327.魔力回復の改善案
シフトたちが鉱山を出ると外はすっかり暗くなっていた。
魔都まで戻ってくると入り口で影ディルと別れ、シフトたちもプラルタたちのところに戻る。
「ただいま戻りました」
『ああ・・・シフトさん、おかえり・・・』
「プラルタさん、どうしたんですか?」
『お肉・・・お肉食べたいです・・・』
『ここに来てからずっと言っているので気にしないでください』
プラルタの嘆願を雌ドラゴンがばっさりと斬り捨てた。
『酷いです! 生きとし生ける者は皆肉を食べないと生きていけないのに!!』
「いや、肉だけじゃないから」
「野菜があります」
「果物も」
「魚だってあるぞ」
「米や小麦などの穀物だってあるよ」
「茸や卵もありますわよ」
『なんで皆そんなことを言うんですかぁっ!!』
シフトたちの突っ込みにプラルタは悲しみに囚われる。
そんなプラルタから視線を逸らした。
『ところで収穫はありましたか?』
「はい、この通り」
雌ドラゴンの言葉にシフトは拳大の無色の宝石を取り出す。
「ご主人様、この魔力結晶ですが未完成なのですよね?」
「その通りだよ、ユール。 ディル殿に見せてもらったが完成された魔力結晶の色は紅色だ」
「ご主人様、これは紅色ではなく無色ですけど・・・」
ユールの言う通り、シフトの魔力結晶は魔力を感じないただの宝石だ。
「たしかにね・・・ちょっと試したいことがある」
「試したいこと?」
「その前にベル、これを【鑑定】してくれ」
「わかった」
ベルが【鑑定】を発動する。
魔力結晶
品質:Aランク。
効果:魔力を含んだ宝石。 魔力を吸収した量により紅みが増す。
ベルは鑑定結果をシフトに報告する。
「この魔力結晶の品質は最高品質であるAランク。 魔力を吸収して紅色に染まれば完成」
「ほかに何か情報はないか?」
「ない」
シフトの質問にベルは首を横に振りながら答える。
(やはりベルの【鑑定】ではまだSランク詳細情報は無理か・・・)
いずれはベルの【鑑定】もシフトが持つ[鑑定石]と同じ高みまで登るだろうが、それには途方もない年月が必要だ。
一先ずベルの【鑑定】は置いといてシフトは魔力結晶について考えていたことを試すことにした。
「プラルタさんたちにお願いがあるのですが、僕たちの姿を外から見えないように身体で隠してはもらえませんか?」
『いいですよ』
『わかりました』
プラルタたちは二つ返事で了解するとシフトたちを外から見えないような立ち位置をとる。
シフトは【次元遮断】を発動すると半径30メートル以内を外界から隔離した。
「フェイ、周りに誰かいるか?」
「ちょっと待ってね。 えっと・・・大丈夫、誰もいないよ」
「ありがとう」
念のためフェイにも確認を取ったシフトはステータスを開くと魔力の数値を見る。
【次元遮断】を発動させたのとその維持費の分だけ魔力を消費しているがそれでも残り魔力9割以上だ。
次に[鑑定石]で宝石の数字を調べると残りの数値は0/365000000である。
「それでは試してみるか」
シフトは魔力を開放して宝石に注ぎ始める。
シフトから放出される圧倒的な魔力にルマたちだけでなくプラルタたちも驚いた。
「なんて強大な魔力なの!」
「すごい!」
「これはまいったね」
「洒落にならないよ!」
「人が持つ魔力量を遥かに超えていますわ」
『あわわわわわ・・・』
『これほどの魔力を持つ者は初めてみた・・・』
宝石はシフトの魔力をどんどん吸収していく。
ステータスを確認するとあれほどあった魔力が残り1割を切った。
シフトはそこで魔力の放出を止める。
[鑑定石]で宝石の現在の数字を調べると残りの数値が920000/365000000と表示された。
それでも全体の1パーセントにも届いていない。
「これは・・・完成まで相当時間がかかるな・・・」
仮にシフトが持っているフルポーションやマナエクスポーションで魔力を全回復したとしても最低でも400回以上繰り返すことになる。
