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315.ドラゴンが住む霊峰山へ

化け物たちが襲撃してきてから5日後が経った。

昨日行われた魔族についての情報共有も無事に済んだ。


朝の南の断崖にシフトたちとプラルタ、それとグラントたちがいた。

「プラルタさん、待たせてすまない。 これから出発してください」

『わかりました。 シフトさん、それにお嫁さんたちもわたしの背中に乗ってください』

シフトとルマたちがプラルタの背中に乗る。

『あの・・・シフトさん、お嫁さん以外も乗せるんですか?』

「ん? 全員僕の嫁だけど」

『え? ご、5人もいるんですか?』

「何か問題でもあるのか?」

『い、いえ、てっきり2~3人くらいかと思ったものですから・・・け、決して重いわけではないですよ』

プラルタの発言を聞いてベルがユールをじっと見る。

「わたくし、そんなに太っていませんわ!!」

「いや、誰もそんなことは言ってないから」

「ユール、嘘はダメ。 いつも美味しそうにご飯を食べている」

「そ、それは・・・ご、ご飯が美味しいのがいけないんですわっ!!」

「ユール、あなた・・・」

なぜかシフトたちはユールを可哀想な目で見る。

「なんでそんな目で見るんですの!」

『そ、そうです! 重くないですから!!』

「ぅぅ・・・」

プラルタの優しさがユールの心を抉る。

『で、では気を取り直してわたしが住む霊峰山に参りましょう』

「グラント、それじゃ行ってくる」

「頼んだぞ、シフト」

プラルタが翼を広げる。

「待て! まだ飛ぶな!!」

近くにいたグラントたちが危険を察知したのか慌てて離れた。

プラルタも王都での羽搏きにより死傷者を出しことを思い出す。

『あ゛』

「ふぅ・・・危なかった」

シフトの判断は正しく、もしその場にいたら烈風がグラントたちを襲い皆上空に舞い上がっていただろう。

そして、地面に激突し死傷者が出てもおかしくない。

グラントたちが十分な距離をとると改めてプラルタが羽搏く。

案の定地上では強風が吹き上げ、グラントたちが飛ばされないように踏ん張っている。

やがてプラルタの巨体が浮き上がり、ある程度の高度まで上昇するとシフトが声をかけた。

「プラルタさん、いつもどのくらいの速さで飛んでるかわかりませんが最初はゆっくりでお願いします」

『わ、わかりました』

シフトの要望にプラルタがどもりながら答えた。

(あ、もしかしていつもの感じで飛ぼうとしていたな・・・危ない危ない・・・)

プラルタがどれくらいのスピードで飛ぶかは知らないが、シフトたちを乗せて飛ぶならそれなりにスピードを抑えてくれないと落下する危険がある。

シフトの読みは正しくプラルタはトップスピードで飛ぶつもりでいた。

プラルタはとりあえず東に向けて飛ぶ。

その速度は時速60キロ、シフトたちが普段地上で魔動車を走らせた時と同じ速度である。

違う点は安全面だけだ。

魔動車が屋根や風除け用の窓があるのに対して、ドラゴンにそんなものはない。

言うなれば吹き曝しの状態だ。

しかし、プラルタは自らの前に魔力障壁を張って飛んでいる。

これはイーウィムたち翼人族が【風魔法】で風の障壁を前面に展開して飛ぶのと同じで、最大速度で飛んでも風が邪魔することはない。

そして、シフトたちに嬉しい誤算があった。

それはプラルタの魔力障壁が前面方向を包んでいるため、シフトたちにも風が届かないのだ。

シフトは当初風が襲ってきた際にルマとフェイに【風魔法】で風の障壁を張ってもらう予定だった。

だが、プラルタの魔力障壁は背中にいるシフトたちも守ってくれていたのだ。

そのおかげでシフトたちは楽できている。

「プラルタさん、もう少し速度を上げても問題ないですよ」

『わかりました。 少し速度を上げますね』

プラルタは速度を時速60キロから時速80キロに上げる。

体感的には時速60キロも時速80キロも変わらなかった。

それからシフトは少しずつ速度を上げるよう要求する。

時速80キロから100キロ、100キロから120キロ、120キロから140キロ、140キロから160キロ、160キロから180キロ・・・そして、ついに180キロから200キロまで速度が上がっていった。

