334.『この手に自由を』と魔族
ガイアール王国 地方にある山の一角───
そこには山の中とは不釣り合いな大きな館が一軒建っていた。
館の広間には多くの人が集まっている。
テーブルの上座に座るのはフライハイト、上座から見て右側にフードを被った『この手に自由を』の幹部たちが、上座から見て左側にレザクと5人の魔族、それと6人の少女が座っていた。
右側の先頭にいる男が報告する。
「フライハイト様、報告します。 現在ガイアール王国にいる我らが同志が次々に捕縛されています。 このままでは王国内の同志が全員捕まるのも時間の問題になるかと」
それを皮切りに幹部たちが大陸内の『この手に自由を』の活動について報告する。
「帝国でも同じです。 皇帝が触れを出して各地に点在する『この手に自由を』の拠点を次々と制圧しています」
「公国も同じです。 収入源であるカジノが潰されたのが痛手になっています」
「皇国も同様です。 天皇が自ら動いたことで迂闊に動けない状態です」
「ドワーフの国も『この手に自由を』狩りが発生しています」
「獣王国も警戒されて思うように動けません」
「翼人の国からの報告は完全に途絶えました。 おそらく全員死亡したか捕まったと考えるべきです」
フライハイトは部下たちの報告を黙って聞いていた。
そこに魔族レザクが横槍を入れる。
「人間族も大したことないんだな」
レザクに続くように魔族たちが傲慢な言葉を投げかける。
「なんなら俺たちが手を貸してやろうか?」
「俺たちならあっという間に片が付くぜ」
「人間族に代わって支配してやるよ」
「この大陸にある資源も有効に使ってやろう」
「邪魔をしないようにここで指でも咥えながら待っているんだな」
魔族たちは幹部たちが無能と罵り笑い出す。
「・・・」
『『『『『『・・・』』』』』』
フライハイトと6人の少女は幹部たちと魔族たちのやりとりを黙って見守る。
魔族たちの発言に幹部たちがキレる。
「言わせておけば!」
「新参者が図に乗るな!」
「高が小さな国で一番実力があるからって威張るんじゃねぇ!」
「俺たちがお前たち魔族に劣っているところなんて1つもないぜ!」
「雑魚は大人しく強者に従っていればいいんだよ!」
「黙って俺たちに扱き使われていろ!」
それを聞いた魔族たちから殺気立つ。
幹部たちも負けじと睨む。
「止せ」
一触即発な状態に今まで沈黙を守っていたフライハイトが止めた。
幹部たちも魔族たちもフライハイトに注目する。
「内輪揉めするために集まったわけではない」
「し、しかし、フライハイト様・・・」
「このまま手を拱いては『この手に自由を』が跡形もなく潰れてしまいますよ?」
「そうだな・・・そこの人間族の言う通りだな」
「まぁ、俺たちは困らないけどな」
幹部たちの心配な一言に魔族たちが茶々を入れる。
一々魔族たちから煽られて幹部たちは苛立ちを隠そうともしない。
「自由に暴れたいならそうすればいい。 ただ僕の邪魔だけはするな」
フライハイトの気配が変わったことにレザクたち魔族は臨戦態勢をとる。
「怖い怖い・・・『この手に自由を』の首領がどれだけの者かと思えば、想像以上に危険な人物じゃないか」
「別に僕なんて大したことないよ。 本当に怖くて危険な人物を僕は知っているからね」
フライハイトが危険と判断した人物、それはシフトだ。
ほかの者たちは自分の力でどうにかなるが、シフトだけは逆立ちしても勝てないと理解している。
「『この手に自由を』の首領が危険と判断する人物とはなるべく戦いたくないな」
「運悪く出会って戦うことになったら死ぬ覚悟はしておいたほうがいいよ」
「ふん、この大陸にそんな強者がいるとはとても思えないがな」
「そうでもないさ」
魔族の1人が傲慢な態度をとっていると以外にもレザクが割って入る。
「レザク、何かあったのか?」
「この前王都に攻めた時に俺の分身体をあっさりと倒した奴がいてな・・・俺が提供したドラゴンも俺の作った黒い球も奴には通用しなかった」
