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335.動きだす魔族

シフトたちは王国へと帰還するため、プラルタに乗って西に向かって移動している。

亜人種族がいる大陸、翼人の国を通り過ぎ、もうすぐ公国の最東端のところまでやってきた。

プラルタが【魔力自動回復魔法】のレベルを最大である5:究極にしてからは、魔力の扱いが今までとは違い上手く使い熟している。

常に自分に魔法をかけ続けることで尽きることのない魔力を最大限に生かし、自身の飛行速度の補助と魔力障壁に力を注いでいた。

これにより移動速度も魔力障壁の頑強さも倍以上になり、シフトの手助けもなく順調に進んでいる。

霊峰山を出発して2日目、ついに公国の最東端が見えてきたのだが、そこで逸早く気が付いたフェイが大声を上げた。

「ちょっと、何あれ?!」

フェイの驚きにシフトたちも前方を注視する。

見えてきたのは公国の至る所から煙が立ち上がっていた。

「燃えてる」

「なんだ? 公国で何が起きているんだ?」

「まさか貴族同士の戦いが激化したというのですの?」

「ご主人様、どうしますか?」

「・・・プラルタさん、公国についたら速度を落としてもらえますか?」

『わ、わかりました』

それからプラルタは公国の最東端に到着すると速度を緩めて飛び始めた。

シフトたちは上空から公国の様子を見る。

どこも何かしらの襲撃を受けたのだろう、建物が崩壊し無残な状態だ。

2週間前ここを通った時は何事もなかったのに一体何が起きたのかシフトたちには想像できなかった。

そんな中、西にある王国のほうに向かって空を飛んでいると地上にある森からプラルタ目がけて火球が飛んでくる。

プラルタの魔力障壁の前にぶつかると燃え広がり霧散した。

普通なら避けるところだが、今のプラルタは自分の力を理解しており耐えきれると判断する。

「あそこに誰かいる!!」

フェイが火球が飛んできたところを確認すると、森の中にある1つの木の陰にフードを被った人が立っていた。

襲撃者は火球を作っては次々とプラルタ目がけて投げていく。

だが、プラルタが展開した魔力障壁に阻まれ、1度も打ち破られることはなかった。

分が悪いと判断したのか木を燃やしてその隙に姿をくらます。

「逃がさないよ! プラルタちゃん、まっすぐ進んで!!」

『わかりました!』

フェイがプラルタに指示を出して逃げた方向に飛んでもらう。

襲撃者は木の間を走りながら逃げ続ける。

しかし、逃げた先が悪かった。

襲撃者が進んでいる先は森の終着点で、そこから先は平原だ。

「フェイ、プラルタさんと協力して上空から襲撃者を追え! 僕は地上に降りて襲撃者を捕まえる!!」

「畏まりました、ご主人様!」

シフトは【空間転移】を発動すると襲撃者の近くの木に転移した。

「?!」

突然現れたシフトに驚く襲撃者。

「さて、お前は何者だ?」

「オレンジ色の髪に額に大きな傷・・・そうか、お前がレザクが言っていたガキか」

「レザク・・・」

シフトは注意深く襲撃者を見る。

フードを深く被っているがチラッと見えた顔は人間族の肌色とは違い青白い。

(そうか・・・こいつもレザクと同じ魔族か・・・)

ディルの話では数人の魔族がレザクとともに魔族の国からいなくなったと聞いたが、どうやら目の前の襲撃者はレザクの仲間であり魔族の1人らしい。

シフトは龍鱗のナイフを抜こうとして・・・止めた。

(できれば生け捕りにしたいところだ)

