285.ドワーフの国で羽を伸ばす
ドワーフの国6日目───
シフトたちが悪鬼たちを倒した翌日、国は普段通りに観光客で賑わっている。
一部被害を受けた建物があり、そこではドワーフたちが力を合わせて急ピッチで復興に取り組んでいた。
「おおー、なんかすごいね」
「うん」
ベルとフェイが驚くのも無理はない。
そこは昨日家屋が全壊したのに、今日見たら大勢のドワーフが作業をしていて半分以上建物が出来上がっていたのだ。
それだけではなく、その隣では机、椅子、箪笥、ベッドなど生活に必要と思われる家具が次々と作られている。
「あの机、シンプルだけどまるで芸術品だわ」
「箪笥に施された飾り彫りが美しいな」
「使うのがもったいないくらいですわ」
ルマ、ローザ、ユールもドワーフの技術に感嘆としていた。
建物だけでも最低でも3ヵ月はかかるのに、息の合った連携であっという間に作り上げていく。
鍛冶だけでなく大工や家具も簡単に熟すとはさすがはドワーフといったところだろう。
「えへへ、どう? ドワーフの技術力は?」
「すごいの一言だよ」
「えへへ、そうだよね」
シフトの答えに宿屋の女の子ドゥルータは上機嫌になる。
「それにしてもあのままいくと建物をたった1日で完成させるのか・・・人間族では無理だよな」
「え? そうなの? 人間族は1日で建物を作らないの?」
「ん? どういうことだ?」
「ドワーフは大抵の建物は1日で作っちゃうよ」
ドゥルータの言葉にシフトたちは固まった。
普通建物を建てるなら色々な工程がある。
設計図を作成したり、地盤を均したり、支柱を立てたりとある程度順序に沿って時間をかけて作業が行われるだろう。
しかし、ドワーフたちはそれらを人海戦術で熟していく。
大きな施設や拘りの要望がなければドゥルータの言うように大抵は1日で完成する。
もっとも住み慣れた場所だからこそできるのであって、ほかの場所でも1週間もあれば同じように仕上げるだろう。
建築途中の建物を眺めたシフトたちはドゥルータの案内で次に行くことになった。
到着した場所は工芸品が多く置かれた店で中に入る。
種類も織物、陶器、硝子、木工品、竹工品、金工品、石工品、人形、玩具、楽器、絵画など豊富に取り扱っていた。
シフトたちは店内を見て回ると彫刻がメインで飾られているコーナーにやってくる。
どの作品も繊細で本物みたいに躍動感溢れる動物や、可憐に咲き誇る花々など見ていて飽きない。
「うわっ、何あれ? 熊が口に魚を咥えているよ」
「リアルすぎる」
ベルとフェイは本物さながらの熊の置物を見て感想を口にする。
一方、ルマ、ローザ、ユールはというと・・・
「あれって男の人の裸夫像?」
「肉体美が溢れているな」
「か、下腹部までリアルに作られていますわね」
引き締まったボディを持つマッチョな男性が、歯を輝かせた笑顔で何も隠さずに裸体を惜しげもなく晒している彫刻がそこにある。
それを見てルマたちは嫌な予感を感じた。
「こ、ここに裸夫像があるということはまさか・・・」
周りを見てみると想像していたものがそこにあった。
豊満な胸とお尻に引き締まった腰を持つ美しい女性が、微笑ましい笑顔でこちらも何も隠さずに裸体を惜しげもなく晒している彫刻がそこにある。
それは裸婦像だ。
裸夫像同様、胸の先端や下腹部までリアルに再現されていた。
この工芸品店、ご丁寧にどの場所からでも裸夫像と裸婦像を目にすることができる。
シフトも色々見て回るとそれらが目に入ってしまった。
「あ゛」
案の定、ルマがすぐにシフトのところまでやってくる。
「ご主人様、見たらダメです」
「いや、だってこれ彫刻だよ?」
「彫刻でもダメなものはダメです」
ルマも工芸品とわかっていてもシフトにほかの女性の裸を見せたくないのだろう。
シフトとしては生身の人間ではないのでこれくらいは許してほしいものだと思ったが、それを口にすると火に油を注ぐ様なものだからルマにはいわない。
因みにこの工芸品店の奥のほうには、下腹部が元気な裸夫像や卑猥なポーズをとっている裸婦像が多く展示されている。
シフトたちは手回しのオルゴールをそれぞれ買うと工芸品店を出た。
1つ多めに買ったのはお世話になった宿屋の母娘へのプレゼントだ。
ドゥルータはそれを受け取ると喜んでいた。
それもそのはず、1個銀貨10枚はするのだから。
そのあとは宿屋へ戻って寛ぐことにした。
ドワーフの国7日目───
朝、食堂にてシフトは母娘に話をかける。
「明日の朝にドワーフの国を出発します」
