312.戦後の会議で一悶着
王都内外が肉で盛り上がっている頃、王都内・北門・東門・西門・南の断崖に配り終えたシフトは王城の会議室にてグラントと会っていた。
「シフト、今回も助かったぞ」
「グラント、今回は僕だけじゃない。 各騎士団や各魔法兵団が死力を尽くして戦った結果だ」
「それとナンゴーを始めとした一部の貴族やタイミュー殿たち来賓者もだな」
「その通り。 もちろんルマたちもだけどね」
グラントは無事危機を乗り越えたことに安堵すると同時に険しい顔をする。
「戦とはわかっていても死傷者が出るのは忍びない」
「その分配下への報酬は弾めばいいさ」
グラントはこれから王都を立て直すのに金が必要になる。
建造物の修復、損壊した個人所有の建物、多くの死傷者に対する慰霊金や障害保障金や退職金、戦死者遺族への対応などだ。
それとは別に先ほど話に出ていた各騎士団や各魔法兵団、手伝ってくれた王都の冒険者たちにも礼金を出す必要がある。
ほかにも今回の戦いで貢献した者には何かしらの報酬を与えなければならない。
「それであの肉を提供したのだろ?」
「さて、なんのことやら」
「とぼけるな。 一時的とはいえ食糧難になるからそれを見越したのだろ?」
「バレたか」
今回は王都内も被害を受けていて食料が著しく不足するだろう。
シフトはグラントの悩みの一部である食糧難を防ぐため、所持しているサンドワームを放出した。
グラントの負担が少しでも減らせるようにシフトは大盤振る舞いしたのだ。
「本来なら食糧支援も国の役目だ。 それを手伝ってくれたことには感謝する」
「僕が提供できるのは肉だけ。 あとでルマとベルに手伝ってもらって当分食糧難に苛まれない量を渡すよ」
「それはありがたい。 本来ならシフトにも褒美を出さなければならないのだがな」
「まぁ、気持ちだけ受け取っておくよ」
シフトとしてはドラゴンが王都内にある貴族街と平民街の境にある壁を壊してしまったことや南の断崖の危機を招いてしまったこともあり、後ろめたい気持ちがあったからだ。
「ところでシフト、南にいるドラゴンは?」
「ああ、あれは今回の襲撃者の切り札だった」
シフトはマジックバックから黒い球だったものを取り出す。
それはすでに浄化されて黒い球から白い球へと変わっていたが。
「それは?」
「あのドラゴンに埋め込まれていた物の1つだ。 元は黒い球だったが今では浄化されて白い球へと変化している。 これのせいであのドラゴンの意識は乗っ取られる寸前だった。 今は全部摘出して正気に戻っている。 あと、あのドラゴンは人の言葉が理解できて喋れるぞ」
「そうか・・・」
「襲った者の正体と脅威を仲間に伝えたいそうなので、3日後に伝えることで同意してもらった。 勝手に日時を決めてすまない」
「それは当然だな。 日時に関しては相分かった」
グラントはあの知性のあるドラゴンをどうするべきか考えている。
シフトとしても邪魔はしたくないが先に重要なことを話すことにした。
「それよりもこれを作った奴が言うには10000人の魂を使って作った物らしい」
「なんとそれは真か?」
「本当のところはわからないが多分真実だろう。 問題は作成者だ」
「作成者?」
シフトの言葉にグラントも耳を傾ける。
「これを作ったのは魔族だ。 名前はレザク、どうやら『この手に自由を』と関係があるらしい。 捕まえようとしたのだが失敗した。 分身体で本体は別のところにいるのだろう」
「なるほどな・・・」
次から次へと重要な情報が入ってきてグラントは頭を抱える。
更に悩ませることになったが、先に伝えておかなければ後から聞いてないと突っ込まれるよりはマシだ。
「以上だ。 何か聞きたいことはあるか?」
「ライサンダーたちはいたのか?」
「そういえばいなかったな。 北門と西門はわからないが少なくとも王都内・東門・南の断崖ではそれらしいのは見かけなかった」
「化け物になってすでに倒しているなら問題ないが、人間に扮してこの王都内に潜伏している可能性もありえるな・・・これに関しては余のほうで王都内をもう1度調査してみよう」
「わかった。 助かるよ」
シフトとしても多分復活しているだろうライサンダーたちを倒して今度こそルマたちと一緒に平穏に暮らしたいと願っている。
「あとはこれから行われる会議に参加してほしい」
「厄介ごとを持ち込んだりドラゴンの件もあるし仕方ないか」
「話が早くて助かる」
「どちらにしろあのドラゴンには3日後に伝えないといけないからな」
グラントの要請にシフトは頷いた。
あのドラゴンの相手をさせられるのは間違いなくシフトだろう。
であれば、情報を共有する会議には参加せざるを得ない。
「いつ頃行う予定だ?」
「今日の午後には関係者を集めて始めるつもりだ」
「わかった」
それだけ聞くとシフトはしばしの休憩に入るのであった。
2時間後───
会議室には錚々たる顔ぶれが集まった。
グラントを中心にタイミュー、イーウィム、帝国の皇子エアディズ、皇国の皇子チーロー、公国の王子ネクトン、エルフの女長老エレンミィア、ドワーフの鍛冶王ラッグズといった治世者。
