331.プラルタ魔改造計画
魔族の国4日目───
今日は朝からディルのいる城に招かれた。
昨日と同じ中庭でテーブルに座るシフトとディル。
目の前には昨日指定した無色の魔力結晶が置かれている。
因みに目の前にある魔力結晶の情報は以下の通りだ。
魔力結晶
品質:Bランク。
効果:魔力を含んだ宝石。 魔力を吸収した量により紅みが増す。 残り0/100000000
(ランクが低くても膨大な量を要求するとかどんだけ鬼畜なんだよ。 この魔力結晶は!!)
シフトは思わず心の中で突っ込んだ。
「シフト殿、それではお願いします」
「わかりました」
シフトはまず無色の魔力結晶を手に取り魔力を注ぐ。
膨大な魔力が魔力結晶に吸収していき無色から紅色に変色していく。
残り1割になるまで注ぐと、今度は昨日作った最新版のネックレスに魔力を注いだ。
失われた魔力が徐々に回復するのがわかる。
シフトは魔力がある程度回復すると再び魔力結晶に魔力を注ぐ。
1分が過ぎてネックレスの効果が切れると一旦魔力を注ぐのを止めて、シフトはネックレスに魔力を補充する。
失われた魔力が回復し、再び魔力結晶に魔力を注ぐ、あとはこれの繰り返しだ。
シフトはこの工程を60回ほど黙々と繰り返していく。
4時間が経ち、シフトの手には紅色に染まった魔力結晶があった。
シフトは[鑑定石]で魔力結晶を確認する。
魔力結晶
品質:Bランク。
効果:膨大な魔力により紅く変色した魔宝石。 魔力の核として使うことができる。
途中休憩を挟みながら作業をしていたので、本来よりも大分時間が経ってしまったが無事に完全なる魔力結晶ができあがる。
「できました」
シフトは紅色の魔力結晶をディルの目の前に置く。
ディルは自分が所有する紅色の魔力結晶と見比べて、それからディルが保有している[鑑定石]で確認する。
因みにディルの所有している[鑑定石]の品質はAランクでシフトのより若干劣っていた。
「これはまさしく私の持つ魔力結晶と同じ物です!!」
「本当に完全なる魔力結晶を作り出すとは驚きです!!」
ディルと影ディルがあまりのことに驚いた。
「どうやら上手くいったようだ」
失敗せずに済んだのもそうだが、完成された魔力結晶を見れたのはシフトとしても大きな収穫だ。
「しかし、あれだけの魔力を注いでようやくできあがりと考えるとコストに見合わないです」
「もっと簡単にできるものと考えていました」
「ところでそれはどうするのですか?」
シフトは出来上がった魔力結晶について、どうするのか聞いてみた。
「インフラ設備の中核として使う予定ですが、これだけ手間暇かけて作らないといけないなら使い捨てでも魔石のほうが有用ですか・・・」
「あれ? もしかして魔石を使うあの方って・・・」
「はい。 ディル様のことです」
影ディルが憐れな目でディルを見る。
「この国をより良いほうへと導くのは当然のことです」
「その志は立派ですが、魔力結晶のコストはかかりすぎますし魔石は手に入り難いです」
「魔石が手に入り難い? 魔族の国は魔物や魔獣はいないのですか?」
ガイアール王国がある大陸では魔物や魔獣などは設備されていない場所なら普通に出てくるレベルだ。
