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279.もう1度鍛冶を教わる

ドワーフの国に訪れてから3日目になる。

わたしはご主人様を先頭にルマたちと宿屋の女の子と一緒に朝早くに王宮へとやってきた。

王宮の前まで来ると衛兵が声をかけてくる。

「シフト様ですね? 王から話は伺っております。 どうぞこちらへ」

「ありがとうございます」

衛兵の案内でわたしたちは王宮の中へと入っていく。

以前鍛冶を訪れたことがある部屋の前まで来ると扉をノックした。

「王様、シフト殿が参られました」

『来たか。 入ってもらえ』

「はっ!!」

衛兵が扉を開き道を譲る。

「それでは中へどうぞ」

ご主人様が先頭にわたしたちと女の子は部屋に入っていく。

鍛冶工房ではすでに王が作業着を着て待っていた。

「ローザ殿、参っていたぞ」

「ドワーフ王、今日はわたしの我儘を聞いてくださりありがとうございます」

「堅苦しい挨拶は抜きだ。 今日はわしの技術をもう一度見たいと言っていたな。 その前にローザ殿の今の腕を見せてもらおうか」

「はい。 こちらでございます」

わたしはマジックバックから龍鱗の剣を取り出すと王に差し出した。

「では拝見する」

王は受け取り鞘から剣を抜き出すと黒い剣身が姿を現す。

「!!」

「すごーい」

王は目を見開き、女の子はキラキラした目で剣を見た。

真剣な表情で王はわたしが削って作成した龍鱗の剣をあらゆる角度から見る。

「・・・これはすごいな。 あれから9ヵ月経つがまさかこんな業物が見られるとはな・・・」

「わたしが今作成できる武器の中で最高の品です」

「うむ・・・見たことがない素材だな・・・一体これは何の金属だ?」

「ドワーフ王、それはドラゴンの鱗です」

王の質問にご主人様が答える。

「! なんとドラゴンの鱗だと?!」

「え?! ドラゴンって生ける伝説っていわれるあのドラゴンのことなの?!」

ご主人様はマジックバックからドラゴンの鱗を取り出し渡すと、王と女の子は物珍しく見ている。

「はい。 たまたまドラゴンの鱗を手に入れることができたのでローザにお願いして武器にしてもらったのです」

ご主人様がドラゴンの鱗について簡単な経緯を王と女の子に話す。

実際にはご主人様が倒したドラゴンをわたしたちが解体して手に入れた素材だが、正直に話して場を混乱させるよりも偶然手に入れたことにしたほうが信憑性があるだろう。

「へぇ~、そうなんだ」

「・・・」

女の子は納得したが、王は疑いの目をご主人様に向けていた。

多分ご主人様の言葉を鵜呑みにせずに自分なりに解釈しているのだろう。

しばらくして王が笑う。

「ふ、ははははは・・・さすがはシフト殿だな。 そういうことにしておこう。 ところでローザ殿に尋ねるがこれはどのように鍛えたのだ? 見たところ火を使って鍛えた形跡がない」

「それは鱗を削って作りました。 ベルの【鑑定】で確認したところ鱗自体に火耐性が備わっておりまして、並みの火力では鍛えることができなかったのです」

「なるほどなるほど、合点がいった。 わしでもこの鱗を普通に鍛えるのは難しいからな。 オリハルコン並みの火力がなければ、わしでもローザ殿と同じく鱗を削って作っただろう」

