257.スケジュール通りに進む
翼人の国3日目───
シフトたちは2時間ほど南下したところまでやってくる。
イーウィムの部下たちがすでにその地域にいる一般民を集めていた。
最北端と違い人数は若干少ないがそれでもかなりの人数が集まっている。
確認がシフトだけなのでかなり大変だが、鑑定結果は一瞬で終わるので時間的には1人10秒も満たない。
それでも数が多いのでそれなりに時間がかかっている。
一方ユールは【回復魔法】が使える翼人が増えることに反比例して楽になっていく。
その日も昨日と同じくらいの時間に終わる。
「シフト殿、ユール殿、お疲れ様。 これで北側のだいたい3/4は終わったかな。 明日で北側の民たちは終わる予定だ」
「そうですか」
「民たちが多いのは東西南北の出入り口付近と中央だけだからな。 ここら辺みたいにどっちつかずの場所は人が少ない。 といってもそれなりの数は住んでいるのだがな」
「今後もこんな感じの予定で行われるのですか?」
「ああ、なるべくシフト殿たちに負担をかけないようなスケジュールで行う予定だ」
昨日の状況を考えてかイーウィムもシフトたちに無理なことはさせないようだ。
「因みに今後のスケジュールは?」
「大まかだが明日はここから2時間ほど南下した場所で行い、これで北側はすべて終わる。 明後日は移動日にする予定だ」
「明日はともかく明後日はどこに移動するんですか?」
「今のところは東を考えている。 それが終われば西、南、最後に中央予定だ」
シフトはイーウィムのスケジュールを聞いて考える。
特に問題なさそうだ。
「わかりました。 そのスケジュールでお願いします」
「それでは私も現在のスケジュールで民たちを招集するように部下たちに命令しておく」
それだけいうとイーウィムは部下たちのほうへと歩いていく。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫。 イーウィムさんが無茶なスケジュールを組んでいないからこれくらいは問題ないよ」
「私たちも手伝ったほうがよろしいのでは?」
ルマの言葉にシフトは首を横を振る。
「ルマ、ありがとう。 それも考えたんだけどあれだけ人が多いと注意力も杜撰になる。 できれば昨日今日みたいに僕やユールの護衛をお願いするよ」
「畏まりました」
シフトたちは疲れを残さないように備えて休むことにした。
それからイーウィムのスケジュール通りに事は進んだ。
4日目は北の残りを鑑定して、これで北側は全て確認した。
5日目は最東端へと移動する。
6~8日目は東に住む翼人族たちを鑑定する。
9日目は最西端へと移動する。
10~12日目は西に住む翼人族たちを鑑定する。
13日目は最南端へと移動する。
14~16日目は南に住む翼人族たちを鑑定する。
17日目は中央へと移動する。
ここまでは順調に進み、【回復魔法】が使える翼人族がそれなりに増えた。
もっとも【欠損部位治癒魔法】が使える者は貴重で現在40人弱しかいない。
残るは中央に住んでいる者たちだが各最端の人口を足したくらいの人数がいるので、何日かに分けて鑑定していくことに決定した。
イーウィムの計らいでその日は中央にあるイーウィム家の屋敷で過ごすことになる。
イーウィムに連れられてシフトたちが屋敷を訪れると、そこにはイーウィム父と老執事が在宅していた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「イーウィムか、今日はどうした」
「父上、ただいま帰りました」
「ん? 後ろにいるのは婿殿ではないか」
「いや、婿じゃないし」
イーウィム父の発言にシフトは透かさず突っ込む。
「ふむ、相変わらず婿殿は頭が固いな」
「それはあんただ。 前にも言ったけど僕にはすでに5人の嫁がいるんだ。 諦めてくれ」
「やれやれ、婿殿ほどの手練れなどなかなかいないというのにな・・・」
イーウィム父は肩を竦めている。
あの様子では全然諦める気配がないようだ。
「立ち話もなんだから座って話そう」
イーウィム父はシフトたちを談話室へと案内する。
椅子に座ると老執事が紅茶と茶菓子を用意し、皆の目の前に配膳していく。
配り終えた老執事はイーウィム父の後ろに控えた。
「ところで今日はどうしたんだ?」
「父上、今日から数日間はここをシフト殿の宿として提供する予定だ」
「ほう・・・頑張るのだぞ、イーウィム」
「ち、父上!!」
イーウィムはその言葉の意味を察すると顔を耳まで真っ赤に染めていた。
「それでここで何をしようとしているのかな?」
「こほん・・・実は民たちから【回復魔法】の使い手を発掘しています」
「【回復魔法】?」
「はい。 【欠損部位治癒魔法】という魔法なのですが、それを使えば失われた翼を復元できるのです。 現在私は医療部隊を作成中です」
「それは素晴らしいですな」
それを聞いた老執事はイーウィムを素直に称賛するが、イーウィム父は目を瞑り考える。
