326.宝石採掘
シフトが魔族たちに囲まれて戻ってくるとルマたちが心配そうな顔をして近づいてきた。
「ただいま」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫、問題ないよ。 それよりも先ほど交渉して魔力結晶の基となる無色の宝石の採掘許可とこの魔都の滞在許可を貰ってきた」
「ありがとうございます、ご主人様」
シフトの言葉を聞いてユールが頭を下げる。
「それでシフトさん、これからどうしますか?」
ディルの影武者がシフトに声をかけてくる。
ディル本人は表舞台に出るつもりはないらしいので、シフトたちが滞在している期間は引き続き影武者がディルを演じることになった。
「そうですね・・・せっかくなので今日はルマたちと魔都を見物します。 それから魔都の宿屋に・・・ではドラゴンたちを放置してしまうので、魔都の外で泊まる許可を貰いたいです」
「わかりました。 許可します」
「ありがとうございます」
「それでは私が魔都を案内します。 皆さんついてきてください」
影ディルが歩き出すのでシフトたちが一緒に歩き出す。
『あ、わたしも行きたいです』
『ダメです。 ここで待機です』
プラルタが駄々を捏ねるが、雌ドラゴンが止めた。
シフトが透かさずフォローする。
「すまない。 なるべく早く帰ってくるから」
『ぅぅ・・・わかりました』
影ディルに案内されて魔都内に入都と、ルマたちはそれぞれ行きたいところをリクエストした。
ルマは本屋、ベルは商店街、ローザは武器屋、フェイは露店、ユールは雑貨店。
まずは本屋に行くが紙に書かれている言語がそもそも読めないので早々に断念する。
次の商店街では多くの魔族で賑わっていて、食材を見るとシフトたちの大陸と大きく異なり形も色も味もまったく違う食材が多く売られていた。
続いて武器屋を訪れると店に展示されている武器の大半は魔力を含んだ鉱石から作られている。
鉱山での採掘を考えてここでつるはしを購入した。
一息つこうと露店によれば食材の時と同じ見た目からは想像もできない触感と味の食べ物が売られている。
最後に訪れた雑貨店では癒し草や魔力草などが売っていたが、これも見た目が違っていて驚いた。
太陽も西に傾き空が赤く染まり始めた頃、ルマたちは魔都を見てそれぞれ感想を述べている。
「魔族の言語で書かれた本はさすがに読めないわ」
「変な食べ物ばっかり」
「武器も魔力を含んだ鉱石から作り出されていたな」
「魔族の間で流行っているお菓子も見た目と味のギャップが激しかった」
「同じ薬草でも見た目が違いすぎて驚きましたわ」
シフトたちがプラルタたちのところに戻ると影ディルが話しかけてきた。
「シフトさん、明日の予定は?」
「許可を頂いた宝石の採掘を行う予定です」
「それでは取り決め通りに明日部下を何名か同行させます」
「わかりました。 ディル殿、今日はお世話になりました」
「こちらこそお世話になりました」
それだけいうと影ディルは魔都内に戻っていった。
シフトはルマたちに声をかける。
「みんな、聞いてくれ。 明日だけど僕は鉱山に行って無色の宝石という魔力を吸収する宝石を採掘してくる」
「ご主人様、私たちも手伝います」
「・・・わかった。 もしかすると手伝ってもらうかもしれないし一緒に行こう」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
それを聞いていたプラルタも興味を持ったのか声をかけてくる。
『あ、わたしも行っていいですか?』
『ダメです。 鉱山ということは人型のサイズでしか入れないはずです。 人化して入って解けたらどうするつもりですか? 明日もここで待機です』
『そんなぁ・・・』
雌ドラゴンはプラルタが暴走しないようにすぐに止める。
「ああ・・・プラルタさん、ごめん。 明日行くところは遊びじゃないから」
『そうですか・・・とりあえずここで待ってます』
「なるべく早く採掘を終わらせるよ」
シフトたちは明日からの採掘作業のために早めに休むことにした。
魔族の国2日目───
シフトたちが朝食をすますとそこに影ディルと部下5名がやってくる。
「おはようございます。 準備はできましたか?」
「ディル殿、おはようございます。 鉱山にはいつでも行けます」
「わかりました。 これより鉱山に案内します」
「ん? ディル殿自らですか?」
「はい。 これも国を守る仕事ですから」
今の一言でディルが影ディルに命令したのだろう。