「お前ほどの力が通用しないとは一体何者だ?」
「ああ・・・そういえば奴の名前を聞くのを忘れてたな」
レザクはしまったというような顔をしていた。
「だけど、容姿だけならわかるぜ。 たしかオレンジ色の髪に眉間に大きな傷を持ったガキだったな」
「!!」
『『『『『『!!』』』』』』
それを聞いたフライハイトはすぐに誰なのかわかった。
(今の情報から該当する人物・・・シフトか・・・)
まさかレザクが出会った人物がよりにもよってシフトだとは考えもしなかった。
シフトとレザクはすでに敵対関係とみていいだろう。
そして、シフトの容姿を聞いて反応したのはフライハイトだけではない。
魔族たちの末席に座っている6人の少女たちも言葉には出さなかったが反応したのだ。
沈黙しているが少女たちから放たれる殺気に幹部たちや魔族たちが驚いている。
「おいおい人形たちが殺気だってるぞ?」
「レザク、お前が見たガキっていうのはこいつらにも因縁があるのか?」
「さあな、死んだ奴らのことなど俺にわかるわけがない」
レザクはぶっきらぼうに答える。
「まぁそのオレンジ色の髪に額に大きな傷を持ったガキだったか? そんな面白い奴がいるならぜひ戦ってみたいな」
「でたよ、お前の悪い癖が」
「ああん? 俺に文句があるのか?」
「別に。 ただ俺の邪魔さえしなければ好きにすれば」
「なんだわかってるじゃねぇか」
魔族同士の戦いが始まるかと思いきやそうはならなかった。
「それでこれからの方針はどうするつもりだ?」
レザクがフライハイトに質問する。
「今まで通り・・・各自自由に行動するがいい。 『この手に自由を』は個人の自由を縛る組織ではないからな」
「へぇ・・・それじゃ俺がお前と戦ってもいいのか? 俺がお前を倒して組織のトップになることも?」
「ああ。 別に構わないよ」
「なら俺はお前を倒して組織を乗っ取ろうじゃないか!!」
言うが早いか魔族の1人が立ち上がろうとする。
だが、身体が思うように動かない。
「な、なんだこれは? う、動かない・・・」
「どうした? 遠慮せずに僕の首を取りにきたらどうだ?」
「こ、この・・・」
魔族は尚も動こうとするがまったくその場から動けないでいた。
「お、おのれ・・・このガキ!!」
束縛が解けたのか魔族は立ち上がりフライハイトに向けて攻撃魔法を使おうと右手を後ろに引く。
が、その腕を固い何かが掴んだ。
振り向くといつの間にかアイアンゴーレムがいてその腕を握っていた。
「なっ?! いつの間に?!」
魔族がそのアイアンゴーレムに気を取られていると頭をテーブルに押さえつけられた。
「ぐっ!!」
見ると腕を拘束しているアイアンゴーレムとは別にもう1体のアイアンゴーレムが魔族の頭を掴んでいた。
あまりの出来事に魔族たちは驚き、フライハイトを警戒する。
「どうする? 戦う? それとも降参する?」
「ぐぅ・・・ま、参った・・・」
フライハイトの質問にアイアンゴーレムに拘束されている魔族は負けを認めた。
すると今まで拘束していたアイアンゴーレムが一瞬にしていなくなる。
魔族は体裁が悪いのか黙って椅子に座りなおす。
「同族が失礼したな」
「気にしてないさ。 自由に行動しろといったのは僕だからね」
レザクの謝罪にフライハイトは軽く返すだけだった。
「そこの君もいつでも僕の首を取りに来るといい」
「・・・」
フライハイトを襲おうとした魔族は苦虫を噛み潰したような顔で睨むも力の差を見せつけられて押し黙る。
「さて、ほかになければ今日は解散としよう」
フライハイトは幹部たちや魔族たちを見る。
皆無言のままだ。
「では解散」
その言葉と同時に幹部たちや魔族たちは部屋から出て行った。
1人残されたフライハイト。
椅子から立ち上がると窓のほうへと歩いていく。
窓の外を見ながらフライハイトは今後のことを考える。
(僕は僕の目的のために動く。 そのためには・・・)
フライハイトは頭の中にある人物を思い浮かべる。
それは先ほどの会議で噂になった・・・シフトのことだった。