今の速度でも問題ないことを確認したシフトがプラルタに声をかける。

「プラルタさん、もう少し速度を上げても問題ないですよ」

『ごめんなさい。 これ以上は無理です』

「あ・・・そ、そうなんだ・・・」

実は160キロを超えた時点からプラルタはかなり無理をしていた。

プラルタは普段空を飛ぶときは160キロ前後で飛んでいるからだ。

限界以上で飛んでいる分、早く体力も尽きる。

『シ、シフトさん・・・つ、疲れました』

「え? あ、そ、それじゃ休憩にしようか」

『ありがとうございます!』

シフトは誰もいない草原を見つけるとそこに降りるようにプラルタを誘導する。

王都を飛び立って5時間、距離にして約800キロ、魔動車で1時間飛んだ距離と同じくらいだ。

シフトは【空間収納】を発動してサンドワームを1匹取り出す。

それを見てプラルタは嬉しい顔をした。

ここ数日、1日に1回食べていたため、すっかり気に入ってしまったのだ。

いつの間にかドラゴンの餌付け(プラルタの懐柔)に成功しているシフト。

プラルタとしてはこのままシフトを手元に置いておきたいと考えている。

もっともそれを口にすればルマたちが黙っていないだろうが・・・

プラルタは目の前のサンドワームの肉を最小限の炎を吐いて炙り始めた。

1度だけ調子に乗って全力でやった時に丸焦げで消し炭になり食べられなかった苦い経験をしている。

その轍を踏まないよう慎重にサンドワームを焼いて炙っていく。

プラルタの隣ではシフトたちも食事の準備をしている。

慣れた手つきでベルが料理を作っていく。

プラルタがサンドワームを炙り終わるのとベルが料理を作り終わるのはほぼ同時だった。

「それじゃ、いただきます」

シフトの号令で皆食事を始める。

プラルタは自分が焼いたサンドワームの肉に噛りつく。

『相変わらず美味しいですね。 こんなの(サンドワームは)どこで手に入るんですか?』

「僕たちがいた王都からだと南西かな? そこに広大な砂漠があって砂中にうじゃうじゃいるよ」

『え? こんなのが大量にいるんですか? 食料取り放題じゃないですか!』

プラルタは大量のサンドワームを餌としか見ていないようだ。

そこでフェイが突っ込む。

「いやそいつら見た目以上に凶悪で危ないから」

「そうだな。 フェイなんてサンドワームを頭と胴に切断したら頭がすごい勢いで追っかけていたからな」

「う゛、ローザちゃん、それは言わないでよ・・・」

シフトたちが笑うとフェイが不貞腐れる。

『でも、砂の中にいるならわたしのほうが有利ですね』

「それはどうかな・・・サンドワームはあくまでも地上・・・砂漠に誰かいるかを音か何かで感知してから姿を現すからな。 あとは血の匂いにも反応してやってくる。 それまでは絶対に姿を現さない」

『それなら砂漠に降りなければいいだけです。 上空から獣の死体か何かを落として誘い出てきたところを爪で捕まえればいいのですから』

「あ、なるほどね」

プラルタが自身を理解した作戦であり、シフトたちではできない戦い方だ。

それから程なくして食事が終わる。

食後、皆が片づけている時にシフトはプラルタに質問した。

「プラルタさん、上空から見てここが故郷からどのくらいのところかわかりましたか?」

『あ゛』

シフトの言葉にプラルタはやってしまったというような声を上げる。

「もしかして周りを見ていなかった?」

『は、はい・・・』

「・・・はぁ・・・」

シフトはプラルタの答えに頭を抱える。

これでは何のために移動しているかわからないからだ。

どうしたものかと考えている。

(うーん、どうしよう・・・あ! そうだ! これならいけるかも)

