかった霊薬(ソーマ)から力強い生命力を感じたのだ。

「あ!!」

ベルが驚きの声を上げる。

おそらく鑑定をしたのだろう。

「ユール・・・」

「ベルさん、わたくしには成功したのか失敗したのかわかりませんわ」

スキル【鑑定】を持たないユールにはこれがエリクサーかどうかわからないのだ。

「エリクサー」

ベルの口にした単語にその場にいた全員が注目する。

「ユール、エリクサーできてる」

それだけいうとベルの目には涙が溢れていた。

「ありがとう! ユール! ありがとう! これでリーンお姉さまを助ける(生き返らせる)ことができる!!」

ベルはユールに歩み寄ると抱きついた。

シフトたちもエリクサーの作成が無事成功したことに安堵する。

「ベルさん、落ち着いて。 リーン名誉伯爵が助かる(生き返る)までは油断できませんわ」

「・・・うん!」

ユールの言葉にシフトたちは気を引き締める。

仮にリーンが助かっても(生き返っても)それが以前のリーンとは限らないからだ。

リーンの肉体に別の何かが宿る可能性もあり得る。

そういう意味では最後まで気を抜けない。

「さぁ、ベルさん。 これを」

ユールは完成したエリクサーをベルに渡す。

エリクサーの入った水差しをしっかりと持つとベルはリーンのところまで歩いていく。

「ベル、止めている時間を解除するから」

シフトは一言いうと止めていたリーンの時間を解除した。

ベルはリーンを抱き抱えると口を開けて水差しを口に当てる。

「リーンお姉さま」

水差しを傾けると中に入っているエリクサーがリーンの口の中に注がれた。

液体はまるで意思があるようにリーンの口内から喉を通って進んでいく。

やがて心臓まで辿り着くと頭のてっぺんから手や足のつま先まで身体中に分散する。

突然リーンの身体が光り輝く。

すると生前に受けた身体中の傷が回復した。

生気がなかった顔も赤みをさす。

シフトたちはリーンの身体に起きた出来事に驚いている。

しばらくしてリーンの目が徐々に開いていった。


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