32.生まれた地へ 〔無双劇3〕〔※残酷描写有り〕
ミルバークの町を旅立ってから6ヵ月後───
国歴1852年、季節は紅葉をむかえる時期。
シフトはガイアール王国の極北ヘルザード辺境伯領ネルス村を目指すべく北西を目指した。
ヘルザードでのシフトの目的は3つ。
1.名も知らぬ両親の名前とシフトを売った後の足取り
2.ザール辺境伯への復讐
3.『勇者』ライサンダーたちの行方
1はネルス村に向かい大人たちから情報を収集するしかない。
2はシフトたちが訪れた時にヘルザード辺境伯領にザールが居なければ意味がない。
3は王都辺りで噂を聞けばいいので今は無視でも問題ない。
シフトは慌てずに極北ヘルザード辺境伯領を目指すのである。
ただし進む道は街道や林道ではなく森路や獣道だ。
理由は魔物の討伐と魔石採取、食料調達、そして・・・
「げへへ、よう兄ちゃん。 えれぇ別嬪な女たちを連れてるじゃねえか」
「悪ぃがここから先は通れないぜ」
「男は殺せ! 女は犯せ!」
深森の中で下種な笑みを浮かべて多くの盗賊が現れる。
その数は30人ほどだ。
シフトは逃がさないように【次元遮断】を使って半径30メートルの範囲内を外界から遮断した。
「殺れぇぇぇぇぇーーーーーっ!!!」
この群れのボスと思われる人物が部下たちに命令する。
盗賊が一斉に襲い掛かる。
シフトはナイフを引き抜くと目にも留まらぬ速さで一瞬にして盗賊の1人に接近すると首を跳ねて絶命させた。
「や、野郎ーーーーーっ!!!」
周りにいた4人が同時に攻撃を仕掛けるがバックステップで躱すと【念動力】で足元にある小石をぶつけていく。
シフトからしてみれば1つ1つぶつけているだけだが周りから見たらマシンガンの如く小石が盗賊たちに当たっていく。
「ぐわぁっ!!」
「がはぁっ!!」
「いてぇっ!!」
「や、やめろぉっ!!」
怯んだところを人体の急所である頭や心臓をナイフで刺して1人1人確実に殺していく。
正面から戦うのが下策と感じた盗賊たちは両脇から攻めるも【五感操作】で距離感や平衡感覚を失わせることで隙がうまれる。
そこを1対1に持ち込んで数の有利を無効にしてから1人また1人と倒していく。
ローザは鎌(今日の武器)を構えると横薙ぎに一閃、向かってきた盗賊の胴を真っ二つにする。
ローザの隙を突こうとした盗賊をベルがナイフで迎え撃ちそのまま心臓を一突きする。
ルマは【火魔法】で炎の壁を作り相手が攻めてこられないようにした。
ユールは【光魔法】で相手の視覚を奪ったり、攻撃魔法を放つ。
フェイは【闇魔法】でシフトたちから抜け出すと盗賊の死角から弓矢で頭や胴体を狙い撃つ。
そう、シフトはルマたちに人を殺す練習をするためだけに態々森路や獣道を選んだ。
盗賊や山賊であれば百害あって一利なし、殺しても問題ないと判断した。
それにルマたちにはその手を血に染めても、シフトに付いていく覚悟があるからだ。
「な、なんだ?! こいつら?!」
「数ではこっちが勝っているんだ!! 物量で押し切れ!!!」
盗賊たちは数で潰そうとするがシフトたちは臨機応変に対応し物量作戦は失敗した。
(ダーク・ウルフの群れのほうがよっぽど厄介だな・・・)
「くっ、くそっ!! ひ、引けぇぇぇぇぇーーーーーっ!!!」
勝てないと判断したボスは盗賊たちに撤退の命令を出して逃げていくが、
『な、なんだこれは?!』
『先に進めないぞ?! どうなってるんだ?!』
逃げていった先で不可視の壁に遮られそれ以上逃げることができなかったのだ。
シフトたちは彼らの背後までやってくる。
追いつかれた盗賊たちは無条件降伏してきた。
「お、おい、悪かった、見逃してくれよ」
「あ、あんたたちがこんなに強いとは思わなかったんだ。 だから許してくれよ」
シフトは手でジェスチャーするとルマたちを下がらせたあと盗賊たちのほうに歩き出した。
「・・・く、なめるなよっ!! このクソガキがぁっ!!!」
