表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/394

258.イーウィム、罠に嵌める

翼人の国18日目───

シフトたちは朝から集められた一般民を対象に【回復魔法】の使い手を選別し始めた。

シフトの前に翼人族を連れてきて右、左と分けていく。

シフトは右にいく者たちには1~4が書かれた白紙を1枚以上渡していた。

また、人によっては1~4が書かれた赤紙を1枚以上渡しされて右に通される。

その様子を訝しげに見るイーウィム父。

「婿殿は何をしているのだ?」

「父上、シフト殿は今【回復魔法】の使い手を判別しています。 右側に通されているのが【回復魔法】が使える者たちです」

「ただ紙を渡しているようにしか見えないが・・・」

シフトの後ろでイーウィムたちがやり取りしている。

(やり辛い・・・)

シフトは持っている[鑑定石]で調べているだけなので、そんな大それたことはしていない。

イーウィム父は右側に通された者たちを見た。

そこでは1~4の数字が書かれており、それぞれ【生命力回復魔法】、【欠損部位治癒魔法】、【活性化魔法】、【状態異常回復魔法】に分かれている。

実践するには怪我人がいなければならないが幸い中央には多くの翼人がいて、なにかしらの症状を持っていても不思議ではない。

白紙を持っている者は【回復魔法】の所有者で、赤紙を持っている者は怪我人である。

実際に治すところを見てもらってから、白紙の所有者に実演してもらう。

これにより白紙の者は【回復魔法】を覚え、赤紙の者は無料で怪我を治して帰ってもらうのだ。

一般民の健康チェックも兼ねたまさに一石二鳥な仕組みになっている。

イーウィム父は怪我した者が治療を受けて元気になって帰っていく様を見て頷く。

「うむ、医療体制の強化としては申し分ない」

「怪我をして飛べない者が治療を受けることで再び空を飛べるようになる。 これほど素晴らしいことはないと思います」

「これを維持するのは大変だろうが今後の働きを期待しているぞ、イーウィム」

「はい」

イーウィムは力強く頷いた。

その日も太陽が西の地平線に差し掛かる頃にようやく判別作業が終わる。

「シフト殿、ユール殿、お疲れ様」

「イーウィムさん、お疲れ様」

「イーウィム将軍閣下、お疲れ様ですわ」

シフトたちがお互い労っているとイーウィム父が話しかけてきた。

「婿殿、今日1日現場を見させてもらった」

「だから婿じゃない、それでどうでした?」

「満足している。 わしら翼人族は翼が命だ。 傷つき飛べなくなり絶望により死よりも辛い思いをしている者たちをわしは何人も見てきた」

イーウィム父は翼を失った者がユールの【欠損部位治癒魔法】により、再び飛べるようになって喜ぶさまを見ていた。

「人間族は技術も卓越している。 今だからこそ言えるが人間族と国交を結んで正解だとわしは確信している」

「父上・・・」

「それもこれもわしの娘がしたことだがな」

イーウィム父は満足そうにイーウィムを見た。

まさか手放しで父親から褒められるとは想像していなかったのだろう。

イーウィムは照れていた。

それをシフトたちも微笑ましく見ている。

そんなイーウィムだがすぐに顔を引き締めた。

「さて、スケジュール的にはあと3日を予定しています。 シフト殿、ユール殿、問題ありませんか?」

「僕は問題ない」

「わたくしもですわ」

「それなら予定通り進めます」

こうして判別作業も残りも僅かになってきた。


翼人の国21日目───

中央の判別も3/4が終わり、今日が最終日となった。

シフトたちもこれまで通り判別作業を行っている。

もうすぐ昼休憩をしようとした時、偉い軍服を着た5人の男翼人族たちがイーウィムのところにやってきた。

「イーウィム将軍閣下はおられるか!!」

「騒々しい、何ようだ?」

男翼人族の1人が1枚の紙をイーウィムの前に突き出す。

「イーウィム将軍閣下! 貴公を国家反逆罪で連行する!!」

「国家反逆罪だと?! どういうことだ?!」

「言葉の意味そのままだ、連れていけ」

屈強な男翼人族2人がイーウィムの両脇に立つと両腕を掴んだ。

「くっ! 放せっ!!」

抵抗するイーウィム。

それによりイーウィムを取り押さえていた男翼人族がわざとらしい演技をする。

「痛っ!」

それを見た者たちが次々と罵声を浴びせる。

「なんと野蛮なっ!!」

「国の意向に逆らうとはなっ!!」

「それでも上に立つものなのか?!」

突然のことにイーウィムもパニックを起こす。

「ち、違うっ! 私は・・・」

「見苦しいですよ、イーウィム将軍閣下」

イーウィムが連れて行かれそうになったところをシフトが止めた。

「おい、そこの軍人。 イーウィム将軍閣下から離れろ」

「ん? 人間族か・・・貴公には関係ない」

「関係大有りだよ。 イーウィム将軍閣下が国家に対して反逆したといったが具体的に何をしたのか聞きたい」

