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287.川の氾濫

タイミューの案内でシフトたちは応接室に通された。

「チョットマッテクダサイ」

それだけいうとタイミューは部屋を出て行った。

しばらくすると侍女と一緒にワンピース姿で現れる。

重い鎧は脱いできたようだ。

「オマタセシマシタ。 ミナサン、ゲンキデシタカ」

「元気! 元気! 女王陛下(タイミューちゃん)も元気そうだね!」

「安心した」

ベルとフェイが真っ先に応える。

「私も会えて嬉しいです」

「あれから無理はなされていませんか?」

「ジョウオウノシゴトハタイヘンデスケド、ガンバッテマス」

タイミューは両手に拳を作ってアピールする。

「仕事とはいえ多くの人と接するから色々大変だろうが頑張ってほしいな」

「身体に気を付けて無理だけはしないでくださいね」

「キヲツカッテクレテ、アリガトウゴザイマス」

タイミューは笑顔で応える。

「ところでタイミュー女王陛下は2ヵ月後の国際会議には参加しないのですか?」

「ジツハキョウイクヨテイダッタノデスガ、キノウノデキゴトデモシカシタラトオモッテシュッパツヲミオクッタノデス」

「え゛?」

昨日シフトたちが獣王国に来訪した時に、上空に謎の物体が現れて獣王国では一時パニックになっていたのだ。

タイミューは原因を調べるためにすぐに部下たちを向かわせた。

部下からオレンジ色の髪で顔に傷がある人物と報告を受けてタイミューはシフトだとすぐに気付く。

国際会議の参加とシフトとの再会、タイミューは天秤にかけた結果、シフトと会うことを選んだのだ。

「クニドウシノハナシアイモダイジデスケド、ソレイジョウニクニヲマモルホウガダイジデス」

「それはそうですけど・・・」

「ダイジョウブデス。 ホカノクニモワカッテクレマス」

たしかに国際会議と自国の防衛を天秤にかければどの国でも自国の防衛を優先するだろう。

今回の場合はシフトたちが獣王国に来訪したのが原因で自国の防衛を優先させてしまった。

しかし、タイミューにとっては国際会議よりもシフトに会えたことにむしろ喜びを感じる。

タイミューも女の子。

好きな思い人が現れればそちらを優先してしまうのは乙女としては当然のことである。

「それでいいのか?」

「ヨイノデス。 クニノキキデスカラ」

タイミューはあくまでも我を通そうとする。

(いやいやそれはダメだろう・・・)