自棄になった盗賊のボスが片手剣を振り下ろしたがシフトは【五感操作】で距離感を狂わせて避けると剣を持っている右腕を切り落とした。
右腕は地面に落ち、切り口から大量の血が噴出した。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
盗賊のボスはもう片方の左手で切られた右腕の傷口あたりを掴んで激痛に叫んだ。
「五月蠅い」
腹を蹴っ飛ばすと吹っ飛んでいくが不可視の壁にぶつかるとそこで止まった。
身体がピクピクと動くところを見ると彼は辛うじて生きている。
その光景を見た盗賊たちは次々と命乞いをする。
「た、助けてくれ!! 頼む!! この通りだ!!!」
「もうあんたたちを襲わない!! 約束するから命だけは!!!」
シフトはルマを見て命令する。
「殺れ」
「はい、ご主人様」
ルマは生き残った盗賊たちに対して【風魔法】を放ち、彼らの首や胴体を切り刻んだ。
盗賊たちの悲鳴が木霊するがその声は外部に漏れることはなかった。
「終わりました、ご主人様」
「みんな、お疲れ。 一応周りを見てきてくれ」
「「「「「畏まりました。 ご主人様」」」」」
ルマたちはほかに盗賊の残党がいないか周辺を確認に行った。
「さて・・・お前には聞きたいことがある」
シフトは盗賊のボスに向き直り質問することにした。
「・・・た・・・助けて・・・くれぇ・・・」
「それはお前の心がけ次第だ」
「・・・な、なんでもいうことを聞く。 だから・・・」
「お前たちのアジトは?」
盗賊のボスは左手をある方向を指した。
「あ、あっちにある洞穴です」
「そのアジトにお前の仲間は何人いる?」
「ご、5人です」
「そうか、ありがとう」
シフトはナイフで頭を刺した。
「・・・な? ・・・な・・・ん・・・で・・・?」
「お前を生かすとまた罪もない人々が犠牲になるからな。 悪く思うなよ」
「・・・そ・・・ん・・・な・・・」
盗賊のボスは信じられないという顔をして死んだ。
しばらくしてルマたちが戻ってくる。
「ご主人様、ほかに怪しい人物はいませんでした」
「盗賊のボスからアジトを聞いたからこれから襲撃しに行くよ」
「「「「「畏まりました。 ご主人様」」」」」
シフトは結界を解くとルマたちと共に盗賊のアジトに向かい残りの盗賊を全滅させた。
内部を調べると奥の数部屋に全裸の女性が13人見つけたが、生存しているのはその内の10人だけだった。
どの女性も衰弱し全身汚れと怪我と痣が酷く男の慰めものとして扱われていた。
ルマが【水魔法】で女性たちの身体を清め、ベルが薬草から精神安定剤を作り、ローザとフェイがベルの作成した薬を飲ませ、ユールが【光魔法】で生命力を回復させた。
シフトはというと・・・
「ご主人様、ここは私たちが対処します」
「人手があったほうが・・・」
「私たちが対処します」
ルマの笑顔が怖い・・・
「・・・ああ、わかったよ。 何かあったら声かけてね」
「さぁ、みんな行くわよ」
ルマとしてはシフトにこれ以上悪い虫を付けたくないのだろう。
(はは、ルマも案外可愛いところがあるね)
そんなことを考えながら洞穴の入口のほうに歩いていると何かがこちらに近づいてくる。
なんだろうと後ろを振り返ると1人の全裸の少女がこちらに駆けてくる。
「ぶうううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!!!!!!」
シフトはおもわず息を噴出した。
『ちょっと、そっち行ったらダメ!』
少女がやってきたほうからローザの声が聞こえてくる。
シフトの横を通り過ぎようとしたので少女の腕を捕まえる。
「あっ! あっ! あっ! あああああぁっ!!」
言葉にならない言葉を発しているところを見ると、どうやら精神が不安定のようだ。
ローザが後ろから追いつく。