ポーションを飲まないで1日1回魔力を極限まで吸収したとしても1年以上かかるだろう。
ただ、この方法が今のところは完全な魔力結晶を作る中では最短時間であるのはシフト本人は知らない。
それどころか魔族ですらこの方法で完全な魔力結晶になるなど知る由もなかった。
本来魔力結晶は1000年以上の時間をかけて魔力を吸収してようやくできる代物だからだ。
最短で魔力結晶を作るのならシフトのやり方が一番なのだが、実はシフトと同じようなことを遥か昔魔族の研究者たちが仮説を立てて魔力結晶に魔力を流し続けた。
だが、如何せん魔力量が少ない者たちがいくら魔力を注いでも変化がまったくなかったので、過去の研究者たちは皆諦めて『自然に魔力が蓄積しなければ完全な魔力結晶にはならない』と後世に伝えられたのだ。
「ベル、ユール、マナポーション以外で薬学や錬金術の本に魔力を自動回復する物って記載されていないか?」
「ちょっと調べてみる」
「わたくしも調べますわ」
シフトの要望にベルとユールがすぐに調べ始める。
その横でフェイが手を挙げてシフトに代案を提示した。
「ご主人様、【闇魔法】の外部から魔力を吸収する魔法で魔力を集めるのはどうかな?」
「普通の人なら有りだけど僕の総魔力量からしたらあまりにも少なすぎて意味がない」
『それならこれではどうでしょうか?』
そこにプラルタがある魔法をシフトにかけた。
するとステータス上では減り続けていた魔力が一変、魔力が増え始めたのだ。
「これは?! プラルタさん、一体何をしたんだ?!」
『わたしが持つ【魔力自動回復魔法】です。 わたし自身が相当な魔力を使うので普通ならあまり役には立ちませんが、魔力量が多ければ多いほどその恩恵を受けます』
「因みに魔力の回復量は?」
『1秒で総魔力量の1パーセントを回復できます。 3分経つと効果が切れます』
それを聞いたシフトは【空間収納】を発動して魔法が何も付与されていないアクセサリを探す。
丁度該当する物にネックレスがあったので取り出すと空間を閉じてシフトはプラルタにあるお願いをする。
「プラルタさん、お願いがある。 このネックレスに先ほど使った【魔力自動回復魔法】を付与してほしい」
『これにですか? でもわたしは物に魔法を付与なんてできませんよ?』
「それならベルが【錬成術】を使えるので力を合わせて付与してほしい。 お願いします」
シフトが頭を下げるとプラルタはおろおろした。
『あああ頭を上げてくださいいいぃ。 わわわわたしでは無理ですうううぅ』
プラルタは自分にお願いがくるとは全然考えていなかったようで、シフトのお願いにできないと明言する。
「もし、成功したらとっておきのサンドワームの肉をあげますから」
砂漠の主ともいえるボス級のサンドワームを提供するとシフトがいうとプラルタの目の色が変わった。
『本当ですか?! 本当にとっておきのをくれるんですか?!』
「はい。 約束します。 ただ、この国にいる間は魔族の目があるのでお渡しできませんが・・・」
『任せてください、シフトさん! このプラルタ、絶対にシフトさんの要望通りの物に仕上げてみせます! 大船に乗ったつもりで待っていてください!! そして、とっておきのサンドワームのお肉を・・・えへへ♡』
頭の中で想像したのか、プラルタはにやけた顔だけではなく口から大量の涎が延々と流れる。
それを見ていたシフトたちはドン引きするもプラルタ本人が幸せそうなので止めるに止められない状態だ。
むしろここで止めたらあとが怖い。
このあとベルとユールに確認したが、エーテルという回復薬がプラルタの使った【魔力自動回復魔法】と同じ効果があるそうだ。
フルポーションやマナエクスポーションと同じくらい貴重な品だが、残念ながらシフトは所持していない。
話し合った結果、シフトたちはネックレスに【魔力自動回復魔法】を付与することにした。