そうなると素手で戦うのが一番だ。

「レザクは強敵だと言っていたがそんなに強そうには見えないな」

「なら試してみるか?」

「そうだな・・・あのフライハイトのガキにしてやられたからな! お前でこの鬱憤を晴らすとしよう!」

言うが早いか襲撃者は両手に火球を作り出すとシフト目がけてそれぞれ放つ。

【五感操作】を使えばこの火球を避けることは容易いが、その結果森に火の手が回る恐れがあった。

シフトは【空間収納】を発動して火球を空間に吸い込ませる。

「!!」

シフトの目の前で消えた2つの火球に襲撃者は警戒心を一段階上げた。

「やるな・・・ならばこれならどうだ?」

襲撃者は同じく両手に火球を作り出すと直接シフトを狙わずに半径5メートル内に放つ。

火球が木に当たると燃え始めた。

立て続けに火球を作り出し次々と木々に当てていく。

「無駄だ」

シフトは自分の周りにある燃え盛る炎を先ほどと同じように空間に吸い込ませた。

「なんだと・・・」

木に焦げ目はついたが火は燻りもなく完全に鎮火した。

目算では僕を焼死させるか窒息死させるかだったのだろうが、火球を無効化したことで襲撃者の当てが外れる。

シフトは襲撃者が次の一手を打つ前に【五感操作】を発動して触覚を剥奪した。

「な、なんだとっ?! う、動けないっ!!」

突然動けなくなったことに襲撃者は驚き、なんとか呪縛から解放されようと藻掻き始める。

「くっ・・・このっ・・・動けっ! 動けよっ!!」

触覚を回復する手段がないのか必死に身体を動かそうとするが、腕や脚どころか指一つ動かすことすらできない。

シフトが近づいてくると襲撃者は焦ったのか暴れ始める・・・といってもそれは本人の頭の中だけで実際にはその場でじっと立っているだけだ。

目の前までやってくるとシフトが襲撃者に質問する。

「さて、お前には聞きたいことがある」

「俺にはないな」

シフトは襲撃者のフードを脱がすと青白い肌を持つ顔が現れる。

「レザクと同じ魔族か・・・」

「くそっ! 俺がこんなガキ如きに後れを取るなんてっ!!」

シフトは襲撃者に質問を開始する。

「質問だ。 『この手に自由を(フリーダム)』について何か知っているか?」

「知らないな」

「お前たち魔族はレザクを含めて何人この大陸にいる?」

「知らないな」

「お前の目的はなんだ?」

「教えると思うか?」

「お前の名は?」

「誰が教えるかよ」

この襲撃者は頑固者なのか、それとも仲間思いなのか知らないがとにかく口を割りそうにない。

シフトは諦めて襲撃者の身体を触って調べ始める。

何か隠していないか念入りに確認するが特に手掛かりとなる物は見つからなかった。

とりあえず逃げられないように素っ裸にする。

「特に何も持っていないか・・・この大陸に来ている魔族の中では一番の雑魚かな・・・」

シフトの何気ない一言に魔族がキレる。

「おいっ! 誰が雑魚だってっ! 俺は6人の中でも一番強い・・・」

そこまで言って魔族がハッとする。

冷静さを失ってうっかり同族の人数を話してしまった。

シフトは魔族の言葉を聞き逃さない。

「なるほど・・・6人ね・・・」

「うぐぐぐぅ・・・」

6人の魔族の中にはレザクとこの魔族が含まれている。

そうするとシフトの知らない魔族があと4人いるわけだ。

魔族は自分の失言とシフトに手玉に取られたことで顔を赤らめる。

シフトはプライドを刺激する方法に路線を変更して情報を聞き出すことにした。

「無理するなよ。 自称最強の魔族様」

「ふざけるなよっ! このガキがっ!!」

「お前はそのガキにすら勝てない弱者なんだから」

「くうううぅ・・・おのれっ・・・」

魔族の心中はシフトをその手で殺したいという気持ちでいっぱいだった。

シフトはさらに煽りながら鎌をかける。

「お前1人じゃ僕に勝てないんだから『この手に自由を(フリーダム)』にでも助っ人を頼めばいいじゃないか?」

「誰があんな連中の手を借りなければならないんだっ!」

「フライハイトに頼めばお前1人くらいならすぐに助けてくれるよ?」

フライハイトの名を聞いた魔族は何か嫌なことを思い出したのか感情のままに癇癪を起こす。

「ふ、ふざけるんじゃねぇぞっ! 誰があんなガキの力を借りるかっ! 俺は死んでも御免だっ!!」

「お前1人じゃ目的も達成できないだろ?」

「俺1人いればこの大陸もこの世界も手に入れられるっ!!」

「無理だって。 レザクやお前よりも強い魔族に地面に頭を擦りつけて助力を頼めば別だろうけど?」

「レザクたちよりも俺のほうが強いっ! 俺が最強なんだあああああぁーーーーーっ!!」

そこまでいうと魔族が急に震え出す。

「オレハ・・・サイキョウ・・・サイキョウナンダ・・・」

あまりにも感情が高ぶりすぎたことによりまるでショートしたように沈黙する。

「?!」

様子がおかしいと感じたシフトは懐にある[鑑定石]で魔族を調べる。

するとそこには魔族ではなく()()()()()が表示されていた。


屍肉人形

品質:Cランク。

効果:死んだ人間たちの肉体を圧縮させて作った人形。 外見と違って案外脆い。 魔力を流すことである程度自分の意志で動かせる。 最大出力は本体の80%まで。 それ以上負荷をかけると壊れる。


魔族が沈黙しているところを見ると負荷をかけすぎて憑依が解けたらしい。

そう考えると王国で相対したレザクもこのアイテムで行動していたのだろう。

「また厄介なことになったな」

シフトはとりあえずこの屍肉人形に腕力封じの手枷と魔力封じの首枷を着けてから開けっ放しの空間にしまうと閉じた。

とりあえず魔族からある程度の情報は引き出せたので良しとする。

森を出てプラルタに合図を送ると降りてきた。

ルマたちがプラルタから降りてやってくる。

「ご主人様、先ほどのは?」

「ああ、倒したというか逃げられたというか・・・」

「どういうこと?」

容量が掴めないフェイが質問する。

「はっきり言えばあれは遠隔操作できる操り人形で本体ではなかった」

「それでは倒しても意味がなかったですわね」

「そうでもないさ。 ある程度の情報は手に入ったんだからね」

シフトとしてもタダ働きでないだけましだ。

それからフェイに頼んで周りを確認してもらったが特に敵影はない。

しばらくしてから移動しようとしたシフトたちだが、そこでフェイが声を上げる。

「ご主人様、誰か来たよ」

警戒するフェイの声に臨戦態勢をとるシフトたち。

そこに現れたのは思わぬ来客であった。


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