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266.そうだ、筏を作ろう

シフトたちが都市で買い物してから4日が経過した。

東を見れば遠方に空とは違う青い景色がそこに広がっている。

「あ、ほら! 海だよ!!」

「着いた」

ベルとフェイが声を上げる。

そう、海が姿を現したのだ。

荷車に16人も乗っているのにスレイプニルの馬力が予想以上に凄かった。

その速度は魔動車の陸路を普通走行するのと同等のスピードだ。

エルフたちは眼前に見える海に驚いていた。

彼らの認識では湖を一回り大きくした程度と解釈していたのだろう。

「えっと・・・あれが海なのかな?」

「すごい広いわね」

「これを泳ぐのは危険だな」

良識あるエルフたちは自分たちの浅はかさを悔いる。

多分だがこんなことならもっとしっかりと準備してくればよかったと今頃になって失敗したことに気付いたのだろう。

「まさか、これほどの大きさとは・・・思慮が足りなかったようだ」

エルフのリーダーは現実をしっかり受け止める。

「どうします? このまま進みますか? それとも一旦引きますか?」

御者をしているエルフがリーダーに確認する。

「とりあえず、ここで停止してくれ」

「わかりました」

御者はスレイプニルに命令するとすぐに止まった。

エルフのリーダーはどうするかを早速話し始める。

「まず皆に聞くがこのまま進むか、入用な物を入手してから進むか」

「入用と申されますが何が必要になりますか?」

「泳がないで進む乗り物だな。 当初は召喚獣を使えば楽勝と考えていたが、その考えは甘かったようだ。 風神様の寵愛を受けし者よ、何かそれらしい乗り物はないだろうか?」

エルフのリーダーの質問にシフトは考える。

「たしかここらの人間族が作った乗り物で船というものがあります。 僕も見たことがないのでどういう物か断言できませんが、この荷車みたいにしっかりとした作りで水に浮かぶことが最低条件です」

