350.命を弄ぶ者 〔※残酷描写有り〕
シフトが次の相手を探しているとルマたちが青白い顔をした男・・・魔族と戦っていた。
ルマたちの目の前には人だけでなく魔物や魔獣の不死者の大群が立ちはだかる。
「やるな、お嬢ちゃんたち」
「私たちの相手には力不足です」
「このくらいわけない」
「これでもご主人様のスパルタ教育に耐えているからな」
「今までの敵と大して変わらないよ」
「サンドワームの群れに比べたら大したことありませんわ」
ルマたちの言葉に魔族は苦笑する。
「言ってくれるね」
シフトはルマたちのところに走っていく。
「みんな! 大丈夫か!」
「私たちは大丈夫です」
「全然平気」
「この程度でやられるほど軟じゃないよ」
「無問題」
「こちらは何事もありませんわ」
シフトの問いにルマたちは問題ないとアピールする。
「ん? お前はヒュドラを倒した・・・」
「たしかレザクだったかな?」
「おお、よく俺の名前を憶えていたな。 お前を倒そうとキウンが息巻いていたかな」
「その魔族なら僕が倒した。 キウンだけじゃなくメタム、スパッジャ、グラッビィという魔族もだ」
それを聞いたレザクが驚いた。
「キウンだけならともかくメタム、スパッジャ、グラッビィも倒したのか・・・あいつら油断しすぎだ。 あとで肉体と魂を回収して俺の糧にしないとな」
「それで人や魔物や魔獣の屍を基に生まれたのがその不死者の大群か・・・」
「こいつらはあの6体の玩具を作る際、余り者から作ったから大したことない。 本命はこっちだけどな」
レザクは黒い球をシフトたちに見せる。
「それは・・・」
「お前には感謝しているぜ。 何しろ大勢の死骸と魂を提供してくれたのだからな」
「別にお前にプレゼントするために倒した訳じゃないんだがな。 1つ聞きたいんだけどお前が弄んだ者たちの中にライサンダーという勇者はいたのか?」
「ライサンダー? 悪いが人間の固有名詞なんて一々覚えるつもりはない。 だけど面白いモノなら6つ手に入れたかな」
レザクのいう6つのモノとはおそらくライサンダー、ヴォーガス、ルース、リーゼ、アーガスの5人にギャンザーかカトイルという悪魔だろう。
そいつらを違う形で復活させたのが目の前にいるレザクであることは間違いない。
現にローザとフェイは少女になったヴォーガスとアーガスの2人と戦っているのだから。
「さて・・・お前たちあの人間族と遊んでろ。 俺はキウンたちを回収しに行く」
「そうはさせない!」
シフトは【次元遮断】を発動すると自分からレザクの外側までを半径の範囲に外界から隔離した。
レザクが移動をすると透明な壁にぶつかりその足を止める。
「ここから出られないだと? オレンジ髪、お前がやったのか?」
「そうだ。 僕を倒さないとこの結界は解けない」
「ちっ! 面倒臭いなっ! そんなに死にたいなら殺してやるよっ!!」
レザクは不死者たちを意のままに操るとシフトたちを襲った。
「「「「「「「「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ・・・」」」」」」」」」」
「みんな! あれらを倒すぞ!!」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
シフトたちは龍鱗の武器を構えるとそれぞれが武器に嵌め込まれた魔石に魔力を流すと刃に火を纏う。
準備ができたところでシフトたちは不死者に斬りかかる。
「でやぁっ!!」
シフトがナイフで斬りかかると不死者はその攻撃をもろに受けると苦しみながらしばらく燃えていた。
そこに不意に声が聞こえる。
「熱い! 助けて! わたしが何をしたというの!!」
それはシフトが斬った不死者が正気に戻っていった言葉だ。
シフトは慌てて【空間収納】を発動して不死者に水をぶっかけた。
水浸しの不死者は焼け焦げて異臭を放っている。
「身体が焼けるところだったわ・・・ありがとう・・・お礼に殺してあげる!!」
不死者はシフトに再度襲ってきたが、その身体が再び燃え出した。
それはシフトのナイフが不死者を攻撃したことにより再発火したからだ。
「人でなし!!」
「悪かったな、人でなしで」
不死者はそのまま燃え尽きて骨となってその場に崩れ落ちた。
ルマたちを見るとシフトと同じように攻撃された不死者が精神的に追い詰めるように言葉を発する。
人間味を出してシフトたちの動揺を誘って、もし動じればその隙をついて殺す。
レザクのあまりにもあざといやり方にシフトは怒りを感じた。
「どうだ? 気に入ってくれたかな?」
「・・・お前に対する怒りしか込み上げてこないよ」
シフトは襲ってくる不死者たちを次々と斬りつけていく。
その度に不死者たちは恨み節を残して骨になるまで燃え続ける。
「やり難いな」
すでに死んでレザクの玩具にされているとはいえ元は人間だ。
それがやられた一瞬だけ生前のような仕草をすると、まるで罪のない人間を殺したように感じる。
