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31.旅立ちの時

ベルが錬金術師にローザが鍛冶師に教えを受けてから1ヵ月後───

ベルはポーションや金属のインゴット、布製造などアイテム創造を学んだ。

また、武器や指輪、ネックレスなどのアクセサリーなどに魔法効果を付与する【錬成術】も覚えた。

ポーションの品質向上に関してはルマ、ベル、ユールが力を貸した。

まずユールの【薬学】の知識で薬草の煎じ方を変更した。

次に煮沸水からルマの【水魔法】で生み出した魔力を含む水に変更する。

最後にベルの【鑑定】で作業工程を1から見直した。

これにより無駄に何十本も作成することが無くなり品質の良いポーションの量産できるようになった。

ローザは工房主の助力で剣・槍・斧・鎌・弓などの武器と鎧、盾、兜、籠手などの防具を作成した。

鉄、鋼の金属はもちろんのこと、値の張る銀を材料にしたこともある。

無骨なものから全体が細工を施したものまで作れるようになった。

また、武器のメンテナンスをしているときに【武具錬成】を習得した。

ローザの目覚ましい才能に工房主だけでなく噂を聞き付けた同業者たちが見に来ては出来について討論していた。

それを聞いたローザや技術者たちが次に反映していくことで鍛冶同志が切磋琢磨しお互いの技術を向上する一助になった。

そしてついにベルとローザの修業が終わる時が来た。

それはシフトがこの町でやることは全てやったと判断したからだ。


シフトたちは冒険者ギルドを訪れた。

サリアがシフトのところにやってきた。

「シフト様、こんにちは。 今日はどうされましたか?」

「明日この町を離れて旅立つのでそのご挨拶に来ました」

サリアが驚いた顔でシフトを見る。

「明日ですか? 急すぎませんか?」

「ええ、でもこの町にいつまでもいる訳にはいかないので」

「旅の目的があると?」

「僕には成さねばならいことがあるので」

「・・・こちらへどうぞ」

サリアは難しい顔をしたあと、シフトたちを別の場所へ連れていく。

しばらく進むとギルバートの執務室の前で止まり扉をノックした。

『誰だ?』

「サリアです」

『入れ』

「失礼します」

サリアは扉を開けるとシフトたちを中に通した。

中ではギルバートが書類と格闘していた。

「ん? やあ、シフト君たち。 元気だったかい? 立ち話もなんだからそこに座ってくれ」

「はい」

ギルバートに勧められシフトたちは長椅子に座る。

サリアは扉を閉めるとギルバートの斜め後ろに控えた。

「ところで今日はどうしたんだい?」

「明日この町を離れて旅立つのでそのご挨拶に来ました」

「明日? 急だね・・・」

ギルバートはシフトの発言に驚きを隠せないでいた。

「前々から考えていたことです。 ここでの目的である仲間集めと旅に出る準備金が整ったので・・・」

「・・・そうか・・・寂しくなるな・・・次はどこに行くんだい?」

「僕の生まれ故郷です」

「故郷? シフト君の?」

「はい、どうしてもやらなければならないことがあるんです」

シフトは深刻な顔でその言葉を発する。

(そう、僕を捨てた人たちへの復讐のために・・・)