「いえ、魔物や魔獣は普通にいますが、この大陸のモノは生きるために倒しては血肉だけでなく魔石まで喰らうのです」
「ああ・・・そういうことですか・・・」
魔族の国でも普通に魔物や魔獣はいるが、王国と違って魔石まで喰らうとは想像していなかった。
ほかにも食べ残しが酷く、それらが放置されて腐敗して周りに悪影響を与える。
故に魔族の国では自分や信頼できる者が狩った魔物や魔獣の肉以外は毛嫌いする者が多い。
シフトが魔族の国の通貨と交換する際、サンドワームの肉と聞いてディルたちが顔を顰めたのを思い出す。
(どうりで魔物の肉と聞いて忌避感があるわけだ)
そうとは知らずにシフトがサンドワームの肉を良かれと提供したのだから、ディルたちが警戒するのも当たり前だ。
「今後は魔物や魔獣を多く狩って魔石を手に入れるのと、魔力結晶に魔力を注いで完成品を目指すことにします」
「魔力結晶は莫大な魔力が必要ですよ?」
「ええ、ですから信頼できる部下たちと一緒に少しずつ進めていく予定です」
ディルとしてはせっかく完全なる魔力結晶の作り方を知ったのだから後世に残したいのだろう。
「シフト殿、今回の件ありがとうございます」
「僕としても魔力結晶の完成品を確認できて良かったです」
「何かお礼をしたいのですが」
「お礼ですか?」
シフトはしばし考えてから口にする。
「すみません。 すぐには思いつきません」
「そうですか」
シフトは目の前に用意されていたお茶を飲み干すと席を立つ。
「ディル殿、僕はそろそろ戻ります」
「行かれるのですか?」
「今日はここで1泊して、明日を発つことにします」
「わかりました。 見送りはできませんがお気をつけて」
シフトは影ディルとともに城をあとにする。
ルマたちのところに戻ると何やら慌しいことになっていた。
「ただいま。 どうしたんだ?」
「えっと・・・実は・・・」
『シフトさん! シフトさん! 見てください!!』
言うが早いかプラルタは【魔力自動回復魔法】を発動するとシフトと影ディルに同時にかかった。
「これは?!」
「魔法ですか?」
影ディルからしたら普通に魔法を使っただけに見えたが、シフトはプラルタが2人を対象にして魔法を使ったことに驚いた。
『どうです? 驚きましたか?』
「あ、ああ・・・」
『因みに今なら最大6人まで同時にかけられますよ』
「何っ?!」
プラルタの発言にシフトは目を見開いた。
「ご主人様、お、落ち着いてください」
「・・・ルマ、一体何が起きたんだ?」
「実は・・・」
ルマはシフトがいない間のことを話し始める。
シフトがいない間もプラルタは黙々と【魔力自動回復魔法】のレベル上げを行っていた。
しかし、レベルが上がらないと単純作業になり、次第に飽きてくる。
そこでルマが気分転換にでもなればと対象を1人から2人にすることを提案した。
プラルタはそれに興味を持ち、2人を対象に試したらあっさり成功する。
それから魔力が回復する度に1人ずつ増やして試していき6人まで成功した。
残念ながら7人にしたら魔力不足で失敗に終わったが、それでも6人同時に魔法をかけたのはすごいことである。
ルマが話し終わるとシフトはプラルタを残念そうな目で見て心の中で叫んだ。
(天才なのに・・・天才なのになんでポンコツなんだ!!)
