313.人化できても制御できず
問題の争点は謎の男へと変わる。
「続いて謎の男の件だがリーン、説明を頼む」
「えっと・・・私よりもシフト・・・さんが詳しいです」
リーンの言葉にまたしてもシフトに視線が注がれる。
「謎の男だが『この手に自由を』で、召喚した悪魔に身体を完全に乗っ取られていた」
『この手に自由を』という単語にまたも騒然とする。
だが、すぐに静まり返った。
代表してグラントが質問する。
「その悪魔の目的はなんだ?」
「この世界で自分の力を振るうことだ。 といってもあの悪魔がいうには召喚主のイカれた思考が気に入ったらしい」
「それでその悪魔はどうなった?」
「全力で僕に戦いを挑んだ結果、最後には自害した。 得られた情報も大したことはない。 本当は生け捕りにしてもっと情報を得たかったのだがな」
「そうか、わかった。 ご苦労だったな」
それを聞いて周りの者たちはとりあえず脅威がなくなったことに安堵している。
そのあとも各方面での情報が飛び交うがどれも重要度からして低いものばかりだ。
「うむ、大体のことはわかった。 皆ご苦労だった」
これで会議は終わったと皆そう感じていた、次のグラントの言葉を聞くまでは。
「さて、最後に・・・シフト」
グラントがシフトを見る。
それに釣られるように全員がシフトを見て『まだ何かあるのかよ!!』といった視線をぶつけてくる。
特にギルバートを始めとしたシフトをよく知る人物たちの視線が痛い。
この会議中、ずっと好奇な視線に晒されてきたのでシフト自身うんざりしていた。
だが、魔族に関してはシフトしか遭遇していないし、重要度でいったら高いだろう。
「ああ・・・皆さん、驚かないで聞いてください」
シフトが言葉を一旦切ると皆唾を飲み込んだ。
「実はドラゴンを助けたあと、僕の目の前に魔族が現れました」
「「「「「「「「「「魔族?」」」」」」」」」」
イーウィムの翼人族と同じこの大陸にはいない種族。
この世界のどこかに魔族が住む大陸があるらしいが、それを知る者はここガイアール王国を始め人間族がいるこの大陸には誰もいない。
「魔族・・・名前だけは聞いたことがある種族です」
「歴史上でも度々出てくる種族だよな?」
「まさか実在しているとは・・・」
驚いてはいるがドラゴンほどではない。
その証拠に話を聞いた者たちはどう反応すればいいのか困惑していた。
「この中に魔族を知っている者はいるか?」
グラントの質問に誰も答えない。
それはこの中でも最年長であるエルフの女長老エレンミィアやこことは違う大陸に住むイーウィムも沈黙している。
「どうやらこの中にはいないようじゃのぅ」
「調査いたしますか?」
「そうだな・・・過去の文献や資料に魔族に関して書いてあるかもしれない。 手の空いている者は魔族について調査せよ」
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
グラントは配下の者たちに命令するとシフトに向き直る。
「シフト、その魔族について知る限りを教えてくれないか?」
「そうだな。 僕があった魔族はレザクと名乗った。 肌の色は青白い男性で『この手に自由を』にドラゴンを渡した者だ。 それと・・・」
シフトはマジックバックから白い球を取り出すと全員に見えるように机に置いた。
「この球を使ってドラゴンを改造した」
それを見てギルバートが質問する。
「それは?」
「これは元々黒い球だったが【光魔法】の浄化により今の白い球に変色した物だ。 レザクの話ではこれの作成者はレザク本人で、10000人の魂を使って作ったらしい」
シフトの発言に周りがざわつく。
「僕が魔族レザクから手に入れた情報は以上だ」
シフトが両手を上げてこれ以上はないとアピールする。
そこでナンゴーが突っ込む。
「シフト君、本当はまだ何か隠しているんじゃないか?」
「ナンゴー、さすがに持っている情報は全部出した。 これ以上は本当に何もない」
シフトは茶化さず真面目に話すとナンゴーも空気を読んだのかそれ以上は言及してこなかった。
机の上に置いた白い球を手に取るとマジックバックにしまう。
グラントが魔族に関して質問する。
「シフト、魔族が人間族・・・この大陸にいるすべての種族に敵対する可能性はあるか?」
「今のところはわかりません。 魔族が全員レザクみたいな性格ならあり得るし、僕たちみたいに1人1人個性があるなら全員を敵とするのは早計だろう」
シフトは以前出会った亜人種だけの大陸を思い出す。
そこに暮らすゴブリンやオーク、オーガにトロールなどは理知的に物事を考えられる知性と個性を持っていた。
なので魔族のすべてが悪だと決めつけるのは早計だ。
「たしかにそうだな・・・」
「とりあえずはこの件は保留にしておきましょう」
全員の意見が一致したところですべての議題が終わる。
「これで会議は閉会する。 皆ご苦労であった」
グラントの言葉で一同解散することになった。
太陽は西の地平線に触れるころ。
シフトはルマたちとともに南の断崖より離れた場所に鎮座しているドラゴンのところへやってくる。
『あ! 戻ってきました!』
「どうした? 何かあったのか?」