「ディル殿、案内お願いします」
「それでは皆さんついてきてください」
影ディルを先頭にシフトたちがついていく。
魔都から歩いて1時間、無色の宝石が採掘できるという鉱山へやってきた。
「ここは大昔無色の宝石が採掘されていた鉱山です」
坑道に入るとかなりの年月人が立ち入った形跡がない。
「最後に無色の宝石が採掘されたのはいつですか?」
「私が知る限りでは100年以上前です。 それも小指ほどの小ささです。 それ以降はここでの採掘をした者はいません」
「僕たちが久しぶりの採掘者というわけか」
「これから私たちはシフト殿たちの採掘作業を監視します。 無色の宝石を1つ見つけた時点で採掘は終了とします。 複数個発掘した場合はその中から1つを選び残りは手放してください」
「それじゃ、早速探すとするか。 ベル、【鑑定】でこの採掘場を注意深く調べてくれ」
「わかった」
ベルが【鑑定】を発動するのと同時にシフトも[鑑定石]で採掘場を調べ始める。
坑道内はかなり掘られていたため、ここから新たに見つけるのは極めて困難だ。
2時間が経過した頃、シフトの[鑑定石]に反応があった。
数は1つで大きさも1センチほどの物だ。
(とりあえず保留だな)
シフトは場所を覚えておくとほかの場所も調べる。
5時間が経過すると宝石の情報がそこそこ集まった。
中にはベルが見つけたのでフェイが早速掘ろうとしたが、シフトがそれを止める。
下手に発掘して使い物にならない宝石だった場合は目も当てられない。
発掘は1度きり、慎重に行う必要がある。
8時間が経過し外も暗くなり始めた頃、シフトは今日の確認を終えようとした。
その時だ、シフトの[鑑定石]が新たに反応する。
最後だからと[鑑定石]を見て驚愕した。
そこには複数個の宝石が表示されている。
それも今まで見たいな1センチほどの小粒ではない、もっと大きい宝石だ。
シフトの直感がここしかないと訴える。
マジックバックからつるはしを取り出すとシフトは掘り始めた。
今日はもう終わりにして明日だろうと考えていたルマたちや影ディルたちがシフトの行動に驚く。
「ご主人様? ここに宝石があるのですか?」
「ああ、間違いない」
シフトは宝石を傷つけないようにつるはしで周りを掘っていく。
丁寧に掘り続けること1時間、直径50センチほどの石の塊が落下する。
シフトは【念動力】を発動して石の塊が地面に激突する寸前に浮遊させることに成功した。
もし、ここで地面に落ちた衝撃で宝石に罅が入ったり、最悪粉々に砕けたらショックが大きすぎる。
石の塊を手でしっかり持つとシフトは地面にそっと置いた。
影ディルがシフトに質問してくる。
「シフトさん、その中に無色の宝石があるのですか?」
「多分ですがあります。 今から余分な小石を取り除きます」
言うが早いかシフトは小石を手でどかしていく。
慎重に小石をどかしていくとやがて宝石が姿を現した。
それも1つだけでなく大小合わせて7つ出てくる。
それを見たルマたちや影ディルたちが驚いた。
「こんなに無色の宝石が現れるなんて初めてです」
「うわあああああぁ・・・」
「綺麗」
「すごいな」
「どれもキラキラしてるね」
「これが魔力結晶ですか・・・」
ルマたちや影ディルたちが騒いでいるが、シフトは1つ1つの無色の宝石を[鑑定石]で調べていく。
その中の一番大きい拳大の無色の宝石を鑑定する。
魔力結晶
品質:Sランク。
効果:魔力を含んだ宝石。 魔力を吸収した量により紅みが増す。 残り0/365000000
これが一番品質が良く、賢者の石の材料として最適だろう。
気になるのは効果に書かれている数字だ。
もしかするとあの数値の分だけ魔力を吸収しないと完全な魔力結晶にはならないということなのだろう。
「ディル殿、僕たちはこの拳大の無色の宝石を貰います。 ほかの宝石は約束通り手放します」
「そうですか・・・わかりました。 残りの無色の宝石は私が持って帰ります」
そういうと影ディルは残りの6つの無色の宝石を手に取る。
「これで魔力結晶の基は手に入った。 ただ、これはまだ未完成品なのでこれから完成させないといけないけどね」
「どうやって完成させるのですか?」
影ディルがシフトに質問してくる。
「それについてはこれから考えます。 それでは戻りましょう」
それだけいうとシフトは影ディルに戻るように催促する。
疑惑の目を向けられるがシフトは気にせずにルマたちを連れて鉱山をあとにするのであった。