「父上?」
イーウィム父は目を開くと真剣に語り始めた。
「うむ・・・イーウィム、その行為自体はわしも賛成だ。 わしらが同族には翼を失い命を落とした者が多くいるからな。 だが、それに反発する者も出てくるだろう。 それはどうするつもりだ?」
「それについてはこれから王に進言し、上層部の重鎮たちの意見を取り入れた上で考えていこうと思います」
「なるほど・・・」
「父上、私に至らない点があったのでしょうか?」
イーウィムは自分の政策に穴があるのか聞いてみた。
「まずは格差社会が発生するだろう。 これは避けられない事実だ。 それとイーウィムは今後どのように【回復魔法】の使い手を発掘するつもりだ? まさかずっと婿殿に頼るわけにもいくまい」
「格差社会についてはシフト殿からも指摘されました。 過度な優遇や冷遇にならないようにしなければならないと」
「その通りだ。 新たなる道ができたことは喜ばしいが、それによりほかへの影響が出ては意味がない」
「私の考えですが、まずは普通の軍人より少しだけ色をつけて様子を見ます。 そこから働きに応じた待遇をする予定です。 また不満がある者には別途個別に対応する予定です」
イーウィムの発言にイーウィム父は頷いた。
「今後の発掘については現在検討中です」
「ダメだな。 それでは今お前が進めている医療部隊が最初で最後になってしまう。 後進を育てるのもお前の仕事だ」
確立した作業で継続的に人材を補給しなければいつか廃退してしまう。
イーウィム父はそこを指摘した。
イーウィムが困っているとユールが助け舟を出す。
「発言よろしいかしら?」
「構わないぞ」
「それなら問題ありませんわ。 5歳を迎えた子供に【回復魔法】の適性を調べればよいのですわ」
「具体的には?」
「【回復魔法】には【生命力回復魔法】、【欠損部位治癒魔法】、【活性化魔法】、【状態異常回復魔法】の4つがあります。 それぞれのエキスパートが目の前で実演し、その子供に適性があればきっかけを与えることで使用できますわ」
それはシフトたち人間族でいうところのスキル授与の儀に近い。
あれは特別な[鑑定石]を用いてユニークスキルを神より授かるが、これはどちらかといえばシフトの[鑑定石]みたいにコモンスキルを発掘する方法だろう。
ユールの言葉にイーウィム父が頷く。
「なるほど、わしらが【風魔法】を同族に教えるのと同じで、ある程度の子供になったら医療部隊が赴いて適性のある子供を探すと?」
「その通りですわ。 呑み込みが早くて助かりますわ。 具体的な使い方はすでに医療部隊の方々が習得済みですので、教えるのにも苦ではないはずですわ」
「もしよろしければその現場を見せてもらってもいいかな?」
「もちろんですわ。 これから数日は中央で人材を発掘する予定ですから」
イーウィム父の同伴にユールが受諾する。
「ユール殿、かたじけない」
「気にすることはありませんわ、イーウィム将軍閣下」
「ふっ、そこのお嬢さんに救われたな、イーウィムよ」
「───(かあああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・)」
イーウィムは再び顔を真っ赤に染める。
「ともあれほかにも問題点はあるだろうが、少なくとも最低限のことはクリアしている。 それで問題なかろう。 あとはお前次第だぞ、イーウィム」
「はい」
イーウィム父がイーウィムを激励する。
これが本来のイーウィム父の姿なのだろう。
厳しい人ではあるがちゃんと娘のことを心配している良い父親である。
そのあとはイーウィムのもてなしで、シフトたちは明日に英気を養うのであった。
時を同じくしてある場所では翼人族の上層部の重鎮たちが集まり会合を開いていた。
「イーウィム将軍も困ったものだ。 人間族などを我が翼人族の領域に招き入れるとは・・・」
「翼人族としての誇りはないのだろうか」
「所詮は親の七光りで将軍についた者だ。 その程度の者だったのだろう」
集まった者たちは嘲笑を浮かべる。
だが、1人の翼人族が目の前の品を見る。
「しかし、人間族か・・・厄介な連中だな」
「どういうことだ?」
「イーウィム将軍が連れてきた者たちだ。 力もそうだが技術も相当なものだ」
そういうと目の前にあるマジックバックを手に取った。
「人間族は我らよりも優れた技術を持っている」
「たしかに人間族の品は素晴らしいがそんなものは我らが力で奪えばいい」
「あの人間は脅威だったが、今送られてきた奴らは大したことはない」
彼らは翼人族こそがどの種族よりも優れていると思っている。
現に人間族を下に見ていた。
「ここらで人間族には退場してもらおうかな」
「そうだな。 これ以上我々の領域を土足で汚されては堪らんからな」
「それでは近日中に作戦を実行する。 各自準備しておけ」
それだけいうと翼人族たちは姿を消すのだった。