「これは翼人族の問題だ。 それこそ貴公には関係のないことだ」

男翼人族たちは取り付く島もない。

そんな男翼人族たちにシフトは手を出してしまった。

イーウィムを抑えている男翼人族の腕を思いきり掴んだ。

ミリミリミリ・・・

「痛っ!!」

そのあまりの握力に男翼人族は演技ではなく本当に痛みを受けている。

「早く放さないと腕を折るぞ」

シフトが脅すと男翼人族はイーウィムの腕を放す。

それを見てシフトも男翼人族の腕を開放する。

男翼人族たちは思い通りに事が運んだことに内心にやけた。

「仕方ありません。 今日のところは帰ります。 ですがイーウィム将軍閣下、これであなたの罪は確実になったことを自覚してください」

それだけ言うと男翼人族たちは素直に立ち去った。

イーウィムのところに部下たちがすぐに駆け寄ってくる。

「イーウィム将軍閣下! 大丈夫でありますか?」

「ああ、問題ない。 奴らは・・・」

「おそらく上層部の者たちかと」

「ふっ、どうやら私は相当嫌われているらしいな」

イーウィムは自嘲した。

「シフト殿、助かった」

「いえ、余計なことをしました」

「上のほうはあまり良い顔をしないのは知っていたが、こんなにも早く行動に移すとはな・・・計算外だ」

イーウィムとしても上層部が動いているのは察していたが、このタイミングで仕掛けてくるとは想像していなかったのだろう。

「もう少し周りを固めてから攻めてくるとばかり考えていたがな」

「イーウィム将軍閣下、彼らの目的は?」

「おそらく私の失脚と人間族の追放だろう」

「・・・」

イーウィムの言葉を聞き、シフトは自分の行動の浅はかさを悔いる。

「しまったな・・・もっと徹底的に潰しておけばよかった」

「?!」

「ああいう輩は1度図に乗ると何度でも同じことを繰り返すからな。 2度と舐めた口を聞かないようにしないとな」

「・・・」

シフトの発言にイーウィムと部下たちが苦笑していた。

「じゃあ、ぼくが行ってくるよ」

それを聞いたフェイがシフトの了承も得ずにさっさと姿を暗ました。

「ちょっとフェイ! って、行ってしまった・・・」

「ご主人様、よろしかったのですか?」

「よくないだろ・・・はぁ・・・」

「それじゃ、ベルが止めてくる」

ベルが両腕を前に出すと拳を握りしめてやる気を見せる。

「わかった。 ベルならフェイを抑えられるだろう。 頼んだよ」

「任された」

それだけいうとベルは男翼人族たちが立ち去ったほうへ走っていく。

「なんか心配になってきたな」

「私も」

「わたくしもですわ」

「昔と違って余程の手練れでもない限りは問題ないだろう」

「だといいのですけど・・・」

ルマたちが心配していたが、シフトもさすがに大丈夫だろう・・・そういう風に思った時期がありました。

しばらくすると物を引きずるような音と共にベルとフェイが帰ってくる。

「ただいま」

「今戻ったよ」

「おいおい・・・」

ベルとフェイはそれぞれ身体中をボコボコにされた4人の男翼人族たちを連れて戻ってきた。

「いやぁ、すっきりした」

「手遅れだった」

フェイが不穏な言葉を口にする。

「フェイ、説明を求む」

「了解だよ、ご主人様」

フェイは男翼人族たちを見つけると【闇魔法】を発動してすぐに奇襲をかけた。

それは驚くほどあっさりと成功し、ベルが駆け付けた時にはすでに5人ともズタボロの状態である。

「一番偉そうなのは帰したよ。 あと、イーウィムちゃ・・・将軍閣下、これを」

フェイは1枚の紙を渡す。

それは先ほどイーウィムに突き出した国家反逆罪を記した紙だ。

イーウィムはそれを受け取り改めて自分の目で読む。

そこには出鱈目な出来事が延々と書かれている。

最後まで読み終わったイーウィムの額には青筋が浮かんでいた。

「ふ・・・ふふふふふ・・・」

そして、何かがブツッと切れる音がする。

(あ、これやばいパターンだ)

シフトがそんなことを考えているとイーウィムが大声をかける。

「お前たち! 今から城に行くぞ! 私についてこい!!」

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」」」」」」

「やっぱりこうなるのか」

イーウィムは大量の部下たちを引き連れてさっさと城へと飛び立つ。

シフトたちは止める間もなく見送るしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

「君を愛することはない」と言いますが、そもそも政略結婚に愛なんて不要ですわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

婚約破棄? それならとっくの昔に言い渡されておりますわよ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