273.公爵の城跡での戦い 〔※残酷描写有り〕
公爵の城が倒壊する。
シフトたちが無事に生還すると先ほどの声が聞こえてきた。
『まさかあの状態から生還するとはな・・・お前たちを甘く見ていた』
「それでお前はどうするんだ?」
『決まっている・・・お前たちを殺すのさ』
言うが早いか空間が歪む。
(試してみるか)
シフトは【次元干渉】を発動して自分の周りの歪んでいる空間に干渉して元の空間に戻るようイメージする。
すると歪んでいた空間が元に戻った。
『?! 貴様! 何をした?!』
「さぁ、お前が何を言っているのかわからないなぁ」
シフトは自分が空間を閉じたことを教えるつもりはない。
(どうやら上手くいったようだな)
シフトは上手く空間が戻ったことに安堵する。
もし失敗しても【次元遮断】で外界から隔離すればいいだけだ。
『これならばどうだ?』
声が聞こえると先ほどよりも多くの空間に歪みが生じる。
「無駄だ」
シフトは再度【次元干渉】を発動して歪んだ空間に干渉して元の空間へと戻す。
「お前の空間を歪めてからの攻撃は僕には通じない」
『・・・く、くくく・・・はっはっは、何を言うかと思えばこれで俺の攻撃を封じたと? お前もまだまだ甘いな!!』
シフトは空間の歪みを感じた。
ただし、その場所は1キロ以上離れた遥か上空である。
そこから無数の火球が降り注ぐ。
声の主は公爵の城を中心に周囲全体の森を燃やし尽くそうとしたのだ。
シフトは【次元遮断】で半径500メートルを外界から隔離した。
結界を展開した直後、火球が結界に触れて燃え尽きる。
今降り注いだ火球がすべて結界により防がれるとそれ以上は降ってこなかった。
『どういうことだっ?!』
声の主は空間から火球が降ってこないことに困惑していた。
なぜなら声の主もまたシフトの結界内に閉じ込められて、外界にある空間へと魔力を送ることができないからだ。
声の主は何度も魔力を空間へと送るがシフトの張った結界にぶつかったあと霧散する。
「ルマ、【水魔法】で雨粒くらいの大きさの水を無数に作れ。 フェイは【風魔法】でルマの作り出した水をできるだけ広範囲に届くように送れ」
「「畏まりました、ご主人様」」
ルマは【水魔法】で雨粒大の水を無数に作り、フェイは【風魔法】で水を広範囲へと送る。
しばらくすると公国の国王レクントたちがルマの作り出した水に驚いて声を上げていたが、それとは別に水に驚いた声が微かに聞こえた。
フェイはその声を聞き逃さない。
「む? あっちだね」
フェイが声をしたほうに指をさした。
「ローザ、ユール、ルマとフェイの護衛と公爵の身柄を頼む。 ベル、ついてこい」
「「「了解です、ご主人様」」」
シフトはベルを連れてフェイが指さしたほうへと走っていく。
ある程度進むと地面に水滴が落ちていた。
ルマの作り出した水をフェイは地面より上になるよう風で送っている。
それにも関わらず地面に水滴があるということはここに先ほどまで誰かがいたということだ。
「ご主人様、見つけた」
ベルは【鑑定】を発動しているのか目が光っている。
周りを確認したところ空間を操った者を捉えたのだろう。
「ベル、案内を頼む」
「任された」
ベルが先行して走り出すとシフトもそれに続く。
走っているうちに別の水を弾く音が聞こえる。
しかし、走っている姿は見えない。
「そこ」
ベルは両手でナイフを1本ずつ抜くと何もない空間を左右1回ずつ攻撃した。
「うがあああああぁーーーーーっ!!」
苦悶の声と共に血飛沫がいきなり現れて周りに飛び散る。
ドサッ!!
