282.悪鬼退治 〔※残酷描写有り〕
西側に向かう私とベル。
そこにはすでに昨日見た多くの化け物が暴れていた。
「ベル、前衛は任せました」
「任された」
ベルは腰から龍鱗のナイフをそれぞれ抜くとそのまま突進していった。
(【火魔法】では周囲の家屋に燃え移る可能性がある。 ならば!)
私はすぐさま【氷魔法】を発動して化け物たちの足を凍らせる。
いや、威力が強過ぎたのか身体の大半が氷漬けになっていた。
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
突然氷って動けなくなった化け物たちは何が起きたのか理解できていないようだ。
そこにベルがナイフで首を刎ねていく。
傷をつけられた個所から盛大に血飛沫が舞う。
普通ならそのまま地面に倒れるが身体が凍り付いているのでそのまま首無しの状態で立っている。
復活されても困るので私は【氷魔法】で首と首の付け根を氷らせる。
私は次々と【氷魔法】を発動して化け物たちの足を氷らせていった。
そこらにいた衛兵や警備兵、冒険者たちも不利な状況が一変したことによりそれらに順応していく。
ベルを見習って氷漬けになった化け物たちの背後に回ると首を攻撃した。
しかし、ベルと違って1撃では切り落とせず何度も攻撃を加える。
そうしているうちに何とか首を刎ねることに成功した。
これは私たちが持つ武器の性能が高すぎるからだろう。
化け物を倒した1人の冒険者が私に声をかける。
「ありがとよ、嬢ちゃん」
「まだ、終わってません。 化け物たちの拘束が解ける前に早く倒してください」
「お、おう・・・」
今もそこら辺ではまだ化け物たちが暴れている。
冒険者もそれを理解したのかすぐに別の氷漬けになっている化け物へと走っていく。
そんな中、ベルが戻ってくる
「ある程度倒した」
「ここは今いる人たちで何とかなりそうだから次へ行くわよ」
「おー」
私とベルは被害がより大きいほうへと走っていく。
そこでは多くの衛兵や警備兵、冒険者たちがやられていた。
ここからでは生存しているかわからない。
「えーん・・・えーん・・・」
化け物の近くでは小さい女の子が泣いて立ち尽くしていた。
その鳴き声に化け物の1人が近づいて大きな腕を高く持ち上げる。
「危ない!!」
私は【雷魔法】を発動すると全身に纏わせて一気に駆け出した。
ご主人様のトップスピードには負けるけど、それでも【風魔法】を纏って走るよりかは遥かに速い。
(間に合って!!)
化け物の腕が振り下ろされる。
私はその女の子を両手で抱きしめると素早くその場を離れた。
その数瞬後に腕が地面に叩きつけられる。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
間一髪のところでなんとか女の子を救出する。
「大丈夫? 怪我はない?」
女の子は涙ながらに膝を指す。
その場所を見ると擦り傷ができている。
「すぐに治すわね」
私は【水魔法】は発動して癒しの水が膝の傷口を洗い流す。
この程度の擦り傷であれば私でも回復させることはできる。
「痛みが引いた・・・」
擦り傷がなくなり女の子に笑顔が戻る。
「ありがとう!!」
「ここは危ないから早く逃げなさい」
「うん!!」
女の子はその場を離れていく。
私はすぐに戦況を確認するとベルが1人で化け物たち相手に奮闘していた。
自らを囮にして化け物たちを一手に引き受けている。
私は【氷魔法】を発動して固まって行動していた化け物たちを一気に氷漬けにした。
ベルが戻ってくる。
「ルマ、ナイス」
「ベル、助けるのが遅くなってごめんなさい」
「気にしない。 それより次が来る」
先ほどの【氷魔法】が呼び水になったのか化け物が次々にこちらに向かってくる。
「さっさと倒す」
「ええ、ベルの言う通り倒してご主人様のところに戻るわよ」
私は今日何度目かの【氷魔法】を発動して化け物に放った。
中央を任されたわたしとフェイ。
「さて、ぼくたちもあの化け物たちをちゃちゃっとやっつけますか」
「フェイ、油断していると怪我するぞ」
