332.完全なる魔力結晶を増やすことに
魔族の国6日目───
本来であれば昨日魔族の国を離れる予定だったが、魔法のレベル上げで1日遅くなってしまった。
朝食を作る前にベルとプラルタはネックレスに【魔力自動回復魔法】を付与している。
そして、出来上がったのがこれだ。
ネックレス(【魔力自動回復魔法】付与済)
品質:Aランク。
効果:許容量 0/6000ポイント。 維持費に毎秒100ポイント。 1秒毎に使用者の総魔力量の5パーセントを回復。 許容量を大幅に超える魔力を注ぐと耐え切れず壊れる。 現在魔力不足で発動できない。
最大魔力量が2000以上の者なら最終的には回復値が上回るとんでもない代物ができた。
ルマ、ユールはもちろん、ベル、ローザ、フェイもすでに最大魔力量は2000を大幅に超えている。
ルマは望みの品が手に入ったことにご満悦だ。
ネックレスに魔法付与し終わるとベルは朝食を作り始める。
その間にシフトはプラルタにお願いして【魔力自動回復魔法】を重ねがけしてもらう。
毎秒総魔力量の25パーセントを回復している今なら魔力結晶を完成させることができるかもしれないと。
シフトは【次元遮断】で結界を張ってから魔力結晶にガンガン魔力を注ぎ続けた。
そのおかげで魔力結晶は紅色にどんどん染まっていく。
それから30分後、シフトの魔力結晶が完全に紅色になりついに完成したのだ。
シフトは[鑑定石]で魔力結晶を確認すると残り魔力量がなくなっていた。
「よし! ユール、完全なる魔力結晶ができたぞ!」
「本当ですの?!」
シフトは完成した魔力結晶をユールに見せる。
魔力結晶は紅く輝いていた。
「ああ、これでユールが求めていた物は全部手に入れたことになる」
「これで賢者の石が作れる」
そこに朝食を作り終えたベルが料理を持ってやってくる。
「ユール、それはベルに任せる。 ベルが絶対に賢者の石を作ってみせる」
「ベルさん・・・はい!!」
それからシフトは結界を解いて、ルマたちと一緒に気分良く朝食を食べ始める。
食事をしながらシフトは完成した魔力結晶を眺めているとそこに影ディルが部下たちを引き連れてやってきた。
「シフトさん、おはよう・・・っ! その手に持っている物のはまさかっ?!」
シフトが持っている魔力結晶を見て影ディルは目を見開く。
見られたものは仕方ないのでシフトは素直に答える。
「ああ・・・はい。 頂いた魔力結晶が完成しました」
影ディルはあまりのことに頭の中が混乱していた。
「え? いや? だってそれを完成させるには365日かかる・・・と?」
「そこはプラルタさんの【魔力自動回復魔法】を重ねがけしたことによる魔力の超回復で一気に完成まで漕ぎ着けました」
『ふふん♪ わたし、やりましたよ~♪』
シフトの一言にプラルタは誇らしくしていた。
当初の予定だと影ディルの言う通り最低でも1年はかかるはずであったが、プラルタの協力を得たことで期間が一気に短縮されたのだ。
シフトの莫大な魔力とプラルタの【魔力自動回復魔法】を重ねがけにより、普通ではありえない魔力をもって実現可能にした。
「シフトさん、出発ですけどちょっとだけ、ちょっとだけ待ってもらえますか?」
「ディルさん?」
「す、すぐに戻ってきますからっ!!」
そういうと影ディルは部下を置いて急いで魔都にある城へと戻っていった。
ディルに報告して判断を仰ぐのだろう。
影ディルが戻ってくるまでシフトたちは朝食を続ける。
食べ終わる頃に影ディルが走ってやってきた。
影ディルは息も絶え絶えにシフトに話しかける。
「シ、シフトさん、お、お待たせしました」
「い、いえ・・・大丈夫ですか?」
「は、はい・・・なんとか・・・」
影ディルは深呼吸をして息を整えると落ち着いたのか部下たちに命令する。
「あなたたちは魔都に戻りなさい」
「ディル様、しかし・・・」
「いいから早く」
「「「「「は、はいっ!!」」」」」
影ディルの命令で部下たちは魔都へと戻っていく。
