351.幻の力と仮初の命 〔無双劇71〕〔※残酷描写有り〕
レザクは姿を変えていく。
少しずつ巨大化して皮膚が鱗で覆われる。
しばらく経つと巨大な龍へと変貌した。
『まさか俺が魔族の身体を捨てざるを得ないとはな・・・』
レザクは口を開くと魔力が口内に圧縮されていく。
『食らうがいい』
シフトに対して極限まで圧縮された魔力弾を放った。
それを見たシフトはすぐにその場を離れる。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
魔力弾が地面に着弾するとすさまじい威力とともに爆音と爆風、それに土煙がシフトたちを襲う。
「くうぅっ!!」
「「「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」
シフトたちはその場に踏み止まりなんとか耐え忍ぶ。
時間が経ち空中に舞い上がった土煙が無くなっていくと、シフトがいた位置に大きなクレーターができていた。
『今のをよく避けたな』
「危ないな・・・お前そのドラゴンの肉体はどこで手に入れた?」
『特別に答えてやろう。 以前生み出したヒュドラの基になったドラゴンの皮膚を俺の身体に移植したのさ』
「ああ・・・あの残念ドラゴンの・・・どうりで見たことがある龍鱗だと思ったよ・・・」
プラルタをヒュドラに改造する際、皮膚を切り取りレザク自身に移植したのだろう。
拒否反応しないで定着させた技術力にシフトは驚いていた。
『見せてやろう、これがドラゴンの力だ』
「悪いけどその程度の力では僕を倒すのは無理だ」
レザクはその鋭く尖った爪でシフトに襲い掛かる。
シフトは【五感操作】を発動するとレザクの距離感と平衡感覚を狂わせた。
これによりいくら攻撃を繰り出してもレザクの攻撃はシフトには1撃も当たることはない。
『どうなっている? お前何かしたのか?』
「さぁ・・・お前がちゃんと狙ってないだけじゃないのか?」
『なら攻撃方法を変えるだけだ』
レザクはシフトに近づくと大振りに爪で引っ掻いた。
攻撃を躱すがその振った前足の風圧がシフトを襲う。
突然の突風にシフトはその場で耐えている。
そこにレザクは先ほどと同じ口内に魔力を集中していく。
魔力が十分溜まったところでレザクはシフトに対して魔力弾を放った。
動きを封じられたシフトは魔力弾の直撃を真面に受けてしまう。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
煙がシフトを覆い、爆音が響く。
「ご主人様あああああぁーーーーーっ!!」
ルマたちが心配そうにシフトを見ていた。
『はっはっは、あれほどの攻撃を近距離から受けたんだ。 跡形も無く消し飛んでいるに違いない』
レザクの勝利宣言にルマが激昂する。
「よくもご主人様を!!」
「許さない!!」
「わたしたちを怒らせたことを後悔させてやる!!」
「ぶっ殺す!!」
「あの世に送ってあげますわ!!」
ルマたちの怒りにレザクは鼻で笑うと挑発する。
『それは俺の台詞だ。 お前たちもあのオレンジ髪のもとに送ってやるよ』
「誰が誰をどこに送るって?」
レザクが声がしたほうを見る。
煙の中から現れたのは無傷のシフトだった。
「「「「「ご主人様っ!!」」」」」
シフトの無事な姿を見てルマたちは歓声をあげる。
それに対してレザクは驚愕な顔をしていた。
『お前生きていたのか?』
「死んでなくて残念だったな。 今の攻撃では僕を倒せなかったようだ」
今の攻撃が魔力弾ではなく炎のブレスであればシフトに火傷くらいは与えられただろう。
その身がドラゴンになったとはいえレザクは魔族だ、今まで通り魔力による攻撃を無意識に選択していた。
「今度はこちらから行くぞ」
『ドラゴンの鱗にお前の攻撃が効くかよ』
「それはどうかな?」
シフトは素早くレザクの左側面に接近すると容赦ない蹴りの一撃を与えた。
あまりの威力にレザクは吹っ飛び、シフトの張った結界にぶつかって動きを止める。
『うぐぅ・・・い、痛い・・・なぜだ? なぜ痛みを感じる?』
シフトから受けた攻撃で痛みを感じ疑問を口にした。
レザクは1つ大きな勘違いをしている。
ドラゴンがこの世界で最強の生物といわれるだけあり、たしかに龍の鱗は硬い。
だが、どんな攻撃でも鱗で防げるかといえば答えはノーである。
人と同じようにドラゴンも意識を集中することで威力や硬化が増すのだ。
如何に強靭なドラゴンの身体を手に入れたとしても使いこなせなければ意味がない。
レザクはドラゴンになったことで本人も気付かないうちに慢心していた。
「よそ見していていいのか? 次行くぞ」
シフトは龍鱗のナイフを鞘から抜くと接近してレザクを斬りつけた。
本来であれば強靭な鱗が守るはずだが、同じ素材で作られたナイフはレザクの鱗を傷つけていく。
『痛いっ! 痛いっ!! こんなのありえないっ! 俺は最強の肉体を手に入れたんだぞっ!!』
なんとかしようとするが、その巨体故に素早く動くことができない。
これが元の魔族の身体なら躱せただろうが、ドラゴンになったことにより的が大きくなり避けられないのだ。
