27.ベルと料理
ゴブリン討伐の翌日、冒険者ギルドに行くと中に入れない人の多さにビックリした。
従業員が列整理をし、中には冒険者だけでなく今回の討伐で戦死した遺族と思われる人たちも混じっていた。
ギルド内からは受付嬢たちの対応する声がここまで聞こえてくる。
『次の方どうぞ・・・』
『今回の報奨金は・・・』
『障害に対する・・・』
(これは昨日サリアさんのところに行っておいて正解だったな)
そんなことを考えていると、
「これはすごいですね」
「人がいっぱい」
「今日来ていたらこれだけで終わっていたかもな」
「ぼくも対処で待たされたくないな」
「皆さん生活が懸かっていますから仕方がないことですわ」
冒険者ギルドを見ながらルマが質問してくる。
「ご主人様、今日はどうしましょう?」
「そうだな・・・たしか平原って戦場になってなかった南西にも広がっていたよね? そしたらそこでのんびりしないか?」
シフトの一言にベルがすぐに答える。
「ご主人様、それがいい」
ルマたちもベルが良いならと首を縦に振って快諾した。
「それじゃ、これから雑貨屋で食器と鍋と薪を市場で食料を買いに行こう」
「おおーーー」
食器・鍋・薪調達はルマ、ローザ、フェイ、食料調達はシフト、ベル、ユールの2手に分かれて行動を開始した。
途中ベルに食料を鑑定した結果を色々と聞いた。
「この野菜、苦い」
「この香辛料、辛い」
「この果物、甘い」
っと抽象的な言葉が多かった。
鍋と食材を入手し、西門に歩いていくと衛兵アルフレッドが声をかけてきた。
「よお、坊主。 今日も外に出るのか?」
「ええ、今日は外でのんびりしようと思いまして」
「ほほうぅ・・・デートか?」
「ええ、そのようなものです」
「別嬪さんたちといちゃいちゃラブラブ・・・うらやましいなぁ」
「昨日はみんな頑張ってくれたのでご褒美をあげないとね」
その言葉にフェイが反応する。
「ぼくもご主人様にあげたいよ」
フェイが身をくねくねするとルマ、ローザ、ユールがフェイを睨んだ。
「「「フェイ(さん)!!」」」
「ちょ、冗談だよ。 ごめんなさい」
夜這いの件を思い出したのかフェイが身を縮める。
「ああ・・・とりあえず行ってくるよ」
「おう、気をつけてな」
アルフレッドとの会話を終わらせると南西を目指すのであった。
30分後───
木も川も何もない草原にたどり着く。
「ここら辺ならいいだろう」
「見事に何もないね」
「ここで料理する」
ベルたちは荷物を地面に置く。
「それではみんなに役割分担するから。 まずはルマとフェイだけど、ここら辺一帯の草を刈り取ってくれ」
「お任せください、ご主人様」
「任せて!! ぼくの【風魔法】で簡単に終わらせるよ」
フェイの【風魔法】を使って草を刈り、刈られた草をルマの【風魔法】で別の場所に移動させる。
刈ること5分、調理するのに十分な広さを確保する。
「ルマ、フェイ。 もう草を刈らなくてもいいよ」
「「畏まりました」」
2人は満足したのちご主人様に一礼する。
ご主人様は2つの支柱を刺し、鍋の持ち手に木の棒を引っかけて、先ほどの支柱に支えるように木の棒を置く。
そして鍋の下には町で購入した薪を置く。
「ルマは今設置した鍋に【水魔法】で水をゆっくり注いでくれ。 ローザ、フェイは火をおこしてくれ。 ベル、ユールは僕と一緒に根野菜の皮むきだ」
「「「「「畏まりました」」」」」
ルマは大きい鍋に【水魔法】で水を注ぎ始め、ローザが【火魔法】で火をおこし、フェイが消えないように【風魔法】で火を守る。
ベルはご主人様とユールの3人で一緒に根野菜の皮むきをする。
ご主人様は慣れた手つきで皮をむいていく。
「ご主人様、すごい」
「わたくしも炊き出しとかで料理をしたことがありますが、ご主人様が手慣れていてビックリですわ」