シフトは1ヵ月前の輸送について思い出す。

転移を使った移動なら短時間で遠距離に行けるし、要所要所でプラルタが確認することもできる。

「みんな、聞いてくれ。 これからは僕の転移を使って移動する。 プラルタさんは移動先を確認してどこを目指せばいいのか教えてくれ」

『わかりました』

シフトたちは片づけ終わるとプラルタの背中に乗り、上空へと羽搏いた。

ある程度の高度まで移動するとシフトは東を見て雲があることを確認する。

「それではこれから転移するから」

『わたしは何をすればいいですか?』

「そのままでいて」

『はい』

シフトは東にある雲を見て【空間転移】を発動する。

『はわぁっ!!』

プラルタは一瞬にして見ていた景色が変わったことに驚いた。

「プラルタさん、どうですか?」

『えっと・・・ここではわからないです。 もっと東に行けますか?』

「東だな、わかった」

シフトは転移を繰り返して東へと移動する。

転移先をプラルタに確認させるが、知らない場所なのでさらに東へと転移した。

太陽が西に沈んで暗くなった頃、シフトたちは王国の最東端であるモオウォーク辺境伯領までやってくる。

確認しながらの移動だったのでかなり時間がかかった。

「今日はこの辺にしておこう」

『続きは明日ですね』

「ああ、そういうことだ」

シフトは【次元遮断】を発動してここら辺一帯を外界から隔離する。

これで外部から襲われることはないだろう。

その日はモオウォーク辺境伯領の森の近くで一夜を過ごす。


2日目───

朝食を終えたシフトたちはプラルタの背中に乗って、東を目指す。

日中は前日と変わらずプラルタに確認させながら、途中休憩を挟みつつ東を移動した。

太陽が西に傾く頃、シフトたちは王国を越えてこの大陸の最東端である公国までやってくる。

そこから東には海が見えて闇に染まっていた。

「さすがにこれ以上は危険だな。 今日はここまでにするか」

『わ、わかりました』

プラルタはそれだけ言うと地上に降りる。

「みんな、聞いてくれ。 今日はここで野営をして、明日東の海を渡る」

『海を渡った先に知っているところがあればいいのですが・・・』

「たしかにプラルタさんが知らなければ意味がない」

『なるべく知っているところでありますように』

シフトは【次元遮断】で身の回りの安全を確保する。

公国の海沿いで一夜を過ごした。


3日目───

朝食を終えたシフトたちはプラルタの背中に乗って、東を目指すことになった。

海が広がる中、シフトが転移を繰り返していると見覚えのある場所を発見する。

そこはイーウィムの母国である翼人の国がある断崖絶壁の山だ。

それを見たプラルタが声を上げる。

『この山見たことがあります。 すごく高いんですよ』

「高さはまぁいいんだけど・・・見たことがあるというのは本当か?」

『はい、ここからだと更に東に飛んで行ったところにあるんですよ』

「ここから更に東か・・・わかった」

翼人の国の近くにある島に上陸するとそこで一泊することにした。


4日目───

シフトは東へと転移を繰り返すと見たことがある塔が現れる。

そこは劣悪な環境で苦しんで生活している亜人種族がいる大陸だ。

大陸を見るとそこには緑豊かな木々が数多く見られる。

かつてシフトたちが見た死の大地の面影はない。

『この塔が見えたってことは東に飛べば見えてきます』

「え? まだ東なのか・・・」

『はい』

「なら頑張るしかないな」

それから更に東に転移を繰り返していくとやがて遠方に見たことがない大陸が現れた。

遠方からでもわかるが白く聳え立つ山が見えている。

プラルタが興奮して声を上げた。

『あれです! あれが霊峰山です!!』

「ようやく着いたか」

太陽はすでに西の地平線に沈んでおり、空は闇ではあるがプラルタのいう霊峰山という白い山は良くも悪くも目立つ。

『ここからはわたしに任せてください!』

プラルタの案内でドラゴンが住む霊峰山へと向かうのだった。


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