293.尋問?
シフトは食事をしながらルマたちとタイミューにグラントとのやりとりを話す。
「タイミュー女王陛下、国王陛下は『この手に自由を』を快く引き取ってくれました」
「グラントサンガキョウリョクテキデタスカリマシタ」
グラントとしてもタイミュー率いる獣人の力が脅威であることは重々承知している。
ここで印象を良くしておけば外交もスムーズに行われるというものだ。
「それとみんなにも聞いてほしいんだけど、僕も2ヵ月後の国際会議に参加することになった」
「ご主人様、本当ですか?」
「ああ、そこで『この手に自由を』についての情報を共有する予定だ」
「まぁ、ぼくたちが一番頻繁に会っているからね」
「情報量は一番多い」
ベルとフェイの言う通り『この手に自由を』に関してだけはシフトたちが一番遭遇している。
シフトとしても危険性を訴えるのに丁度いい機会だろう。
「フェイ、1人残した『この手に自由を』の男はどうしている?」
「今、この王城の牢に入れてもらってるよ」
「もう尋問したか?」
「簡単な問答だけならルマちゃんや女王陛下も交えてやったけど、一切喋らなかったよ」
フェイはルマたちがいるので過激な手段はとらずに普通に口問口答だけに留めたのだろう。
もしルマたちがいなければ、どこまでも冷徹な手段をとって情報を吐き出したに違いない。
「そうか、それなら明日僕が情報を聞き出してみるよ」
「デスガ、ドウヤッテジョウホウヲヒキダスノデスカ?」
「それはすでに考えてあるので問題ないです」
「ワカリマシタ。 シフトサンニオマカセシマス」
タイミューの言葉にシフトは頷いた。
食事も終わりタイミューが用意してくれた客室へと案内される。
そのあとはルマたちの留守中のことを聞いて、しばらくしてからシフトは眠りについた。
深夜、ふと目が覚める。
周りではルマたちが気持ち良さそうに寝息を立てて眠っていた。
シフトはそっとベッドから抜け出すとバルコニーへと移動する。
空には月が優しい光を放ち、夜風が心地よい。
その時、どこかで扉が開いた音が聞こえる。
誰かがシフトと同じく外に出てきたのだろう。
「シフトサン?」
不意に聞こえた声にシフトはそちらを見る。
そこにはナイトドレス姿のタイミューが1つ隔てたバルコニーに立っていた。
「タイミュー女王陛下? なぜこんな場所に?」
「ナントナクデス。 ソレトイマノジカンハジョウオウデハナイデス。 タイミューデス」
シフトの言葉にタイミューは不満な顔で抗議する。
公務ではないといいたいのだろう。
「お久しぶりです、タイミューさん。 元気そうで何よりだ」
「ハイ。 シフトサンモカワラナイデスネ」
シフトとタイミューは気軽に挨拶する。
「ベルとフェイがここに来たいというから来てみれば、トラブルが発生して碌に挨拶もできなかったな」
「ワタシモスグニアイサツヲシタカッタケド、アノトキハジョウオウトシテノシゴトヲユウセンシタカラ」
2人とも苦笑いをする。
「国のほうはどんな感じかな?」
「モンダイナイデスヨ。 ミナキョウリョクシテクレルノデタスカリマス。 シフトサンハ?」
「僕はトラブル続きだよ。 別に波乱万丈な人生を送りたいとは思ってなかったんだけどね」
「ヒルニルマサンタチカラキキマシタ。 ツギカラツギヘトオモシロイハナシガキケテタノシカッタデス」
「おいおい・・・」
シフトがいない間にルマたちがタイミューに何を話したのか気になってしまった。
「あとでみんなから何を話したのか聞かないといけないな」
「ダメデスヨ、オコッテハ」
「怒っていません。 ただどんなことを話したのかものすごく気になるもので・・・」
「ソレハシフトサンノブユウデンデス」
タイミューは嬉しそうに話す。
一方、シフトは自分の武勇伝がどのように伝わったのか気になっていた。
実は武勇伝ではなく蛮行ではないかと・・・
「イロイロナクニヲマワッテイロイロナタイケンヲシタトキイテイマス」
「まぁ、間違ってはいないかな・・・色々な国を回っては合っているけど、色々な体験はフェイが面白おかしくいったんだろうな」
「シフトサン、ヨクワカリマシタネ。 スゴイデス」
タイミューは驚きの声を上げる。
シフトは逆に予想通りなことに頭を悩ませた。
(うん、フェイにはあとでお灸が必要だな)
そんなことを考えると部屋から可愛らしいくしゃみが2回聞こえてきた。
『クシュン! クシュン!』
どうやらシフトの雑念を感じたのかフェイがくしゃみをしたらしい。
それを聞いたシフトは思わず笑ってしまった。
「ふふふ・・・どうやら夜風が中に入って部屋を冷やしてしまったようだ。 タイミューさん、僕はそろそろ寝るよ」
「ソウデスカ? ナゴリオシイデスケドシカタナイデスネ」
「それじゃ、おやすみなさい」
「オヤスミ、シフトサン」
2人は示し合わせたように部屋へと戻っていく。
シフトはバルコニーへの扉をそっと閉めてベッドで横になる。
そのまま目を瞑ると眠ろうとした。
ガサゴソ・・・
シフトの近くで物音がする。
「?」
しばらくするとシフトのベッドに入り込んできてぴったりくっつく。
(この豊満な胸の感触はもしかして・・・)
シフトは嫌な予感がして目を開けるとそこには頬を膨らませて怒っているルマがいた。
「ル、ルマ・・・」
「ご主人様、今回だけは大目に見てあげます」
ルマの拗ねた声が聞こえるとそのまま抱き着いて放そうとしない。
タイミューがシフトに向ける目は好きな男を見る目だ。