ベルたちがビックリしている間に皮をむき終わると空いている鍋に根野菜を入れて次の根野菜に取り掛かる。
「ははは・・・やらないといけないことがあったからね。 これくらいならできるよ。 それよりベルは大丈夫? わからなければ僕かユールに聞いて」
「大丈夫、頑張る」
ベルはゆっくりではあるが丁寧にナイフを使う。
一通り皮をむき終わると今度は食べやすい大きさにカットしていく。
ご主人様が例を見せるとベルも同じ大きさにカットしていく。
「ベル、上手だぞ」
「ありがとう、ご主人様」
(注意しないとケガする。 真剣にやらないと・・・)
食べやすい大きさにカットするといよいよ調理工程に入る。
「ベル、今回はごった煮を作る」
「ごった煮・・・うん、わかった」
「まずは沸騰している鍋に今刻んだ野菜を入れる」
言われた通り野菜を鍋に入れる。
湯の中では野菜がコロコロコロコロと動いていた。
ご主人様よりお玉を渡されかき混ぜるように指示された。
(この状態で【鑑定】しながら様子を見る)
5分過ぎたころベルはお玉で根野菜をすくって鑑定をする。
茹でた根野菜からは『やわらかい』と表示されていた。
「ご主人様、野菜柔らかくなった」
「そしたら味付けだな。 ベルは鑑定で鍋の『味』を見てくれ」
頷くと鍋をみると今は『味がない』と表示される。
ご主人様はまず塩を、次にトマトを潰した物を入れる。
鍋は『味がない』→『味が薄い』に変わった。
ご主人様はゆっくりとかき混ぜていくと『味が薄い』→『味が少し薄い』になり、やがて『十分味がでてる』と表示された。
止めるようご主人様に進言する。
「ご主人様、ストップ」
「どうやら出来上がったみたいだね。 それじゃ、みんな食べようか」
「ご主人様、配膳は私がやります」
「頼んだよ、ルマ」
「畏まりました」
ルマがごった煮を分けていった。
「みんな、行き届いたか? それじゃ、いただきます」
ご主人様はごった煮を口にすると一言、
「うん、美味しいよ。 ベル、ちゃんとできたね」
それを皮切りにルマ、ローザ、フェイ、ユールが口に入れる。
「ベル、美味しいです」
「初めてでこんなに美味しい物を作るとはまいったね」
「ベルちゃん、これ美味いよ」
「ちゃんと食材から味が染み出ていますわ」
ベルも一口食べてみる。
「美味しい」
顔が綻ぶのが解かる。
突然ベルの頭の中に声が響いた。
≪確認しました。 スキル【料理】レベル1解放 初級を取得しました≫
≪確認しました。 スキル【錬金術】レベル1解放 初級を取得しました≫
(あ、ご主人様が言ってたようにスキル覚えた)
ベルはご主人様の服を引っ張る。
「ご主人様」
「どうした? ベル?」
「【料理】と【錬金術】を覚えた」
「! ベル、おめでとう・・・ってあれ? 【料理】だけじゃなく【錬金術】も覚えたの?」
ご主人様は不思議そうに聞いてきたのでベルは首を縦に振るとステータスを見せる。
「どれどれ・・・本当だ! 【錬金術】も覚えてる」
「もしかすると【料理】と【錬金術】は密接な関係があるのでは?」
「それはあるかもしれないな」
ご主人様は真剣な目でベルを見た。
「ベル。 今後も料理を作ってくれないだろうか?」
(ベル、嬉しい。 頼られてる)
いつの間にかベルの頬に何かが流れていた。
「え、あ、ちょ?! ベル?!」
「ご主人様! ベルを泣かせてどうするんですか!!」
「見損なったぞ! ご主人様!!」
「女の子を泣かせるなんて最低だよ!!」
「ベルさんに謝るべきですわ!!」
気が付くとルマたちがご主人様を責めている。
「みんな、ご主人様をいじめないで」
「ベル?」
「嬉しかった」
「・・・ベル」
「また、料理作る」
「ああ、また作ってくれ」
(もっとご主人様に美味しいと言われて、もっとご主人様の笑顔が見たい)
ベルはこれからもご主人様のために料理を作ろうと思った。




