330.ワンランク上の回復力を求めて
影ディルの急な来訪があったがシフトたちは気を取り直して朝食にする。
プラルタが肉を食べたいと駄々を捏ねるが、ここでサンドワームを出すわけにはいかないのでまるごと1匹は我慢してもらう。
その代わりにシフトはマジックバックから以前ぶつ切りにしたサンドワームの肉を取り出してプラルタと雌ドラゴンに1つずつ与えた。
まるごと1匹でないことに不平不満を言うプラルタだが、シフトに愛想を尽かされるとサンドワームの肉を食べられなくなるので我慢している。
食事を終えると早速プラルタのスキルである【魔力自動回復魔法】のレベル上げを行う。
昨日と同じようにフェイを経由してシフトの魔力をプラルタに譲渡する。
それからプラルタは【魔力自動回復魔法】を発動してシフトたちに次々とかけていく。
自分を含めて8人、更に重ねがけが最大5回までの合計40回、1回発動するのに5秒だとしても200秒かかり、効果時間は3分なので全員にかけ終わる頃には最初にかけた人の効果がとっくに切れている。
プラルタはひたすら【魔力自動回復魔法】を発動した。
本来であればこんなに連発すればあっという間に魔力切れになるが、シフトの絶対的な魔力量にフェイの譲渡する魔力量、それにプラルタ自身にも魔力の自動回復をかけていることで、永久循環が成立し魔法を半永久的に使用できる状態である。
それから3時間近く魔法を使い続けるとプラルタが声を上げた。
『あ! 【魔力自動回復魔法】のレベルが上がりました!!』
シフトも[鑑定石]でプラルタの【魔力自動回復魔法】のレベルを確認すると2→3へと上がっている。
これにより【魔力自動回復魔法】の消費量が400→300へと減少し、1秒毎の回復量は総魔力量の2→3パーセントへと増加した。
効果時間は3分のまま変わらない。
「おめでとう。 これで2から3に上がったな。 丁度昼だし続きは食事をしてからにしよう」
シフトの一言でフェイとプラルタは休憩に入った。
その間にベルが昼食の準備をする。
プラルタはスキルのレベルが上がったことにご満悦だ。
『なんだか自分が強くなったような気がしますね。 えへへ』
「実際に使い勝手はよくなっているんじゃないか?」
今まで1回の発動に魔力消費量は500、回復量が1パーセント、3分後には合計で180パーセント分回復していた。
それが今では1回の発動に魔力消費量は300、回復量が3パーセント、3分後には合計で540パーセント分も魔力が回復するのだ。
それに重ねがけが最大5回まで可能であることを知れたのも大きい。
魔法戦では味方としては頼もしく、敵にすればかなり厄介である。
この調子でレベルが上がっていくと、予想では魔力消費量は100、回復量が5パーセント、3分後には合計で1500パーセント分も魔力が回復することになるだろう。
更に重ねがけすることで最大7500パーセント分の魔力が回復すると考えれば、3分間は魔力使いたい放題なのだから脅威以外何物でもない。
もし、先日のガイアール王国で戦った際に【魔力自動回復魔法】のレベルが5だったら、プラルタを倒すのは至難の業だろう。
何しろ口から炎を吐き、魔法を放ち、魔力障壁を展開してくる・・・攻防共に完璧な戦い方にさすがのシフトも苦戦は免れない。
そう考えるとプラルタのお気楽思考に感謝である。
それからベルの用意した昼食を食べ終えて食事休憩をしたあと、引き続き作業しようとすると影ディルが部下たちを連れて再びやってくる。
「シフトさん、話があります」
「魔力結晶の件ですか?」
「はい、腰を据えてじっくりと話し合いたいのですが」
影ディルを見るにディルと話し合いをしてもらいたいということなのだろう。
こうなることはシフトも予想していた。
「わかりました。 みんな、僕はディル殿と話し合いをしてくるから」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
「それではついてきてください」
シフトは影ディルたちと共に魔都内にある城へと向かう。
先日訪れた中庭に通されるとガゼボの中心にはすでに豪華なドレスを着たディルが席について優雅にお茶を飲みながら待っていた。
「ディル様、シフトさんをお連れしました」
「ご苦労様。 シフト殿も席に座ってください」
「それでは遠慮なく」
シフトが席に着くと、影ディルはシフトの分のお茶を用意してテーブルに置くとディルの後ろに控えた。
「さて、シフト殿に聞きたいことがあります。 この娘が魔力結晶に魔力を注ぐことで透明からほんの少し紅色に変わったと聞きました」
「はい。 それがこれです」
シフトはマジックバック内に入れていた魔力結晶を取り出してテーブルの上に置いた。
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
シフトが許可するとディルが手に取り魔力結晶を見る。
「たしかにこの魔力結晶から魔力を感じます」
ある程度観察するとシフトの前に返却する。
「できれば実際に宝石が紅色に変わるところを見たいのですが」
「わかりました。 これから実演します」
ディルの要求をシフトは予測していたので了解する。
シフトはまず自分が身に着けているネックレスに魔力を注ぎ、60秒の間魔力が1パーセントずつ自動回復させる。
続いて魔力を開放して魔力結晶に注ぐ。
シフトから放出される圧倒的な魔力にディルは冷や汗をかいていた。
「この魔力・・・人のものとはとても思えません」
シフトは自分のステータスを見ながら60秒間魔力を注いだ。
注ぎ終わると魔力結晶が少しだけ紅色が増した。
シフトは魔力結晶を再びテーブルに置くと、ディルが手に取り魔力結晶を見る。