しかし、女王としての立場がある故にこのような形で話をするのは仕方ないと同じ女であるルマは割り切る・・・割り切るのだがどうしても感情が優先されてしまう。
もし、これがタイミューのところに行って一夜を過ごしたならさすがのルマも許さなかっただろうが、話だけで終わって内心ホッとしている。
だが、寂しさは拭えずついついシフトのベッドに潜り込んで抱き着いてしまった。
「はぁ・・・仕方ないな。 そういえばルマへの褒美がまだだったな。 それなら明日の朝まではこのままでいようか?」
ルマは自分の行動を顧みると恥ずかしさから頬を染めてシフトの胸に顔を埋めた。
「は、はい♡」
それからシフトとルマは朝まで一緒に寝るのであった。
因みに翌朝ベルたちから糾弾されたのは言うまでもない。
翌日───
シフトたちはタイミューとともに地下にある牢を訪れた。
そこには『この手に自由を』の男が1人だけいる。
シフトは牢に入り猿轡をとると男に質問した。
「お前に聞きたいことがある。 獣王国で何をしようとしていた?」
「・・・」
男は無言を貫く。
「もう1度聞くけど何をしようとした?」
「話すことなど何もない。 さっさと殺せ」
男はそれだけいうと再びだんまりを決める。
これでは埒が明かないのでシフトは別の手段をとることに決めた。
「ベル、ユール、タイミュー女王陛下を連れてここから出ろ」
シフトがこれから拷問をすることを察したタイミューが話しかける。
「シフトサン、ソレニハオヨビマセン。 ワタシハココニノコリマス」
「しかし・・・」
「コレモジョウオウノツトメデス」
「・・・わかりました。 ただ、これから不快になる行為をしますので目を逸らすことをお勧めします」
シフトはそれだけいうと牢から出てルマに命令する。
「ルマ、【気温魔法】でこの牢の中の温度を上げろ」
「畏まりました」
ルマは【気温魔法】を発動すると牢の中の温度が徐々に上がっていく。
15度・・・20度・・・25度・・・30度・・・
牢の中が熱くなり男の顔に汗をかき始める。
35度・・・40度・・・45度・・・50度・・・
すでに砂漠並みに熱くなった牢の中では男の顔も汗だくである。
「話す気になったか?」
「・・・」
男は未だに無言を貫く。
55度・・・60度・・・65度・・・70度・・・
普通の人間が住める温度の限界を超えた。
75度・・・80度・・・85度・・・90度・・・
サウナに入っている温度へと上昇する。
男の顔は滝のように汗をかいていた。
95度・・・100度・・・
料理や鍛冶みたいな火を使う職業でもない限り普通ではありえない温度にまで上昇していく。
これ以上上げると熱中症で男が死ぬ可能性がある。
「ルマ、今度は真逆だ」
「畏まりました」
ルマは【気温魔法】を解除すると再度発動して今度は温度を徐々に下げていく。
15度・・・10度・・・5度・・・0度・・・
牢の中が寒くなり男は身震いし始めた。
-5度・・・-10度・・・-15度・・・-20度・・・
男の吐く息が白くなる。
-25度・・・-30度・・・-35度・・・-40度・・・
あまりの寒さに歯と歯がぶつかり、カチカチという音が地下牢に響く。
-45度・・・-50度・・・
男の身体からは湯気が出て、空気中でそれが凍っているように見える。
「まだ話す気にならないか?」
「こ、殺せ・・・」
これ以上下げると低体温症で男が死ぬ可能性がある。
「ルマ、解除しろ」
「畏まりました」
ルマは【気温魔法】を解除すると男は助かったとばかりに体温を取り戻そうと身体を温め始める。
「はぁはぁはぁ・・・」
「なぁ、そこまで頑張らなくてもいいんじゃないか?」
「お、お前には関係ない」
男はそれだけいうのが精一杯だった。
肉体だけでなく精神的にも限界が近いのだろう。
「ご主人様、ぼくにやらせてよ」
「フェイ? まぁ、殺さないように」
「任せてよ。 それじゃいっくよぉ~♪」
フェイは男に手を翳すと【闇魔法】を発動して魅了する。
本来、魅了はあまり人には効かないが、精神的に限界な男には抵抗できず完全に魅了した。
男はその場でだらんとする。
「・・・」
フェイは魅了が効いたかわからないので命令してみる。
「とりあえず顔を上げて」
「・・・はい」
男は顔を上げると目は虚ろな状態だ。
「軽くジャンプしてみて」
「・・・はい」
男はその場で軽くジャンプを繰り返す。
「止まって」
「・・・はい」
男はジャンプをやめる。
「それじゃ『この手に自由を』がここで何をしようとしたのか聞かせて」
「・・・はい、俺たちは化け物を作る実験をしていました。 俺の担当は獣王国です」
男は獣王国で化け物を作る実験をしていたことを告白する。
「それじゃ今後の予定を聞かせて」
「・・・はい、実験が成功したら2ヵ月後に開催される国際会議を狙う予定です」
男は国際会議を狙うことを告白する。
「数は? 規模はどれくらいかな?」
「・・・はい、数は・・・ぐはぁっ!!」
男は突然苦しみだした。
「はぁはぁはぁ・・・お、俺に一体何をした?!」
「あれ? もしかして魅了が解けた?」
「魅了だと?! かくなる上は・・・」
男が自害しようとする前にルマが【氷魔法】で素早く口の中を凍らせた。
「あががが・・・」
鼻から息ができるようにしてあるので死にはしないだろう。
「ルマ、ナイス」
「とっさに準備しておいてよかったです」
そのあとフェイが【闇魔法】で男を眠らせてから、ルマが【氷魔法】を解除し、再び猿轡をするのであった。




