322.ドラゴンとの友好関係
シフトたちは食事をとったあとに今後の関係についてエルドと話し始めた。
「まず決めておかないといけないのは期限ですね」
『まずは1年間で様子を見るのはどうだ?』
「そうですね。 それで問題なければ1年毎に更新していく形がいいかな」
期限を決めると今度はお互い何をするか、何を求めるか話し合う。
『個人的にはあのサンドワームの肉が欲しいところだ』
「金や宝石ではなく?」
『たしかに我らは金銀財宝を好むがそれだけでは生きていけない。 やはり食料は必要だ』
「詳しいことは国王陛下に聞いてみないとわからないけど、サンドワームが住んでいる砂漠を狩場として提供するならできると思う」
サンドワームの住処になっているパーナップとデューゼレル間の砂漠は、管理されていないことから王侯貴族の所有地ではないはずだ。
グラントのことだ、この話をすれば頭を抱えながらもドラゴンと敵対したくないから間違いなく許可するだろう。
『それでシフト殿は何を求めるのだ?』
「僕としては人や物を運送として使ってもよいドラゴンを何匹か貸してほしいです」
『我らを足として使うのだな。 いいだろう』
「まずは魔族の大陸に行きたいので、先ほども言ったようにプラルタさんを貸してほしい」
『わかった。 許可しよう』
シフトの要望をエルドが許可するとプラルタが喜んだ。
『指名されたからには頑張らないといけませんね』
『プラルタ、頼むから我らの品格を落とすようなことはしないでくれよ』
『長、酷いです! そんなにわたしが信用できないのですか!!』
『できんな』
『はぅっ!!』
エルドの一言はプラルタの精神に多大なるダメージを与えた。
プラルタは爪で地面に円を描いていじけている。
「プラルタさん、もう少しの間だけ頼むよ」
『ううううう・・・シフトさん、ありがとうございます』
シフトがフォローするとプラルタは涙目で感謝する。
『シフト殿、このポンコツのことよろしくお願いします』
「あははははは・・・わかりました」
『ここで頑張ってポンコツでないところを見せてあげます』
「期待しているよ」
それからシフトとエルドはある程度取り決めをする。
お互い手を出さないこと。
不利益を与えないこと。
無理難題を押し付けないこと。
これがグラントのような治世者ならもっと細かく煮詰めていくだろうが、国の政など知らないシフトと鎖国的な環境にいるエルドにとってはこのような簡単な決め事だけで十分だろう。
話もまとまったところでエルドが早速願い出る。
『シフト殿、よければ我らも霊薬を手に入れるのに挑戦したい』
「霊薬をですか? 手伝いくらいなら別にかまいませんが誰が行くんですか?」
『扉内部の情報を教えていただければそれに見合ったドラゴン選をするつもりだ』
「そうですか。 えっとまず探知系と干渉系のスキルを極めた者が必要ですね」
シフトが持っている[鑑定石]並みの物を持っていれば別だが、そうでないならスキルでなんとかするしかない。
『探知系? 干渉系? それらのスキルが必要なのか? 具体的に教えてくれないか?』
「最初の無限に続く一本道は『夢幻の空間』という場所である場所を通過すると一定の場所に戻されるのです」
『なるほど、だから永遠に一本道が続いたのだな。 それを看破するのに探知系が、その先に進むのに干渉系が必要になるのだな?』
「その通りです」
エルドの言葉にシフトが頷く。
「『夢幻の空間』を突破するとそこに霊薬があるのですが、問題はそこで自分自身と戦うことになります。 自分自身だけあり、力もスキルもまったく同じです」
『自分自身と? またやっかいだな』
「制限時間は無制限、勝利条件は自分自身に打ち克つこと。 霊薬を手放すと試練を放棄したと見做されて終了する」
『危険だと判断すれば手放すしかないか』
「霊薬を手放しても再試練は可能だし、一度試練に打ち克っても再度試練を受けることは可能だ」
『諦めなければ手に入れられる可能性はあるということだな』
シフトの言葉をエルドは吟味する。
できるかできないか、安全か危険か、命を懸けるのか賭けるのか。
『因みにシフト殿は試練をどう受け止めている?』
「正直危険ですね。 自分のことは自分が誰よりも知っているはずです。 どのような力を持っておりどのような思考なのか自分自身なので理解できるだろう」
