302.スターリイン王都内戦 〔※残酷描写有り〕
「なんだと?!」
グラントの声が室内に響く。
「王都内は数がこちらのほうが優勢ですのでなんとかなりますが、王都外は圧倒的に不利です」
衛兵の言葉にグラントは頭を悩ませる。
ドワーフの鍛冶王ラッグズは状況を把握しようと衛兵に質問した。
「王都内はどれくらいいるんだ?」
「8000~10000くらいです」
「それならば行って蹴散らすまで!」
イーウィムが立ち上がると窓のほうへと歩き出す。
が、そこで皇国の皇子チーローが止める。
「イーウィム殿、待たれよ。 ここで貴公の【風魔法】を使ったら被害が甚大になるぞ」
「た、たしかに・・・」
イーウィムの【風魔法】は王都外でこそ活躍できるが建物が密集している王都内では被害が出るだろう。
シフトは立つとルマたちに命令した。
「みんな、僕たちも出るよ。 ルマは南の断崖に行ってモターとメーズサンを援護しろ」
「はい!」
「ベルは王都内にいるリーンさんを援護しろ」
「わかった!」
「ローザは東門に行ってギューベ殿とクーリア殿を援護しろ」
「了解した!」
「フェイは西門に行ってナンゴーとアルデーツを援護しろ」
「任せてよ!」
「ユールは北門に行ってギルドマスターとサリアさんを援護しろ」
「畏まりましたわ!」
シフトの命令にルマたちが頷く。
「僕は遊撃で・・・」
シフトは自分の役割を伝えようとすると別の衛兵がやってきてグラントに報告する。
「陛下! 大変です! 王都の上空を化け物たちが攻めてきます!!」
「まだ戦力をぶつけてくるだと?!」
その言葉を聞いてシフトは急いで窓に駆け寄り外を見る。
上空には王都を目指して羽を羽搏かせて飛んでいる化け物たちが見えた。
それと同時に西側からすごい数の矢が化け物に向かって飛んでいく。
1本1本が化け物たちの羽を直撃して、飛行ができなくなった者から地上へと落とされていった。
「さすがはアルデーツ。 頼りになる」
だけど西門も同時に守らないといけないので、このままではアルデーツの矢が尽きてしまうだろう。
「グラント、城内にある矢をできるだけ西門にいるアルデーツのところに運んでくれないか?」
「西門と上空の守りを固めるわけだな?」
「ソレナラワタシガモッテイキマス」
矢筒の運搬をタイミューが買って出た。
「タイミュー殿、危険です」
「ダイジョウブデス。 ワタシニハルマサンカラナラッタカミナリノマホウガアリマス」
タイミューは立ち上がると【雷魔法】を発動して身体に纏わせるとその場を素早く動いて見せた。
あまりの速さにシフトたち以外は驚きを隠せない。
「ふっ、やるじゃないか。 では、私は上空にいる化け物どもを一掃するとしよう」
イーウィムは自らの翼をその場で広げる。
「それなら私は東門の援軍に行きましょう」
「なら、わしは南の断崖だな」
「北門へ行って銃で牽制してきます」
「西門は任せてもらおう」
「朕は王都内にいる敵を【探知】して始末する」
帝国の皇子エアディズが北門を、皇国の皇子チーローが王都内を、公国の王子ネクトンが西門を、ドワーフの鍛冶王ラッグズが南の断崖を、エルフの女長老エレンミィアが東門をそれぞれ援護に向かうといった。
そこにシフトが苦言を呈する。
「各国の要人が不用心じゃないか?」
「シフトよ、今のこの状態では遅かれ早かれ王都だけでなくこの王城も戦火に見舞われるだろう。 それならここは全員で打って出たほうがいい」
各国の要人もグラントの意見に同意するように頷いた。
「グラントの言う通りじゃな。 非戦闘員は建物に避難させる」
「この戦いの総指揮官はグラント国王に任せましょう」
「わかった。 指揮は余に任せてもらおう。 それでシフトはどうするのだ?」
「うーん、まずは空の敵を相手にするよ」
グラントの質問にシフトは答える。
「それなら各々の役目は決まりだな。 これより『この手に自由を』の討伐を開始する! 各自持ち場につけ!!」
グラントの号令にシフトたちは頷いて行動を開始した。
ベルはご主人様の命令で王都内にいる化け物を退治することになった。
城門を出て周りには鎧やローブを身に着けている女の子たちが化け物たちと相対している。
それについて一緒に行動している皇国の皇子が口を開いた。
「ベル殿、女性ばかりが戦っているが?」
「マーリィアの話だと今王都内を守っている第二騎士団、第二魔法兵団は全員女性だけの部隊。 だけど実力は第一騎士団、第一魔法兵団に劣らない」
「彼女たちも立派な戦力という訳か」
皇子の質問にベルは頷いた。
ベルは腰にある龍鱗のナイフを引き抜くと両手に一本ずつ構える。
皇子も腰に差している片手剣を抜くと構えた。
「あの化け物だけど以前戦ったことがある。 再生能力を持っていて倒すと塵になる。 確実に倒すなら首を刎ねるのが一番」
「ありがとう。 情報感謝する」
「ベルは平民街に行く」
「朕はこちらの貴族街か? ここら辺にいる化け物を駆逐する」
ベルと皇子が頷き合うとそれぞれ行動を開始する。
皇子は王城に近い場所にいる化け物を【探知】するとそちらに向かった。
ベルは中央通りを抜けて平民街を目指そうとするが、そこらじゅうに化け物たちがいる。
第二騎士団、第二魔法兵団の兵力よりも化け物たちの数が上回っているのかほとんど1対1で戦っていた。
女騎士たちは化け物の攻撃を受け流してなんとか耐えている。
