337.金属魔法
シフトたちの目の前に金属の武器を次々と投げつけてきた襲撃者が現れる。
「お前が僕たちを襲ったのか?」
「ああ、そうだ。 偶々大きな的があったから狙ってみたのさ」
「嘘をつくなよ。 元々狙いは僕たちだろ?」
「くっくっく・・・なんだバレてたのか。 お前わかってるじゃねぇか」
襲撃者は愉快そうに笑う。
「オレンジ色の髪、それに額の大きな傷・・・レザクが言っていた奴だな」
「ならお前は魔族ということだな」
「察しがいい奴は嫌いじゃないぜ」
「それでどうする? 戦う? それとも逃げる?」
シフトの質問に魔族は笑いながら答える。
「もちろん、戦う一択だ!!」
それだけいうと襲撃者・・・魔族の周りに大量の金属が出現する。
それらは剣、槍、斧、鎌、鞭、鎚、矢となりシフトたちに襲い掛かった。
シフトは【空間収納】を発動して襲ってきた武器をすべて空間に吸収する。
「やるじゃないか・・・」
「見たこともないスキルだな」
「俺の魔法はお前らじゃ絶対に使えないからな」
魔族が魔法といったのでシフトたちは驚いた。
「魔法だと?」
「金属を生み出す魔法なんてあるの?」
「聞いたことがない」
錬金術みたいにある物から金属を作り出すならともかく、魔法で金属を生み出せる者がいるとはシフトたちは想像もしていなかった。
「どうせお前らの脳じゃ理解できないだろうがな!!」
魔族は再び魔法で金属を生み出すと大量の武器を生成する。
そして、シフトたちに向けて放つ。
「なるほど、魔法で金属を生成するなど考えたことがなかったです。 名付けるなら【金属魔法】ですか」
ルマが掌を前に出すとシフトたち全員を防ぐような大きな金属の盾が現れた。
「「「「「「!!」」」」」」
「なんだと?!」
シフトたちだけでなく魔族もルマが金属の盾を出したことに驚く。
ルマが生成した金属の盾は魔族の武器をすべて防ぎきった。
「ルマ? これはいったい・・・」
「今まで【火魔法】と【水魔法】と【土魔法】の組み合わせだけはどうしても頭の中に想像できなかった。 だけどあの魔族が使った魔法がイメージした能力にぴったりでした」
「てめぇっ! 俺の猿真似をするなっ!!」
魔族は自分の十八番を奪われたことで怒りを露わにすると、【金属魔法】で今まで以上の武器を生成するとルマ目がけて飛ばしてきた。
「それなら私はこれです!!」
ルマも対抗して【金属魔法】を発動すると魔族と同じかそれ以上の武器を生成して飛ばした。
お互いの武器がぶつかるもルマの武器のほうが練度が上で、相手の武器を尽く破壊していく。
「何っ?!」
ルマの生成した武器が魔族に次々と被弾していく。
「くぅっ! 分身体でなければお前なんかに負けはしないものをっ!!」
「なら今度は本体自らが攻めてくることですね」
「赤髪っ! 貴様の顔忘れんぞっ!!」
魔族は身体中をルマの武器により串刺しにされて事切れた。
それを見てルマが口を押えてしまう。
「あっ! 加減を間違えました・・・」
魔族は生け捕りにする予定だったが、初めて行使する魔法に手加減できなかったらしい。
ルマにしては珍しい失敗だ。
「ルマ、すごい」
「まさか魔法で金属を生成するとはな」
「ルマちゃん、金をバンバン作ってよ」
「フェイさん、欲望丸出しですわよ」
「うわあああああぁ~♡ 金です~♡」
ベルたちはルマを絶賛していた。
一部自分の欲に忠実な者たちもいるが・・・
「ルマの【合成魔法】はすごいな。 雷や氷だけではなく金属までも魔法でできるとはな・・・これでもう極めたんじゃないか?」
「いえ、最後にまだ1つだけ残っています」
「まだ組み合わせがあるの?」
「ええ、それは【火魔法】、【水魔法】、【風魔法】、【土魔法】すべてを使った魔法です。 さすがに【金属魔法】以上にイメージできませんが・・・」
