324.魔族との対談
声とともに魔族たちが道を開けるとそこに1人の女性が立っている。
「初めまして、人間族の青年。 私はディル、この魔都を守護する者です」
「人間族のシフトです。 突然の来訪で申し訳ない」
お互い名を名乗るとディルが本題を話し始める。
「先ほどのレザクについて詳しく話してもらえませんか?」
「詳しくも何も出会って名を名乗ったらすぐに逃げられたから話しようがないのだが・・・あの感じではまた何かしでかしそうなことしかわからない」
「そうですか・・・」
ディルは悲しそうな顔をする。
「ディル様、お気を確かに」
「わかっております。 シフトさん、立ち話もなんですからどうぞこちらへ」
ディルが背を向けると歩き出す。
「ご主人様」
「とりあえず僕1人だけで行ってくる。 すまないがルマたちはプラルタさんたちと一緒にここで待っていてくれないか?」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
『わかりました』
ディルを追いかけるようにシフトは歩き出す。
シフトに合わせるように周りを武装した魔族が取り囲む。
(相当警戒されているな・・・)
ドラゴンに乗って来訪したのだ、無理はない。
魔都内に入るとそこは人間族の国と然程変わらないようだ。
ただ1点違うのは人間族が魔石を使うのに対して魔族は魔法で運用しているところが多い。
例えば街灯が良い例だ。
ほかにも火や水も魔法を使っている。
「珍しいですか?」
シフトが魔都内を見ているとディルが声をかけてくる。
「ええ、僕たちがいる国では都市での生活には魔物から採取される魔石を使うので、直に魔法を使っているのは珍しいです」
「魔石を?」
それを聞いた魔族たちがシフトに対する警戒レベルを一段階上げた。
「失礼、僕は魔族に関しては無知故に皆さんがどういう生活をしているかわからなかったものですから」
「いえ、魔石を使うなどあの方と同じ発想だと思いまして」
「あの方?」
「この大陸を纏めているお方の1人です。 とても聡明な方であなたと同じ国みたいに魔石を使って色々開発している方です」
ディルは普通に話しているが周りの反応から見るとあまり良い相手ではないらしい。
そうこうしているうちにこの都市の城に到着する。
そのまま城内に入ると1つの立派な扉の前までやってきた。
ディルは扉を守る衛兵に声をかける。
「客人を連れてきました。 通しなさい」
「「はっ!!」」
衛兵は扉を開けるとディルが歩き出す。
それを追うようにシフトが扉の中に入っていくが、ほかの魔族は入ってこない。
そのまま扉が静かに閉められる。
扉の先は中庭になっており中央にはガゼボがあり、中心にはメイドが1人だけおりテーブルには2人分の席が用意されていた。
ディルはそのまま歩くと2席のうちの1席に座る。
「どうぞ、そちらの席に座ってください」
「それでは失礼して」
シフトは勧められた椅子に座る。
メイドが2人分のティーカップを手慣れた手つきでお茶を用意すると、シフトとディルの前に置いた。
準備ができたところでディルが声をかける。
「さて、お茶でも飲みながら話でもしましょう」
ディルがティーカップを持ち上げると香りを楽しんだあとに一口に含む。
シフトもお茶を一口に含んだ。
「まずは改めて自己紹介を。 私はディル、この魔都を守護する者です」
「人間族のシフトです。 僕はここより遥か西にある人間族の国から来ました」
「報告では北からドラゴンに乗ってやってきたと聞きますが?」
「それはドラゴンの国に要件があったからです。 ここに魔族の国があることをドラゴンの長から聞きました」
「そうだったのですか・・・」
それだけ言うとディルは再びお茶を一口飲んだ。
「それでここにはレザクについて聞きに来たと?」
「はい。 先ほどの魔都外でも話した通りなんですけど、僕が住んでいる王国という人間族の国で先日大量の化け物が襲ってきて、玩具といって化け物を送り付けたのがレザクという名の魔族です」
「レザクを見つけてどうするつもりですか?」
「僕の邪魔さえしないなら放置です。 が、邪魔をするのなら容赦なく潰します」
『この手に自由を』と組んでいる時点で、シフトの中ではレザクは危険人物ではあるが邪魔さえしなければ放置でもいいと考えている。
「今回は王国の代理みたいな扱いできています。 今後王国で暴れるようならディル殿には悪いがレザクを処罰します」
