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24.隠蔽

太陽が西に傾きかけたころ。

シフトたちがゴブリンキングの死体を持って町の西門に戻ると衛兵アルフレッドがすっとんできた。

「そこで止まれ!! ・・・って坊主じゃねえか!!!」

「あ、どうも」

「ん? これゴブリンキングじゃないか?! どうしたんだ、これ?」

「ええっと・・・森の中で倒れてたので持って帰ってきました」

とりあえず西門に移動してからシフトは事の顛末をアルフレッドに伝える。

「なるほどな・・・わかった。 おい、だれか冒険者ギルドに行ってギルド関係者を連れてこい」

アルフレッドが同僚に声をかけると衛兵の一人が冒険者ギルドへ走っていく。

「しっかし、坊主は死体と縁があるのか? これで2度目だぞ」

シフトは苦笑いをするしかなかった。

10分ほどするとサリアと5人の男性がやってきた。

「お待たせしました」

「サリアさん」

「シフト様、ゴブリンキングを持って帰ってきたという一報を受けて参りました」

サリアはバックから[鑑定石]を取り出すとゴブリンキングの死体を鑑定した。

「間違いなくゴブリンキングですね。 経緯を聞きたいので冒険者ギルドへ来ていただけませんか?」

「わかりました」

「あなたたちはゴブリンキングを冒険者ギルドに運んで解体しなさい。 それから体内にある魔石はシフト様のものです。 勝手にくすねないように」

「承知いたしました。 サリア様」

「では、シフト様、ルマ様、ベル様、ローザ様、フェイ様、ユール様、冒険者ギルドへ参りましょう」

冒険者ギルドに着くと大騒ぎになっていた。

「森の方でゴブリンキングが出たらしいぞ」

「本当? じゃあ、薬草採取できないじゃない」

「討伐されるまでは森に近づけないな」

受付では10人以上の冒険者が説明していた。

「だから・・・ゴブリンキングが出たんですよ!! 俺たちは戦っても勝てないと思ったから逃げたんです!! 早く討伐隊を編成して討たないと大変なことになるんだよ!!!」

「落ち着いてください。 ゴブリンキングについてはこちらで確認次第討伐隊を編成しますから・・・」

サリアはギルド内を見て溜息をついた。

「シフト様、あちらの席で少々お待ちを。 ふうううぅ・・・皆様、聞いてください!! ゴブリンキングですが討伐が完了しております!!!」

「え?! 嘘だろ?? 誰が倒したんだ?!」

サリアの発言にギルド内の喧騒がより大きくなるが、気にせず続きを話した。

「詳細は明日ギルドマスターであるギルバートから報告させていただきます!! また、明日よりゴブリンの残党狩りを行います!! 詳しくは明日の掲示板に貼り出します!! 以上!!!」