「【合成魔法】の集大成みたいな魔法?」
「今のルマさんの魔法でも十分すぎるほど完成されているのに、さらに上があるのですか・・・」
ローザやユールの言うようにルマの魔法は現時点で完成されているといっても過言ではない。
1つ発見したことで喜ぶ一方、敵を倒したことを思い出すとシフトに謝った。
「ご主人様、申し訳ございません。 勝手な行動をとってしまって・・・」
「別に謝らなくてもいいよ。 僕もあれについて説明するのを忘れていたんだから」
シフトたちは魔族のところに行くとその遺体を見る。
「これが分身体?」
「普通の人の遺体に見えるけど?」
「ベルの【鑑定】だと、これは屍肉人形というアイテム」
「アイテム? これがか?」
「どこからどう見ても人にしか見えませんわ」
ルマたちが物珍しそうに魔族を見ている。
「それにしてもレザクが操っていた屍肉人形は塵になったのに、これは消滅しないんだな」
シフトが疑問を感じるとルマが推測をいう。
「もしかするとそのレザクという魔族は証拠を残したくないから倒されたときに屍肉人形を処分したのでは?」
「少しでも自分のことを知られたくないためにか?」
「それはありえますわね」
ルマの推論を聞いてシフトは納得する。
さっきの魔族みたいに自分の専売特許を他人に奪われたら目も当てられない。
レザクは奪われるくらいなら処分したほうがましと考えたのだろう。
だが、公国の魔族は自分の意思を維持できずにオーバーヒートした結果ショートし、目の前の魔族は怒りに我を忘れて消し忘れたといったところか。
「とりあえずこのアイテムは回収しておくか。 ついでにそこら中に落ちている金属も」
シフトは空間にルマと魔族が生成した金属の武器や破片と屍肉人形を入れると閉じた。
「これでよし。 それでこれからだけど念のためドワーフの国に向かって状況だけでも確認する」
「先ほどの魔族はドワーフの国を襲っている最中にわたしたちを見つけた可能性がありそうだ」
「それじゃ、見に行くとしよう」
プラルタが再びドラゴンの姿に戻るとシフトたちはドワーフの国に向かった。
しばらくするとドワーフの国が前方に見えてくる。
「え?」
「何あれ?」
ドワーフの国を見ると至る所に巨大な金属の刃が突き刺さっていた。
「プラルタさん! あの国に急いで向かってくれ!!」
『わかりました』
プラルタも緊急事態と把握して急いでドワーフの国に飛んでいく。
国から少し離れたところに着地するとシフトたちは駆け足で向かう。
「ルマとユールに分かれてそれぞれ怪我人を救出するぞ! ルマにはベルとローザが、ユールには僕とフェイがそれぞれ同行する! ポーションを使ってもいいからなるべく多くの人を救うぞ!!」
「「「「「畏まりました、ご主人様!!」」」」」
シフトたちは二手に分かれるとそれぞれドワーフの国を駆け回っていく。
金属の刃がある場所に出向くと何人かの怪我人が見えたので重傷者はユールに任せて、シフトとフェイは軽傷者をローポーションやミドルポーションを使って治していく。
1つ終われば次へと駆ける。
そこでも怪我人が出ていたのでシフトたちは可能な限り救助した。
中には直撃を受けて一目で絶命している人もいるが大半は怪我だけで済んだのが救いだ。
何ヵ所か回るとシフトたちみたいに駆け回っている何名かの人物がここにやってくる。
「皆の者しっかり・・・む、シフト殿」
「ドワーフ王」
シフトが見た人物それはドワーフの鍛冶王ラッグズだった。
「どうしてここに?」
「ここに来る途中にあれが見えたので急いで駆けつけて、勝手にですが救助をしてました」
それを聞いたラッグズはシフトに感謝の意を示す。
