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278.裁判

盗掘団を取り押さえたシフトたちは憲兵に連れられて王宮へとやってきた。

連れていかれた場所は裁判所の法廷みたいなところで先ほどシフトたちが無力化した盗掘団たちすでに被告人席に座っている。

シフトたちも盗掘団とは反対の検察官側の席に座るように指示されたので大人しく座っていると裁判員が大声をあげた。

「皆の者、頭を垂れよ!」

その言葉でその場にいる衛兵以外の者たちが頭を垂れる。

シフトたちもそれに倣って頭を垂れた。

衛兵以外全員が首を垂れたことを確認すると裁判員が再び大声をあげる。

「国王陛下の御成り!!」

中央の奥の扉からドワーフの鍛冶王ラッグズが入ってきた。

「皆の者、頭を上げよ」

ラッグズが言葉にすると皆頭を上げる。

シフトたちが頭を上げるとラッグズは驚いて声をかけた。

「シフト殿?! シフト殿ではないか?!」

突然大声を上げた王に周りがざわつく。

シフトはあくまでも普通に話した。

「お久しぶりです、ドワーフ王」

「何故シフト殿がここにいるのだ?」

「話せば長くなるのですが・・・」

「構わん、聞かせてくれ」

本来は裁判員が話す内容をシフトが代弁する。

すべてを聞き終わるとラッグズは裁判員を見た。

裁判員は首を縦に振る。

それはシフトが語った内容と裁判員が語るはずであった内容が一致していたからだ。

「なるほど、そういう訳であったか・・・」

すると盗掘団が難癖をつけてきた。

「待ってくれ! こいつらはこの国の溶岩流の塊を破壊したんだぞ? それはこのドワーフの国への破壊活動に等しいのではないのか?」

盗掘団の面々が同意する声が上がる。

「黙れ!!」

ラッグズが一括すると場が静まり返る。

「お前たちはこの国の英雄に対して何を言うんだ!!」

「え?」

「この国の英雄?」

「こいつらが?」

ラッグズの一言で盗掘団が驚いた顔をする。

「そうだ! 元々あの溶岩流は先の大噴火で作られたものだ。 それについてはお前たちの言う通り破壊活動に当たるだろう。 しかし! あの大噴火から身を挺して守ってくれたのはそこにいるシフト殿だ! 言わばこのドワーフの国に住む民全員の命の恩人だ! それを事欠いて悪役に仕立てようとは神が許してもわしらドワーフたちが許さん!!」

ラッグズのあまりの剣幕に盗掘団はたじたじになる。

「判決を言い渡す!! 被告人であるお前たち盗掘団は鉱山での強制労働10年に処す!! 連れていけ!!!」

ラッグズの言により衛兵たちが盗掘団を連れて去ろうとする。

「おい! 待て! こんなの裁判でもなんでもねぇぞ!!」

「ふざけるなよ! こんなことして人間族がだまってねぇからなぁ!!」

「俺たちのバックには帝国の皇帝がいるんだ! あとで泣いても知らないぞ!!」

盗掘団が次々とラッグズに罵声を浴びせる。

そこで聞き捨てならない言葉が出てきた。

「帝国の皇帝? それなら僕も食事するほど仲が良いから知ってるよ。 なんならドワーフ王に頼んで今から帝国に使者を送って皇帝を連れてきてもらえばいい。 僕の名前を出せば喜んでやってくると思うから」

シフトの言葉に盗掘団がまたしても驚く。

「う、嘘つくんじゃねぇよ・・・」

「そ、そうだぜ。 い、いくらドワーフの王と仲が良くてもほかの国の王とも面識がある訳ないだろ・・・」

「そ、そうだそうだ・・・」

「別に嘘ついてる訳じゃないけど・・・ねぇ?」

シフトはラッグズに同意を求めると深く頷いた。

「そこにいるシフト殿は王国を始めとした国の重鎮から好かれていてな・・・王国、帝国、皇国、公国、獣王国、エルフの隠れ里、そしてわしらドワーフの国と数えただけでもこれくらい多くの者に好かれているのだ」

