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289.川の浄化 〔※残酷描写有り〕

化け物を倒したシフトは周りに化け物がいないことを確認すると【即死】を無効にして、地面に落ちている黒い球を拾い上げる。

空間に黒い球をしまい、そのあと複数のロープを取り出して閉じた。

「ユール、川の浄化を引き続きお願い。 僕は『この手に自由を(フリーダム)』を拘束するから」

「畏まりました、ご主人様」

ユールは川に手を入れると【光魔法】を発動して再び浄化を始めた。

その間にシフトは生け捕りにした『この手に自由を(フリーダム)』の構成員を次々と拘束する。

魔法を封じる枷と自害しないように猿轡も忘れない。

程なくして男たち全員の拘束が完了する。

「ふぅ・・・終わった。 だけど、どうやって連れて行こうか?」

シフトの【五感操作】で触覚を剥奪しているとはいえ人数が多い。

「うーん、数珠繋ぎにして連れて行くのがいいのかな? 動きを封じているから逃げることはないとは思うけど・・・」

シフトとしては一刻も早く男たちをタイミューに渡して牢に入れておきたい。

だが、ユールをここに置いて行く訳にもいかず、シフトは悩んでいた。

「しまったな・・・こんなことならルマたちの中からもう1人連れてくれば・・・いやダメだろうな・・・」

ルマの各町村に赴いて水の提供することも重要だし、それを狙われる可能性を考慮してフェイに護衛を頼んだ。

ベルとローザも獣人たちを守るために化け物と化した者たちの処理を任せている。

どれも重要度は同じくらいで、あの時シフトが下した判断は決して間違ってはいない。

一番良いのはルマたちが各町村への水の提供が滞りなく終わり、ベルたちが化け物たちの駆除を終えて、4人がここまで来てくれること。

もしくはユールの浄化が成功することだ。

そうすればシフトは行動できる。

「しばらくはここでユールの護衛と『この手に自由を(フリーダム)』が来た時の対処に専念するか・・・」

シフトはルマたちを信じて待つことにした。






私は今フェイとともに川沿いにある獣人たちの各町村を上流から下流に向けて回っていた。

【風魔法】で風の防壁と速度向上させて移動している。

「ルマちゃん、魔力は大丈夫?」

「平気よ。 ご主人様のスパルタ教育で魔力量は驚くほど上がっているから。 それに魔力が少なくなったらマナポーションを使うわ」

「なら問題ないね」

フェイがなぜ心配するかというと私が救った町村がこれで2ヵ所目だからだ。

町村を訪れ、川とは反対の場所に【地魔法】で地面を陥没させて、そこに【水魔法】で大量の水を張る。

その穢れのない水を見て、そこに住む獣人たちは大いに喜んでくれた。

「それにしても獣人たちは誰も化け物になっていなかったわね」

「多分、感覚が人間族と違うんじゃないかな? 嗅覚が発達しているとか?」

「よくわからないけど獣人たちが化け物化しなくて助かったわ」

私たちは次の町村に急いで向かっている。

川を見ると未だに濁流が流れていた。

「ねぇ、ルマちゃん。 いっそのこと川を氷らせちゃうのはどうかな?」

「そんなことしたら大変なことになるわよ。 行き場のなくなった水はどうするつもり? 氷らせるなら源流からやっていかないとダメよ」

「あ、そっかぁ・・・」

フェイは川を氷らせたときの状況を想像したのだろう。

氷らせた場所が被害にあうことを。

「それよりも次の町村はどこかしら?」

「タイミューちゃんの情報だと川に隣接している町村は合わせて10ヵ所ほどだって聞いたよ」

「それなら最低でもあと8ヵ所あるということね」

「そうなるね」

ご主人様とユールが上手く対処してくれれば水に苛まれることもなくなるだろう。

そうこうしているうちに次の町村が見えた。

「さて、頑張りますか」

「護衛は任せて」

私たちが辿り着いたのは小さな村だった。

その村の村長に事情を説明して川とは反対側に大きな陥没を作り、そこに大量の水を張る。

村人である獣人たちは皆喜んでいた。

「アリガトウゴザイマス。 タスカリマシタ」

「いえ、お礼ならタイミュー女王陛下に申し上げてください」

「ところで獣人って嗅覚がいいの?」

フェイが村長に獣人について質問する。

「アナタタチニンゲンゾクヨリカハイイデス」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「当然といえば当然かしら」