有無を言わせぬようにしたあと、サリアは受付にいる冒険者たちに声をかける。

「あなたたちがゴブリンキングの第一発見者ですね? 詳細を聞きたいので一緒に着いてきてください」

「ああ、わかった。 助かる」

サリアは彼らを伴って奥へと消える。


1時間後───

シフトたちはギルド内の一角で待たされていた。

シフトは平然としていたが、ルマたちは身体の疲労が如実に出ていた。

「・・・ふぅ・・・」

「・・・ご主人様、暇・・・」

「・・・わたしは久しぶりに身体を動かしたからちょっと疲れが・・・」

「・・・ぼく、お腹空いた・・・」

「・・・まだですか・・・」

どうしたものかと考えているとサリアがやってきた。

「お待たせしました。 シフト様、こちらへどうぞ」

「はい。 あ、そういえば第一発見者である彼らは?」

「それですが今ギルドマスターと話していて・・・あ、今出てきましたね」

奥の方から第一発見者である彼らが現れるがこちらに気づかずに雑談しながらギルドを出て行った。

「彼らも疲れているのでしょう。 今はそっとしておきましょう。 それでは案内いたします」

サリアはいつものギルドマスターの部屋に案内するかと思いきや別の部屋の前に連れてくと扉をノックした。

『誰だ?』

「サリアです」

『入れ』

「失礼します・・・シフト様、中へどうぞ」

サリアは扉を開けるとシフトたちに部屋に入るように託す。

シフトたちが中に入ると大きな部屋にこれまた大きなテーブルがあり、その上には豪華な食事が並べられていた。

部屋の中央にはギルバートがおり、後ろには西門で見かけた5人の男がいた。

「やあ、シフト君。 話はサリアから聞いているよ。 立ち話もなんだから椅子に座って。 ルマ君たちも遠慮せず座ってくれ」

シフトが椅子に座ると各々椅子に座る。

「今すぐ話をしたいところだが、お腹が空いているだろう? 食事を用意したんで食べてくれ」

「折角のギルドマスターからの好意だ。 みんな遠慮なく頂くとしよう」

ルマたちは食事を始めると美味しいといって談笑しながら食べていた。

ある程度食べた後シフトは話を切り出した。

「それでギルドマスター。 話とは?」

「そう急かさないでくれ。 お茶を飲みながらゆっくりと話したい」

「・・・わかりました」

ギルバートなりの気遣いなのだろう、シフトは最後まで食事を楽しむことにする。

サリアが食後にギルバートとシフトたちに御茶とケーキを皆の前に置くとギルバートの斜め後ろに控えた。

「さて、落ち着いたところで今回のゴブリンキングの件について話をしよう」

「まず、第一発見者である彼らはD~Eランク冒険者でゴブリン討伐の依頼中に森の奥からゴブリンキングが現れたと言っていました。 危険と察したのか依頼を放棄し報告を最優先にしたそうです」

「ゴブリンキングの討伐依頼難易度はA。 彼らの状況判断は正しいことなので今回の依頼失敗は不問としたよ」

「逃げる途中でほかの冒険者に会って警告しつつ町まで逃走したとのことです」

「僕の考えでは警告を受けたのがシフト君、君たちだと思っているが相違ないかい?」

下手に隠し立てすると面倒になると考えたシフトはギルバートの質問に肯定する。

「はい、確かに僕たちで間違いありません」

「では、ゴブリンキングを倒したのも君たち・・・いや君だと思っていいのかな?」

「ここではお答えできません」

否定の言葉を口にするとシフトはサリアと5人の男たちを見た。

「ん? 心配しなくてもいい。 サリアも後ろの者たちも口が堅く優秀な部下だ。 君の不利益になることは絶対しないと約束する」

「それでもお答えできません」

仮に冒険者初めて2日目でゴブリンキング討伐しましたなどと言って誰が信じるというのだ。

「ふぅ・・・ルマ君たちも答えられないと?」

「ご主人様が答えられないのであれば、奴隷である私たちからお答えすることはできません」

ルマが代表して答えるとベルたちも首を縦に振った。

「僕としても穏便にしたいのだがね」

ギルバートはルマたちを見回し言外に協力しろと、だがその言動はシフトには逆効果だった。

「もし、ルマたちに手を出してみろ・・・この町を消滅させるぞ」

シフトとギルバートの視線がぶつかり合う。

彼らとサリア以外の者たちから息を飲み込む音が聞こえる。

「・・・どうやら本気らしいね」

「ギルドマスター、あなたは言いましたよね。 『僕にもこの冒険者ギルドいやこの町を守る義務がある。 もし君がこの町に害をなそうとするなら・・・』と・・・それは僕にも当てはまることです」