何かが地面に落ちる。
可視化されたそれは腕だった。
どうやらベルの攻撃は声の主の腕を捉えたようだ。
「お、俺の左腕があああああぁーーーーーっ!!」
それと同時に空間から男が左腕を抑えながら現れた。
痛みで魔力をコントロールできなくなったのだろう。
「くっ! おのれっ!!」
男は間合いをとると右手を前に突き出すとバックステップしながら【火魔法】による火球を連続して放つ。
シフトは胸当てに埋め込まれた魔石に魔力を流して氷の壁を展開した。
火球は氷の壁に触れると炎上したのちに焼失する。
「あああああぁーーーーーっ!!」
男は叫びながら火球を作って連射するがすべて氷の壁に阻まれ、シフトとベルに直撃することはなかった。
尚も魔法を放とうとするが、シフトは【五感操作】を発動して男の触覚を剥奪する。
「ぐぅ・・・う、動けない」
固定砲台になった男の足をベルが蹴飛ばすと、男は俯せになって地面に倒れた。
男の手が丁度地面に垂直になったのか腕立て伏せで高い位置をキープした恰好になる。
この状態で魔法を放てば右腕も失うことになるだろう。
シフトは【五感操作】を発動して男の視覚も剥奪する。
「め、目があぁっ!!」
無力化に成功したのでシフトは男に話しかける。
「これからお前を拘束するが下手に魔法を使うなよ? お前自身が黒焦げになる」
シフトは男を仰向けにすると右腕の掌を心臓の位置に乗せる。
その際に男の右腕を見ると『この手に自由を』の構成員である奇妙な紋様が刻まれていた。
これで【火魔法】を使えば男は身体全体を自ら燃やしてしまうだろう。
「お、おのれっ・・・か、かくなる上はっ!!」
だが、男は予想外の行動に出る。
それは自らの身体に【火魔法】を放ったのだ。
男の身体が心臓を中心に燃え広がろうとしている。
「させるかっ!!」
シフトは氷の壁を展開するとその氷を男の上に乗せた。
男の身体を焦がしていた炎は氷により鎮火する。
かつてドワーフの国を襲った『この手に自由を』の構成員もその身を自らの炎で焼いてこの世を去った。
今回もありうるかもと想像だけはしていたがまさかの展開にシフトは苦笑する。
シフトとしても同じ轍を2度も踏まない。
「公爵同様お前も『この手に自由を』に関する貴重な情報源だ。 死ぬのはお前が全部の情報を吐き出してからだ」
シフトがそういうとベルがシフトの袖をくいくいと引っ張る。
「ご主人様」
「ん? どうした、ベル?」
「この男の生命力が急に減ってる」
「え?」
シフトは男の上にある氷を退ける。
すると男は盛大に咽た。
「ごほっ、ごほっ、ごほっ、ごほっ、・・・はぁっ、はぁっ、はぁっ、・・・」
「あ、減りが止まった」
あまりの息苦しさに男は窒息しかけていた。
ベルはこれ以上男の生命力が減らないのを確認する。
「ま、まったく油断も隙も無い」
シフトは冷や汗をかきながら自分がしたことを忘れるべく次の行動に移す。
このまま片手だけ残しておいても先ほどみたいに同じことをされては困るので、もう片方の腕も切断する。
幸いなことに男は触覚を失っていることと氷による皮膚の凍結によりさほど痛みもなく腕を切り落とされた。
これで男の無力化に成功だ。
シフトは念のため男に猿轡をする。
「終わった」
「そうだな・・・一応周りに伏兵がいないか確認してから戻ろうか」
「うん」
ベルは周りを【鑑定】で見るが特に伏兵はいない。
確認が済んだのでシフトはベルと無力化した男を連れてルマたちのところに戻ることにした。
シフトとベルが戻るとそこにはレクントと兵士長と部下1人の3人がルマたちのところで待機している。
「おお、戻ったか」
「何かあったんですか?」
「いえ、シフト殿が敵を追ったということを先ほどルマ殿から聞いていたもので少々心配になりまして・・・」
シフトの質問に代表して兵士長が答える。
「それで敵は?」
「この通りです」
ベルは猿轡をされ両腕を失った男を前に突き出した。
そして、シフトは焼け焦げてはいるが奇妙な紋様が刻まれている右腕を兵になりすましたレクントに渡す。
「なるほど、『この手に自由を』の生け捕りご苦労であった」
「あとはそちらの仕事だ」
「報酬は後程お渡しします」
「わかった」
レクントと兵士長と部下の3人は公爵と男を連れてほかの兵たちのところに戻っていった。
「さて、僕たちの仕事も終わったな」
「ご主人様、これからどうするのですか?」
「とりあえず倒壊した城からベルの請求額分の硬貨を探して貰っていくか」
「何か火事場泥棒みたいですね・・・」
「この状態では否定できないけど・・・まぁ、何しろ探そう」
シフトはベルに【鑑定】を使って倒壊した城を確認してもらう。
するとすぐに地下にいく通路を見つてたので降りていくと1つの扉がある。
その扉を開けて中に入るとそこには金銀財宝がこれでもかと置かれていた。
シフトたちは白金貨5800枚分を取り出し袋に入れていく。
それが終わるとベルに渡した。
「公爵様、たしかに白金貨5800枚受け取りました。 あとで受領書を渡します」
ベルはそこにいない公爵に向かってそれだけ言うと白金貨が入った袋を自分のマジックバックの中に入れる。
シフトたちは地上に戻るとここでやるべきことはすべてが終わった。
「みんな、ご苦労。 さて僕らも戻ろうか」
そういうとシフトは結界を解除した。
たしかに『この手に自由を』の生け捕りは終わったが、すべてが終わったわけではない。
男が歪めた空間がそのまま放置されている。
それは男の失われた腕から魔力がダダ洩れになり吸収されていく。
その魔力が呼び水となり、この世界にいない者を呼び寄せてしまった。




