258.イーウィム、罠に嵌める
翼人の国18日目───
シフトたちは朝から集められた一般民を対象に【回復魔法】の使い手を選別し始めた。
シフトの前に翼人族を連れてきて右、左と分けていく。
シフトは右にいく者たちには1~4が書かれた白紙を1枚以上渡していた。
また、人によっては1~4が書かれた赤紙を1枚以上渡しされて右に通される。
その様子を訝しげに見るイーウィム父。
「婿殿は何をしているのだ?」
「父上、シフト殿は今【回復魔法】の使い手を判別しています。 右側に通されているのが【回復魔法】が使える者たちです」
「ただ紙を渡しているようにしか見えないが・・・」
シフトの後ろでイーウィムたちがやり取りしている。
(やり辛い・・・)
シフトは持っている[鑑定石]で調べているだけなので、そんな大それたことはしていない。
イーウィム父は右側に通された者たちを見た。
そこでは1~4の数字が書かれており、それぞれ【生命力回復魔法】、【欠損部位治癒魔法】、【活性化魔法】、【状態異常回復魔法】に分かれている。
実践するには怪我人がいなければならないが幸い中央には多くの翼人がいて、なにかしらの症状を持っていても不思議ではない。
白紙を持っている者は【回復魔法】の所有者で、赤紙を持っている者は怪我人である。
実際に治すところを見てもらってから、白紙の所有者に実演してもらう。
これにより白紙の者は【回復魔法】を覚え、赤紙の者は無料で怪我を治して帰ってもらうのだ。
一般民の健康チェックも兼ねたまさに一石二鳥な仕組みになっている。
イーウィム父は怪我した者が治療を受けて元気になって帰っていく様を見て頷く。
「うむ、医療体制の強化としては申し分ない」
「怪我をして飛べない者が治療を受けることで再び空を飛べるようになる。 これほど素晴らしいことはないと思います」
「これを維持するのは大変だろうが今後の働きを期待しているぞ、イーウィム」
「はい」
イーウィムは力強く頷いた。
その日も太陽が西の地平線に差し掛かる頃にようやく判別作業が終わる。
「シフト殿、ユール殿、お疲れ様」
「イーウィムさん、お疲れ様」
「イーウィム将軍閣下、お疲れ様ですわ」
シフトたちがお互い労っているとイーウィム父が話しかけてきた。
「婿殿、今日1日現場を見させてもらった」
「だから婿じゃない、それでどうでした?」
「満足している。 わしら翼人族は翼が命だ。 傷つき飛べなくなり絶望により死よりも辛い思いをしている者たちをわしは何人も見てきた」
イーウィム父は翼を失った者がユールの【欠損部位治癒魔法】により、再び飛べるようになって喜ぶさまを見ていた。
「人間族は技術も卓越している。 今だからこそ言えるが人間族と国交を結んで正解だとわしは確信している」
「父上・・・」
「それもこれもわしの娘がしたことだがな」
イーウィム父は満足そうにイーウィムを見た。
まさか手放しで父親から褒められるとは想像していなかったのだろう。
イーウィムは照れていた。
それをシフトたちも微笑ましく見ている。
そんなイーウィムだがすぐに顔を引き締めた。
「さて、スケジュール的にはあと3日を予定しています。 シフト殿、ユール殿、問題ありませんか?」
「僕は問題ない」
「わたくしもですわ」
「それなら予定通り進めます」
こうして判別作業も残りも僅かになってきた。
翼人の国21日目───
中央の判別も3/4が終わり、今日が最終日となった。
シフトたちもこれまで通り判別作業を行っている。
もうすぐ昼休憩をしようとした時、偉い軍服を着た5人の男翼人族たちがイーウィムのところにやってきた。
「イーウィム将軍閣下はおられるか!!」
「騒々しい、何ようだ?」
男翼人族の1人が1枚の紙をイーウィムの前に突き出す。
「イーウィム将軍閣下! 貴公を国家反逆罪で連行する!!」
「国家反逆罪だと?! どういうことだ?!」
「言葉の意味そのままだ、連れていけ」
屈強な男翼人族2人がイーウィムの両脇に立つと両腕を掴んだ。
「くっ! 放せっ!!」
抵抗するイーウィム。
それによりイーウィムを取り押さえていた男翼人族がわざとらしい演技をする。
「痛っ!」
それを見た者たちが次々と罵声を浴びせる。
「なんと野蛮なっ!!」
「国の意向に逆らうとはなっ!!」
「それでも上に立つものなのか?!」
突然のことにイーウィムもパニックを起こす。
「ち、違うっ! 私は・・・」
「見苦しいですよ、イーウィム将軍閣下」
イーウィムが連れて行かれそうになったところをシフトが止めた。
