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261.翼人族の王の決断

シフトたちが翼人族の上層部の重鎮たちを鎮圧したことによりイーウィムたちの暴動は一時収まった。

問題は悪魔スリプズによって上層部の翼人族の大半が死亡したことだ。

死亡といってもスリプズの消滅により犠牲になった翼人族たちの身体自体がない状態である。

とりあえず生き残った上層部の翼人族たちを尋問にかけて聞いたところ、皇国から来た者が何かを老翼人族に渡したらしい。

その者は今も大使館で働いているとか。

上層部の翼人族たちをイーウィムに任せてシフトたちは皇国の大使館へと急いで向かう。

そこには皇国の衣服を着た男女が働いていた。

「ベル、頼む」

「わかった」

ベルはシフトの指示を受けてすぐに【鑑定】を発動した。

大使館員たちは急に現れたシフトたちを不審者扱いをして通さないように立ち塞がるが、シフトは【五感操作】を発動して触覚を奪い動きを封じる。

ベルは大使館員たちを1人1人調べていくが一般人だった。

さすがに危険を察知して逃げたかと考えていた時、ベルが声を上げる。

「見つけた」

シフトたちが入った部屋の中に複数の男女がいた。

下手にベルに誰かと聞いて逃げられるのは避けたい。

この中の誰だかわからないので、シフトは【五感操作】を発動してこの部屋にいる皇国の人間全員の触覚を剥奪する。

突然の出来事に困惑する皇国の人間たち。

「ベル、誰だ?」

「あの女性」

ベルが指さしたのは意外にも女性だった。

シフトは女性に近づくと突然悲鳴を上げる。

「きゃあああああぁーーーーーっ!! 近づかないでえええええぇーーーーーっ!!」

「おい、やめろ!!」

「彼女に手を出すんじゃない!!」

シフトは周りの声を気にせず女性の右腕を掴む。

手袋をしていたのでそれを外した。

そこには奇妙な紋様が刻まれている。

「やっぱり『この手に自由を(フリーダム)』か・・・」

その言葉を聞いた女性が目を見開く。

「なぜそれを知っている?!」

「お前らからは散々酷い目にあっているからな」

シフトはマジックバックからロープを取り出すと両手を拘束し口に猿轡を嵌める。

「ローザ、頼む」

「任せてくれ」

拘束した女はローザに任せて、ベルに話しかける。

「ほかの部屋も調べる。 ベル、引き続き頼む」

「任された」

そのあとも色々な部屋を回り、『この手に自由を(フリーダム)』の構成員を男女1人ずつ捕まえる。

因みに触覚を元に戻して自由になった途端にシフトたちを力任せに捕まえようとするが、シフトがあっという間に力でねじ伏せた。

あまりの強さに手が出ず、大使館から出る頃には多くの大使館員たちが撃沈する。

「お前たち! こんなことをしてタダで済むと思っているのか!!」

「文句があるなら翼人族のイーウィム将軍閣下のところまで来い。 いくらでも聞いてやるぞ」

イーウィムの名を出した途端大使館員たちはだんまりを決めた。

特に男性大使館員たちは気まずい顔をする。

皇国に滞在したとき、内政を見たが基本は男性が上に立って命令していた。

翼人の国に送られてきた皇国の男たちも男性優位な考えの持ち主だろう。

これは男尊女卑を言った男性大使館員たちが、イーウィムに酷くやられたパターンだな。

「特にないなら僕たちはこれで」

シフトたちは『この手に自由を(フリーダム)』の構成員3名を引き連れて城のほうに戻った。


城に戻るとイーウィムとイーウィム父が忙しなく部下たちに命令している。

大変そうだなと見ているとイーウィムがシフトたちに気付いてやってきた。

「シフト殿、そちらはどうでした?」

「見ての通り大収穫だ」

ベル、ローザ、フェイがそれぞれ『この手に自由を(フリーダム)』の構成員を突き出す。

「彼らはもしかして?」

「はい、『この手に自由を(フリーダム)』です」

イーウィムは顔を顰めた。

以前のクーデターと今回ので2回目である。

自分の祖国を蹂躙されて良い顔などできようはずがない。

そこにイーウィム父が加わる。

「イーウィム、婿殿たちが連れている者たちはなんだ?」

「父上、彼らが『この手に自由を(フリーダム)』でございます」

「ほう・・・」

イーウィム父の目が細くなる。

1度ならず2度も煮え湯を飲まそうとした者たちと知って、静かにされど怒りを含んだ気配を漂わせた。

その気配を感じた『この手に自由を(フリーダム)』の構成員たちは顔を蒼褪める。

「イーウィム、婿殿たち、この者はわしに任せてもらおうか?」

イーウィム父の言葉は質問ではなく決定といってよい発言だ。

「僕は構いませんが・・・」

シフトとしては翼人族に『この手に自由を(フリーダム)』の危険性を知ってもらうのと、裁いてもらえればそれでよかった。

ちらっとイーウィムを見ると諦めたような顔をしている。

「・・・父上、私も構わない」

イーウィムはああなってしまうと止める術がないと知っているのだろう、素直に頷いた。

「おお、ありがたい。 おい!」

