300.開催までの間 後編
ヤッホ~♪ みんな元気? ご主人様から一番の寵愛を受けているフェイちゃんだよ~♪
ぼくは今国のお偉いさんたちと王都を歩いているんだ。
え? なんでそうなったのかって?
見回りだよ、み・ま・わ・り。
国王陛下の提案で戦闘力があって感知能力が高い者の中になんとぼくが選ばれたんだよ。
ぼくの【斥候】を使えば逸早く敵を見つけることができるでしょ?
これでも気配には敏感だから選ばれて当然だよ。
王都の平和はぼくが守るってね。
それじゃサクサクっと本編行ってみよう。
国際会議開催まであと3日。
ぼくは王都の見回りの1人として参加していた。
ナンゴー辺境伯を筆頭に、アルデーツさん、メーズサンちゃん、クーリアちゃんと一緒に歩いている。
ぼくの【斥候】、アルデーツさんの鷹の目、メーズサンちゃんの未来視、クーリアちゃんの風の精霊、これで王都の警備はばっちりだね。
しばらく歩いていると何もしていないナンゴー辺境伯がアルデーツさんに声をかけた。
「アルデーツ、命令だ。 帰れ」
「それはできません。 主を1人にするのは危険すぎるので」
「大丈夫だって。 こんなに強力な護衛がついているんだぜ? 俺のことは気にせずに館に帰れ。 これは命令だ」
「すみません、発言を間違えました。 護衛の女性たちの貞操が危ないので主を1人にできません」
それを聞いたぼくは突っ込んだ。
「え? もしかするとナンゴー辺境伯に近付くと妊娠させられちゃう?」
ぼくの冗談交じりの発言にメーズサンちゃんとクーリアちゃんは自然とナンゴー辺境伯から数歩離れる。
「おい! ちょっと待て! 触ってもいないのにどうやって妊娠させようっていうんだ!!」
「えっと・・・想像妊娠?」
ぼくの言葉にナンゴー辺境伯が呆れる。
「はぁ・・・あのなぁ、想像妊娠っていうのは想像だけであって実際には妊娠なんかしてないんだよ! そんなんで子供が生まれるならこの世に男なんていらないだろうが!!」
「辺境伯は物知りなんだね」
「主はこの世界でも指折りな女たらしですが、これでも一応は優秀な貴族です」
「アルデーツ! お前毒の吐き方が酷いぞ!!」
「事実ですから」
「うぐぅっ!!」
アルデーツさんの容赦ない一言にナンゴー辺境伯が撃沈してる。
ちょっと可哀想かな・・・
しかし、ここでナンゴー辺境伯に対して追い打ちが続く。
「我が主君であるモター様もナンゴー様には気を付けろと言われていたな」
「私もギューベ様よりナンゴー様にだけは気を許してはいけませんと念を押されました」
「モター! ギューベ! あいつら俺を何だと思っているんだ!!」
ナンゴー辺境伯はここにはいないモター辺境伯とギューベ辺境伯に対して怒りを露わにする。
もし、ここに2人がいればナンゴー辺境伯に更なる追い打ちをかけるだろう。
「フェイ、聞きたいことがあるのだが」
「なあに、メーズサンちゃん」
メーズサンちゃんが気になっていることを口にする。
「『この手に自由を』とはそんなに危険な集団なのか?」
「メーズサンちゃんは直接戦ったことはないの?」
「はい。 デューゼレル辺境伯領を襲ったモンスターたちが『この手に自由を』に関連していると聞いただけで直接はない」
「メーズサン殿、彼らは狡猾です」
「そうだね、クーリアちゃんの言う通りだよ」
クーリアちゃんの言葉にぼくも同意する。
「モオウォークの首都モウスで襲われたときは味方ごと攻撃して捕まるくらいなら自害するのですから」
「クーリア、それは本当か?」
「本当だよ。 不利と感じると敵味方を問わず攻撃したり命を絶つんだよ」
ぼくとクーリアちゃんの言葉にメーズサンちゃんが俄かには信じられないという顔をしている。
「まぁ、普通は信じないよね。 ぼくも何度も遭遇してなければ今のメーズサンちゃんと同じ反応をしているよ。 とりあえずは国際会議が終わるまでは警戒したほうがいいよ」
ぼくの言葉にナンゴー辺境伯たちはみんな頷いた。
国際会議開催まであと2日。
わたくしはグラント国王陛下に用意していただいた部屋で1人エルフの里で複写してもらった紙を見ていました。
すると扉をノックする音が聞こえてきます。
コンコンコン・・・
わたくしは見ている紙をマジックバックにしまうと扉越しに対応します。
「はい、どちら様ですか?」
『ユール嬢か? グラントだが入っていいかな?』
「国王陛下? はい、構いませんわよ」
わたくしは席を立つと入口まで歩き扉を開けます。
そこにはグラント国王陛下のほかに帝国の皇子と公国の王子がいました。
「突然押しかけてすまないのぅ。 シフトはいるか?」
「ご主人様なら今は外に出ておりますわ。 申し訳ないのですがいつ戻ってくるのかは聞かされておりません」
「そうか・・・ユール嬢、少し話をしたいのだが?」
「ええ、構いませんわ。 立ち話もなんですからどうぞ中へ」
わたくしはグラント国王陛下たちを部屋に招き入れます。
グラント国王陛下たちに部屋の備え付けられている椅子を勧めるとそれぞれ椅子に座りました。
