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338.異空間

夜、月が頂点を過ぎて西に少し傾いた頃、シフトたちを乗せたプラルタは帝国に到着しようとしていた。

突然、目の前の空間から火球が現れて飛んでくる。

『きゃあっ!!』

あまりのことにプラルタは驚いて止まってしまう。

火球はプラルタが展開している魔力障壁にぶつかる。

幸い火球の威力が弱かったので魔力障壁を突破することはなかった。

『なんですか?! 突然火球が現れましたよ!!』

「プラルタさん! 気をつけろ! 相手は【空間魔法】を使って攻撃を仕掛けてきている!!」

シフトたちは以前公国の公爵で同じような空間を使った攻撃を受けたことがある。

今回プラルタを襲った攻撃はまさにそれだ。

【空間魔法】はその能力故に術者が近くにいるのが弱点でもある。

シフト、ベル、フェイは注意深く地上を確認したがそれらしい敵影が見つからない。

森なのもあり隠れる場所には適している。

「フェイ、【風魔法】で地上に風を起こすわよ」

「了解」

『わたしも手伝います』

ルマとフェイは【風魔法】を発動すると地上にある森に向けて放つ。

プラルタも羽を羽搏かせて地上に風を巻き起こす。

「これならどうですか」

ユールが【光魔法】を発動すると発光玉を作成すると地上に向けていくつも飛ばす。

シフト、ベル、ローザは動く者がいないか見ているが誰もいなかった。

「ご主人様、動く敵影はないようだ」

「誰もいない」

「【空間魔法】を使うならそれなりに近くにいるはずなんだが」

「だけどここら辺一帯にはそれらしい者がいないよ」

「【空間魔法】ではないということかしら?」

「ならどうやってわたくしたちを攻撃していますの?」

シフトたちが敵影を探すのに戸惑っているとプラルタの周りに次々と火球が送り込まれてくる。

魔力障壁に遮られているとはいえ、こちらに一方的に攻撃してくるなど本来ならありえない。

「術者がどこかに必ずいるはずだ。 プラルタさん、もう少し前進してもらえませんか?」

『わかりました』

危険を覚悟でプラルタに前進するようにお願いする。

その間にも火球が飛んでくるが魔力障壁を突破することはない。

そうこうしているうちに帝国に辿り着くとそこは国内の1/4が火災により燃え広がっていた。

「これは! ルマ! 【水魔法】で火を消せ!!」

「わかりました!!」

ルマはすぐに【水魔法】を発動するとシャワーのようにして消火に当たる。

燃え盛る家屋に水が触れると次々と消火されていく。

ルマが消火活動をしていると不意に誰かがルマ目がけて攻撃を仕掛けてきた。

「! そこ!」

ルマへの攻撃をフェイが受け止める。

「やるな、小娘」

「やらせないよ!!」

フェイが攻撃するよりも早く襲撃者が消える。

「どうやら【空間魔法】の使い手だけど恐ろしく広範囲まで攻撃できるようだな」

シフトですら広範囲に移動するには視界の良い上空に上がらないとできないのに、この襲撃者はそれをいとも簡単に熟していた。

「全員でルマを守るぞ」

「「「「はい、ご主人様」」」」

シフトたちはどこから攻めてきてもいいようにルマを囲う。

第二の攻撃がルマに襲い掛かるが、それもフェイにより阻まれた。

「初撃を防がれたのはまぐれかと思ったがどうやら違ったらしいな」

「残念だけど不意打ちするならぼくを上回らないと無理だよ」

「うぐぅっ!!」

襲撃者が逃げようと転移するよりも早くシフトが首を絞めた。

あまりの苦しさに襲撃者はシフトの左腕を掴んでなんとか抵抗を試みるが、如何せん腕力が違いすぎて開放することができない。

「さて、お前は魔族か?」

「うぐぐぅ・・・そ、そのオレンジ色の髪・・・レザクとあいつが言っていた・・・そ、そうか、お前か・・・」

「お前はここで何をしていた?」

「見ないとわからないか? 案外御頭は弱いようだな」

シフトは左腕に少し力を籠める。

「ぐえぇっ!!」

魔族は喉を潰されたような声を出す。

「もう1度聞く。 ここで何をしていた?」

「教えるわけないだろ! バァーカァッ!!」

それだけいうと魔族は【火魔法】で自分とシフトごと燃やしにかかる。

「!!」

「「「「「ご主人様?!」」」」」