「シフトさん、お願いがあります。 この魔力結晶を可能な限り完全な物に仕上げてはもらえませんか?」
影ディルはディルから借りた大小様々な無色の魔力結晶を袋から取り出す。
「えっと・・・ディル殿?」
「お願いです! 私を助けると思って引き受けてください!!」
影ディルはシフトに頭を下げる。
この機会を逃したら完全な魔力結晶が手に入らないと思っているのだろう。
成り行きを見守るルマたち。
シフトとしても影ディルたちのおかげで完全な魔力結晶を手に入れられたのだ。
ここで断るのも寝覚めが悪い。
「はぁ・・・プラルタさん、またお願いしてもいいですか?」
『わたしは構いませんよ』
機嫌が良いプラルタは二つ返事で了承する。
「ディル殿、引き受けます」
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
シフトが承諾してくれたことに影ディルは頭を下げた。
プラルタは早速自分とシフトに【魔力自動回復魔法】を重ねがけする。
シフトは【次元遮断】で結界を張ってから影ディルから魔力結晶を受け取ると魔力を注ぎ始めた。
Bランクで7分、Aランクでも14分で完全な魔力結晶を次々と量産していく。
太陽が西に沈む頃、ディルが保有する魔力結晶はすべて無色から紅色へと変わった。
「シフトさん! ありがとうございます! ありがとうございます!!」
影ディルはその場で何度も頭を下げる。
シフトは結界を解くと影ディルに話しかけた。
「ディル殿、頭を上げてください」
「シフトさんにはなんとお礼を言っていいのか・・・」
「お互い手に入れたい物が手に入ったのですからそれで良しとしましょう」
シフトの言葉に影ディルは数瞬迷ったが素直にそれを受け取ることにした。
「それで明日ですが、僕たちはここを発ちます」
「・・・それについてはわかりました。 私の都合で昨日今日と貴重な時間を頂いたことに感謝します。 それでは失礼します」
影ディルは今一度深く礼をすると魔都に戻っていく。
「ふぅ・・・今度こそこれで終わりだといいけどなぁ・・・」
シフトは不穏を感じずにはいられなかった。
魔族の国7日目───
早朝出発前、影ディルが1人でやって来た。
ここ数日のことを思い出してシフトは何がきてもいいように身構える。
「シフトさん、これからここを発たれるのですか?」
「はい。 本当は昨日出発する予定だったのですが、プラルタさんの魔法レベルを上げるのに結構時間がかかってしまったので・・・」
「そうですか・・・ほんの数日ですがお世話になりました」
「こちらこそ、とても有意義な時間が過ごせました」
影ディルは普通に見送りに来たらしい。
シフトは影ディルへの警戒を解く。
それから周りを見るとどうやら準備が整ったようだ。
「それでは僕たちはこれで」
「シフトさん、また来てください。 あなたならいつでも歓迎します」
「時間ができましたらまた来ます」
シフトたちはプラルタに乗る。
『それでは飛び立ちます』
プラルタと雌ドラゴンが羽を広げて羽搏くと空中に飛んだ。
それからドラゴンの国がある北へ向けて出発した。
1人その場に残された影ディル。
「突然現れて風のように去っていく・・・面白い人間族たちです」
姿こそ影ディルだが、そこにいたのは魔法で変身したディルであった。
「いつかまた会う時には今度は交友関係を築くのも悪くはないです」
ディルは懐から紅色の魔力結晶を取り出して見つめる。
それはシフトの魔力が籠められた魔力結晶の1つだ。
「まさかあの御伽噺が実話だなんて思いもしませんでした」
ディル自身魔力結晶に魔力を注げば無色から紅色に変わるなど信じていなかった。
だが、現に現物がここにある。
「それにしてもあの強大な魔力量・・・できれば手に入れたいものです」
ディルは知らない。
シフトを狙うライバルが多いことを。
そして、ライバルたちも知らない。
今新たなるライバルが1人増えたことを。