私個人としては予想通りな答えだったのであまり驚いてはいない。

そんな時、川のほうから歓声が聞こえてきた。

「オイ、ミロ! ミズガキレイニナッテイク!!」

「ホントダワ!!」

「モトドオリニナッタ!!」

私とフェイも川を見に行くとそこには川の底が見えるほど綺麗に透き通った水が流れている。

それは清涼感を感じるほどだ。

水からは光輝く魔力を感じる。

「この水から感じる魔力は! ユールね!!」

「さすがユールちゃん! 上手く浄化できたみたいだね!!」

私とフェイはハイタッチする。

「あとは飲み水として問題なければ解決だね」

「ベルがいれば【鑑定】をしてすぐにでもわかるのに・・・」

「それでどうするの? とりあえずほかの町村も行ってみる?」

「そうね・・・確認はしておきましょう。 必要なら水を提供すればいいわ」

私とフェイは残りの町村も見て回ることにした。






ベルとローザは濁流を見ていた。

化け物化した魚たちだが、陸に上がるとみんな化け物の身体に耐え切れずに塵となって自然消滅していく。

「お魚可哀想」

「ああ、まったく許せないな」

ベルもだけどローザも怒りを露わにしている。

「今のところは化け物化した魚たちが襲ってくることはないが油断は禁物だ」

「うん、わかってる」

過去にガイアール王国の王都でマーリィアを助けたあとに油断して『この手に自由を(フリーダム)』から火球の直撃を受けた経験がある。

なので絶対に油断したらダメ。

ベルとローザは警戒しながら下流へと歩いていく。


ベルたちは最初一番上流にある町村まで行くとご主人様が班分けしたように二手に分かれて行動を開始した。

ルマは村に大きな陥没を作り、そこに大量の水を張る。

終わるとフェイを引き連れてすごい速さで下流へと走っていった。

2人とも多分【風魔法】を使ったんだろう。

ベルとローザは村が問題ないことを確認すると歩いて下流へと向かう。

途中何度か川の水を【鑑定】したが、水の中に大量の毒薬が混じっており、飲めば化け物へと変化するだろう。


ベルとローザが下流へと歩いているとここで川が増水している。

どうやらもう1つの上流から流れた水がここで合流しているらしい。

よく見るとその上流は澄んだ水だ。

ベルはもう1つの上流の水を【鑑定】する。

飲み水にしても問題ないほど綺麗な水だ。

「あっちの水は綺麗」

「そうだな」

ベルとローザは合流地点を見る。

そこでは信じられない光景が展開していた。

化け物化した魚同士が仲間を食べている。

「共食い」

「うわぁ・・・結構グロいなぁ・・・」

魚の本能なのだろう、お互いに齧りあっている。

その強靭な歯で相手の頑強な鱗に噛みつく。

身ごと食い千切りガツガツ食べている。

噛まれたところから出血したり、身が見えていたり、骨が見えたり、中には内臓まで見えているのもいた。

酷いのだと頭を噛まれ脳が見えたり、目が飛び出しているのもいる。

ローザの言う通りグロい。

「ローザ」

「なんだい?」

「なんで『この手に自由を(フリーダム)』は川に毒薬を撒いたんだろう?」

「多分だけど、川にばら撒いて魚が飲み込み、その魚を獣人たちが食べて、その獣人たちを化け物にする計画だったんじゃないのかな?」

「うん、理解した」

ローザの説明を聞いて納得した。

その方法であれば多くの獣人を化け物にできると。

だけど、その前の段階で魚たちが化け物化したら意味がないような気がする。

「もっとも人が口にする前にああなっては意味がないけどね」

「同感」

ベルとローザの前では今も尚共食いをやめない魚の化け物たちがいた。

そんなことを話していると根源である川のほうから綺麗な水が流れてくる。

「おや? 水が綺麗になったな」

「調べる」

ベルは【鑑定】を発動すると川の水が【光魔法】により浄化されたことを確認した。

これならば飲み水としても問題ないどころか身体にも良く、活力も与えるだろう。

「水が元に戻った」

「ユールか? さすがだな」

ユールが浄化した水は魚の化け物たちが触れると皆争いを止めて川に倒れる。

そして、そのまま塵になって消えていく。

「成仏した」

「ま、まぁこれで問題は解決したんじゃないか?」

「うん、ご主人様たちのところに戻る」

「うーん、まぁいいか・・・」

ベルとローザは踵を返すとご主人様とユールがいる上流へと歩き始めた。






ユールは川の上流にて浄化を続けていた。

「ユール、魔力は持ちそうか?」

「まだまだ大丈夫ですわ」

「それなら引き続きお願いするよ」

「任されましたわ」

しばらくユールが頑張っていると下流から誰かがやってきた。

「ご主人様」

「ユール」

ベルとローザが手を振りながらこちらにやってくる。

「ベル、ローザ、どうした? 何か問題でもあったか?」

「ユールの【光魔法】で川が浄化したことを確認した」

「魚の化け物たちも塵になって消滅したよ」

「そうか! やったな、ユール!!」

「ありがとうございますわ!」

ユールは【光魔法】で川が浄化できたことを喜んでいた。

「よし、それならベルとローザにはここでユールの護衛を頼む。 僕はこの男たちを連れて一旦タイミュー女王陛下のところに戻り、そのあと下流に行って川が問題ないことを確認してくるよ」

「「畏まりました、ご主人様」」

シフトは【念動力】を発動すると目の前の木が宙に浮く。

それに連動してしっかりと木に括り付けた紐とその先にいる男たちも宙に浮いた。

どうやって王都まで連れて行こうかと悩んだ末に思いついたのが、男たちを木に括り付けて【念動力】で運ぶ方法だ。

これなら全員を一度に運べるだろう。

シフトは先頭のほうを手で掴むとある程度高度を上げる。

そして、そのままタイミューがいる王都へと一旦戻るのであった。


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