「水に浮かぶ乗り物ですか・・・」

「実際に作ってみるしかないですね」

ただ、シフトたちも作り方がわからない。

「ご主人様」

そんな中、ベルがシフトを呼ぶ。

「ん? どうした、ベル?」

「これ」

ベルが取り出したのは錬金術の本だ。

そして、そこには筏という水に浮く乗り物が書かれていた。

「筏?」

「これを作れば水の上でも大丈夫」

「なるほど、材料は・・・竹? 植物?」

シフトは竹という植物を知らない。

ルマたちに聞くがもちろん知らない。

エルフたちに聞くと知っていたらしく、なんでも水に浮くことができる植物のようだ。

「問題はどこでこの竹という植物が手に入るかだな」

シフトが難しい顔をするとエルフのリーダーが答える。

「それならそこに生えてますよ」

指さした先には木とは異なる作りの物が地面から生えていた。

円柱が縦にいくつも繋がって上空まで伸びている。

高さはだいたい平均して1000~1200センチメートルくらいだ。

「えっと・・・あれが竹?」

「そうです」

なんとも都合の良いところに生えていた。

「ベル、竹は何本必要だ」

「ここに書いてあるのは3~4人用で20本」

「そうすると最低60本か」

「まずは試しに1つ作ってみるのがいい」

ベルの提案にシフトたちやエルフたちが賛成した。

シフトたちは早速そこらに生えている竹を手に入れる。

土台となる竹の上に竹を置き紐でしっかりと固定していく。

ほどなくして横200センチメートル×縦150センチメートル、重さ80キロの筏の試作品が完成した。

早速海まで持っていって浮くのかを確認する。

筏は浮力により問題なく浮かんだ。

「まずは第一関門突破だな。 問題は人が乗ったときか・・・」

「はいはいは~い、ぼくが乗りたい」

フェイが勢い良く手を上げる。

「それならフェイに乗ってもらおう」

「やったね♪」

フェイは海に浮かんでいる筏の上にそっと乗った。

乗ったところが大きく沈むが浮力により元に戻る。

フェイが乗った筏を見るとたしかに浮いているが海水が竹を濡らしていた。

「乗るだけなら問題なさそうだが、これで寝泊まりするとなると常に海水に濡れるみたいだ」

「寝るにしても2人が限界のようですね」

筏の問題点が浮き彫りになったので、シフトたちはこれを念頭に筏を改良することにした。

まずは大きさだが思い切って横600センチメートル×縦400センチメートルの巨大な筏にする。

このくらいの大きさなら10人が寝転がっても問題ないだろう。

次にこれを二重に積み重ねる。

一重では乗っただけで竹が水浸しだった。

二重にすることで海水に濡れないようにする。

またバラバラにならないように紐で二重三重に固定した。

そして、まる1日かけて筏が完成した。

横600センチメートル×縦400センチメートル、重さ480キロ超の巨大な筏だ。

早速持っていこうとするがある重要なことに気が付く。

それは重くて持ち上がらないことだ。

普通なら四隅を丈夫な台車に乗せて押して持っていくだろうが、ここにはシフトがいる。

その圧倒的な腕力で超重量の筏を持ち上げたのだ。

あまりの出来事にエルフたちだけでなく、ルマたちも驚いたのは言うまでもない。

海まで持っていくとシフトは筏を放り投げる。

バシャアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!

海に叩きつけられた筏だがしっかりと紐で固定してあるので分解することはなかった。

それとは別にルマたちやエルフたちは筏が沖に流されないように筏に括りつけた紐を引っ張る。

しかし、その重さ故にルマたちのほうが引っ張られていく。

シフトは慌ててロープを掴むと手前に引いた。

そして、近くにあった丈夫な木のところまで行くと紐を括り付ける。

「ご主人様、助かりました」

「まだ安心できないよ。 エルフの皆さん、今のうちに筏に乗ってみてください」

「わかりました」

海に漂う筏にエルフたちは1人1人慎重に乗っていく。

10人全員が乗ったが筏は沈む気配がないようだ。

海水も最初に乗った時の重み以外では水に濡れていない。

二重にしたことで海水がそこまで浸水することはなかった。

「どうですか?」

シフトの質問にエルフのリーダーが嬉しそうに答える。

「問題なさそうです。 これならすぐにでも出発できそうです」

その答えにシフトは待ったをかける。

「ダメです。 まだ完全には安全を確認していません。 明日からの3日間は筏に乗って問題ないかを確認する必要があります」

「そ、そうですね・・・そうします」

エルフたちは先ほどのことを思い出すと自分たちを戒める。

シフトたちが同行する訳ではないので、ここで調子に乗って出発して問題が起きたら洒落にならない。

出発は安全面を確認してからだ。

エルフたちには明日から筏の上で実際に生活してもらうことにした。


翌日から3日間筏に問題ないか確認していく。

エルフたちには当初の予定通り筏の上で生活してもらう。

海を移動できる召喚獣を呼び出してロープを括り付ける練習を行った。

ルマとフェイに【風魔法】を使って風圧を与えてもらい、自然の波が襲ってきたと想定した訓練も行った。

3交代制で24時間常に警戒するように訓練も行った。

マジックバックの使い方も身に着けてもらった。

シフトたちはできる範囲内でできることをして、エルフたちに危機意識を植え付けていく。


すべての工程を終えた翌日、エルフたちは出発する前に何度も安全確認を行う。

これから向かうところは常に想定外の出来事が起こっても不思議ではない。

「風神様の寵愛を受けし者よ、ここまでの道中本当に助かりました」

エルフのリーダーが礼を言うと残りのエルフたちも頭を下げた。

「これから出発するんですね?」

「はい。 楽観的な思考は捨てて常に危機意識を持って進みます」

エルフのリーダーの言葉にシフトは満足する。

「まずは風の精霊がいる小さな島を目指してください。 ここから東南東に数千キロほど離れた場所です」

「たしか島全体が暴風で守られていて島の周りが時化になっていると言ってましたね?」

「そうです。 なので、自分たちの命を最優先にしてください」

「わかりました。 それでは行ってきます」

「気を付けて行って来いよ」

シフトは木に括り付けていた紐を緩める。

その紐をエルフたちに投げて渡した。

筏は召喚獣に引っ張られて少しずつ東南東へと移動を開始する。

シフトたちはエルフたちの姿が見えなくなるまでその場で見守っていた。


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