『たしかにな。 その中には他人には知られたくない能力も含まれるからな』
シフトのスキルがまさにそれだ。
1つ1つの能力がずば抜けている。
使い方次第ではどれも危険な能力ばかりだ。
「挑戦するしないはエルドさんに任せます」
『うむ・・・探知系と干渉系のスキル持ちと何名かの精鋭を集めて試してみよう』
「くれぐれも無理はしないでくださいね。 危険だと感じたら放棄してくださいよ」
『承知しておる』
正直霊薬のために命を賭けられても困る。
本当に必要になった時なら話は別だが。
「それでいつ取りに行くのですか?」
『今から選抜して昼過ぎに挑む予定だ』
「わかりました。 無理だけはしないように頑張ってください」
『はい』
話が終わるとエルドはシフトからの情報を基に早速霊薬採取チームを結成するべく動き出す。
エルドが仲間のドラゴンに話している間にシフトたちは今エルドと話した内容を共有する。
「ご主人様、その・・・上手くいくのでしょうか?」
「何が?」
「ドラゴンとの友好関係だ。 わたしとルマは正直難しいと思っている」
ルマとローザが懸念しているとベル、フェイ、ユールが声をかける。
「大丈夫だよ~、きっと何とかなるって」
「ベルも」
「わたくしも2人ほど楽天的ではないですが大丈夫だと思いますわ」
それでも心配そうなルマとローザ。
「ルマ、ローザ、不安なのはわかるが、何も王国とドラゴンの国でのやり取りじゃない。 あくまでも僕とエルドさんのやり取りだ。 何かあれば責任は全部僕が負うよ」
「ご主人様、それが心配なんです」
「もし、ご主人様に何かあればわたしは・・・」
シフトは自分の考えを述べる。
「たしかに何か問題が発生すれば僕とエルドさんの間に溝が生じる。 最悪友好関係を破棄して全面戦争になるかもしれない。 もしそうなったら僕が命を懸けてルマたちを守るよ」
「「・・・」」
「まずは1年、1年だけ様子を見てみないか?」
「ご主人様がそういうなら・・・」
「そうだな。 1年様子を見よう」
納得はしていないだろうがルマとローザは了承する。
暗い雰囲気なのを察したフェイが話題を変えるべく声を上げた。
「ところで魔族の国に行くのにドラゴンが必要なの?」
「フェイ、魔族の国がどこにあるのか理解しているか?」
「え? ここから南でしょ? 魔動車で行けばいいじゃない」
「そこがドラゴンの言う通り大陸なら問題ないが、もし大量にある島のどこかだったらどこにあるかわかるか?」
「それは・・・探すのが大変だね」
ローザの言葉にフェイが納得する。
「先ほどエルドさんにお願いしてプラルタさんを借りることにしたんだ」
「魔族の国を知っている感じだった」
「そうですわね。 知っている者と一緒に行くのと知らないで手探りで行くのでは差がありますわ」
「ユールの言う通りだ。 知らない僕たちだけで行くのではなく、知っているプラルタさんに案内してもらえば確実に魔族の国に行けるのだから」
ほかにも亜人種の住む大陸や巨人たちが住む島など魔動車では行き辛い場所に行くときには便利だろう。
「ただ、プラルタさん1匹じゃ魔族の国に行くのは不安だからもう1匹案内役を借りたいところだがな」
「エルド殿ならもう1匹くらいは平気で貸していただけそうですね」
内容も共有し、話もある程度まとまったところでシフトたちは昼食にする。
昼が過ぎ、エルドは選抜したドラゴンたちと共に霊薬を採取するべく霊峰山に行くようだ。
挑戦するのはエルド、探知系2匹、干渉系2匹の5匹。
それに怪我した時のことを考慮して扉前で待つことにした回復系1匹の計6匹を連れていくみたいだ。
『それでは行ってくる』
「気を付けてくださいね」
『ああ、無理はしないさ』
それだけ言うとエルドを先頭にドラゴンたちは霊峰山に歩いていく。
「さて、これからどうしよう?」
「プラルタちゃん、ここって何かないの?」
『ここですか? うーん・・・自分で集めた金銀財宝を見るとか?』
「え? それだけ?」
『それだけですけど?』
シフトたちはドラゴンの国に娯楽がないことを悟った。
人間族たちと違いドラゴンたちには遊ぶという概念がないらしい。
シフトたちは仕方なく2日後まで暇を持て余すのであった。