そうこうしているうちに魔石の魔力が切れて火が消えるとシフトは魔石を交換して魔力を注ぎ込むと浄化の光がナイフを覆う。
シフトは不死者たちを斬る。
浄化を受けた不死者たちは光に包まれて次々と天に召されていく。
「おいおい、そいつらだって元は人間だぞ? それをこの世の未練も言わせないとか本当に人でなしだな」
「その元は人間を駒のように扱うお前にいわれたくないな」
レザクはシフトたちを精神的に追い詰めるために嫌味をいうが、それに対してシフトも嫌味で返した。
「自分の手は汚さず相手を嬲り殺すその考え方はスパッジャとかいう魔族と同じだな」
「誉め言葉と受け取っておくよ」
シフトたちは不死者たちを燃やしたり浄化することで確実に数を減らしていく。
それから1時間が経過すると不死者たちの数も当初の半数を切った。
最初は余裕を見せていたレザクだが、数が減るにつれ難色を示す。
「普通のよりも強化しているというのになんてざまだ」
「悪戯に命や肉体を弄んだところでお前の思い通りにはならなかったようだな」
「まだだ、まだ負けたわけじゃない」
このままでは負けると悟ったレザクは近くにいる巨大な魔獣の不死者に黒い球をいくつか嵌め込んだ。
「ギャオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーッ!!!!!!!」
不死魔獣が咆哮すると異形へと変わっていく。
その姿は以前デューゼレルで戦ったキマイラを彷彿させる。
キマイラと違いその身体は腐っていて今にも崩れそうだ。
不死魔獣がシフトたちを見ると口を大きく開けて黒い煙のブレスを吐いた。
「ルマ! フェイ! 【風魔法】でブレスを防ぐように風の障壁を張れ!!」
「「畏まりました、ご主人様!!」」
ルマとフェイはすぐに【風魔法】を発動して風の障壁を展開する。
黒い煙は不死者だけでなく地面を腐らせていく。
ブレスは風の障壁にぶつかると四散する。
「なにこれ?! あんなのまともに食らったらぼくたちも腐るってこと?!」
「ルマ、フェイ、がんばれ」
「さすがにルマとフェイに頑張ってもらわないとわたしたちの命が危ないからな」
「わたくしも手伝いますわ!」
ユールは【光魔法】を発動して風の障壁に浄化を追加する。
これにより腐食が四散しなくなった。
「ありがとう、ユール」
「あの魔獣のブレスを止めないと被害が拡大しますわよ」
「ユールの言う通りだ。 それについては僕が何とかする」
それを聞いたルマたちが思い止まらせるようにシフトに声をかける。
「ご主人様、危険ですわ!!」
「そうだよ、さすがにあれは危ないって!!」
「止める」
「承認できかねません」
「わたしもみんなの意見に賛成だ」
「だが、あれを倒さない限り戦闘は終わらないぞ」
「「「「「・・・」」」」」
この中で不死魔獣を一瞬にして倒す方法はシフトが【空間転移】で近づいて倒す以外に方法はない。
放置すればレザクと不死魔獣により被害は拡大する一方だ。
どれだけ時間が経っただろう、ルマが声をあげる。
「わかりました。 だけど絶対に無茶だけはしないでくださいね」
「そんなの当たり前だ。 ルマたちを残して死ぬつもりなんてないから」
そうこうしているうちに不死魔獣のブレスが止む。
「それじゃ、すぐにあれを止めてくるよ」
シフトはそれだけいうと【空間転移】を発動して不死魔獣の上空へと転移した。
そして、浄化の光を纏ったナイフを不死魔獣の背中に突き立てる。
「ギュオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーッ!!!!!!!」
効果は絶大で不死魔獣の身体がみるみる浄化されていく。
このまま倒せるかと思いきやレザクが【闇魔法】を発動して黒い球を不死魔獣にぶつけた。
すると浄化が止まり、不死魔獣から闇が溢れてくる。
どうやらあの黒い球は不浄なる力なのだろう。
「せっかくの実験体を潰されるわけにはいかないのでね」
「なら先にお前を倒すまで」
シフトはレザクの背後に転移すると思い切り背中を蹴り飛ばした。
「がはぁっ!!」
レザクは吹っ飛ばされて何度も地面にバウンドした。
シフトはすぐに不死魔獣への攻撃を再開する。
今度は浄化の光を纏ったナイフでの連続攻撃だ。
皮膚を斬り裂き、内臓を穿つ。
一撃では無理でも何か所も同時に攻撃を受けたことで不死魔獣のあちこちから浄化が進行していく。
「止めだ」
シフトは不死魔獣の首を刎ねて消滅させた。
如何に不死の存在とはいえ頭を潰されればそれで終わりだ。
残された胴体も少しずつ光になって消えていく。
「くっ・・・やってくれたな・・・」
レザクは起き上がるとシフトを睨みつける。
周りではルマたちが残っていた不死者たちを一掃した。
「ちっ! 役立たずが・・・こうなれば俺自らお前らを相手にするしかないな」
そういうとレザクは不死魔獣に使った黒い球を自らの身体に嵌め込んだ。