わたくしは人数分のお茶を用意して配膳したあとに空いている椅子に座ります。
「それで国王陛下、話とは?」
「翼人の国について聞きたくてな。 我が国もそうだが帝国と公国も皇国と翼人の国が国交を結んだことしか聞かされていなくてな」
「翼人の国がどういうところなのか聞きたい」
「新規で加入する国ということで気になるものだから」
皇国は国交があるから翼人族がどういう者たちかは理解しているが、王国、帝国、公国からしてみれば突然現れた亜人種です。
警戒するなというのは無理な話でしょう。
「わかりました。 わたくしでよければ知りうる限りをお話ししますわ」
わたくしは開示しても問題ない情報だけをグラント国王陛下たちに話しました。
最後まで聞き終えたグラント国王陛下たちが質問してきます。
「ユール嬢から見た翼人族はどのような者たちなのか?」
「そうですわね・・・わたくしたちと然程変わりませんわね。 強いて言えば軍隊で統制されている感じですわ」
「皇国と共闘してこの大陸を支配しようとすることはありますか?」
「それはないと思いますわ。 もし、そうなら同じことができる公国が海人族と手を組んで今頃は大陸を支配しているはずですわ」
「特産物とかはありますか?」
「それはないですわ。 翼人族は崖を刳り貫いてできた場所に住んでいます。 食料は近くにある大量の島から調達していましたわ。 逆に人間族の道具全般、特に魔道具に興味がありましたわね」
それからわたくしたちは1時間ほど質疑応答をしました。
「なるほど、参考になった。 ユール嬢、礼を言う」
「お役に立てて何よりですわ」
「それでは失礼する」
グラント国王陛下たちは聞くことだけ聞いて席を立つと部屋を出て行きました。
わたくしは肩の荷が下りたのか、ホッとします。
「ふぅ・・・治世者も大変ですわね」
良識ある方々なので無茶はしないといいのですが・・・
国際会議開催まであと1日。
私とモター辺境伯、ギューベ辺境伯、それとエルフの女長老は平民街の市場に来ていた。
エルフの女長老は私に質問する。
「ルマ様、お勧めの植物の種はありますか?」
「果物はお勧めですね。 以前、エルフの里に植えた林檎を始め、蜜柑、葡萄、桃、梨、枇杷、柿、胡桃、あとは栗あたりですか」
「結構ありますね。 それらの種を買って里で育ててみます」
そこにモター辺境伯が反応する。
「そういえばルマ殿が首都テーレの郊外に植えた大量の栗の木だけど、実りある時期にこれまた大量に実ってすごく助かった」
「そうなんですか?」
「ええ、おかげでその当時は観光スポットの1つとしてすごく賑わっていた。 思わぬ収入にデューゼレルの経済が潤った」
「モター、その話もう少し詳しく聞かせてくれませんか?」
モター辺境伯の言葉にギューベ辺境伯が食いつく。
領主としては自治領の発展も仕事の1つなのでしょう。
「実は1年以上前の首都テーレのモンスター襲撃にルマ殿も少しだけ関わっていてな。 首都にちょっとだけ被害が出たんだ」
「モター辺境伯、恥ずかしいのでそれ以上は言わないでください」
私は多分・・・いや確実に真っ赤になっている顔でモター辺境伯に訴える。
あの時ご主人様への罵詈雑言でついカッとなって【氷魔法】で雹を無差別に降らせてしまい、首都テーレに甚大な被害を与えてしまった。
私にとってあれは黒歴史だ。
それを見たギューベ辺境伯とエルフの女長老が私を庇う。
「ルマ様を困らせるとは失礼ではありませんか?」
「モター、ルマ殿を辱めるのは可哀想ではないですか?」
「いや、まぁ、そのぉ・・・事実なんだが・・・」
「は、はい・・・」
モター辺境伯が言っているのは事実なので否定できない。
「話を続けるとシフトたちが復興支援をしてくれてな、その時にルマ殿が家の木材として栗を大量に植えたんだ。 建物の木材としても優れており、栗の実は食用としても重宝して美味だった」
モター辺境伯の言葉にエルフの女長老も同意する。
「私の里では林檎を植えていただいたのですが、これが今まで食べたことがないほど熟して甘い林檎の実を実らせました。 民も皆喜んで食べていました」
「ルマ殿は優秀なんですね。 よろしければモオウォークにも何か果物を植えてもらえませんか?」
「ご主人様から許可が下りれば私は問題ありません」
ギューベ辺境伯が明るい顔になる。
モター辺境伯とエルフの女長老も思案し始めた。
「あの・・・長老のところにはすでに【木魔法】を使える方がいるのでは・・・」
「彼女も【木魔法】のレベルを上げてめきめき上達しているのですが、ルマ様に比べたらまだまだです。 なのでルマ様にもう1度来てもらいいくつかの果物を育てていただければ・・・と」
国王陛下もそうですが治世者は皆自治領の発展に積極的なのがすごいです。
これくらいの指導力がないと領地を治めていくことはできないのでしょう。
「皆さん、ご主人様の許可が下りればですからね」
私はご主人様を通すように3人に釘を刺しておいた。