299.開催までの間 前編
国際会議開催まであと6日。
シフトたちは朝市にやってきていた。
ただし、人数が多すぎる。
シフトたち、ギルバート、サリア、グラント、マーリィア、ナンゴー、アルデーツ、モター、メーズサン、ギューベ、クーリア、リーン、タイミュー、イーウィム、帝国の皇子エアディズ、皇国の皇子チーロー、公国の王子ネクトン、エルフの女長老エレンミィア、ドワーフの鍛冶王ラッグズ、それと大勢の護衛たち。
あまりの豪華メンバーに周りがざわついた。
マーリィアとリーンはベルにさり気なくくっついている。
ベルは嫌そうな顔をしているが、いざ襲われた時には2人を庇う盾になるつもりでいた。
「い、いらっしゃいませ」
いつも元気で威勢の良い声で対応する店主もこの面々を相手に怖気付く。
マーリィアとリーンが離れるとベルは食材を選び始める。
ここでベルの機嫌を損ねれば朝食にありつけないと直感していたのだ。
ベルはいつも通り新鮮な食材を選んでいる。
「なぁ、ここにこんなに大物がいたら狙われるんじゃないか?」
シフトの何気ない質問にグラント、アルデーツ、メーズサン、クーリアが答える。
「大丈夫です。 わたしが常に少し先の未来を見ていますから」
「それに王都内を上空から私の能力で常に監視している」
「私が風の精霊を召喚して今周りの状態を確認させています」
「それに余の影を紛れ込ませているから心配する必要はない」
アルデーツ、メーズサン、クーリアが一体となってここを監視している。
グラントの影もいるとなるとこれを掻い潜って襲ってくるのははっきり言って不可能に近い。
ギルバートとサリアも気楽に話しかけてくる。
「それに護衛ならシフト君がいるから問題ないかな?」
「私たちの出番ははっきり言ってないですね」
「ギルドマスター1人でも十分じゃないですか?」
「さすがにこの人数となると厳しいかな」
ギルバートは苦笑し、サリアはシフトの強さを強調する。
「シフト様ならここにいる全員を無傷で守ってくれますわ」
「サリアさん、この人数を庇いきるなんて無理です」
実際には【次元遮断】を使えばこの場にいる全員を簡単に守れるがおんぶに抱っこされても困る。
そんな中、イーウィムが店頭に並ぶ食材をいろいろと見て、タイミューがフォローする。
「この大陸には変わった食べ物が多いのだな。 皇国でいろんな食べ物を食したがまだまだ知らない食べ物があるとは・・・」
「コノタイリクニハタクサンノタベモノガアリマスカラ」
ナンゴー、モター、ギューベも木の実をとると金を払って買っている。
「お、これこれ。 酒の肴に合うんだよな」
「ナンゴーと意見が一致するのは癪だがな」
「同感です」
「おい! お前ら酷くないか?! 仕舞には泣くぞ!!」
「どうぞ」
「ご自由に」
「くぅ・・・お前らなぁ・・・」
モターとギューベに打ち負かされてナンゴーはへこたれる。
エアディズ、チーロー、ネクトンは市場に並ぶ商品を見て興味を持った。
「あの食材珍しいな」
「こちらではこの食材がこの値段で売っているのか」
「手に入りにくい物も売っているな」
エレンミィア、ラッグズも物珍しそうに手に取る。
「あら、この食べ物私の国にも輸入しようかしら」
「金はあるのか? エルフの女長老よ」
「ええ、種を買うので問題ありません」
「そうか、頑張って育てるがいい」
やがてベルの買い物が終わると全員で貴族街へと戻っていった。
さすがに人数が多いので翌日からシフトたちだけで来たのは言うまでもない。
国際会議開催まであと5日。
わたしはギルバート、サリア、皇国の皇子、そしてドワーフ王と模擬戦をしていた。
「はっ!!」
「てやぁっ!!」
ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
わたしとギルバートの練習用の剣が交差する。
何合か打ち合うと動きを止めた。
「ローザ君、腕を上げたね」
「いえ、まだギルドマスターには遠く及びません」
「謙遜しなくてもいいよ。 正直僕以上の実力を持っているよ」
ギルバートが褒めると皇国の皇子とドワーフ王も同意する。
「朕の国でも武芸百般を謳う者がいるが、ローザ殿のようにあらゆる武器で技量を高めている者はそうはいない」
「わしも鍛冶で作った物を振るうことで自然と武術を身に着けたが、ローザ殿ほどの高みまでには至っていないな」
さすがに武器の扱いに慣れている3人から褒められると恥ずかしい。
「わたしの場合はスキルが特別だからです」
「たしかローザ様のスキルは【武器術】ですよね?」
サリアが確認するように聞いてきたのでわたしは頷いた。