「おい、そこの軍人。 イーウィム将軍閣下から離れろ」
「ん? 人間族か・・・貴公には関係ない」
「関係大有りだよ。 イーウィム将軍閣下が国家に対して反逆したといったが具体的に何をしたのか聞きたい」
「これは翼人族の問題だ。 それこそ貴公には関係のないことだ」
男翼人族たちは取り付く島もない。
そんな男翼人族たちにシフトは手を出してしまった。
イーウィムを抑えている男翼人族の腕を思いきり掴んだ。
ミリミリミリ・・・
「痛っ!!」
そのあまりの握力に男翼人族は演技ではなく本当に痛みを受けている。
「早く放さないと腕を折るぞ」
シフトが脅すと男翼人族はイーウィムの腕を放す。
それを見てシフトも男翼人族の腕を開放する。
男翼人族たちは思い通りに事が運んだことに内心にやけた。
「仕方ありません。 今日のところは帰ります。 ですがイーウィム将軍閣下、これであなたの罪は確実になったことを自覚してください」
それだけ言うと男翼人族たちは素直に立ち去った。
イーウィムのところに部下たちがすぐに駆け寄ってくる。
「イーウィム将軍閣下! 大丈夫でありますか?」
「ああ、問題ない。 奴らは・・・」
「おそらく上層部の者たちかと」
「ふっ、どうやら私は相当嫌われているらしいな」
イーウィムは自嘲した。
「シフト殿、助かった」
「いえ、余計なことをしました」
「上のほうはあまり良い顔をしないのは知っていたが、こんなにも早く行動に移すとはな・・・計算外だ」
イーウィムとしても上層部が動いているのは察していたが、このタイミングで仕掛けてくるとは想像していなかったのだろう。
「もう少し周りを固めてから攻めてくるとばかり考えていたがな」
「イーウィム将軍閣下、彼らの目的は?」
「おそらく私の失脚と人間族の追放だろう」
「・・・」
イーウィムの言葉を聞き、シフトは自分の行動の浅はかさを悔いる。
「しまったな・・・もっと徹底的に潰しておけばよかった」
「?!」
「ああいう輩は1度図に乗ると何度でも同じことを繰り返すからな。 2度と舐めた口を聞かないようにしないとな」
「・・・」
シフトの発言にイーウィムと部下たちが苦笑していた。
「じゃあ、ぼくが行ってくるよ」
それを聞いたフェイがシフトの了承も得ずにさっさと姿を暗ました。
「ちょっとフェイ! って、行ってしまった・・・」
「ご主人様、よろしかったのですか?」
「よくないだろ・・・はぁ・・・」
「それじゃ、ベルが止めてくる」
ベルが両腕を前に出すと拳を握りしめてやる気を見せる。
「わかった。 ベルならフェイを抑えられるだろう。 頼んだよ」
「任された」
それだけいうとベルは男翼人族たちが立ち去ったほうへ走っていく。
「なんか心配になってきたな」
「私も」
「わたくしもですわ」
「昔と違って余程の手練れでもない限りは問題ないだろう」
「だといいのですけど・・・」
ルマたちが心配していたが、シフトもさすがに大丈夫だろう・・・そういう風に思った時期がありました。
しばらくすると物を引きずるような音と共にベルとフェイが帰ってくる。
「ただいま」
「今戻ったよ」
「おいおい・・・」
ベルとフェイはそれぞれ身体中をボコボコにされた4人の男翼人族たちを連れて戻ってきた。
「いやぁ、すっきりした」
「手遅れだった」
フェイが不穏な言葉を口にする。
「フェイ、説明を求む」
「了解だよ、ご主人様」
フェイは男翼人族たちを見つけると【闇魔法】を発動してすぐに奇襲をかけた。
それは驚くほどあっさりと成功し、ベルが駆け付けた時にはすでに5人ともズタボロの状態である。
「一番偉そうなのは帰したよ。 あと、イーウィムちゃ・・・将軍閣下、これを」
フェイは1枚の紙を渡す。
それは先ほどイーウィムに突き出した国家反逆罪を記した紙だ。
イーウィムはそれを受け取り改めて自分の目で読む。
そこには出鱈目な出来事が延々と書かれている。
最後まで読み終わったイーウィムの額には青筋が浮かんでいた。
「ふ・・・ふふふふふ・・・」
そして、何かがブツッと切れる音がする。
(あ、これやばいパターンだ)
シフトがそんなことを考えているとイーウィムが大声をかける。
「お前たち! 今から城に行くぞ! 私についてこい!!」
「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」」」」」」
「やっぱりこうなるのか」
イーウィムは大量の部下たちを引き連れてさっさと城へと飛び立つ。
シフトたちは止める間もなく見送るしかなかった。