シフトとしてもこんなので国際会議を欠席させる訳にはいかない。

「タイミュー女王陛下、今からでも遅くはありません。 国際会議に出席するべきです」

「女王陛下が欠席となったら獣王国を侮られます」

「行くべき」

「民のためにも参加するべきです」

「そうだよ。 まだ、間に合うって」

「今すぐ用意して出発しましょう」

シフトたちはタイミューに国際会議への出席を促す。

「ジョウオウヘイカ、センエツナガラモウシアゲマストワタシモサンカスルベキダトオモイマス」

黙秘していた侍女もタイミューに参加を促した。

「・・・ソウデスネ、ワカリマシタ。 スグニシュッパツノジュンビヲ・・・」

だが、タイミューの言葉がそこで止まった。

「? どうしました?」

タイミューと侍女の顔が強張る。

「カネノネガキコエル?」

「コノカネノネノナラシカタハキンキュウジタイデス」

普通の人間族では聞こえない音も獣人なら優れた聴力で聞き逃さない。

「たしかにこの鐘の鳴らし方は異常事態だよ」

フェイが真面目な顔で話す。

おそらく【斥候】を発動して周囲を警戒したのだろう。

「フェイの言葉やタイミュー女王陛下の態度からして何か問題があったことはたしかだろうな」

「一体何が起きているんですの? フェイさん」

「さすがに鐘の音だけじゃわからないよ」

フェイが正論を話していると廊下からタイミューを呼ぶ声が聞こえてくる。

『タイミュージョウオウヘイカ! ドコニイマスカ!!』

タイミューが侍女を見ると察してすぐに扉を開ける。

「ワタシハココニイルワ!!」

その声を聴いて衛兵がやってくる。

「タイヘンデス! タイミュージョウオウヘイカ! カワガハンランシマシタ!!」

「カワッテアノオダヤカナカワデスカ?」

「ハイ!!」

衛兵が話した川はかつてタイミューを獣王国の王都まで連れていく際に通った道にあった川だ。

獣王国では川は1つしかなく、その近くに町や村が点々と存在する。

生活用水としても使われるため、氾濫すると自由に水が使えなくなり、水不足が懸念される。

「ゲンインハナンデスカ?」

「マダワカリマセン」

「ソウデスカ、ワカッタラオシエテクダサイ」

「ハイ!!」

衛兵はそれだけいうと仲間とともに急いで調査に向かった。

「ソレニシテモカワガハンラン? イマゴロドウシテ・・・」

「ワカラナイ。 ジョウリュウデナニカアッタノカシラ・・・」

タイミューと侍女が顔を合わせてお互い疑問を浮かべている。

「タイミュー女王陛下、僕たちも確認してきましょうか?」

「シフトサンガ? デモ・・・」

「それなら川の流れだけでも確認してくればいいんじゃないかな?」

「うん」

フェイが意見するとベルもそれに賛同する。

「ここから川までどのくらいですか?」

「アルイテ10~15フンクライデス」

シフトの質問に侍女が答える。

「それなら問題なさそうだな。 みんな、行くよ」

「「「「「はい、ご主人様」」」」」

「マッテクダサイ。 ワタシモイキマス」

「わかりました。 行きましょう」

シフトたちは全員で王都から近い場所を流れている川へと向かった。

川に到着するとそこではとんでもない勢いで濁った水が下流へと流れている。

「これは酷いな」

「川に落とされたら命に係わりますわね」

「ココノミズガツカエナイトコマリマス」

「もしかして生活に使っているのですか?」

「ハイ」

タイミューの言が正しいのであれば多くの命が脅かされることだろう。

「ハヤクタイサクヲタテナイト・・・」

「ご主人様、何か良い妙案はないの?」

タイミューが何か対策はないかと考えている横でフェイがシフトに期待を込めた目で見つめてくる。

「そうだな・・・一番早いのは上流に行って原因を取り除くことだな」

「水不足は【水魔法】で何とかなりそうではありますけどね」

「あとはこの川を使っている町村がどれだけ点在するかだな」

「仮に濁流が収まってもしばらくは飲料水としては飲めませんわよ?」

シフトたちが意見を述べているとベルがシフトの袖を引っ張る。

「ご主人様、この水、変」

「ベル? 何が変だ?」

「【鑑定】で調べたけど毒みたいな何かが混入している」

「ベル、本当か?」

「うん」

その言葉を聞いてタイミューが蒼褪める。

「タイヘンデス! ソレナラカワノミズヲノマナイヨウニミンナニシラセナイト!」

タイミューが急いで戻ろうとしたその時、川から何かが現れた。

それは海人族のような者たちだ。

ただし、身体のあちこちが崩れ落ちている。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・」

襲ってくると身構えるとその者たちは地面を数歩歩くとその場で力尽きて倒れた。

そして、身体が塵になって消えていく。

「! まさか?!」

この消え方をシフトたちは知っている。

それは先日の化け物たちが死ぬとこれと同じ症状だったのだ。

もし、この水が化け物に変える薬か何かが混入していればその水を飲んだ者たちは化け物へと変えられてしまう。

「ベル、彼らを【鑑定】しろ」

「わかった」

川から出てくる化け物をベルは鑑定する。

すると驚きの結果が出た。

「ご主人様、あれは元々魚です」

「「「「え?」」」」

「やっぱりな・・・」

想像した結果通りにシフトは苦い顔をする。

「タイミュー女王陛下、国民に川の水と魚を食べないように触れを出してください」

「ワカリマシタ!」

「僕はユールを連れて上流に行って根源を断つ。 ルマたちはタイミュー女王陛下をサポートしろ」

「具体的には何をすればいいのですか?」

ルマの質問にシフトはしばし考える。

「そうだな・・・ルマは各町村に赴いて水の提供を、ベルとローザは化け物と化した者たちの処理を、フェイはルマの護衛を頼む」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

「時間は一刻を争う! みんな、頼んだよ!!」

「「「「「はい!!」」」」」

シフトたちはそれぞれ役割を決めるとすぐに行動を開始するのであった。


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