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306.ヒュドラ 〔無双劇63〕〔※残酷描写有り〕

「なっ?! あれは?!」

シフトは驚愕の声を上げた。

そこにいたのは首が長いドラゴンだ。

だが、それは普通のドラゴンとは違った。

首が1つだけではないのだ。

「1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・6・・・7・・・8・・・9・・・首が9つもあるのか?」

9つの首を持つドラゴンなど聞いたことがない。

シフトは慌てて王都内中心部に降りた。

ドラゴンの正面に立つと背に立っていた者がシフトに挨拶する。

「人間か・・・ヒュドラの前に立つとは愚かな者よ」

フードを被っていたので顔は見えないが声からして男だろう。

「お前は何者だ?」

「矮小な人間に教えるとでも思ったか?」

男は右手を掲げると青黒い肌に例の奇妙な紋様が刻まれている。

「『この手に自由を(フリーダム)』か・・・」

「ん? ()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「?」

男は血のような真っ赤な目でシフトを見ている。

(『この手に自由を(フリーダム)』ではない? だけど、あの奇妙な紋様はたしかに『この手に自由を(フリーダム)』だが・・・)

シフトが疑問を感じていると男が意味を理解した。

「ああ、なるほど、そういうことか。 ()()()()()()()()からすぐにはわからなかったが、『この手に自由を(フリーダム)』とはこの男の名ではなくこの右手の紋様を指していたのか」

「乗っ取った?」

「ふっ、そうだ。 この男は俺をこの世界に呼び出した・・・が、依り代がなかったので仕方なく呼び出した本人を使うことにした」

シフトは目の前の男が悪魔であることを理解した。

シフトと悪魔が対峙しているとそこにベルとリーン、それに皇国の皇子チーローがやってくる。

「ご主人様!!」

「え? ド、ドラゴン?!」

「なぜこんなところにドラゴンが!!」

「おいおい、これはドラゴンじゃないぜ。 ヒュドラだ」

悪魔がイラついた口調で訂正するがすぐに先ほどまでの落ち着いた話し方に戻す。

「まぁいい。 どうせお前たちはここで死ぬんだからな。 殺れ、ヒュドラ」

ドラゴンもといヒュドラがそれぞれの口から咆哮をする。

否、中央の首だけ静寂なままだ。

悪魔は巻き込まれないようにヒュドラの背から降りてその場を離れようとする。

「ベル! その(悪魔)を捕まえろ!!」

「わかった」

シフトの命令でベルが動く。

「ちょっと! 私の(ベル)に命令しないでよ!!」

そういうとリーンはベルを追っかけていく。

「シフト殿、あの(悪魔)は朕の【探知】で追跡して可能であれば捕縛する」

「殿下、頼みます」

チーローは【探知】を発動するとベルとリーンを追いかけるように走っていく。

悪魔はシフトたちから逃げ出した。

シフトも追いかけたいがそれよりも目の前のヒュドラを何とかしないといけない。

8つの首がシフトの目の前で口を開ける。

「まさか?!」

ヒュドラはそれぞれの口から炎を吐き出した。

シフトはすぐに【次元遮断】を発動して自分の周りを外界から隔離する。

炎は舗装された道をその高熱で溶かしていく。

やがて炎が止むと無傷のシフトを見て警戒している。

否、中央の首だけ静寂なままだ。

(? なんだ? このヒュドラとかいうドラゴンは何かがおかしいぞ?)

シフトは結界を解くと[鑑定石]でヒュドラの状態を調べた。

状態のところに奪取と表示される。

(奪取? 聞いたことがない状態異常だな・・・)

普通相手を虜にする魅了や刷り込ませて従わせる洗脳ならわかるが、何を奪取したのかわからない。

シフトは移動しながらヒュドラを観察する。

8つの首は敵対視しているが真ん中の首だけは動かない。

よく見ると真ん中の首以外は少し細く、まるであとから付け足したみたいな感じだ。

シフトは今得た情報から考える。

奪取・・・真ん中の首だけ動かない・・・付け足した首・・・

シフトは1つの結論に辿り着いた。

「まさか・・・」

ヒュドラの首の付け根をよく見ると真ん中の首とそれ以外の首が明らかにおかしい。

それを見て確信する。

シフトが出した結論、それはヒュドラの正体は元々1つだけの首を持つドラゴンだ。

そして、あの8つの首が奪取の原因であり、本体のドラゴンに何らかの方法であとから首を付け足された。

シフトは[鑑定石]でヒュドラの詳細な情報を調べる。

すると各首の付け根の部分に黒い球が埋め込まれているのがわかった。

(あの黒い球はたしか・・・)

過去に帝国の闘技場で『この手に自由を(フリーダム)』があの黒い球を飲み込んで人を捨てたのをシフトは思い出す。

ドラゴンの固い龍鱗や皮膚を破壊して埋め込んだのか、それとも口から飲み込んだ異物を体外へ追い出そうとしたのかは定かではないが、結果として8つの首が生まれ本体が弱りきっている。

