294.タイミューを連れて王国へ
シフトたちは『この手に自由を』の男を疲弊させ魅了しできるだけ多くの質問に答えさせた。
男が持っている情報は最初に聞いた情報以外に特に有用なものがない。
獣王国にほかの『この手に自由を』の構成員がいるかもわからないとか。
仮にいた場合は2ヵ月後の国際会議に合わせて動きがあるのではとシフトたちは睨んでいた。
タイミューがいない隙を狙って獣王国を攻撃される可能性があるからだ。
それを知ったタイミューが何かしらの対策を講じようとするが妙案が浮かばない。
「シフトサン、ナニカヨイアンハアリマセンカ?」
「うーん、タイミュー女王陛下にお聞きしたいのですが、獣人は魔法は使わないのですか?」
「ソウデスネ・・・アマリマホウヲツカウコトハナイデスネ」
「翼人たちと同じか・・・」
シフトの考えではどうやら人間族以外の種族はその特性を生かした生活に特化しているようだ。
そこで獣人たちも翼人族や巨人族みたいに魔法が使えれば、もっと自衛や生活がし易くなるのではと考えた。
「タイミュー女王陛下、獣人たちに魔法の適正があるか調べてみてはどうでしょうか?」
「マホウノテキセイ? ソンナモノガワカルノデスカ?」
「はい、僕が調べることができます。 もし、今回みたいに水源とかを狙われても魔法があれば生きていける可能性がありますし、自衛にも役立ちます」
タイミューはしばし考えると回答する。
「デキレバシラベテモラエマセンカ?」
「わかりました」
シフトたちは早速獣人たちの能力の調べることになった。
まずはタイミューを始めとした王都に住む者たちだ。
[鑑定石]で能力を調べると魔法が使えるが主に身体強化に特化している。
例えば【火魔法】の攻撃力上昇、【風魔法】の敏捷性上昇、【土魔法】の防御力上昇のように身体的な強化はするが、火球を作ったり風の刃を飛ばしたり土の槍を作るようなことはしないようだ。
魔法を使えることを知らずに無意識で使っているのが獣人たちの現状である。
能力が解ればあとは使い方を教えるだけだ。
ルマは【水魔法】と【土魔法】と【氷魔法】と【木魔法】と【雷魔法】を、ベルは【鑑定】を、ローザは【火魔法】を、フェイは【風魔法】と【闇魔法】を、ユールは【光魔法】と【回復魔法】全般をそれぞれ使える者に指導する。
タイミュー自身も【雷魔法】が使えることは知らずに無意識に使っていた。
ルマが使い方を教えるとタイミューは意識して【雷魔法】を発動してみる。
そのあまりの速さについていけず、タイミューがぶつかってシフトを押し倒したことでルマたちが殺気だったのは言うまでもない。
シフトたちは王都での調べが終わると、タイミューとその護衛たちとそれに各属性魔法が使える者たちともに北の町村から魔法の適性を調べていく。
しかし、これがかなりの時間がかかる作業になるとはシフトたちは知る由もなかった。
以前タイミューを女王にするべく国内の町や村を回り、その時は獣人にタイミューの意思を伝えるだけだが、今回は獣人たちを1人1人[鑑定石]で調べなければならない。
そして、それぞれに合った魔法を教えていく必要がある。
その結果、時間がすごくかかってしまった。
シフトたちが獣人たちに全員に魔法を教え終わったのは始めてから1ヵ月半が経過した頃だ。
ようやく終わったが国際会議の開催までは1ヵ月を切っていた。
馬を取り換えながら急いで馬車で移動しても1ヵ月以上はかかる。
「シフトサン、ドウシマショウ・・・イマカラデハコクサイカイギニマニアワナイ」
タイミューとしては獣王国代表であるため出席しなければならないのに、王国まで行くには時間が足りないのだ。
シフトとしても国際会議に参加を表明した以上は王国に戻らなければならない。
シフトたちだけなら魔動車で行けば余裕で行けるだろうが、タイミューが一緒となると話は変わってくる。
タイミューが護衛もつけずに現れれば他国からあまり良い印象を与えないだろう。
最低限御付きと護衛、それに馬車は必要だ。
御付きが1人、護衛は最低でも10人でそのうち1人は御者ができる者、馬が11頭、儀式装飾車が1つ、あとは滞在期間中のタイミューが着る衣装、人数分の食料。
普通に考えればこんなところだろうか?