『あの・・・暇だったもので・・・』
ドラゴンは寂しそうに声を上げる。
シフトが動き回っている間、ドラゴンは暇を持て余していたのだ。
「あ、ああ・・・王国への援助に回ったあとに会議にずっと参加していたからな。 すまない」
『そうだったんですか・・・』
「お腹は空いているか?」
『昼間にあれだけ食べたので問題ないです』
シフトとドラゴンが普通に会話をしているのをルマたちが不思議そうに見ていた。
「ご主人様、ドラゴンと普通に話してますね」
「すごい」
「普通は考えられないのだがな」
「さすごしゅ!」
「ご主人様に常識が通用しない気がしますわ」
ルマたちからしてみればドラゴンと会話するなんて普通ではありえないだろう。
「国王陛下たちと話したんだけど、こちらが知る情報を渡すのでその情報を持って帰って同郷の者たちに周知してほしい。 情報については現在精査中だ」
『わかりました』
シフトとドラゴンの会話が終わるとフェイがドラゴンに話しかけた。
「ところで名前はなんていうの? あ、ぼくの名前はフェイ」
『そういえば自己紹介がまだでしたね。 わたしの名前はプラルタです』
「僕はシフトだ」
「ルマです」
「ベル」
「ローザだ」
「ユールですわ」
フェイを皮切りにシフトたちとプラルタは自己紹介をする。
「プラルタはどこに住んでるの?」
『霊峰山です』
「霊峰山? どこにあるの?」
『ここがどこだかわからないので何とも言えないです』
「それはそうだよね」
プラルタからしてみればガイアール王国がどこにあるのかわからないので答えようがない。
一応シフトが助け舟を出す。
「ここはガイアール王国という人間族が住んでいる国だ。 西には獣王国があり、東には帝国、皇国、公国、ドワーフの国、エルフの隠れ里がある。 さらに皇国から北に進むと翼人の国がある」
『そ、そうなんですか・・・』
プラルタからしてみれば人間たちの国を言われてもピンとこないのだろう。
『空を飛べばもしかするとわかるかもしれません。 一応空中飛行での世界一周はしたことがありますので』
「そ、そうなんだ・・・」
シフトたちはプラルタのスケールの大きさに度肝を抜く。
「それにしてもその大きさだと観光とかは無理か・・・」
『観光?』
「ほら、せっかく知らないところに来たんだから見て回って楽しみたいじゃん。 だけどそのままの大きさだと一緒に歩いて見て回るのは無理だなぁって」
フェイとしてはここにいる間だけでもプラルタに楽しんでもらいたいのだろう。
『大きさ? 人化ならできますよ』
「え?」
プラルタは言うが早いか人へと変化した。
そこにはローザくらいの背の高さ、膝まである長い髪、ルマを遥かに超える胸を持つ美女が一糸纏わぬ姿をしている。
「え゛?」
あまりのことに固まるシフトたち。
「これでどうかしら? おかしなところはない?」
プラルタはその豊満な胸を揺らしながらシフトたちに聞いてくる。
「あ、いや、その・・・」
シフトがしどろもどろになっていると後ろからローザがシフトの目を隠す。
「ご主人様、見てはいけません」
「ダメ」
「あれは目の毒だ」
「く、またしても巨乳美女だと!」
「ご主人様のエッチ」
ルマたちがシフトにやきもちを焼く。
「いや、今のは完全に不可抗力だよ」
「それでもご主人様が悪いです」
「それよりもプラルタさん、服を着てくださいな」
「服? ああ、もしかしてあなたたちが身に着けているもの? わたし持ってないわ」
それを聞いてルマは自分の予備の服をマジックバックから取り出すとプラルタに渡す。
「とりあえずこれを着てください」
「わかったわ」
プラルタがルマの服を着るが不満を漏らす。
「この服、胸が苦しいです」
「へぇ・・・プラルタさん、ちょっといいかしら?」
プラルタの発言にルマが蟀谷に青筋を立てる。
「え? あの・・・なにかわたし失礼なことを言いました?」
「いえいえ私の胸が小さかっただけですから」
「あ゛・・・」
プラルタはルマの地雷を踏んだことにようやく気付いた。
「あ、あのすみません・・・」
「いえいえ体型は人によって違いますから気にしていません」
「ひぃ・・・」
ルマの怒りを買ったプラルタが縮こまっていると自身の異変に気付く。
「あ、人化が解けちゃう・・・」
その発言とともにプラルタが服をビリビリに破りながら元のドラゴンへと戻ってしまった。
『ぁぅ・・・き、緊張して元に戻ってしまいました。 す、すみません・・・』
「えっと・・・私も大人気なかったわ」
さすがのルマも今の出来事に何と言えばいいのかわからなかった。
「と、とりあえず人化すれば観光はできるんじゃないかな?」
「感情が制御できなければ無理だぞ」
「ローザの言う通り」
「王都で突然ドラゴンに戻ればそれだけで混乱を招きますわ」
「そ、そうだね・・・」
フェイも今回ばかりはフォローできなかった。
「と、とりあえずはプラルタさんにはここで待機してもらうから。 それでいいよね?」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
プラルタに対して無情な決断をしなければならないシフトであった。