317.食料の見返り
上空の月は僅かに西に傾いた頃、シフトはエルドたちドラゴンの前でガイアール王国で起きたことを話していた。
すべてを聞き終えたエルドは難しい顔をしている。
『事情は分かった。 その『この手に自由を』という組織が魔族とともにプラルタを利用したということだな』
「まぁ、そうなるかな。 プラルタさんから魔族について色々聞いたのですが・・・」
『彼らも悪い種族ではない。 人間族と同じ善悪を持っている。 今回の件でいえば悪しき魔族が『この手に自由を』に手を貸したのだろう』
「魔族がどこに住んでいるのか知りたいのですが」
『彼らはここより南に少し行ったところの大陸に住んでいる。 生活は主に魔法が中心でそれさえ除けば人間族と大して変わらない』
「そうですか、ありがとうございます」
シフトはエルドに礼を言う。
プラルタも荷が下りたのか脱力する。
『これで全部終わりましたね』
『何を言う? 何も終わっていない。 元はといえばプラルタ、お前が魔族に利用されたのが問題なのだぞ』
『う゛、そ、それはそうなんですけど・・・』
『シフト殿がいたから助かったものの、もしそのまま放置されていたら身体を奪われて死んでいたかもしれないのだ。 プラルタ、猛省しろ』
『は、はい・・・』
エルドの言葉にプラルタがぐうの音も出ないほど言い負かされる。
そんな中、シフトが助け舟を出す。
「とりあえず今日はこれで終わりにして明日また話しませんか?」
『そうだな、夜ももう遅い。 続きは明日にしよう』
エルドの計らいで休める場所を提供されたシフトたちはマジックバックから出来合いの物を出して食事を終えると早々に休むことにした。
翌日───
シフトたちは目を覚ますと朝食の準備をしていた。
ベルが料理を作っていると、エルドとプラルタがやってくる。
『おはよう、シフト殿。 昨日はよく眠れたかな?』
「ええ、休める場所を提供していただきありがとうございます」
『うむ・・・それにしても美味しそうな匂いがするな』
『シフトさん、わたしは肉を所望します』
贅沢を覚えたプラルタがシフトに堂々とお強請りする。
プラルタの言葉にエルドが振り返るとその鋭い爪でプラルタを引っ掻いた。
『きゃあああああぁーーーーーっ!! い、痛いですうううううぅーーーーーっ!!』
『この馬鹿者が! 客人に食料を強請ってどうする!!』
『だって・・・』
プラルタは引っ掻かれた部分を舌で舐めている。
シフトは苦笑しながらも【空間収納】を発動するとサンドワームを1匹取り出してプラルタの前に置いた。
『わあああああぁーーーーーっ!! シフトさん、ありがとうございます』
『これは・・・すごい魔物だな。 どこで手に入れたのですか?』
「ああ、これは僕が住むガイアール王国の砂漠にいるサンドワームという魔物です」
『ほう・・・食べ応えがありそうだな』
「良ければ1匹どうぞ」
シフトはサンドワームをもう1匹取り出すとエルドの前に置く。
『良いのか? 催促したみたいですまないな』
「いえ、まだまだあるので問題ないですよ」
エルドはシフトに礼を言う。
そのとなりではプラルタが早速最小限の炎を吐いて炙り出す。
『ん? なんだ? プラルタにしては慎重ではないか?』
プラルタは一旦炎を吐くのを止めるとエルドに答える。
『いやぁ・・・一度全力でやったら丸焦げどころか消し炭になって食べられなかったことがありまして・・・』
『それでものを覚えるのだからプラルタらしいな』
『長、酷いです!!』
プラルタは炎を吐くのを再開し、エルドもプラルタに倣ってサンドワームを弱火で焼き始める。
その匂いに釣られて多くのドラゴンがこちらにやってきた。
『長! なんですか?! その肉は!!』
『私たちも肉が食べたいです!!』
『2人だけ狡いです!!』
ドラゴンたちはその場で騒ぎだしてしまった。
『えっと・・・シフト殿・・・』
「あははははは・・・はぁ、皆さん、1匹ずつ渡しますので喧嘩しないで1列に並んでください」
シフトの言葉にドラゴンたちは目を輝かせた。
そして、シフトの言葉通り1列に並んで順番を待ちをする。