「前回同様『この手に自由を』を連れて行った方法でいくか・・・」
【念動力】と【空間転移】のコンボを使えば期日内には間に合うだろう。
問題はどの順番で連れていくかだが、普通に考えれば護衛を先に送り、その次に馬、最後にタイミューとその御付きの順番で問題ないはず。
「タイミュー女王陛下、期日までに王国へ到着する算段が整いました」
シフトは今考えたことをタイミューに話す。
すべてを聞き終えたタイミューはしばらく考えたあとに口を開く。
「シフトサン、ソレデイキマショウ」
「僕たちは城の内庭にいますので、用意ができたら声をかけてください」
「ワカリマシタ」
タイミューはそれだけいうと城内に入っていった。
「みんな、聞いての通りだ。 まずは護衛とあとは『この手に自由を』の男と一緒にルマたちも王国で待機してくれ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトは【空間収納】を発動すると先日作った運搬用の檻を取り出すと空間を閉じた。
しばらくするとタイミューが今回連れていく予定の兵士を男女11人と『この手に自由を』の男を連れてきた。
「シフトサン、マズハコノモノタチヲオネガイシマス」
「わかりました。 みなさん、申し訳ないのですがこれに乗ってもらえませんか?」
兵士たちは檻を見て嫌な顔をするが、タイミューが命令・・・というかお願いをする。
「シフトサンノユウコトヲキイテ」
「タイミューサマガイウノデアレバシカタガナイ」
『この手に自由を』の男を放り込み、兵士たちは檻に1人1人入っていった。
「私たちも入ります」
ルマたちも檻に入ると閉めた。
「それでは行ってきます」
それだけいうとシフトは檻の上に乗り【念動力】を発動させて檻を宙に浮かす。
ある程度の高度まで上げると【空間転移】を発動して王国へと転移をする。
何度か転移を繰り返すことでガイアール王国の王都スターリインの王城が見えてきた。
今いる位置からだと距離にして約10キロほどだ。
シフトは眼下に誰もいないことを確認するとゆっくりと降下する。
地面に辿り着くと檻を開けてルマたちと兵士たちを解放した。
窮屈だったのか皆早く檻から出てくる。
「僕はまた獣王国に戻って明日は馬を連れてくるよ。 その間ここにいてくれ。 フェイ、周囲の警戒を頼む」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトは檻の上に乗り【念動力】で檻を宙に浮かすと【空間転移】で獣王国へと戻っていく。
翌日から7日間は獣王国で檻に馬を2頭ずつ入れてルマたちのところへ運んだ。
往復を繰り返して9日目、ついにタイミューをガイアール王国を連れていくことになった。
「タイミュー女王陛下、これからガイアール王国へお連れします。 荷物がありましたらこのマジックバックに入れてください」
シフトが差し出した縞柄のマジックバックはルマたちに予め頼んで用意させたものだ。
「アリガトウゴザイマス」
御付きが受け取ると衣装が入った箱などを次々と入れていく。
すべての持ち物を入れ終わるとそれを丁重に持つ。
「タイミュー女王陛下とその御付きの方は、儀式装飾車にお乗りください」
シフトの言葉に頷いてタイミューと御付きは馬を固定していない儀式装飾車に乗る。
「それでは出発します」
シフトは8日間繰り返したように儀式装飾車の上に乗ると【念動力】を発動させて儀式装飾車を宙に浮かす。
『『キャッ!!』』
車内から可愛い悲鳴が2つ聞こえてくる。
シフトは心配になったので声をかけた。
「大丈夫ですか?」
『ダ、ダイジョウブデス!』
「それではもう少し上昇しますよ」
ある程度の高度まで上げるとシフトが声をかけた。
「これから移動します。 絶対に外に出ないでください」
『ワ、ワカリマシタ・・・』
檻と違い内側から開けられるので、うっかり開けて転落しましたじゃ洒落にならない。
注意は必要だ。
シフトは【空間転移】を発動して王国へと転移をする。
何度か転移を繰り返すとルマたちがいる場所が見えた。
一気に転移するとルマたちが迎えてくれる。
「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」」
「ただいま。 タイミュー女王陛下を連れてきたよ」
兵士たちが儀式装飾車の扉を開ける。
そこにはタイミューと御付きが座っていた。
「タイミューサマ、ナガタビオツカレサマデス」
「エ、エエ・・・モウツイタノ?」
「アチラヲゴランクダサイ」
兵士の1人が王都スターリインの王城を指さす。
「ア、アレハオウコクノシロ?!」
「ホントウニツイタノデスネ」
あまりのことにタイミューと御付きの目が点になっている。
我に返るとタイミューがシフトを見る。
「シフトサン、アリガトウ。 コレナラコクサイカイギニマニアイマス」
「まだ期日までは10日以上あります。 今から連絡すれば国王陛下が対応してくれるはずです」
「ソウナノデスカ? ソレナラダレカツカイヲダシマショウ」
兵士の1人が言い出す。
「ワタシガイッテキマス」
「オネガイシマス」
「ハッ!!」
兵士は一礼して王都スターリインの西門を目指して馬を走らせた。
「ソレデハワレワレハウマヲコテイシマス。 ソレマデオマチクダサイ」
「ワ、ワカッタワ」
残った兵士たちは儀式装飾車に4頭の馬を固定していく。
やがてすべての箇所に馬を固定するとタイミューに報告する。
「タイミューサマ、オワリマシタ」
「アリガトウ」
それからしばらくして王都の方角から何かがやってくる。
よく見ると先ほどの兵士を筆頭に後ろにはグラントと何名かの部下がこちらにやってきた。