ラッグズが口にした国々はこの広大な大陸にあるすべての国である。

それを聞いた盗掘団の顔が真っ青になった。

もし、帝国がダメでもほかの国を片っ端から言うつもりだったのだろう。

しかし、ラッグズはシフトが国の重鎮たちから好かれているのを知っていたので、先手を打って逃げ道を封じたのだ。

おかげで盗掘団は次の一手が見いだせず黙るしかなかった。

「どうやらお前たちは性根が腐っているようだ。 わしの判決が甘かった。 強制労働を10年から30年に変更だ」

「ちょっ?! ふざけるなぁ!!」

「なんで刑期を増やすんだよぉ!!」

「俺たちをこんな目に合わせて後で後悔するんじゃねぇぞぉ!!」

盗掘団は罵詈雑言を放ちつつ衛兵たちに連れられて法廷をあとにした。

残されたのはシフトたちと宿屋の女の子ドゥルータ、ラッグズと部下数名だ。

「改めて久しぶりだな、シフト殿」

「ドワーフ王もお元気そうで何よりだ」

「それでなぜこのようなことになったんだ?」

ラッグズが改めて問いかけるとシフトは観光で溶岩流を訪れたことを話す。

「それは新たな名所となった溶岩流のところに行ったら、先ほどの盗掘団に一方的に因縁をつけられたんです」

「師匠、このお兄ちゃんが言っていることは本当だよ」

「ん? お前もいたのか。 巻き込まれて災難だったな」

「うん、だけどお兄ちゃんたち凄かったよ。 さっきの連中をこうバシッとやっつけたんだから!」

ドゥルータは両手に握り拳を作るとシャドーボクシングみたいに拳を連打する。

それを見てラッグズは笑う。

「はっはっは、さすがはシフト殿だな。 わしもその場を見たかったぞ」

「僕としてはできればこれ以上ここでトラブルが起きないことを願っているけどね。 話を続けるとその溶岩流の塊に()が混入していたんだ」

シフトの爆弾発言にラッグズが目を見開く。

「なんと? 真か?」

「はい。 僕の仲間()のベルに【鑑定】をしてもらった結果、溶岩流の塊の中に金が含まれていました」

「うむ・・・今すぐ確認する必要があるな・・・おい! 鑑定石と押収した溶岩流の塊をここに持ってこい!!」

「はっ!!」

ラッグズは近くにいた部下たちに命令する。

部下たちはその場を立ち去り、しばらくすると鑑定石と溶岩流の塊を持ってやってきた。

その場で鑑定すると溶岩流の塊のいくつかから金が混入していることを確認する。

「陛下、その者たちが申したように金が確認できました。 ほかにも金とは別の金属や宝石が含まれております」

「なるほど、彼奴らがわしの名を騙ってでも欲しがる訳だ。 先の大噴火は大地の底から地上に出たもの・・・地下深くに眠っていたものが姿を現したのだ、その価値を知っていれば欲をかいて欲しがるのも頷ける」

「陛下、どうされますか?」

ラッグズは部下の質問にしばし考えこむとやがて口を開く。

「・・・溶岩流への観光案内に制限をつける。 これより観光を生業にしている者たちに触れを出せ。 内容は国が指定した許可証がない者は溶岩流へ行くことは禁止するとな。 発行は3日後から順次行い、確認についてはその翌日からとする。 それと溶岩流になっているところへは定期的に警邏の巡回を行うこととする。 以上だ」

「畏まりました、すぐに準備させます」

それだけいうと部下たちは鑑定石と溶岩流の塊を持って法廷を立ち去った。

「それでシフト殿たちはこれからどうするのだ?」

「観光の続き・・・と言いたいところですが、日ももうすぐ暮れますし今日はこの娘の宿に戻って休みます」

「そうか」

そこで会話の区切りが良いことを確認したローザが口を開く。

「ドワーフ王、お願いがございます」

「ローザ殿、何かな?」

「はい。 実は今一度ドワーフ王の頂を拝見したいのです」

「わしは構わんぞ。 なら明日か明後日にでも早速見せてやろう」

「ありがとうございます」

ローザが礼を言うとドゥルータがラッグズにお願いする。

「師匠、一緒に見てもいいですか?」

「ああ、今回は特別だぞ」

そういうとドゥルータの顔が明るくなった。

「それでは明日朝一に王宮に訪れます」

「うむ、わかった。 わしも用意して待っておる」

「それでは失礼します」

シフトたちはラッグズに一礼すると法廷をあとにする。

宿に戻ると母親マァリーザがシフトたちに声をかけてきた。

「お帰りなさい、観光はどうでしたか?」

「いや、それがトラブルに会いまして・・・」

溶岩流で起きたことを話す。

「まぁ、そんなことがありましたの・・・」

「すみません。 娘さんを巻き込んでしまって・・・」

「いえ、お礼を言うのはこちらのほうです。 あなたたちが身体を張って守ってくれたことに感謝しています。 もし、娘までいなくなったらと思うと・・・」

それだけいうとマァリーザはドゥルータを抱きしめる。

「お母さん・・・」

「本当に無事で良かった」

「うん」

マァリーザの言葉にベルとフェイが喜ぶ。

「それじゃすぐに準備しますね」

「お母さん、手伝うよ」

「あら、それなら料理の手伝いをお願いするわね」

それから用意された食事を堪能するシフトたちだった。


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