304.スターリイン王都外戦 東門・西門 〔※残酷描写有り〕
わたしとエルフの女長老が東門に駆け付けるとそこではギューベ殿とクーリア殿が部隊に指示しつつ自分たちも最前線で戦っていた。
「ローザ様、私が援護します」
「長老、お願いします。 化け物たちは再生能力があるので一撃で仕留めるなら首を狙ってくれ。 わたしはギューベ殿とクーリア殿を助勢しにいきます」
「首ですね。 わかりました」
エルフの女長老は【風魔法】を発動すると複数の風の刃が化け物たちに襲い掛かる。
複数の化け物の首が空を舞うと塵となり消えていく。
さすがは風の精霊を慕うエルフの女長老、その【風魔法】はイーウィム将軍閣下に勝るとも劣らない威力だ。
わたしはマジックバックから龍鱗の斧を取り出すと肩に担ぐ。
鋼やミスリルと違い軽く、そして・・・
「はっ!!」
近くにいた化け物の正中線を狙って一振りすることで真っ二つに両断するほどの切れ味だ。
さすがの化け物も腕や脚を切断されたのとは訳が違い、身体を縦に真っ二つにされては再生することはできない。
わたしは化け物を倒しつつギューベ殿とクーリア殿のところまでやってくる。
「ギューベ殿、クーリア殿、加勢に参りました」
「ローザ殿か、よく来てくれました」
「ローザ殿、助かります」
「この化け物たちは以前ドワーフの国で戦ったことがあります。 彼らは再生能力があり一撃で仕留めるなら首を狙うしかありません」
わたしの言葉にギューベ殿もクーリア殿も頷いた。
「一応戦いながら情報収集していたがやはりそうでしたか・・・」
「騎士たちや魔法士たちにはなるべく首を狙うように指示を出していましたが、ローザ殿のアドバイスを聞いて指示を出したのは正解でした」
ギューベ殿とクーリア殿はすでに得た情報から仮説を立てて戦っていたのか・・・
さすがは王国の一翼を担う貴族だけのことはあるな。
ギューベ殿は近くにいた兵士に命令する。
「伝令! 化け物たちを攻撃する際は首を狙うように全員に改めて周知してください!」
「了解しました!」
兵士は戦場を駆けては小隊長クラスの者たちにギューベ殿が出した指示を伝えていった。
わたしも戦いに集中する。
「援軍に来たのに何もしなければ、ただ邪魔をしに来たのと同じだからな」
わたしは斧で次々と化け物を両断していく。
敵である化け物だけでなく、味方である騎士たちや魔法士たちもわたしから一歩引いた。
見兼ねたクーリア殿が話しかけてくる。
「ローザ殿、その斧は一体・・・」
「ん? これか? これは・・・ご主人様より賜った武器だ」
「シフト殿から?」
「ええ」
さすがに『これを作ったのはわたしです』なんてこの場では言えない。
誰が聞き耳を立てているかわからないからな。
あとでご主人様に問い合わせがいくだろうが、何とかしてくれるだろう。
若干引っかかる部分はあっただろうがクーリア殿は大人しく引き下がる。
今は問い質すよりも王都に攻めてきた化け物を駆逐するほうが優先度が高いからだ。
ギューベ殿の指揮は的確で、無理はさせず深追いはせずひたすら自分たちが有利になるよう場を調整していた。
元々戦況はギューベ殿とクーリア殿のおかげで有利だったが、わたしとエルフの女長老が加勢したことで盤石になる。
問題はこの戦況をどこまで維持できるかだ。
数は化け物のほうが圧倒的で、物量で押し潰そうと動いている。
休みなく戦い続ければこちらは疲労が溜まり、いずれは動きが鈍くなるだろう。
そこで不意を突かれれば戦況は一気に傾くことだってあるからだ。
わたしは近くにいた化け物に斧を振り下ろす。
「ていっ!!」
攻撃した直後に化け物たちがわたしに対して一斉に襲いかかってくる。
「いいのか? 戦場にいるのはわたしだけじゃないぞ?」
それを証明するように風の刃が化け物たちを切り刻む。
長老が【風魔法】で援護したのだ。
わたしはさらに深く踏み込んで化け物たちに攻撃を繰り出していった。
ぼくはタイミューちゃんと公国の王子と共に西門目指して城壁の上を走っていた。
その間にも西門のほうから大量の矢が上空へと放たれている。
矢は空にいる化け物たちの翼に的確に命中して撃墜させていく。
「すごいね! 百発百中だよ!!」
「ホントウデスネ!」
「それも敵だけを完全に射抜いている。 味方には誰1人として当てていない」
やがて西門まで到着するとアルデーツちゃ・・・んん、アルデーツさんが矢を撃ち続けていた。
その周りにはアルデーツさんを守るように騎士たちや魔法士たちが取り囲んでいる。
「とぉっ!!」
ぼくが城壁から飛び降りるとタイミューちゃんと王子も迷うことなく飛び降りた。