シフトの復讐対象者、それは・・・


・シフトを産んだ名も知らぬ実の両親

・ヘルザード辺境伯領主ザール

・『勇者』ライサンダー、『鉄壁』ヴォーガス、『聖女』ルース、『賢者』リーゼ、『剣聖』アーガス


以上の8人だ。

彼らに死かそれ以上の地獄の苦痛を与えることだ。

ギルバートは真剣な顔でシフトを見ると懇願する。

「シフト君、僕としてはできればいつまでもこのミルバークの町にいてほしいと思っている。 いつまでも良い関係でいたいと・・・」

「ありがとうございます、ギルドマスター。 でも旅に出ることはこの町にくる前から考えていたことです。 それを今更変えられません」

「君が決めたのなら仕方がない。 ルマ君たちも納得しているのだろう?」

ギルバートがルマたちを見ると彼女たちも首を縦に振った。

「うん、それなら僕からは何も言うことはないよ」

「・・・」

「あ、そうだ!! シフト君、今から時間あるかい?」

「この後、ベルとローザがお世話になった錬金術師と鍛冶屋に挨拶する予定です」

シフトは挨拶周りがあることをギルバートに告げる。

「それは結構時間がかかるのかい?」

「いえ、挨拶だけなので大した時間は取られないはずです」

「なら、僕と模擬戦をしないかい?」

「ギルマス?!」

サリアが何か言う前にギルバートは右手で発言を制止した。

「最後に君の強さを知りたい」

それは本気の目だった。

初めてシフトと会った時に見せたあの目だ。

「・・・わかりました。 場所は?」

「試験場でいいかな?」

「僕は問題ありません」

「サリア、今から試験場を使う。 使用者は直ちに退場し何人も入れぬこと」

「承知しました」

サリアは一礼すると執務室を出て行った。

「それじゃ、僕たちも行こうか」

ギルバートの後ろをシフトたちはついていった。


試験場は円形の闘技場みたいになっていた。

場内はシフトたち以外はギルバートとサリアしかいなかった。

シフトとギルバートはリングに上がる。

お互いの距離はおよそ10メートルほどだ。

「それでは始めようか」

ギルバートは腰に差している片手剣を抜くと構えた。

対してシフトは腰に差しているナイフを抜くと自然体でいた。

「? どうした? 君も構えたらどうだ?」

「もう構えてる」

シフトは自然に立っていたがこれが今の彼の戦闘スタイルだ。

どんな状況にも対応できる構えである。

「・・・なら僕から行かせてもらうよ!!」

ギルバートの動きは速かった。

それはダーク・ウルフ並みのスピードだ。

そこから放たれる剣速も尋常ではない。

ギルバートの袈裟切りを右に移動して避けてからシフトはナイフで左腕を狙うがこれを柄頭で弾く。

1合打ち合いお互い距離をとり相手の力量を測っていた。

普通であれば80センチの片手剣に対して30センチのナイフではリーチの差で片手剣が有利であるが、小回りだが軽量で隙が少ない点ではナイフに軍配が上がる。

シフトとギルバートは相手の出方を窺いつつ数ミリ単位で近づき・・・そして2人が同時に動き出す。

そこからは剣の打ち合いになった。

ギルバートの攻撃はゴブリンキングのただ力任せに振り回すだけの剣とは違い流麗にして虚実を織り交ぜた捉えどころのない剣技だ。

その攻撃は多彩で上段を躱されるとすぐに切り上げてきたり、袈裟斬りを避けられてもすぐに横薙ぎに繋げるなど1つ1つの動作に無駄がない攻撃を繰り出してくる。

それらの攻撃をシフトはナイフの剣身でしっかりと受け止めると切り上げや刺突でしっかりと反撃していくがギルバートは剣身や鍔、柄頭で弾いている。

打ち合い始めてからすでに30合以上交えているがお互いに疲労もせず相手の出方を窺って隙を見つけては攻撃している。

ギルバートは一旦距離を取り剣先をシフトに向けると今まで以上のスピードで刺突してきた。

しかし、

(この程度のスピードでは僕は倒せない)

シフトは指でギルバートの片手剣の剣先を掴んでいた。

「「!!」」

ギルバートだけでなくサリアも驚いていた。

シフトとギルバートが睨み合うこと10秒、

「・・・ふぅ・・・参った僕の負けだ」

先に降参したのはギルバートのほうだ。

剣から力を感じなくなったので掴むのをやめるとギルバートは剣を鞘にしまう。

「まさかここまで強いとは予想外だよ。 その強さはどこで手に入れたんだい?」

「この世の地獄で手に入れた」

シフトからの回答を期待していなかったギルバートは予想外にも驚いた顔をしていた。

「僕もその強さにあやかりたいよ」

「やめておいたほうがいい。 絶対に死ぬ」

シフトはギルバートに背を向けるとルマたちのいる方向に歩いていく。

(シフト君、君はその歳でどんな地獄を見てきたんだい)

ギルバートはシフトの背中を見つめることしかできなかった。


冒険者ギルドの挨拶回りを終わり、ベルとローザがお世話になっている錬金術師と鍛冶屋にも挨拶をする。

彼らも急なことに驚いていたがお互いの今後の健闘を祈るのだった。

翌朝ミルバークの町の西門。

シフトたちは門に歩いていくといつもの衛兵アルフレッドが声をかけてきた。

「よお、坊主。 今日は早いな。 どうしたんだ?」

「実は今日をもってこの町を出ていくことになりました」

「おいおいおいおい・・・聞いてないぞ、坊主? 何かの冗談だろ?」

「いえ、前々から考えていたことですよ」

「・・・そうか・・・寂しくなるな・・・」

この町で最初にあったのは彼だ。

いつも率先して声をかけられて明るく元気にさせてくれる人だ。

「なぁ、坊主・・・今生の別れじゃないだろ?」

「そうですね。 全てが終わったら必ずまた来ますよ」

「・・・そうだな・・・うん、そうだ。 また会おうぜ、坊主!!」

アルフレッドが笑顔で握手を求めるとシフトも笑顔でその手を握り返した。

「坊主!! 嬢ちゃんたちを泣かすんじゃないぞ!! 嬢ちゃんたちも達者でな!!」

アルフレッドは手を離すとシフトたちが門を出るのを見送った。

シフトは何気に門のほうを振り向くとそこにはいつの間にかギルバートとサリアがいてこちらを見ていた。

彼らは声をかけるでもなく手を振っていた。

シフトは一度だけ手を軽く挙げると前を向いて歩いていくのだった。






あとに残されたギルバートとサリア。

「・・・行ってしまったな」

「・・・ええ、そうね」

「できればいつまでも一緒にいたかったかな」

「ふふ・・・あなたにしては珍しいわね」

「僕だって感傷に浸りたいことだってありますから」

「私も彼らは惜しいと思っているわよ」

ギルバートたちは勿体ない人材を逃したことに後悔している。

「なぁに、あの坊主たちのことだ。 ひょっこりここに戻って来るさ」

アルフレッドが笑いながらギルバートに言った。

「・・・そうだな・・・旅立つとは言ったが帰らないとは言ってないな。 なら・・・」

「彼らの旅が無事であることを祈りましょう」

「そういうことだ! あっはっはっはっは・・・」

アルフレッドの笑い声にギルバートもサリアも笑っていた。


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