「・・・」

「僕にとっては彼女たちがそれに当てはまります。 それでもというなら・・・」

「・・・ふうううぅ・・・悪かった。 君がそこまで感情的になるとは思わなかった。 許してほしい」

「・・・いえ、僕の方こそ大人げなかったです」

さすがにやりすぎたと思いギルバートに謝罪する。

「『第一発見者が冒険者ギルドに報告後、ギルドの特殊精鋭部隊が向かいゴブリンキングを退治した』ことにするよ」

「ありがとうございます」

ギルバートの提案はシフトが考えていたものと同じなので渡りに船だった。

「ゴブリンキング討伐の件は以上だ。 続いてゴブリンキングの魔石についてだが・・・」

「僕が貰うのも筋違いです。 ギルドで有効活用すれば良いと思います」

シフトの発言にギルバートや男たちだけでなく、いつも冷静なサリアも驚いていた。

「ギルドとしてはありがたいが、いいのかい? ゴブリンキングの魔石は市場にも滅多に出回らない貴重な品だぞ?」

「先ほどの件を不問にしてくれたんです。 それに面倒事を引き受けてくれる対価としては釣り合うと思いますよ」

「なら遠慮なく貰うことにするよ。 僕からは以上だ。 何か質問はあるかな?」

「今日ゴブリン5匹討伐と癒し草5束の依頼を受けたので確認をお願いします。 ベル、ユール」

ベルはゴブリンの魔石100個、ユールは癒し草50束を机の上に置く。

「これは・・・また大量に手に入れてきたね」

「ゴブリンの異常発生と癒し草の群生がありましたからね。 多めに採取できただけです」

「すぐに査定します」

サリアは部屋に備えてある[鑑定石]でゴブリンの魔石と癒し草を鑑定を始めた。

鑑定するサリアを見ながらギルバートが訊ねた。

「それにしてもよくあれだけの魔物を倒したね」

「倒したのはローザとベルの2人です。 薬草もルマ、フェイ、ユールの3人で採取したものですし」

「ふむ・・・西の森だが本来は魔物も薬草もそこまでないはずなんだが・・・」

「だからあの討伐数と採取数ですか?」

「そう、無闇矢鱈に乱獲するのはね。 新人冒険者の稼ぐ手段を減らしてしまう訳にもいかないからね」

「ギルドマスターも大変ですね」

「わかってくれるかい! シフト君!! もうこれが大変でさぁ・・・依頼にランク付けないと低ランク冒険者が高ランクの依頼を受けかねないし、中~高ランク冒険者でも所持金がないことだってあるから低ランク依頼を受けないでとも言えないし、もう匙加減が難しすぎるんだよ・・・」

それからはギルバートの独壇場だった。

日頃の鬱憤が溜まっているのかこれでもかと愚痴が次から次へと矢継ぎ早に出てくるのだ。

シフトも含むその場にいる全員がドン引きしている。

否、サリアだけはスルーしていた。

「・・・てことで、ギルドでも金策が大変でさぁ・・・買い取った素材を加工する技術者も必要なんだけど、高ランク技術者は雇用に金が掛かるし、かといって低ランク技術者だと品質に影響出てくるし・・・」

ギルバートの愚痴が永遠に続くと思われたそのとき、

「シフト様、鑑定終わりました」

サリアが鑑定を終えたのである。

「・・・と、サリア、ありがとう」

「魔石も癒し草もすべて問題ありません。 シフト様、この紙を受付嬢に渡してください」

シフトはサリアから紙を受け取った。

「シフト君、長々と悪いね」

「いえ、こちらこそご馳走していただきありがとうございます」

「今日はこれから宿へ?」

「ええ、これから宿をとろうとおもいます」

「今からかい? それは大変だ。 ちょっと待ってくれ」

ギルバートはサリアから紙とペンを受け取ると手早く何かを書いた。

「これを『猫の憩い亭』の受付に渡すがいい。 部屋を用意してくれるだろう」

ギルバートはシフトに紙を渡した。

「ギルドマスター、お気遣い感謝します」

「「「「「お気遣い感謝します」」」」」

シフトが礼をするとルマたちもそれに続いた。

「ははは・・・いいんだよ。 それじゃ今日はありがとうね。 あと明日も協力してくれると助かる」

「わかりました。 明日のゴブリン残党狩り参加させていただきます。 それでは今日はこれで」

シフトたちは席を立つとギルバートに一礼して部屋を出た。

ホールに戻るとカウンターに歩いていく。

「すいません。 サリアさんからこれを受付に提出するよう言付けをされまして・・・」

受付嬢にサリアからもらった紙を渡した。

「拝見いたします。 ・・・皆さんの冒険者登録証の提出をお願いします。 それと今依頼料を用意しますので少々お待ちください」

受付嬢は依頼料を用意したあと、シフトたちの冒険者登録証の情報を更新した。

「お待たせしました。 まずはゴブリン退治20回分と癒し草入手10回分で銀貨4枚になります。 次に皆さんの冒険者登録証をお返しします。 最後にランクアップおめでとうございます」

受付嬢が冒険者登録証をシフトたちに返すと拍手する。

冒険者登録証を確認するとEランクからDランクへ昇格していた。

「? ゴブリン退治と癒し草入手が1回ずつのはずですが・・・」

「サリア様からの指示ですので問題ありませんよ」

「そ、そうなんですか・・・」

「ええ、なので気にしないでください。 皆さん、これからも頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」

シフトが受付嬢に礼を言うとルマたちも頭を下げた。

「よし、じゃあ『猫の憩い亭』に行きますか」

シフトたちは冒険者ギルドをあとにした。


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