そこで先ほどのディルのお礼を思い出す。
あのときは何も思いつかなかったが、今からでも助力できないかと。
シフトは影ディルに相談してみる。
「ディル殿、お願いがあります」
「シフトさん、なんでしょう?」
「魔力吸収と魔力譲渡ができる高レベルの【闇魔法】使いを2人以上とできるだけ多くの部下を貸してもらえませんか?」
「それは構いませんが一体何をするのですか?」
「プラルタさんの【魔力自動回復魔法】レベルを上げます」
「魔法のレベルを? それなら手伝います。 一旦城に戻って部下たちを連れてきます」
シフトの要望を聞いて影ディルは魔都に戻る。
しばらくすると影ディルが150名近くの部下を引き連れてやってきた。
「シフトさん、要望通りに部下を連れてきました」
「ありがとうございます。 それでは【闇魔法】の使い手の方に何をしてもらうのか説明します」
影ディルの号令でシフトの前に【闇魔法】を使う魔族が集まる。
なぜか全員女性だったが、気にしないことにした。
シフトはフェイに魔力吸収と魔力譲渡を実演させる。
これにより内容を把握した魔族たちが簡単に練習して、一番実用レベルが高い2人とフェイが選出され、選ばれなかった者たちは予備として待機してもらう。
残りの部下たちは横1列が6人になるようにプラルタの前に整列するように指示した。
準備ができたところでシフトが合図する。
「それではこれより作業を開始します」
シフトの号令の下、魔法のレベル上げが開始された。
フェイと【闇魔法】使いの2人が一斉に魔力吸収と魔力譲渡を使ってシフトからプラルタに魔力を受け渡す。
魔力を受け取ったプラルタはすぐに【魔力自動回復魔法】を最前列の6人に使う。
プラルタの魔力はあっという間になくなるがフェイたちのおかげで5秒後には魔力は全回復していた。
魔法を受けた最前列の6人は横に移動して最後尾に並び、移動した分だけ前に出る。
プラルタは5秒毎に魔法を最前列の6人に使い、シフトは魔力が残り3割を切るとネックレスに魔力を流して自らの魔力を回復させていく。
あとはこれの繰り返しである。
3時間後、太陽も西の地平線に触れる頃、プラルタが突然声を上げた。
『シフトさん! 【魔力自動回復魔法】のレベルが上がりました!!』
シフトは[鑑定石]ですぐにプラルタの【魔力自動回復魔法】を調べる。
レベルは3→4へと上昇し、消費量が300→200へと減少し、1秒毎の回復量は総魔力量の3→4パーセントへと増加した。
「ディル殿、横1列の人数を6人から7人に変更してください。 プラルタさんは対象人数を6人から7人にできるかやってみてください」
「わかりました」
『やってみます』
1人人数を増やしてみるとプラルタは問題なく対応する。
それから横1列の人数を7→8人、8→9人と1人ずつ増やし、プラルタの対象人数も同じだけ増やしたが問題なく横1列全員に魔法をかけた。
ただ、魔力量の少ないプラルタではこれが限界で10人同時は無理みたいだ。
レベルアップから3時間、作業を行われたが一向にレベルが上がる気配がなく、きりが良いところで今日はお開きになった。
魔族の国5日目───
影ディルは昨日と同じ人数を連れてシフトのところにやってくる。
シフトたちは食事を済ますと早速昨日の続きを再開する。
それからなんと13時間が経過した。
途中休憩しているとはいえ、皆の顔に疲労が見える中、ついのその時が訪れる。
プラルタが突然大声を上げたのだ。
『シフトさん! 【魔力自動回復魔法】のレベルがついに5まで上がりましたよ!!』
シフトは[鑑定石]ですぐにプラルタの【魔力自動回復魔法】を調べる。
レベルは4→5へと上昇し、消費量が200→100へと減少し、1秒毎の回復量は総魔力量の4→5パーセントへと増加した。
「みんな! 今をもって作業は終了します! 長時間の作業お疲れさまでした!!」
シフトの言葉を聞いて安堵からか皆その場に座り込んでしまう。
無理もない、皆ずっと作業が終わるまで同じことを繰り返していたのだから。
それが今報われて解放されたのだ。
「皆、よく頑張ってくれました。 今日はもう帰って休んでください。 後日、特別給金を出します」
影ディルが部下たちを労うのと同時に報奨金を出すことを宣言すると部下たちは喜んだ。
それから部下たちは足早に帰っていき、シフトたちと影ディルだけがその場に残っていた。
「ディル殿、昨日今日とありがとうございます」
「こちらこそシフトさんに助けられました」
「これから遅めの食事にしますがディル殿もどうですか?」
「いえ、私にはやらなければならないことがありますのでこれで失礼します」
それだけ言うと影ディルは魔都へと戻っていく。
影ディルのことだから、今日のことをディルに報告するのだろう。
ディルがどんな出方をしてくるかわからないが一応警戒する。
「みんな、ご苦労。 特にフェイとプラルタさんはよくやった」
「ら、楽勝だよ」
『疲れました・・・』
「遅くなったけど食事にしよう」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトたちは軽く食事を済ますと疲れからか早々に眠りについた。