「貴国には迷惑をかけてすみません。 処分に関しては致し方ありません」
「よろしければレザクとは何者なのか教えてくれませんか?」
「本来であれば同族を売る行為に当たるので断るところですが、レザクが取り返しのつかないことをしてからでは遅いですね・・・わかりました」
ディルは居住まいを正すとレザクについて話し始めた。
「彼、レザクはこの魔族の国で宮廷魔導士に在籍していた男です。 その知能は他を寄せ付けず、次々と新しい発想を考案しました。 しかし、その考えは異端なものであり、誰も認めようとはしませんでした」
「レザクの発想とはどういう考えですか?」
「良い言い方だと能力向上、悪い言い方だと人体実験です。 レザクはその地位を生かして人体実験を繰り返していたのです」
その言葉を聞いてシフトは嫌な予感がする。
なので、どのようなことをしたのか聞いてみた。
「具体的にはどのようなことをしたのですか?」
「死者の魂を弄び人を化け物に変えたのです。 それを最高傑作として私に披露した」
「もしかして・・・これのことですか?」
シフトはマジックバックから白い球を取り出してテーブルの上に置く。
それを見たディルは驚き、控えているメイドの眉が動いた。
「それは?!」
「これはレザクが作ったと明言したものです。 元々は黒い球で10000人の魂から作られたものです。 浄化により今は白い球へと変化しましたが・・・」
ディルは白い球を手に持って見て確信する。
「間違いない。 レザクが作ったものの1つです」
「これにより王国では10万以上の人が化け物となりました。 それに外にいるドラゴンの1匹が危うく意識を乗っ取られるところでした」
それを聞いたディルは蒼褪める。
「そ、それは本当ですか?」
「はい。 そのドラゴンはこの球を8つも埋め込まれており、この球がドラゴンの力を吸い上げ義首となり襲ってきたのです」
シフトは当時の状況を思い出す。
プラルタが完全に乗っ取られていなかったことと体力が極端に低下していたおかげで奇跡的に殺さずに済んだ。
もし、これが完全に乗っ取られていたら殺すしか道はなかっただろう。
「そんなことがあったのですね。 知らないとはいえレザクが迷惑をかけたことお詫び申し上げます」
ディルはシフトに対して目礼する。
「私が知りうる限りのレザクについての情報を提示します」
それからディルはレザクに関して知っている情報をシフトに伝える。
「情報ありがとうございます。 聞きたいのですがレザクには魔族の仲間はいるのでしょうか?」
「多分いると思います。 レザクがこの地から去ったときに何名か消息を絶った者がいますので」
「ふぅ・・・ということはレザクのほかに何名かが『この手に自由を』と手を組んでいる可能性が高いな」
「『この手に自由を』?」
シフトが漏らした言葉にディルが反応する。
「ああ失礼、僕の国で暗躍している『この手に自由を』という謎の組織だ。 彼らの目的は人により様々で中には世界征服を企てている者もいる。 今話していたレザクも『この手に自由を』と手を組んで、先日化け物を使い王国に攻めてきた」
「なるほど・・・それでレザクを危険視したシフトさんがここを訪れたのですね」
「そうです。 ここにいるなら捕縛する予定でした」
シフトの説明に納得したディル。
そこに新たな疑問が生まれたようでシフトに質問する。
「シフトさんが言葉にした『この手に自由を』というのはどんな組織ですか?」
「先ほども言ったように彼らの目的は人により様々です。 彼らは右腕に奇妙な紋様が刻まれています」
「奇妙な紋様?」
「はい、その奇妙な紋様が彼らが『この手に自由を』の構成員である証拠です。 ディル殿は見たことはありますか?」
「ないです」
シフトの質問にディルは素直に返す。
「気を付けたほうがいい。 彼らは狡猾で何をしてくるかわからない。 目的のためなら簡単に命も懸ける者たちですから」
「聞く限りは精神に難がある者たちですね」
「実際にその通りです。 できれば関わりたくないのにもう何度も遭遇していますからね」
シフトはうんざりしたような声で愚痴をこぼす。
ディルはどう答えていいのか困っている。
「何しろ気を付けたほうがいい」
「わ、わかりました」
「さて、実はもう1つ聞きたいことがあるのですがよろしいですか? ディル殿」
そういうとシフトはメイドを見てディルの名を呼んだ。