ナンゴー、アルデーツ、モター、メーズサン、ギューベ、クーリア、リーンといった貴族とその護衛たち。
防衛大臣、防衛庁長官、第一・第二・第三騎士団及び第一・第二・第三魔法兵団といった王国を守る責任者と団長たち。
冒険者を代表してギルバート、サリア、それにシフトたちが参加となった。
「皆、よくぞ集まってくれた。 まずはガイアール王国を守ってくれたことに感謝する」
グラントはその場にいる面々に謝辞する。
「被害報告についてはすでに各方面から情報を受け取っている。 近日中に対応する故にここでは割愛する。 それでは各方面で起きた事を報告してくれ」
「陛下、部下のアルデーツによればここを襲ってきた化け物たちですが王都を囲うように攻めてきました。 さらに上空にも翼を持つ化け物たちが現れました」
最初に発言したのはナンゴーだ。
(なん・・・だと・・・)
あのナンゴーが真面なことを言っている。
シフトたちは内心驚いていたがここで茶化すと話が進まないので黙っていた。
それはナンゴーを知るほかの面々もそうだ。
「ナンゴー、それにアルデーツ、よくぞ索敵してくれた。 そなたたちが逸早く敵を見つけなければ王都はより甚大な被害を受けていただろう、礼を言う」
「勿体ないお言葉です」
グラントの労いにナンゴーとアルデーツは深々と礼をする。
「陛下、王都内では謎の男とドラゴンが現れました」
続いて発言したのはリーンだ。
謎の男よりもドラゴンという単語に一部の人を除いて全員が驚きを隠せていない。
「ドラゴンだと?!」
「こ、この王都にいるのですか?」
「さ、早急に対処しないと問題になるぞ!!」
予想通り場は大混乱だ。
グラントが自分の手を叩いた。
パアアアアアァーーーーーンッ!!
場は静まり返りグラントが話し始める。
「ドラゴンについてはシフトが説明する。 皆黙って聞くように」
グラントからまさかの丸投げが来るとは思わなかったシフト。
全員の視線が一気にシフトへと注がれる。
「ああ・・・えっと・・・僕が知っていることを話すよ」
シフトは王都内に現れたドラゴンについて話す。
ドラゴンの主導権が奪われていたこと。
原因を排除したことにより正常に戻ったこと。
王都内や南の断崖で化け物たちを倒してくれたこと。
そして、今回の出来事に危惧して情報を持ち帰り仲間に伝えたいこと。
すべてを聞き終えた者たちがざわつく。
「ドラゴンといえばこの世界の頂点に立つ生物。 このまま逃がしてもいいのか?」
「脅威を排除するべきではないでしょうか?」
「でもどうやってドラゴンを倒す? 俺はやりたくないぞ」
会議はいつの間にかドラゴンをどうするかに論点が切り替わる。
いつの間にか討伐派と静観派と協力派の3つに分かれていた。
討伐派は文字通りここでドラゴンを仕留めることを強く推す。
静観派はドラゴンには極力触れず触らずにやり過ごす。
協力派はドラゴンに情報を流してあわよくば味方に引き入れたいと画策する。
三者三様の意見でぶつかり合う中、ギルバートがシフトに話しかけてきた。
『シフト君はドラゴンのことをどう思ってるんだい?』
『敵ではないと思うので情報だけ渡してさっさと自分の領域に帰ってくれればと思ってます』
『なるほど。 それで敵ではない根拠は?』
『僕が隙を見せていても全然襲ってこなかったのでそう判断しました。 これが実は演技だったなら表彰ものです』
シフトの答えにギルバートは苦笑する。
グラントがまた自分の手を叩いた。
パアアアアアァーーーーーンッ!!
場は静まり返りグラントは仕切る。
「シフト、あのドラゴンを討伐することは可能か?」
「さぁ、戦ってみないと勝てるかどうかなんてさすがにわからないな。 もし仮に戦ったらこの王都が壊滅するかもしれない」
シフトの言葉に意見を出していた者たちは口を噤む。
この中で最も強者であるシフトが勝てるかわからないと発言すれば討伐は難しいと断言できるだろう。
実際には【五感操作】で触覚を剥奪してから【即死】で一撃死を与えれば倒せるだろうが、こんな公共の場でわざわざ手札を晒すつもりはない。
「それでシフトとしてはどうしたいのだ?」
「ドラゴンに情報だけ渡してそのまま帰ってもらうのが一番かな」
あのドラゴンのことだから助けてもらったシフトには協力的になるかもしれないが、ほかの人まで協力的になれるかと言われれば疑問である。
グラントもシフトと同じくドラゴンに触れるなと考えているようだ。
「ふむ、決まりだな。 あのドラゴンには情報を伝えてここより去ってもらおう」
「陛下! 正気ですか! このままではもしかすると王国が危険にさらされるかもしれないのですよ!!」
「なら貴公が責任をもってドラゴンを討つか? 絶対の自信があるなら余は止めはしない」
「え、あ、それは・・・」
勝てないのに安請け合いで『はい』とは言えないだろう。
「ほかに意見はあるか?」
グラントの問いに誰も答えない。
「ないようなのでドラゴンに関してはシフトの案を採用とする」
グラントの決定によりドラゴンの件は片付いた。