「なるほど・・・理解しました。 ありがとうございます」
それだけいうと魔力結晶をシフトに返却する。
役目を終えた魔力結晶をマジックバックに戻す。
「それでこれから僕をどうしますか?」
シフトは単刀直入に質問した。
ディルは瞑目するとしばし考える。
しばらくするとディルは目を開けて自分の考えを口にした。
「ドラゴンを手懐ける者を危険とみなし排除しようとするのは愚の骨頂、この国にいる間は客人として迎えましょう」
「ディル殿の考えはわかりました」
「私に手伝えることがありましたら何なりと申してください」
「いえ、特にはありません。 僕たちとしてはレザクについての情報と魔力結晶の入手ができただけでも大きな収穫です。 用件も済んだので本来であればディル殿たちに迷惑がかからないうちに今日ドラゴンの国に旅立つ予定でしたから」
シフトは素直に魔族の国を去ることを話した。
するとディルが浮かない顔をする。
「そうですか・・・この話し合いが終わり次第ドラゴンの国に戻るのですか?」
「うーん・・・これ以上迷惑をかけるのも気が引けるので早々に去ることにします」
「それは少し待ってもらえませんか? できればシフト殿が持っている魔力結晶が本当に完成するのか見たいのです」
ディルが出発するのを延長してほしいと願い出る。
「あれを完成させるのに多分1ヵ月以上かかりますよ?」
1日10000000の魔力を注いだとして、蓄積分を差し引いても残り36日はかかる。
シフトとしてもそこまで魔族の国に滞在するつもりはない。
「それならディル殿が持っている透明の魔力結晶を見せてもらい、その中で一番魔力量が少なくて済む宝石で試すというのはどうでしょう?」
「・・・わかりました。 それでお願いします」
ディルは影ディルに目配せすると先日見た小さなメッシュバックをディルに渡す。
そこから大小多くの透明な魔力結晶を取り出しテーブルの上に置かれていく。
シフトは[鑑定石]でどれが容量が少ないかを確認する。
「一番容量が少ないのは・・・これだな」
シフトが指さしたのは1センチほどの魔力結晶だ。
「今すぐリクエストに応えたいところだが今は魔力が足りないので、明日で構わないですか?」
「はい。 こちらが無理なことをお願いしているのでそれで構いません」
「それでは明日お伺いします」
シフトは席を立つと影ディルの案内で魔都外まで歩いていく。
「それではシフトさん、明日の朝にまたお伺いします」
「わかりました。 それでは僕はこれで失礼する」
挨拶もそこそこにシフトはルマたちのいるところに戻った。
太陽は西に少し傾いていたがまだ上空で燦々と輝いている。
「ご主人様、お帰りなさい」
「ただいま。 ルマ、ローザ、今すぐに何かアクセサリを作ってくれ」
シフトは【空間収納】を発動すると銀を大量に取り出し空間を閉じる。
「ご主人様、急にどうしたんだい?」
「これの最新版が必要になったのだが、生憎と手持ちに手頃なアクセサリがなくてね。 身に着けられるものなら指輪でも腕輪でもネックレスでもイヤリングでもなんでもいい。 とにかく大急ぎで作ってくれ」
「任せてくれ。 ご主人様の要望通りの物を作るから」
「ええ、私とローザで最高の物を作ります」
ルマは【土魔法】を発動すると鍛冶用の炉を作り出す。
出来上がった炉の中に今度は【火魔法】で火を点ける。
ローザはマジックバックから鍛冶道具一式を取り出す。
準備は整い炉が熱くなったところで早速銀を入れた。
シフトは【次元遮断】を発動して半径50メートル以内を外界から隔離する。
これから鍛冶作業するのに外に音が漏れないように気を配った。
それからすぐにローザは1つのネックレスを作り出す。
昔作った物よりも頑丈で繊細なネックレスだ。
できあがったネックレスを今度はベルの【錬成術】でプラルタの【魔力自動回復魔法】を付与する。
そして、出来上がったのがこれだ。
ネックレス(【魔力自動回復魔法】付与済)
品質:Aランク。
効果:許容量 0/18000ポイント。 維持費に毎秒300ポイント。 1秒毎に使用者の総魔力量の3パーセントを回復。 許容量を大幅に超える魔力を注ぐと耐え切れず壊れる。 現在魔力不足で発動できない。
魔力が万単位ないと使えないので、これもシフトにしか使えない専用の魔力回復アクセサリではあるが、その分回復量が大幅にアップしているのでより多くの魔力を使用できる。
「よし、これで時間短縮できそうだな」
「ご主人様、一体何があったんですの?」
「実はディル殿から完全なる魔力結晶を作ってほしいという依頼があった。 今使っているネックレスでも問題はないのだが、より早く終わらせたいので今できる最高の魔力回復アイテムがほしかったんだ」
「そうなんですか」
シフトの説明にルマたちが納得する。
「ご主人様、余った銀なんだけどいくつかアクセサリを作ってもいいかい?」
「構わないけど何に使うんだ?」
「この際だから人数分作ろうと思ってね。 プラルタさんの【魔力自動回復魔法】レベルが最大まで上がったら、ベルに同じように付与してもらうというのはどうだろう?」
「用意しておく分にはいいけど、まだレベルは3だし5までは相当時間がかかるよ?」
「そうなんだけど、準備だけでもしておきたくてね」
「ローザの好きにしていいよ」
それからローザはシフトと同じネックレスを8つ作った。
本当は6つでよかったのだがプラルタと雌ドラゴンもほしいといったのでついでに作ってもらう。
できあがったネックレスをプレゼントすると2匹共すごく喜んだ。
何はともあれ必要な物も手に入ったので、あとは明日ディルの前で披露するのを待つだけであった。