「助力してくれてありがたい。 今は少しでも手が欲しかったところだ」
「外側にある麓付近は僕たちが救助してきました」
「そうか、向こう側はまだだったので本当に助かった」
「安堵するのはまだです。 それよりも早く救助を続けましょう」
「うむ、そうだな」
それからシフトたちはドワーフの国を駆け回り、多くの人たちを救った。
太陽が西の地平線に沈む頃、シフトたちの救出作業も一段落した。
シフトたちのところにきてラッグズが労う。
「シフト殿、ご助力かたじけない」
「いや、救援が遅くなって申し訳ない」
「その口振りからしてあれについて何か知っているのか?」
「知っているといっても僕たちにとってもつい先ほどの出来事だけどね」
シフトはラッグズに金属の魔法を使う魔族について話す。
「うむ、シフト殿たちの活躍ですでに撃退してくれていたのか・・・感謝する」
「今回は感謝されるようなことは・・・」
「いや、ドワーフの国を襲っていたあれが急に止んだので気にはなっていたんだ。 まさかドラゴンを見て敵が標的を変えたのが原因だったとはな」
「プラルタさんがいなかったらここはもっと酷いことになっていたと考えれば感謝しないといけないな」
シフトとラッグズはその場から麓にいるプラルタを見る。
プラルタは暇そうにドワーフの国を見ていた。
そんな時に別のほうから誰かがやってくる。
「シフト殿、ドワーフの国に来ていたのですか?」
やってきたのは帝国の皇子エアディズだ。
「帝国の皇子。 公国の国王が言った通りここにいたんだ」
「公国の? ああ、なるほど、公国はこの大陸でも情報収集力は高いから知っていても不思議ではないな」
「それで帝国の皇子もここで救援していたのですか?」
「そうです。 帝国のほうは皇帝陛下とほかの兄弟姉妹がいるので問題ないですが、ドワーフの国を狙われることを恐れて一番近い国である帝国から派遣という形でここにいます」
たしかにここから北上すれば帝国だ。
武力要請や救援要請するなら近隣国である帝国が一番だろう。
「それならこれが終わったら戻るのですか?」
「いや、まだ完全には安全とは言えないからしばらくはここに滞在する予定です」
「わしの客人扱いとしてしばらくはお願いしている」
今回襲撃されたことでドワーフの国としてもまた襲ってくる可能性があると警戒しなければならないのだろう。
「それでシフト殿はこれからどうするのだ?」
「僕は帝国、皇国がどのような状況なのか確認したいので急ぎ北を目指します」
「ここが襲われたとなれば帝国も皇国も何かしら起きていても不思議ではない」
「それなら帝国のことをお願いします」
自分の国が気になるのだろう、エアディズはシフトに頭を下げる。
「わかりました。 それではこれからすぐにでも向かいます。 みんな、行くよ」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
「シフト殿、気をつけて」
「帝国のこと頼みました」
シフトはラッグズとエアディズに別れを告げると急いでプラルタのところまで戻った。
『あ! シフトさん、お帰りなさい』
「プラルタさん! 悪いけど今から北にある帝国に向けて飛んでくれないか?」
『え? 今からですか? もう空も暗くなっていて・・・』
「問題が発生しているかもしれないんです! お願いします!!」
シフトが頼み込むとプラルタが慌てだす。
『シ、シフトさん、わかりました。 わたしに任せてください』
「ありがとう」
『皆さん、わたしの背中に乗ってください。 すぐにでも出発します』
シフトたちはすぐにプラルタの背中に乗る。
『それでは行きますよ!!』
プラルタは翼を広げると空に舞い北にある帝国目指して飛んでいった。