シフトは空間からサンドワームを取り出してはドラゴンの目の前に置き、口に咥えると邪魔にならないように別の場所に移動してからプラルタやエルドを真似て弱火で焼いていく。
それからしばらくの間ドラゴン1匹につきサンドワームを1匹渡す。
全員に配り終わるころにはプラルタとエルドが焼き終えて香ばしい匂いが充満する。
シフトは空間を閉じるとルマたちと食事にした。
ドラゴンたちもサンドワームの肉を食べると美味しさから目を輝かせている。
シフトたちが食事を終えるとエルドが話しかけてきた。
『シフト殿、皆を代表して礼を言う』
「気にしなくてもいいですよ」
『何かお礼をしたい。 できる限りの要望には応えよう』
「うーん・・・みんな、何かあるか?」
シフトがルマたちに聞いてみるとユールが手を挙げた。
「よろしいでしょうか?」
『えっと・・・』
「ユールです。 2つほど聞きたいことがあります。 1つ目はこれです」
ユールはマジックバックから賢者の石についての写しを取り出してエルドに見せる。
エルドはその紙に書かれている内容を読んでいく。
『ほう・・・ユール殿、これはまた珍しい物を作ろうとしているな。 これの何を知りたいのだ?』
「材料を知りたいのです。 魔力結晶、火炎宝玉、水流宝玉、暴風宝玉、大地宝玉について知っていれば教えてくださいませんか?」
『ん? ユール殿・・・いや、シフト殿たちはすでに魔力結晶以外は持っているではないか』
「「「「「「え?」」」」」」
エルドは不思議そうにシフトたちを見る。
対してシフトたちはエルドの言葉に驚く。
「ちょ、ちょっと待って! もう持っているってどういうことだ?!」
『言葉の意味そのままだ。 シフト殿たちはすでに火炎宝玉、水流宝玉、暴風宝玉、大地宝玉を手に入れている』
シフトたちは持っている物を取り出すが、どれなのかがさっぱりわからない。
エルドは爪の先で精霊たちから貰った指輪を指した。
『その4つの指輪だ。 本来は『火の神からの恵み』、『水の神からの恵み』、『風の神からの恵み』、『土の神からの恵み』を指す言葉だ。 それが至宝に見えたのだろう』
「これが4つの宝玉・・・」
シフトたちは精霊たちから貰った指輪をまじまじと見る。
エルドの言葉が正しければこの精霊の指輪こそが紙に書かれた宝玉なのだ。
『それに魔力結晶を合わせたものが賢者の石になる。 もっとも魔力結晶を作るには莫大な魔力が必要だ。 作り方も魔族の極一部しか知らないと聞いている』
「情報ありがとうございます。 2つ目ですが、霊薬というのをご存じですか?」
『霊薬? ああ、それならこの霊峰山にあるぞ』
「え゛?」
エルドの言葉にユールが目を見開き驚いている。
それもそのはず、まさか探し求めていた情報がここにきてすべて手に入ったのだから。
『ただ、取りに行くなら気を付けることだ』
「危険は承知の上ですわ。 わたくしはわたくしの最善を尽くすのみです」
『止めはしない。 我らドラゴンはここに住んでいるが、何も守るためにいるわけではないのだからな』
エルドたちドラゴンは霊峰山を守るために神が遣わした使者ではない。
ただ暮らすのに便利だから霊峰山に住み着いたのだ。
「落ち着いたところで霊薬を取りに行きたいと思います」
『汝が神に愛されていることを祈るとしよう』
エルドなりに気遣ってくれているのだろう。
ユールが無事に霊薬を手に入れることを願っているのだ。
「そういえば霊薬は霊峰山のどこにあるの?」
『山の内部で最奥にある。 数多くの挑戦者が挑むが手に入れて戻ってきたのは我の知る限り極僅かだ』
「それだけ聞くと難易度高すぎだよね」
フェイはエルドの言葉を聞いてげんなりする。
「何はともあれ、霊峰山の最奥を目指しますわ。 エルド殿、情報ありがとうございました」
ユールがエルドに一礼する。
「それじゃ、今日は霊峰山の最奥に霊薬を取りに行くとしよう」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトたちは霊薬を手に入れるため、霊峰山の内部に足を踏み入れることになった。