33.ネルス村
3日後───
シフトたちはネルス村に到着したがルマたちに村から離れたところで待機を命じた。
シフトはネルス村に着くと自分が住んでいた家に足を運ぶ。
そこは朽ち果てて今にも倒れそうな家だった。
もちろん人が住んでいる気配はない。
この古びた家を見て昔を思い出すは愛情の一欠けらも与えられず金しか興味がない実の両親だ。
(・・・あれから7年か・・・)
感慨耽っていると中年の村人が声をかけてきた。
「あんた、何もんだ! ここに何をしに来た!!」
「ここはネルス村ですよね?」
「・・・そうだがあんたは?」
「この村の元村人です。 実は教えてほしいことがありまして」
「・・・何が聞きたい?」
シフトは実家を指し両親について尋ねてみた。
「この家に7年前に住んでいた男と女について聞きたい」
「ヤーグとヨーディのことか? あいつらなら出て行ったよ」
「どこにいったのかわかりますか?」
「そんなこと知るかよ」
村人は苛つきながらもシフトの両親について答えてくれた。
(ヤーグ・・・ヨーディ・・・名前だけでも大収穫だ)
「情報ありがとうございます。 僕の目的はあなたが仰ったヤーグとヨーディにありまして」
「あいつらに?」
「ええ、ですがここにいないのであればもう用はありません。 早々にここを出ていきます」
「ああ、そうしてくれ」
シフトは一礼して村を後にするのだった。
しばらくしてからシフトはルマたちのところに戻った。
「みんな、今戻ったよ」
「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」」
「うん、まずは彼女たちに謝らないとな。 すまない、当てが外れた」
シフトは盗賊から助けた女性10人に向けて頭を下げた。
「なにをですか?」
「君たちをここの教会にでも頼もうかと思ったんだけど、この村閉鎖的でね・・・」
「ああ、なるほど」
本来ならネルス村でお別れする予定だったが余所者を忌み嫌うこの村では洞穴での生活と変わらないだろう。
リーダーの女性も閉鎖的という単語を聞いて納得してくれたようだ。
ルマが今後どうするのか尋ねる。
「ご主人様、これからどうするのですか?」
「仕方ない・・・首都ベルートを目指す。 君たちもついてくるか?」
「そうですね。 ここにいても明るい未来は得られないでしょうし・・・」
「なら決まりだな。 早速出発する。 この人数で歩きだと5~7日かかるからみんな頑張ってくれ」
「「「「「畏まりました。 ご主人様」」」」」
「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」
「はぁ・・・ほら、みんな元気出していこう」
「「「「「「「「「・・・はーい・・・」」」」」」」」」
ルマたちは従順に返事をするが、彼女たちはここまでの旅の疲れからかあまり元気がなかった。
予定が少々狂ったが元々首都ベルートにいるであろうザール辺境伯に復讐をする予定だったのだ。
さて行くかと歩き出そうとしたとき、リーダーの女性が声をかけてきた。
「あ、ちょっと待ってください。 私たちにも武器を貸してもらえませんか?」
「君たちに? 武器を使ったことがあるの?」
「いえ、ありませんが・・・この3日間守られ続けてもらったのに何もできなくて・・・」
「仮に首都ベルートについても身内はいないし、手に職があれば良いのですが1人2人では10人分の稼ぎができないでしょうから・・・」
「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」
それを聞いた他の女性たちも首都で暮らせるだけの稼ぎができるかというと自信がなかった。
「それなら私たちでも簡単な魔物を倒せるくらいには強くなりたいです」
「・・・はぁ、わかった・・・ただし首都ベルートに着くまでは僕たちの指示に従ってもらう。 これが絶対条件だ」
「わかりました」
「「「「「「「「「・・・わかりました」」」」」」」」」
「それじゃちょっと待ってね」
シフトは隠し持っていた[鑑定石]で彼女らの能力を見ていく。
(あの娘とあの娘とあの娘は【剣術】、あの娘は【槍術】、あの娘は【弓術】、あの娘は【火魔法】、あの娘は【水魔法】と【土魔法】、あの娘は【風魔法】、あの娘は【治癒魔法】、あの娘は【薬学】が使えるな・・・)
スキルレベルもB~Dと使えないよりはマシなので適正である才能を開花させることにした。
「そこの君と君と君はこの片手剣を使って、そこの君は槍を、そこの君は弓矢を使ってね」
シフトは隠しスキルにあった武器を適正者に渡すが彼女たちは困惑している。
「私武器使ったことないんですけど・・・」
「「私も」」
「・・・どうやって使うの?」
「・・・弓なんて使ったことない・・・」
「ローザ、彼女たちに武器の使い方を教えてあげて。 ベルはローザの補助を頼む」
「「畏まりました」」
ローザは武器を持った娘たちに簡単なレクチャーをしていく。
「そこの君とあと君ちょっと来て・・・ユール、こちらの娘に薬学の知識を、もう1人の娘は【治癒魔法】を頼む」
「畏まりましたわ」
「「よ、よろしくお願いします」」
ユールなら【治癒術】と【薬学】があるから適任だ。
「それで残った君たちは魔法の才能がありそうだから・・・ルマ、フェイ、彼女たちに魔法を教えてあげて」
「畏まりました、ご主人様。 どの娘がどの才能をもっていますか?」
「左から【火魔法】、【水魔法】と【土魔法】、【風魔法】だ。 【風魔法】はフェイに、残りの2人は悪いけどルマにお願いしたい」
「「畏まりました」」
ルマとフェイなら魔法を実践でも使っているから問題ないだろう。
かくして彼女たちを鍛えながら首都ベルートを目指すのであった。
7日後───
ようやく首都ベルートに到着する。
ここまでくる間に彼女たちはスキルを開花させ、魔物を倒してレベルを上げた。
これで首都ベルートで冒険者としてやっていくことができるはずだ。
冒険者ギルドで彼女たちは無事に冒険者になれた。
あとは彼女たちの努力次第だろう。
「無事に冒険者になれたんだね。 おめでとう」
「え・・・っと、ありがとうございます」
「「「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」」」
「武器は君たちにあげるよ。 それとこれは当分の生活費と軍資金だ」
シフトはリーダーの女性に革袋を渡した。
中を覗くと金貨3枚が入っていた。
「え、こんなに貰っていいんですか?」
「女性が10人もいるんだ、生活の軌道に乗るまで大変だろう? そのお金を大事に使うも湯水のように使い切るも君たち次第だ」
「わかりました」
「僕たちができるのはここまでだ。 あとは君たちの成功を祈っているよ。 それじゃあ、僕たちは行くよ」
「「「「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」」」」
シフトたちは冒険者ギルドの前で女性たちと別れると遠くに建てられている領主の屋敷を睨む。
(僕は自分のスキルによって5年も苦しんだ・・・この恨み、お前に返すぞ。 覚悟しろ・・・ザール)
シフトの目には復讐の炎が宿っていた。