イーウィム父の声を聞いた部下たちがすぐさまやってくる。

「この者たちを牢屋へ」

「「「「「「「「「「畏まりました」」」」」」」」」」

イーウィム父の命令に部下たちが身震いして応じる。

部下たちはベル、ローザ、フェイから『この手に自由を(フリーダム)』の構成員の身柄を受け取ると足早に城へと入っていった。

娘に将軍の座を譲って尚この発言力・・・イーウィム父恐るべし。

シフトは翼人族の上層部がどうなったのか聞いてみる。

「それで国の重鎮たちである上層部の翼人族たちはどうなりました?」

「今、王自らが質疑応答をしている」

「わしらが立ち入ることは許されぬ」

王はイーウィムよりかそれとも上層部よりか・・・

シフトは王がどちらに傾くかで判決が大いに違ってくると判断する。

イーウィムよりなら、現上層部の連中は身柄を拘束されたのちに新たなる体制を作る良い機会と受け取るだろうが、もし上層部よりなら逆にイーウィムを更迭して将軍の座を引き摺り下ろし新たな傀儡を着任させるだろう

「王の考え次第ではもう1つも怪しいことになるな」

「シフト殿、何か懸念でも?」

「翼人族と皇国の国交断絶」

「?!」

それを聞いたイーウィムが苦い顔をする。

翼人族と皇国の国交を口にしたのはイーウィムだ。

総責任者であるイーウィムが更迭されれば皇国との国交も怪しくなる。

王の匙加減で未来は大きく変わるだろう。

その日は結果が出ないまま終わりを迎えた。


翼人の国22日目───

放っておいた判別作業を再開する。

昨日の午後から行う予定の人たちには申し訳ないことをしたが、イーウィムが説得すると皆快く応じてくれた。

やはりイーウィムは翼人族の中でも人望が厚いようだ。

数も1/8なので午前中にすべての翼人族の判別が終了する。

これでイーウィムからの依頼は無事完了した。

「シフト殿、この度は私の依頼を引き受けてもらい感謝する」

「イーウィムさんの役に立ててよかったです」

「これからどうする予定だ?」

イーウィムはシフトたちの今後の予定を聞いてくる。

「そうですね・・・一旦皇国に戻ってから別の国に行く予定です」

「そうなのか? それならしばらくはこの国で待ってもらえないか? 私も用が済めば皇国に戻る予定だ」

シフトとしても急ぐ道程ではないが、ルマたちに聞いてみる。

「みんな、どうする?」

「私はご主人様の決定に従います」

「ベルも」

「ご主人様の好きにすればいいさ」

「急ぐ旅でもないしね」

「無理に移動することはないですわ」

ルマたちの意見を聞き終えるとシフトはイーウィムに回答する。

「それなら、イーウィムさんの用事が終わったら一緒に皇国に戻ろう」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

「シフト殿、恩に着る」

シフトは王の判断を見てからでも遅くはない。


翼人の国24日目───

3日が経過した。

あれから王から何も声がかからないことにイーウィムは不安を抱く。

しばらくすると王から使いである翼人族が館にやってきた。

「イーウィム将軍閣下、王が御呼びになられています」

「そうか・・・わかった。 すぐに行こう」

「それと・・・」

翼人族がシフトたちをチラッと見る。

「そちらにおられる人間族の方たちも一緒にと」

「シフト殿たちも?」

「はい」

「わかった」

シフトは翼人族の要求に快諾する。

「それでは行こうか」

シフトたちはイーウィムと一緒に城へと向かった。

イーウィムを先頭に謁見の間に入る。

ある程度進むと立ち止まり、玉座に座る王に挨拶をした。

「イーウィム、お呼びによりただいま参りました」

「ご苦労、実は今日将軍に伝えねばならないことがありここに呼んだ」

「それはなんでしょうか?」

「うむ、それは現上層部を切り捨て新たなる体制を整えることになった」

王の意外な言葉にシフトは驚いた。

てっきり上層部に抱き込まれてイーウィムを更迭すると思っていたからだ。

「それで、新体制のリーダーだがイーウィム将軍、そなたにやってもらう」

「えええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!」

イーウィムはあまりのことに叫んでしまった。

それから落ち着いた頃、イーウィムは王に質問する。

「なぜ私にその役を?」

「簡単なことだ。 イーウィム将軍には人望がある。 それに何をも恐れぬ勇気と行動力もな。 だから抜擢した」

「王、私は・・・」

「構わぬ。 思い切りやるがよい。 以上だ」

王はそれだけ言うと沈黙した。

良く言えば評価して任せたのだが、悪く言えば手に負えないので丸投げである。

残されたシフトたちとイーウィム。

「・・・シフト殿、どうしよう・・・」

「まぁ、当たって砕けるしかないかな?」

「ぁぅ・・・」

シフトたちは王に一礼するとイーウィムを引き連れて謁見の間から出て行った。


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