唐突のことにドゥルータは目を見開いた。
「え? もう行っちゃうの?」
「もう少しだけならここにいてもいいんだけどね。 ただ、気になることが・・・」
「ねぇ、もう少しここにいようよ!」
ドゥルータは珍しく駄々を捏ねていた。
それを見かけた母親マァリーザがドゥルータを窘める。
「ダメよ。 この人たちにも都合があるのよ」
「だって・・・」
「寂しいのはわかるけど困らせてはいけないわ」
「・・・はーい」
ドゥルータは渋々ながら承知した。
「ごめんなさいね。 娘が我儘言って」
「いえ、突然だったので驚いたんでしょう。 こちらこそ急な話で申し訳ない」
「それで今日はどうするのですか?」
「特に決めてないんです」
シフトの言葉にドゥルータはすぐに提案する。
「それならみんなで遊ぼ! 王宮は明日だしいいでしょ、お母さん!」
「どうしましょう・・・」
マァリーザが困っているのでシフトが助け舟を出す。
「別に構わないよ。 それで何して遊ぶんだい?」
「ちょっと待ってね」
それだけいうとドゥルータは食堂から出て行った。
「ごめんなさいね。 あの娘ったら・・・」
「いいですよ。 昨日外で観光したので今日はゆっくり身体を休めたいと思っていたんです」
「それならいいんですけど・・・」
そうこうしているうちにドゥルータが大きな箱を持って戻ってきた。
「これで遊ぼ!」
ドゥルータが見せた物、それはボードゲームだった。
「これは?」
「ボードゲームっていう遊びだよ」
ドゥルータがボードゲームの説明をシフトたちにする。
「面白そうだな。 みんなはどうする?」
「やる!!」
「ベルも」
ベルとフェイがすでにやる気でいた。
「私もやります」
「ならわたしもだ」
「わたくしもお付き合いしますわ」
シフトたち全員が遊ぶといったのはいいが、このボードゲームは最大6人までしか遊べない。
「どうしよう・・・」
「それなら二人一組で遊べばいいんじゃないかしら」
「そうだな、それでいこう。 チーム分けだけど・・・」
「「「「「(私・ベル・わたし・ぼく・わたくし)はご主人様がいい(です・かな・ですわ)」」」」」
ルマたちが全員シフトを指名する。
「みんな、ここは私に譲るべきではないですか?」
「ルマ、横暴。 ご主人様はベルと組む」
「わたしとしてはここは譲るつもりはないよ」
「いやいや、ここはぼくと組むに決まってるじゃん」
「ご主人様はわたくしと一緒がいいに決まってますわ」
ルマたちの目がお互いを牽制している。
傍で見ていたドゥルータが冷や汗をかく。
「えっと・・・いつもこんな感じなの?」
「いや、いつもは仲良しだけど、2人きりになるとか優先順位をつけるとか言い出すといつもこんな感じだ」
「そ、そうなんだ・・・」
困っているとマァリーザが救いの手が差し伸べた。
「皆さん、このサイコロで決めてはいかがですか? 数字が最も高い人がパートナーを選べるということで」
「そうね」
「異議なし」
「わかった」
「望むところだ」
「構いませんわよ」
マァリーザの提案でルマたち全員が了承する。
全員がサイコロを振り、結果は以下の通りになった。
1.シフト・マァリーザチーム
2.ルマ・ユールチーム
3.ベル・ドゥルータチーム
4.ローザ・フェイチーム
公平を期して母娘にもサイコロを振ってもらったらマァリーザが一番だったのだが、よりにもよってシフトを選んでしまったのだ。
これにはルマたちも予想外すぎて面を食らった。
そのあとはベルがドゥルータを、ルマがユールを選んだことにより、残ったローザとフェイがチームとなる。
そして、ゲームは始まった・・・
チーム毎に順番にサイコロを振り、盤面のコマを進め、止まったマスに一喜一憂するシフトたち。
気が付けば時間も忘れ、皆で楽しい一時を過ごす。
因みにチームを変えたりして何度かやった結果、勝利数トップはベルで最下位はフェイだった。
ドワーフの国8日目───
朝、食堂で滞在期間中の最後の食事を済ませるとシフトたちは母娘に礼を言った。
「短い間でしたがお世話になりました」
「いえ、こちらこそ宿屋を利用してくれてありがとね」
「お兄ちゃん! お姉ちゃんたち! また、ここにきてね!」
「ああ、ドワーフの国を訪れたらまたここを利用させてもらうよ」
シフトの言葉にドゥルータは顔を明るくする。
「それじゃ、僕たちはこれで」
「ありがとうございました」
「またね!」
準備を整えたシフトたちは宿屋を出るとドワーフの国をあとにした。