王はそれだけいうと剣をわたしに、鱗をご主人様にそれぞれ返す。

「今のローザ殿の腕しかと見た。 その上で何を知り何を学ぶ?」

「わたしが望むのは最高の金属であるオリハルコンを、ドワーフ王が鍛えしこの剣と同じまで昇華したいのです」

わたしは腰に差したオリハルコンの剣を手で触る。

「うむ、それでは作成してみようではないか」

「お願いします」

「まずは材料だが・・・」

「それなら僕が持っています」

ご主人様はマジックバックからオリハルコンの原石を必要な分だけ取り出した。

「未加工からとなるとまずオリハルコンをインゴットにするところからになるな」

「はい。 ただわたしの【火魔法】はCが最高でそれ以上は上がりません」

「ではどうやってインゴットを作るつもりかな?」

王は興味深くわたしを見る。

「王にお願い・・・といいたいところですが、わたしには信頼できる仲間がいます」

「仲間?」

「はい。 ルマ、手伝ってくれ」

「わかったわ」

ルマがインゴット加工用の炉の前に立つと【火魔法】を放つ。

わたしを遥かに凌駕する炎が炉の中で燃えている。

「うむ、それではダメだな」

王がルマの【火魔法】にダメ出しをする。

「もっと意識を集中しろ。 上空にある太陽の如く熱い炎をイメージするのだ」

「は、はい」

ルマが目を閉じて精神を集中する。

再び目を開けるとルマは再度【火魔法】を発動した。

その炎は先ほどまでの真っ赤な炎ではなく白い炎だ。

インゴット加工用の炉の中は白い炎に包まれた。

「オリハルコンの未加工品を入れよ」

「はい」

わたしはご主人様が用意してくれたオリハルコンを炉に入れる。

炉の中にオリハルコンを入れてからわたしはごはじっと待つ。

やがてオリハルコンが液状になっていく。

「まだだ、落ち着け」

逸る気持ちを抑えつつわたしはオリハルコンが完全に液状になるまで待つ。

「今だ」

王の指示で取り出し、予め用意していた型に流し込み、水で急速冷却する。

しばらく経つとオリハルコンのインゴットが完成した。

「見事だ、次の工程に進むぞ」

「ルマ、もう一度お願い」

「わかったわ。 任せて」

ルマが目を閉じて精神を集中し三度【火魔法】を発動する。

白い炎が炉に向けて放たれ、炎を受け止めた炉の中は灼熱と化す。

「オリハルコンのインゴットを入れよ」

「はい」

わたしはオリハルコンのインゴットを炉に入れる。

インゴットが融解するまでの間、王がアドバイスをしてくれた。

「よいか、ローザ殿。 一般人から見た金属はただの塊でしかない。 しかし、わしら鍛冶師たちには金属は生き物と同じだ。 対話をしその金属の本質を引き出すことができれば一流だ。 わしもその領域になるまで何年も修業をした。 ローザ殿も場数を踏めばいずれその領域まで上がってくるだろう」

「・・・」

「今は前回と同じく無心となり打ち込むがよい」

「わかりました」

やがて炉の中のオリハルコンが融解する直前になったので取り出す。

カン・・・カン・・・カン・・・

わたしは無心となり打ち続ける。

途中熱が冷めるとすぐに炉の中に入れ、融解寸前までくると炉から取り出し打つ。

それをただただ繰り返していく。

日が暮れるころにようやくオリハルコンの剣が出来上がった。

「できました」

「見せてみろ」

「はい」

王は鋭い眼光でわたしが打った剣を見る。

軽く振りその場で演武を始めた。

演舞が終わると王はローザに剣を返す。

「うむ、初めてにしては出来が良い。 ローザ殿が努力し続ければいずれわしと同じ場所までくるだろう」

「ありがとうございます」

女の子がわたしに近づくと剣をまじまじと見る。

「うわー、お姉ちゃんすごーい」

「ありがとう。 だけど、ドワーフ王が言ったようにまだまだ精進が足りないんだ」

「それでも私より1歩も2歩も先にいるんだもん。 うらやましいよー」

羨ましそうにわたしの剣を見ると王が女の子の頭に手を置くとわしゃわしゃと軽く撫でる。

「はっはっは、自慢の弟子の娘だ。 今から鍛えればいずれはわしやローザ殿を超えるだろう」

「本当?」

「ああ、だから今はローザ殿みたいに自分を向上させることだけを考えるんだ」

「うん!!」

王の言葉に女の子は笑顔で頷いた。

「それでローザ殿、参考になったかな?」

「はい、とても参考になりました。 これからも精進していきます」

「うむ、その心忘れるな」

わたしは手の中にある未完成なオリハルコンの剣を、いつか完成させると心の中で誓った。






ドワーフの王宮・地下牢───

時を同じくして牢の中にはシフトたちにより捕まった盗掘団がいる。

明日、鉱山へと送られることになっていた。

「くそっ! ふざけんなよっ!!」

「ここに来れば金が手に入るってあいつがいったから来たのによっ!!」

「これじゃ意味ないだろうがっ!!」

盗掘団の面々が不満を爆発させて憤りを露わにする。

そこに牢の外から声が聞こえてきた。

「おやおや、それではまるで俺が悪いみたいじゃないか」

盗掘団が牢の外を見ると溶岩流は金になると囁いた男がそこにいた。

「お前はっ!!」

「おいっ! 溶岩流が金になるって言ってただろっ!!」

「てめぇのせいで捕まっただろうがっ!!」

盗掘団の面々が男に次々と文句を言う。

「何をバカなことを言ってるんだ? 溶岩流が金になるのは本当のことだぜ。 あの中には本物の金が紛れ込んでいる。 捕まったのは独占欲丸出しで人目を気にせず襲ったお前たちの軽率な行動が原因だ。 それを俺に責任転嫁しないでくれ」

「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」

男が言い切ると盗掘団も自分たちの行動を思い出してそれ以上言えなかった。

「俺としてもお前たちが捕まったのはとても心苦しいんだ。 なので、チャンスをやるよ」

「チャンス?」

男の手には闇のように黒い粒がたくさん乗っていた。

「ああ、これは身体能力を飛躍的に向上させる薬だ。 これがあればお前たちを捕まえた奴らに復讐できるだろう」

「・・・本当だろうな?」

「間違いなく」

男の言葉を聞いて盗掘団の面々がお互いを見る。

「どうする?」

「このままここにいても明日には鉱山送りだぜ?」

「それなら・・・」

頷きあうと男に声をかける。

「それをよこしな」

「ええ、どうぞ」

男は牢の前までくると1人1人男の口に入れていく。

全員の口の中に薬を入れると男は牢から離れる。

「これはいつ頃効くんだ?」

「遅効性なので早ければ明日だな」

「今すぐじゃないのか?」

「即効性じゃなくて悪かったな。 だが、それは間違いなくお前たちを助けてくれるだろう。 それじゃあな」

男はそれだけいうと牢から立ち去る。

残された盗掘団は効果が発揮されるまでただ牢の中で大人しくしていた。

だが、盗掘団は知らない。

この薬の真の恐ろしさを・・・


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