シフトはすぐに【空間転移】でルマが水を放水しているところに転移した。

火はすぐに消火されシフトと魔族は水浸しだ。

「?! 貴様も空間を操るのか?!」

「だとしたらどうする?」

「くっくっく、この身体(屍肉人形)ならば好都合だな」

魔族は【空間魔法】を使うとシフトと自分を対象にしてこの世界から消えてしまう。

「ご主人様?!」

「どこ?! フェイ! ご主人様はどこ?!」

「ご主人様の気配が消えた?!」

「フェイさん! 早くご主人様を探して!!」

「今やってるよ! どこ?! どこにいるのご主人様!!」

シフトが目の前から消えたことでルマたちは平静を保てなくなりパニックを起こしていた。

『みなさん、落ち着いてください』

プラルタが宥めようと試みる。

「これが落ち着いていられますか!!」

「何も知らないくせに!!」

「わたしたちがどれだけご主人様に救われたと思っているんだ!!」

「ぼくたちにとってかけがえのない存在なんだ!!」

「ご主人様はわたくしたちの生き甲斐なんです!!」

『み、みなさんのシフトさんへの気持ちはわかりました・・・』

ルマたちの言葉(圧力)に負けてプラルタが凹んでしまった。


魔族の【空間魔法】によりシフトは帝国とは違う空間に飛ばされる。

「ここは?」

「ふん・・・お前の死に場所だ」

「悪いけどこんなところで死ぬ予定はない」

「くっくっく、せいぜいここから脱出して見せるといいさ!!」

それだけいうと魔族が事切れる。

「なっ?! こいつ自害したのか?! おい!!」

シフトの言葉に魔族は反応しない。

「くっ! 考えたなっ!」

今までの魔族と違い、ただ刺し違えるのではなく確実に相手を倒すために分身体(屍肉人形)を犠牲にした。

それもシフトが知らない場所に転移して、自分(魔族)は魔力切れで意識は元の世界にあるのだから作戦勝ちともいえる状況だ。

「とりあえず状況を確認しよう」

シフトは落ち着くとまず周りを確認する。

見渡す限り何もない。

何処も彼処も永遠に続いている。

「どうやらあの魔族が作り出した異空間に転移させられたようだな」

いくら【空間魔法】の使い手でも座標を割り出して戻るのは至難の業だ。

しかし、今回は相手が悪かった。

シフトには【次元干渉】があるからだ。

「さて、ルマたちが悲しむ前にさっさと脱出しますか」

シフトは【次元干渉】を発動して空間に干渉する。

ミシ・・・ミシ・・・バリ・・・バリ・・・バリ・・・

何もない空間に亀裂が少しずつ入り罅が広がっていく。

ミシ・・・ミシミシミシ・・・バリバリバリ・・・

しばらくすると人一人が通れるくらいの大きさまで亀裂が入る。

亀裂の先を覗いてみると遥か先にプラルタがいた。

「プラルタさんがいるということは間違いなくルマたちがいる世界だな。 よし! 脱出するぞ!!」

シフトは亀裂の中に入って、魔族が作り出した異空間から脱出することにした。


ルマたちが帝国の上空からシフトを探していると空間に亀裂が生じた。

ミシ・・・ミシ・・・バリ・・・バリ・・・バリ・・・

異常を感じてルマたちがその亀裂を見る。

「! ご主人様の気配を感じる!!」

「フェイ! それは本当か?!」

「間違いない!!」

人が通れるくらいの隙間ができると亀裂の先からシフトが屍肉人形を片手に戻ってくる。

ところがあともう少しのところで空間の亀裂が逆再生するように修復し始めたのだ。

それに気づいたルマたちがシフトを急かす。

「ご主人様!!」

「早く!!」

「急げ!!」

「もう少し!!」

「戻ってきて!!」

シフトもルマたちの声からこの状況が悪いと判断したのだろう。

急いでルマたちのほうへと移動する。

「こんなところでまた変な空間に閉じ込められて(逆戻りされて)たまるか!!」

シフトは【空間転移】を発動するとプラルタのところまで一気に転移した。

空中に投げ出されたので【念動力】で屍肉人形を空中に固定すると先ほどまでいた空間を見る。

しばらくすると亀裂の逆再生が終わり、そこには何事もなく普通の空間があった。

「みんな、ただいま」

「「「「「お帰りなさいませ! ご主人様!!」」」」」

ルマたちの目には薄っすらと涙が溜まっている。

(やっぱり心配かけてしまったか・・・)