「わかってるって、ローザちゃん」
フェイは普段はお気楽だが、いざという時は冷徹になって事に当たることができるから頼もしい。
「どうする? 分かれて対処する?」
「ご主人様も1人での行動はなるべく控えるような言い方をしていたから二人一緒で行動するべきだろう」
「そうだね。 それじゃあ、どこから対処しようか?」
候補は北側、南側、今いる場所の3ヵ所だ。
どの場所にも多くの衛兵や警備兵、冒険者たちが化け物と戦っていた。
「フェイに任せるよ」
「え? 本当? それじゃあね・・・あっち」
フェイが指したのは南側だ。
「よし、行こう」
「それじゃ、僕の後ろにぴったりとついてきて」
フェイは【風魔法】を発動すると自らの前面に風が来ないように操っていた。
「いっくよう!!」
フェイが走り出すとわたしもその後ろをぴったりとついていく。
【風魔法】による風除けでわたしとフェイは南側までやってくる。
化け物たちがわたしたちに気付いてやってきた。
わたしは龍鱗の鎌を、フェイは龍鱗のナイフをそれぞれ抜いて構える。
「先手必勝~♪」
フェイは言うが早いか化け物に特攻を仕掛ける。
昨日のご主人様のように腕を切断して再生している間に首を刎ねた。
「まずは1匹」
フェイはそれだけいうと段々と冷徹に対処し始めた。
わたしも鎌で胴体を真っ二つにしてから遠心力を利用して首を狙う。
狙い通りに首と胴が泣き別れになっている。
化け物たちが次々と襲ってくるが、わたしとフェイは隙を見せずに1匹1匹確実に仕留めていく。
近くにいた衛兵や警備兵、冒険者たちも化け物1匹に対応して複数人で戦えるようになったのか余裕が見えてきた。
そのあともわたしたちは化け物相手に遅れることもなく撃破していく。
最後の1匹を倒すとフェイが戻ってくる。
「お疲れ、ローザちゃん」
「お疲れ、フェイ」
「いや~、ローザちゃんが作ったこのナイフ切れ味半端ないね」
「わたしも驚いている。 まさかこれほどの威力だとはな」
ご主人様が提供して作った龍鱗の武器は想像以上にすごい武器だ。
オリハルコンの武器と遜色ない破壊力を秘めている。
「武器の素材は軽いし、あれだけ斬ったのに刃毀れ1つないどころか切れ味が全然落ちない」
「その上、同等以上でなければ加工すらままならないからな」
現に龍鱗を切断できたのはドワーフ王が鍛えたオリハルコンの剣だけだからな・・・
この龍鱗から如何にドラゴンが最強種であるかと思い知ったよ。
「鋼やミスリルの時は折らないように気を付けて戦ってたけど、これなら無茶しても折れないような気がする」
「おいおい、せっかく作ったんだから大切に使ってくれ」
「わかってるって。 ローザちゃんの力作を早々に壊したりしないから」
わたしたちが武器について少し話していると1人の衛兵がやってきた。
「お嬢さんたち、加勢してくれて助かった」
「気にしないでくれ」
「そうそう、ご主人様の命令で化け物を倒しただけだから」
衛兵が礼を言うとわたしとフェイは軽く応える。
「それにしてもすごい武器だな。 それは王様が作った武器か?」
「違うよ、これは・・・」
「これだがご主人様から賜った武器だ。 詳細は知らない」
わたしはフェイの言葉を遮って虚言を言う。
衛兵がわたしたちの武器を見て感嘆とする。
「あんたたちのご主人様はすごい物を持ってるんだな・・・おっと、いけない。 これから別の場所へ援軍に行かないといけなかった。 本当に助かったよ、それじゃ」
衛兵はそれだけいうとほかの仲間と一緒に別の場所へと向かった。
「ローザちゃん、ごめん」
フェイは危うくローザが作ったことを暴露するところだった。
「気にしてないよ。 ただ、事が公になると面倒だからな」
「たしかにそうだね」
「さて、わたしたちもほかの場所に行きますか」
「じゃあ、北上して一気に化け物を殲滅しよう」
わたしとフェイは頷きあうと北上するのであった。
わたくしとご主人様は現在東側へと走っています。
「ユール、大丈夫か? 少し速度を落とすか?」
「このくらいなら大丈夫ですわ」