「あ、ご主人様、助かりました。 この娘、ベルが作った薬を飲んだのに落ち着かなくて・・・」
「ベルの薬でも治らない? それじゃあ・・・」
シフトは袋から精神安定剤用のポーションを1つ取り出してローザに渡した。
「ローザ、このポーションを飲ませて」
「畏まりました」
ローザは暴れている少女の口に無理矢理ポーションの注ぎ口を突っ込む。
コクコクコク・・・
少女の喉を液体が通っていく。
「・・・あ、あれ? ここは・・・」
「どうやら正気に戻ったみたいですね」
少女を拘束しなくてもいいだろうと腕を放す。
少女はローザを見て、それからシフトを見ると固まった。
「お、男の人?!」
「ま、待って! 怪しい人じゃないよ! この人はわたしのご主人様なの!!」
「そ、そうなんですか?」
「ああ・・・気にしないでくれ・・・」
シフトが目を逸らすと少女は何かと自分の身体を見ると全裸であることを認識し・・・
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
少女は顔を真っ赤にすると胸を隠しその場にしゃがみこんだ。
「ふ、不可抗力だ」
「はぁ・・・わかってますよ、ご主人様。 ほら、立って向こうに行こう」
ローザは少女を立たせるとルマたちのいる奥の部屋へと歩いて行った。
10分後───
シフトは洞穴の入り口を出たところで食事を作っているとルマとローザとフェイがやってきた。
「ご主人様、よろしいでしょうか?」
「ルマ、ローザ、フェイ、どうした?」
「みんな正気に戻ったのは良いんだけど・・・」
「実はこの洞穴に女性用の衣類がなくて・・・」
「それでご主人様に相談しに来たんだけど・・・」
「・・・ああ・・・それは困るな・・・」
助けたのは良いが、このまま放置して彼女たちを裸族にする訳にもいかないか・・・
シフトは【空間収納】を発動し、ルマたちがこれは着ないとまとめた普段着、下着、靴のそれぞれ入った袋3つを取り出し空間を閉じる。
「この服と下着、靴を持って行って。 20分後に洞穴の外に集合して」
女性の着替えは長いからほっとくと1時間でも2時間でも平気で待たされるからな。
時間を制限しておけば早く終わるはず・・・
「「「畏まりました」」」
ローザが普段着の袋をルマが下着の袋をフェイが靴の袋を持って奥の部屋へと戻っていった。
さらに20分後───
シフトの料理が完成したころ、ルマたちとこの洞穴にいた女性たちが姿を現した。
「「「「「お待たせしました、ご主人様」」」」」
「ご苦労様、大変だっただろう?」
「ご主人様を待たせるわけにはいきませんから」
「ありがとう、そちらの彼女たちは大丈夫かな」
シフトは助けた女性たちに質問する。
一番年配だと思われる女性が頭を下げた。
「あ、あの・・・た、助けていただきありがとうございます」
「私たちもうダメかと思っていたの」
「うん、暗い部屋で一生男たちに・・・」
「「「「「・・・」」」」」
彼女たちは盗賊から受けた辱めを思い出したのか嫌な顔をした。
「とりあえず、食事にしよう。 みんなお腹空いてるだろう?」
食べ物の匂いに彼女たちのお腹からきゅるるるるると鳴り、皆顔を赤くした。
「あ、あのよろしいのでしょうか?」
「かまわないよ。 食べてくれ」
彼女たちは久しぶりに真面な食事をとれて嬉しい顔をしていた。
食後落ち着いたところでシフトは彼女たちの今後について聞いてみる。
「ええ・・・っとこれからどうするんだい?」
「あのできれば同行したいのですが・・・」
「僕たちと? 僕たちはネルス村を目指している最中だけどそれでもいいかな?」
「ネルス村までは何日かかりますか?」
「ここからだとだいたい2~3日くらいかな?」
彼女たちは集まって話し合い、そして代表の1名が答える。
「同行でお願いします」
「・・・わかった。 同行を許可するよ」
シフトは彼女たちを伴い北西を目指すことにした。