一方の女魔法士たちは接近させないように距離をとろうとするが、化け物は距離を詰めてきて中々反撃ができないでいた。
ベルの近くでは女魔法士が化け物から退避しながら戦っている。
「邪魔」
ベルは不意を突くように化け物の死角からナイフで攻撃する。
その攻撃は見事に化け物の腕を斬り落とす。
しかし、すぐに腕が再生を始める。
「う゛・・・」
それを見ていた女魔法士が思わず口を抑えた。
あまりのグロさに胃物が込み上げてきたのだろう。
ベルから見てもグロいのに普通の人間からしたらそれに輪をかけてグロく見えるはず。
不快な気持ちになる前にベルは化け物を首をナイフで刎ねた。
ベルにとっては問題なかったのだが、相対していた女魔法士は我慢できずにその場で吐き出してしまう。
「あ゛」
とりあえず女魔法士のところに行くと背中を優しく摩りながら謝る。
「ごめん」
女魔法士は胃物を吐き出し終わると蒼い顔でベルに応える。
「い、いえ・・・た、助かりました・・・」
「あの化け物だけど再生能力を持っていて倒すと塵になる」
ベルの言葉通り首と胴が泣き別れになった化け物は塵になって消えていく。
その光景を不思議そうに見ている女魔法士。
「確実に倒すなら首を刎ねる」
「く、首ですか?」
「うん、首」
「そ、そうですか・・・」
「ベルはほかの化け物を倒すから。 あと、今のことを多くの人に伝えて」
「わ、わかりました・・・」
それだけいうと近くにいた化け物たちに走っていき次々と首を刎ねていく。
それを見ていた女騎士たちや女魔法士たちは案の定、先ほどの女魔法士みたいに口を抑え、中には耐えきれずに胃物を吐く者もいた。
ベルと違い平和な王都で碌に戦ったことがない女騎士たちや女魔法士たちにとっては耐性がついていないのだろう。
これが前回共闘した冒険者だと慣れているのか気にすることもないだろうに・・・
ベルはできるだけ多くの化け物を倒しながら平民街へと走っていく。
行く手を遮る化け物だけど、その数は軽く100を超えていた。
それらを蹴散らせてようやく平民街に到着するとそこではリーンお姉さまが化け物5体を相手に槍を振るう。
「てやぁっ!!」
槍は化け物の肩や手を貫く。
リーンお姉さまはスキル【槍聖】を見事に使い熟している。
「はっ!!」
見事な槍捌きで化け物の心臓を一突きする。
しかし、化け物は心臓を貫かれて消滅する前に槍を掴むと放さない。
「くっ! このっ!!」
その隙に残りの化け物たちが一斉にリーンお姉さまに襲い掛かる。
「!!」
あまりのことに反応できないリーンお姉さま。
「とぉ」
ベルはリーンお姉さまの前に立つと両手のナイフで化け物たちの腕を斬った。
「大丈夫?」
「ベル!!」
「戦えるなら槍を構えて」
「あ・・・」
リーンお姉さまは自分の槍を見ると管の部分が折られていた。
如何に槍の達人でも武器がなければ実力を発揮できない。
ベルはマジックバックから龍鱗の槍を取り出す。
これは行く前にローザから預かった物だ。
もし何かあった時の護身用にと渡された。
多分この展開を見越していたのだろう。
「これ」
「え? これは槍?」
「早く」
「え、ええ・・・」
リーンお姉さまはベルから槍を受け取ると驚嘆する。
「なにこれ?! 今まで扱ってきた槍の中でも最高の物だわ!!」
リーンお姉さまが喜んでいると化け物が腕を再生し終える。
「くる。 あの化け物を確実に倒すなら首を刎ねる」
「首を刎ねるということは頭を潰せば同じこと!!」
言うが早いかリーンお姉さまは化け物の頭を刺突する。
バアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
普通なら刺さって終わりだろうが、槍の威力と風圧で化け物の頭が派手に弾けて吹っ飛んだ。
その音が周りに鳴り響く。
「え゛?」
あまりの威力にリーンお姉さまが固まった。
近くで見ていた女騎士たち、女魔法士たち、一緒になって戦っていた王都の冒険者たち、それに敵対している化け物たちも動きが止まる。
できた隙にベルは化け物たちの首を次々と刎ねていった。
リーンお姉さまの近くにいた化け物たちは塵になり消滅する。
「え、えっと・・・ベル、この槍は?」
「ローザの力作。 借り物だからあとで返して」
「う、うん、わかったわ」
我に返ったリーンお姉さまが力強く槍を構えた。
リーンお姉さまの勇ましい姿を見て女騎士たち、女魔法士たち、冒険者たちも我に返ると活路を見出したのか防戦から一転化け物に攻撃する。
逆に化け物たちは攻撃から防御に徹していた。
「いくわよ、ベル!!」
「うん」
ベルとリーンお姉さまはそれぞれの化け物に突っ込んでいく。
リーンお姉さまは先の一回でコツを掴んだのか槍を自分の身体の一部として振るう。
その攻撃は見事で穂先で化け物の頭を突いて次々と爆ぜていく。
ベルも負けじと化け物の首を斬り落としていった。
塵になる化け物たち。
そこにリーンお姉さまが高らかと声を上げる。
「みんな! 化け物の首を狙いなさい! そうすれば倒せるわ!!」
これを機に化け物の数が減り、同数になりやがて下回ることになる。
そして、ついに半数以下まで減らすと2対1で化け物を駆逐し始めた。
「ベル、ここで一気に決めるわ! 力を貸して!!」
「わかった」
武器を構えると化け物たちに突っ込む。
ベルとリーンお姉さまの快進撃はまだまだ続く。