ほんの少しの時間とはいえルマたちを心配させてしまったことにシフトは申し訳ない気持ちになる。

「みんな、心配をかけてすまない」

「いえ、ご主人様が無事ならそれでいいんです」

「ベルも」

「一時とはいえ冷っとしたよ」

「さすがに目の前で消えて焦ったよ」

「もう心配させないでくださいな」

ルマたちは安堵からかその場にへたり込む。

そこにプラルタが話しかける。

『シフトさんが無事でよかったです』

「プラルタさんにも迷惑かけたな」

『いえいえ、シフトさんがいないとサンドワームの肉が食べられないですから』

「あははははは・・・プラルタさんらしいよ」

シフトとプラルタが軽く笑った。

シフトが地上に降りるとプラルタも同じように降りてくる。

ルマたちと合流するとフェイが話しかけてきた

「ご主人様、それ(屍肉人形)貸してもらってもいい?」

「ああ、いいよ」

シフトが屍肉人形をフェイに渡す。

「ありがとう」

するとフェイは思いっきり屍肉人形を殴った。

「このっ!! 一時とはいえよくもぼくとご主人様を引き離したなぁっ!!」

それを見たルマたちも鬱憤があったのか屍肉人形を殴る蹴るの暴行を加えた。

「このっ! このっ!!」

「許さないっ!!」

「ふざけるなよっ! この人形がっ!!」

「これでも喰らいなさいっ!!」

すでに事切れている屍肉人形だが、ルマたちの機嫌が直るまではサンドバックになってもらおう。

『シフトさん、止めなくていいんですか?』

「ま、まぁ、ルマたちの好きにさせておくよ」

「何かと思って来てみれば其方たちか」

「シフト殿、こんなところで会うとは・・・」

シフトがルマたちを見ているとそこに帝国の皇帝グランディズと公国の王子ネクトンがやってきた。

「お久しぶりです、皇帝陛下」

「久しいな・・・とゆっくり話したいところだが今はこの有様だ。 早く帝国に弓引く者を見つけなければならない」

「それならあそこにいます」

シフトが指さしたほうをグランディズが見るとそこにはルマたちが今も屍肉人形を痛め続けている。

「・・・あれは何をしているのですか?」

「ああ・・・僕にちょっかいを出したのがよほど気に入らなかったみたいで・・・」

「そうなのか・・・」

「因みに殴られているのが多分この状況を作った張本人だと思います。 といってもすでに倒れた(逃げた)あとであれは抜け殻みたいなものですけどね」

「すでに倒していたとは・・・さすがです」

「倒したというか自害したというか・・・」

シフトとしては異空間に転移させられたこと以外はほとんど何もされていない。

「さてと・・・みんな、そろそろ帝国の救援作業を手伝うよ」

それを聞いてルマたちが屍肉人形を殴るのを止めた。

「ご主人様、申し訳ございません」

代表してルマが屍肉人形をシフトに返す。

屍肉人形は殴られすぎてすでにボロボロだ。

「えっと・・・これが先ほど話した騒動の張本人だと思います。 できれば僕のほうで回収したいのですが・・・」

「そ、そうか・・・わ、わかった、許可しよう」

グランディズから許可が下りたので屍肉人形をマジックバックにしまう。

それからシフトたちは帝国の救援作業を手伝うことになった。

幸いルマの【水魔法】である程度消火していたので大事にならなくて済んだ。

「さて、僕は皇国がどのような状況なのか確認したいので急ぎ北を目指します」

「今からか? 何か問題でもあったのか?」

グランディズとしては現状何が起きているか気になるのだろう。

シフトは公国とドワーフの国で起きたことを素直に話す。

「実は公国とドワーフの国がここ(帝国)と同じように魔族に襲われたのです。 それで魔族が何かする前に取り押さえようと動いているのですが・・・」

「止める前に行動されてしまったと?」

「そういうことです」

「気にすることはない。 それは国を治める余の仕事だ。 むしろ被害が拡大する前に来てくれて助かった」

「一応まだ油断はしないでください。 もしかするとまた攻めてくる可能性もありますから。 それでは僕たちはこれで」

シフトたちはプラルタに乗ると今度は皇国を目指して出発するのであった。


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