1.誕生
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ・・・」
国歴1840年、季節は紅葉をむかえる時期。
ガイアール王国の極北ヘルザード辺境伯領にある貧しい村であるネルス村の更に貧しい家にて新たな生命が生まれた。
本来それは喜ばしいことのはずだが───
「ギャアギャアうるせぇぞガキ!! 殺すぞ!!!」
「ちょっとやめてよ! 金になるかもしれないのよ!!」
赤子の父親は金という単語で怒りを少し和らげた。
「チッ、わかったよ」
「ホントやめてよね。 何のためにあたしが痛いおもいをしたことか・・・」
その赤子の両親は間違いなく彼らだ。
だが、赤子を宥めるどころか疎ましく扱っていた。
「あと5年は我慢してほしいわ」
「・・・5年か・・・長すぎるだろ・・・」
なぜ彼らは赤子を産んだのか。
なぜ彼らはあと5年も我慢する必要があるのか。
それはこの国では満5歳になると誰もが神からスキルを授与されるのだ。
スキル次第では国や領主が子供を買い取ってくれるからだ。
大抵はその子供に合ったスキルを神が与えるが、なかには親のスキルを引き継ぐ家系もある。
彼らはスキルに恵まれず苦い思いをしながら生きてきた。
普通の親であれば自分たちが苦しんだ分、子供には自分たちより良い人生を謳歌させたいと思うだろう。
しかし彼らは産まれてきた我が子をただの金儲けの道具としてしか見ていなかった。
どんなスキルが与えられるかによって赤子の運命は変わるのだ。
彼らが会話する間も赤子は泣き続けていた・・・