ご主人様はわたくしに速度を合わせて並走してくれています。
「ご主人様、わたくしのことは気にせずに先に行って倒していただいても問題ないですわ」
「それだとユールが1人になるからダメだ。 ここに住む地元の人たちには申し訳ないが僕はユールを優先する」
ご主人様は何気ない一言をいったかもしれませんが、わたくしには心に刺さる一言でした。
(もう、ご主人様ったらこんな状況で嬉しいことを言わないでくださいまし♡)
あっといけない、わたくしも危うくころっと好くところでしたわ。
いえ、元々愛してますが今は非常事態なんですから戯れている場合ではありませんわね。
ご主人様としては2人1組ということで無理な行動を控えているようですわ。
そうこうしているうちに東側へ到着するとそこには昨日の化け物がわんさかいました。
「ユール、僕が化け物の動きを封じるから止めをお願い」
「わかりましたわ」
言うが早いかご主人様が見た途端に化け物たちの動きがピタッと止まりました。
そのままでは倒せないと判断したご主人様が化け物を背中から蹴飛ばしていきます。
化け物は膠着した状態で前のめりに倒れました。
わたくしはローザさん特製の龍鱗のナイフを抜くと化け物の首に向かって斬りました。
スパッ!!
「え?」
それは呆気なく首と胴を別けてしまったのです。
(何この切れ味・・・)
今までも十分な使い心地でしたが、これはあまりの威力にわたくし頬を引きつってしまいましたわ。
そのあともご主人様は化け物の動きを封じては背中から蹴飛ばして前のめりに倒していきます。
わたくしは作業的に化け物の首を刈っていきました。
(これが斧でなくてよかったですわ・・・)
もし、これが斧だった場合、髪を逆立てて『ヒャッハァーっ!!』とかいって刈っている光景が頭の中に浮かんだものですから。
さすがのわたくしもドン引きしてしまいますわ。
そうこうしているうちにご主人様はここら辺一帯の化け物の動きを封じ終えたようです。
わたくしが化け物を処理している間、ご主人様は襲撃がないように辺りを警戒してました。
多分ですが、わたくしに止めを刺させて経験値を稼がせるのも1つの目的ではないでしょうか。
5人の中で一番経験値が得られないのは間違いなくわたくしです。
状況に応じて魔法を使い分けて攻撃できるルマさん。
常に前衛で戦えるベルさん、ローザさん、フェイさん。
それに比べ攻撃手段が接近戦のナイフ術と【光魔法】しかないわたくし。
【治癒術】でも経験値は得られますが、戦闘で得た経験値に比べれば微々たるものですわ。
わたくしは時間をかけずに次々と斬首していきます。
5分後、最後の1匹の首を刈り終わるとご主人様に話しかけました。
「ご主人様、終わりましたわ」
「ご苦労、これから次の場所へ行くけど大丈夫そうか?」
「問題ありませんわ」
ルマさんたちが頑張っているのにわたくしだけお荷物は嫌ですわ。
ご主人様は別のところで衛兵や警備兵、冒険者たちが化け物と戦っているほうへと指をさしました。
「それじゃ、向こうに行くよ」
「畏まりました、ご主人様」
ご主人様とわたくしは再び化け物のほうへと走っていく。
わたくしたちが駆け付けると衛兵が叫んできました。
「おい! ここは子供が来るところじゃない! 早く逃げろ!!」
ご主人様は気にせず突進すると叫んだ衛兵と対峙している化け物の首を一瞬にして刎ねました。
化け物の首の切断面からは夥しい血が噴出しています。
「助太刀に来た」
「あ、ああ・・・頼む・・・」
「ユール、怪我人がいたら治療しろ」
「はい、ご主人様」
それだけいうとご主人様は近くにいた化け物へと走っていく。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか・・・彼は?」
「わたくしのご主人様ですわ」
「そ、そうか・・・」
ご主人様を見ると人外の運動能力で次々と化け物を倒していきます。
「あんたのご主人様、すごい強いな」
「自慢のご主人様ですから」
そのあと、東側では化け物相手にご主人様が無双していました。