「わたしの【武器術】はちょっと特殊で【剣術】、【槍術】、【斧術】、【鎌術】、【弓術】を内包しています」
「なるほど。 それらの武器を使うことでローザ殿の真価が発揮されるという訳か」
「生まれながらにして武の才能がある訳だ」
正確にはそれぞれの武器レベルを上げることでほかの武器も相乗効果で威力が格段に増すことは言わないでおこう。
「ローザ殿は武器の申し子ともいえるな。 わしが教えた鍛冶も砂が水を吸収するようにどんどんと習得していくからな」
「ドワーフ王に褒められるなんてすごいじゃないですか!」
「失礼ながらドワーフ王は鍛冶に関しては気難しいお方とお聞きしているので、その評価を聞いてびっくりしているよ」
「武器だけでなく鍛冶までも熟すとは・・・シフト殿の仲間にはとんでもない能力者ばかりであるな。 ローザ殿、シフト殿と一緒に皇国に来ないか?」
「わしのところに来い。 本格的に一から鍛冶を叩き込んでやるぞ?」
「申し出はありがたいですが、ご主人様の判断なくしては決めかねません」
わたしはご主人様を盾にして丁重に断った。
「それにわたしはまだまだ未熟者ですから」
わたしは自分が鍛えたオリハルコンの剣を鞘から抜く。
ご主人様がタイミューを連れてくる間、時間があったのでルマに手伝ってもらい剣を打ち直していた物だ。
鍛えなおした剣だがドワーフ王が鍛えた物には遠く及ばない。
「どれ、見せれみろ」
わたしはドワーフ王に剣を渡す。
「うむ・・・良いところまでは来ている。 もう一皮剥ければ頂に届くだろう。 なんならここにいる間は指導してやろうか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、どうせ国際会議が始まるまでは暇だしな。 数日だけだがわしが指導しよう」
「ありがとうございます」
ドワーフ王の鍛冶の指導と聞いてギルバート、サリア、皇国の皇子もすぐに一声かける。
「ドワーフ王、よろしければ僕も見学したいのですが」
「私もですわ」
「朕もお願いしたい」
「わしは構わないがローザ殿は?」
「わたしも構いません」
わたしとドワーフ王が許可すると3人は嬉しそうにしている。
このあと国際会議開催までの間、わたしはドワーフ王から鍛冶を三度学ぶことになった。
国際会議開催まであと4日。
ベルはマーリィアに招かれてお茶会に参加した。
タイミュー、イーウィム、それにリーンお姉さまも一緒だ。
「ベル、よく来てくれたわ」
「マーリィア、お茶ご馳走になる」
ベルが挨拶するとマーリィアは笑顔になる。
「うーん、やっぱりベルは可愛いわ」
「ちょっと! マーリィア王女殿下! 私の妹にべたべたしないでください!!」
「あら、リーン名誉伯爵。 お茶会で大声とはマナー違反ではなくて?」
「ぐぅっ!!」
リーンお姉さまがマーリィアの言葉に凹んでいる。
さすがにやりすぎだと感じたベルは一言いう。
「マーリィア、そんなことをいうならベルはもう帰る」
扉のほうへと歩き出すとそれを聞いたマーリィアが慌てだす。
「ベ、ベル?! 待って! 行かないで!!」
「マーリィア、反省」
「は、はい・・・」
マーリィアはしゅんとする。
対するリーンお姉さまは勝ち誇ったように胸を反らせて何か言おうとするが、その前にベルに気付くと言葉を飲み込んだ。
リーンお姉さまもマーリィアも反省したところでベルたちが席に着くとお茶会が始まる。
タイミューとイーウィムは表面化では平静を保とうとしているが裏では牽制していた。
2人ともご主人様が好きなのかお互いが危険な存在だとして認識しているのだろう。
言葉の端々にちょっとした棘がある。
しばらく話し合いが続くとイーウィムがベルとリーンお姉さまを見て疑問を口にした。
「ベル殿、先ほどリーン殿が妹と言っていたが貴公らは姉妹なのか?」
「・・・」
「そうよ。 私とベルは血を分けた姉妹よ」
ベルが黙っているとリーンお姉さまが勝手に答える。
「道理で似ている訳だ」
イーウィムはベルとリーンお姉さまを見比べた。
「ソウデスカ・・・シマイデスカ・・・」
それを聞いたタイミューが少し悲しい声で呟く。
ご主人様から聞いたけどタイミューは姉と妹をその手にかけたと言っていた。
辛い過去を思い出したのだろう、タイミューの顔が悲しい顔になる。
「ベルサン、リーンサン、イツマデモナカノイイシマイデイテクダサイ」
「「「?」」」
タイミューの言葉にリーンお姉さまもマーリィアもイーウィムも何なのかわからない表情をしていた。
だけどベルにはその意味が痛いほどわかる。
タイミューは自分の姉妹みたいにならないようにベルとリーンお姉さまの中がいつまでも変わらないことを切望していると。