「まずはあの8つの首を破壊してみるか」

シフトは腰から龍鱗のナイフを引き抜くと嵌め込まれた魔石に魔力を流す。

剣身に炎を纏うと一気に距離を詰めて1つの首を斬るとそこからどす黒い血が噴出する。

本来同じ龍鱗でも傷をつけるのは難しいが、ローザが鍛えた武器のほうが上回っていたのと本体の龍鱗よりも柔らかいことで斬ることができた。

斬られた場所から火が出て燃える。

そのまま燃えて首から上が黒焦げになった。

まずは1つの首を止めるのに成功したかに見えたが、ほかの首が焼け焦げた首を噛み千切るとそこから新しい首が生えてきたのだ。

新しく生えた頭が怒り咆哮し、今まで沈黙していた真ん中の首が苦悶の咆哮をあげる。

「なっ?! おいおいマジかよ・・・」

そのあとも何度か真ん中以外の首を攻撃するが、使い物にならない首はほかの首が噛み千切り新たな首が生えてくる。

その度に真ん中の首が苦悶の咆哮をあげていた。

やがてナイフに纏った炎が消えるとシフトはナイフの魔石を火から氷に交換する。

「火がダメなら次は氷だ」

魔石に魔力を流すと今度はナイフの剣身がひんやりと冷気を放つ。

ナイフで首を斬ると傷口から首全体を凍らせる。

だが、ほかの首が凍らせた首を砕いたことにより首が再生した。

「氷もダメか・・・」

火もダメ、氷もダメ、ほかにもいろいろ考察したが残された攻撃手段は【即死】だけ。

決断をする前にシフトはヒュドラを見る。

敵対しているのは8つの首だけであって、本体に敵対する意思はない。

それなのに【即死】で倒してお仕舞いではあまりにも可哀想だ。

かといってこのまま放置すれば本体は死に、あの8つの首が本体の主導権を握るだろう。

何か方法はないか? シフトが8つの首からの噛み砕き攻撃や炎を【次元遮断】で防ぎながら考える。

マジックバックの中を漁っているとある魔石が目に入った。

それはユールに頼んで対ライサンダーたち用に用意した【光魔法】の浄化を付与した魔石だ。

「もしかしたらこれでいけるかも・・・ダメなら本体には悪いがここで成仏してもらおう」

シフトはナイフの魔石を氷から光に交換する。

魔石に魔力を流すとナイフの剣身が優しく温かい光を放つ。

「上手くいってくれよ」

ヒュドラの攻撃が止んだところでシフトは結界を解き、8つの首の1つをナイフで攻撃した。

首は見事に刎ねられて、切断面から浄化の光が透過する。

透過された場所が次々と崩壊していく。

刎ねられた首のほうは浄化の光により塵となり消滅する。

では本体のほうはというとナイフに籠めた魔力が少なかったのか完全には倒せなかった。

黒い球により首が再生したが、先ほどまでの威圧感がない。

明らかにパワーダウンしているのが目に見えてわかる。

「効いている! そして、本体にダメージがいってない!!」

先ほどとは違い真ん中の首から苦悶の咆哮が聞こえてこない。

シフトは魔石の限界まで魔力を流すとナイフの剣身はより強い光を放つ。

それを見た8つの首が明らかに嫌がっていた。

「どうやらお前たちにとってはこれは忌み嫌うモノらしいな」

シフトは接近して8つの首の1つをナイフで斬りつけた。

斬首した首は塵になり、切断面から浄化の光が先ほどよりも強く速く透過していく。

これで完全に倒せたかに見えたが、黒い球により首は再生したのだがすでにグロッキー状態だ。

あれではまともに攻撃も防御もできないだろう。

「完全に倒せないまでもこれならお前たちを無力化できる」

シフトは本体以外の首を次々と斬首していく。

それにより黒い球が首を再生するももはや戦う力が残っていない。

復活した首を何度か斬るとついに再生する力すらなくなり沈黙する。

シフトは真ん中の首以外の8つの首をすべて斬り落とすことに成功した。

斬られた断面のところを見るとそこには黒い球が埋め込まれており、浄化の光が混入して鬩ぎ合っている。

ヒュドラの体内に埋め込まれた黒い球を取り出していく。

8つすべてを取り出すとヒュドラ・・・ドラゴンが喜びの咆哮を上げて安堵からかそのまま倒れてしまう。

突然の出来事に驚いたシフトは[鑑定石]で調べると生命力は0ではないのでただ意識を失っただけのようだ。

状態を確認すると奪取がなくなり代わりに重症と表示される。

とりあえずはこれ以上悪化することはないが、早めに治療しないと今度こそ命に係わるだろう。

ユールに治療させて、もし王都を攻撃しようとするなら改めて討伐すればいい。

これで問題は一応解決し、残るはベルたちが追っている悪魔と王都内外にいる化け物たちを倒すだけかに見えた。

シフトが気配に気付いてそちらを向く。

「やれやれ、せっかく人間族に玩具(ドラゴン)を与えたのに使い熟せないとは情けない奴らだ」

そこには青白い顔の男性が立っていた。

「誰だ?」

「俺は魔族レザク。 その玩具の発案者だ」

「魔族?」

レザクはシフトが持っている8つの黒い球を見る。

すでに半分以上が浄化の光により白色になっていた。

「あ~あ、もうそれ(黒い球)はダメだな。 せっかく1万人の魂を凝縮して作った特注品なのにな」

「これを作ったのは・・・」

「そうだ、俺だよ」

レザクは口角を上げてニヤリと笑った。

「まぁいい、今日はこれくらいにしておくか」

「待て! 逃がさないぞ!!」

シフトが素早く接近するとレザクの身体をナイフで斬った。

生け捕りにするため手加減して何ヵ所か斬ったのだが、想像以上に身体が脆かったのか斬られた個所から大量の血が噴出する。

「ほう、まさか俺の分身体をこうもあっさり倒すとは想像以上に危険だな・・・」

身体中から蒼い血を流しながらそれだけ言うとレザクの身体が塵になって消える。

あとには何も残らなかった。

「魔族か・・・また厄介ごとになりそうだな。 それに人の魂を弄ぶか・・・」

シフトは殺したはずのヴォーガスとアーガスの復活を思い出す。

あいつ(魔族レザク)が関与していると見て間違いないだろうな・・・」

新たな出来事に面倒なことになったと心の中で嘆くシフトであった。


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