「レザク、お前は他人の力がなければ戦えない指揮官だ。 自ら動いた時点でお前の敗北は決まっていた」
『この俺が負けるだと? 負けるとは死ぬことだ。 俺はまだ生きている』
レザクは痛みをこらえながら反撃に出る。
爪撃と魔力弾だけを使ってシフトを攻撃する。
しかし、いくら強力な攻撃でもそれだけではシフトを倒すには至らなかった。
ドラゴンの強力な武器である角や牙や羽や尻尾をレザクは使わない。
否、使わないのではなく使おうという意識がないからだ。
角で突くことも、牙で噛み砕くことも、羽で羽搏くことも、尻尾を振ることも、やろうと考えればできる。
それらを使わないのはドラゴンになりたてであり、レザクの身体に染み付いた魔族としての生が未だに根強く残っているからだ。
レザク自身がドラゴンの身体を十全に生かせていればあるいは結果が変わったかもしれない。
『このちょこまかと』
「ならこちらも反撃に移ろうかな」
シフトはレザクの左前足を龍鱗のナイフで斬った。
左前足はその場でボトリと地面に転がる。
『あああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!』
レザクは左前足を失い発狂する。
さらにナイフで装甲の薄い腹部部分を滅多刺しにする。
『やめろおおおおおぉーーーーーっ!!』
あまりの激痛にレザクが叫び腹部を抑えながら後退する。
「これで止めだ!」
シフトは【空間転移】を発動するとレザクの額部分に転移して眉間にナイフを深く刺した。
『ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!』
レザクは断末魔の叫びをあげるとその場に倒れこんだ。
ズズウウウウウゥン・・・
その際に近くで倒れている不死者たちが下敷きになる。
『ぅ・・・ぉ・・・ぁ・・・』
何かを言おうとしてそれは言葉とはならずそのまま事切れるとレザクの身体が消滅していった。
カランカラン・・・
シフトはレザクが消滅したところに黒い球が落ちていたので拾う。
「これでもう悪戯に命を弄ぶこともないだろう」
シフトは【空間収納】を発動して黒い球をしまうと空間を閉じた。
そこにルマたちがやってくる。
「ご主人様、よくぞご無事で」
「ごめん、みんなには迷惑をかけたね。 これで倒した魔族は5人。 僕はこれから最後の魔族を倒しに行くよ」
「ご主人様、私たちも連れて行ってください」
「それは・・・わかった。 一緒に行こう」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
シフトは結界を解くとルマたちとともに最後の魔族を探しに行くのであった。
シフトたちが去ったあと1体の不死者が立ち上がる。
「くっ・・・な、なんとか・・・助かったようだな・・・」
レザクは死ぬ直前に自分の魂が入った黒い球を体内から取り出して近くにいた不死者の1体に埋め込んだ。
自分の死が悟られぬようにレザクは大げさに芝居までしてドラゴンのほうに注目させた。
これにより倒れて一緒に被害を受けた不死者に黒い球を埋め込み、残された全魔力で不死者を復活させる。
あとはドラゴンが消滅してレザクが予備で持っていた黒い球を回収させてシフトたちが去るのを待つのみだ。
結果としてレザクはその賭けに勝った。
シフトたちを欺いたこと。
不死者に黒い球を埋め込んだのを悟られなかったこと。
そして、黒い球の中にいる魂たちを制圧し1番になったこと。
レザクは1歩間違えれば自分が復活できない状況すべてに打ち克った。
喜びを露わにしようとしたとき自分の身体の異変に気付く。
ボロ・・・
不死者の身体が少し崩れたのだ。
「あまり時間がなさそうだな・・・急いで行動しないと・・・」
レザクは誰かに悟られぬように歩き出す。
その動きは決して早くはない。
誰かに見られれば守る盾がないこの状況では今度こそおしまいだ。
「あいつらはどこに・・・いた・・・」
最初にやってきたのはグラッビィの遺体のところだ。
レザクはグラッビィの魂を回収する。
「魂は回収した・・・あとはグラッビィの身体を・・・ダメだ・・・次も成功するとは限らない・・・」
レザクの本能が魂の移動はやめろと訴えている。
魂の移動に成功しても自分の人格が残っているとは限らないからだ。
そのあとスパッジャ、メタム、キウンの魂も回収する。
「あいつに頼めばこの肉体の崩壊を止められる・・・いや、あいつが協力するはずがない・・・ここは撤退だ・・・スパッジャ、お前の力を借りるぞ・・・」
レザクはスパッジャが得意とした【空間魔法】を発動して王都スターリインから転移で脱出した。
行きついた先は見たこともない洞窟の入り口だ。
「ここは・・・どうやら上手く逃げられたようだ・・・念のためあいつらも呼び戻すか・・・」
レザクは念じると6人の少女がこの場に転移させられた。
「「「「「「・・・」」」」」」
「お前たち俺と一緒にこい・・・」
それだけいうとレザクは6人の少女とともに洞窟に入っていった。