地面に着地するとすぐにアルデーツさんに声をかける。
「アルデーツさん、加勢に来たよ」
「アルデーツサン、ヤヲトドケニキマシタ」
「アルデーツ殿、援軍に来た」
「タイミュー女王陛下! それに公国の王子にシフトのところのたしかフェイ殿だったかな? 加勢に来てくれたこと感謝する」
アルデーツさんは弓を射るのをやめる。
「アルデーツサン、コレヲ」
タイミューちゃんは矢がたくさん入った矢筒をアルデーツさんに渡した。
「ありがとうございます。 まだ矢は残っているのですが少なくなってきたので助かります」
「アト、ドレクライヒツヨウデスカ?」
「あればあるほど空飛ぶ化け物を撃ち落とします」
「ワカリマシタ」
タイミューちゃんが戻ろうとする。
「女王陛下、ちょっと待って!」
戻るのを止めるとみんなぼくに注目した。
いやみんなそんな熱い眼差しで見られるとぼく照れちゃうよ・・・ってそんなことを言ってる場合じゃない。
「みんな聞いて! あの化け物たちだけど、ぼくが以前ドワーフの国で戦ったのと同じ奴だ。 あいつらは再生能力があるから狙うなら頭か首を狙って! あと死ぬと身体が消滅するから!!」
「フェイ殿、それは本当か?」
「うん! 腕や脚が吹っ飛んでも再生して切りがなかったからね。 あ、ただ再生能力は無限じゃないし生命力がなくなれば当然死ぬから」
本当、蜥蜴の尻尾みたいに何度も再生して嫌になっちゃうよね。
「なるほど、貴重な情報感謝する」
「いえいえ、こいつら倒さないとぼくもご主人様のところに戻れないから協力してちゃちゃっとやっつけよう。 女王陛下、今ぼくが言ったことを国王陛下に伝えて」
「ハイ、ツタエテオキマス」
タイミューちゃんは城壁の近くまで戻ると足に力を入れて跳躍する。
城壁の上に着地すると【雷魔法】を発動して来た道を戻っていった。
そのスピードはルマちゃんに負けないくらいだ。
「さて、皆の者聞いての通りだ! フェイ殿の助言通りならば胴体を攻撃するよりも頭を狙って確実につぶすぞ!!」
「「「「「「「「「「おおおおおぉーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
ぼくの話した情報が騎士たちや魔法士たちに伝わっていく。
「それじゃ、ぼくも戦いますか」
「そうだな」
ぼくと公国の王子はそれぞれ敵へと突進した。
アルデーツさんも弓を射るのを再開する。
ぼくは龍鱗のナイフを抜いて両手にそれぞれ持つと【暗殺術】を発動させた。
化け物の死角がどこにあるのかぼくにだけわかる。
ぼくは化け物の死角へと移動した。
「死ね」
ぼくは化け物を斬り刻んだ。
二度と再生できないレベルでバラバラにして。
前回のドワーフの国では正面からナイフで攻撃したり【武闘術】で殴り殺していたけど、それだと時間がかかって仕方がない。
【暗殺術】は死角から攻撃することで普通よりも高確率で倒せる。
レベルは3、今では格下なら相手の死角や弱点を知ることも可能だ。
とはいえ弱点狙ったからって相手を確実に葬れるかといえば答えはノーだけど。
化け物を見据えるとぼくは冷徹な自分を解放する。
【暗殺術】を使い、化け物の死角に入り次々と斬っていく。
ご主人様やルマちゃんたちにはこんなぼくをあまり見せたくないけどね。
しばらく化け物たちを個別撃破していると近くで誰かが戦っていた。
ぼくはその方向を見る。
砂埃が酷くてあまり見えないが1人の人物が化け物たち相手に剣で攻撃していた。
化け物たちは膝から崩れ落ちるとそのまま地面に倒れて塵になって消えていく。
砂埃が収まるとそこにいたのはナンゴー辺境伯だった。
「あれ? ナンゴー辺境伯?」
「うん? お前はシフトのところの・・・」
「こんなところで何遊んでるの?」
「遊んでねぇよ! 見ればわかるだろ? 化け物と戦ってるんだよ!!」
そういうとナンゴー辺境伯は襲ってきた化け物を剣で倒した。
目の前の光景にぼくは目を見開いて驚愕する。
「違う!! こんなのぼくが知っているナンゴー辺境伯じゃない!!!」
「なんで国に貢献している俺を否定するんだよ!!」
「いや、だってイメージ全然違うし・・・」
「人格まで否定しやがって・・・」
ぼくがボケるとナンゴー辺境伯はいつもの調子でツッコむ。
「ぼくとしてはいつものナンゴー辺境伯のほうが似合うけどなぁ・・・」
「それは俺の台詞だ!!」
あまりのバカさにぼくたちは笑いあう。
それに釣られて化け物たちがやってきた。
「こいつら倒しちゃおう」
「そうだな、さっさと終わらせていつもの日常に戻るとするか」
ぼくとナンゴー辺境伯は頷くとそれぞれ化け物に攻撃を仕掛けるのであった。