255.凍える男を引き連れて
バッファローの死亡とともに空間内の凍てつく雪も止んだ。
シフトは【次元干渉】を発動して凍結を拒絶する。
結界の外を見るとそこには雲間から太陽が顔を覗かせていた。
シフトは結界を解除すると状況を確認するべくルマたちがいる皇国の都へと戻ろうとするが・・・
「ぅぅ・・・」
「ん?」
何か声が聞こえたので周りを見渡す。
すると降り積もった雪の中にフードを被った男が倒れていた。
よく見ると右手に奇妙な紋様が刻まれている。
「おいおいなんでこんなところに『この手に自由を』の構成員が倒れているんだ?」
凍結していないことに疑問に思ったシフトは[鑑定石]で男を調べた。
すると身に着けている指輪に凍結無効の能力が備わっている。
「ああ、この指輪があるから凍っていなかったのか」
しかし、男は身体を震わせて動けない。
シフトは近づいて男の身体に触れると恐ろしく冷たい。
「えっと・・・もしかして寒さで動けない?」
とりあえず雪の中から救出するとマジックバックからロープを取り出して男を拘束する。
死なれては困るのでバックからポーションも取り出して男の口に突っ込むと無理矢理飲ませた。
ゴクゴクゴク・・・
男の体力が回復すると急に荒い息を始める。
「はぁはぁはぁ・・・た、助かった」
「お前に聞きたいことがあるんだけど、ここで何をしていた?」
「お、お前には関係ないだろ!」
男は虚勢を張り、シフトの質問に答えない。
「まぁ、だいたいの検討はついているけどな。 とりあえずお前を連れていくか」
シフトはそれだけ言うと男に猿轡をしてからロープで引っ張って都まで連行した。
シフトが都に戻るとあれほどあった雪がすでに解けてなくなっている。
「ご主人様!!」
声がしたほうを見るとルマたちがこちらにやってくる。
「ただいま」
「「「「お帰りなさいませ、ご主人様!!」」」」
「ユールは?」
「まだ戻ってきていません」
「そうか」
ユールはイーウィム、皇子殿下チーローと一緒に上空に待機しているのだろう。
「しまったな・・・解決した後のことを決めていなかった」
「それではユールやイーウィム将軍閣下たちは・・・」
「た、多分、上空だ」
どうしようかと迷っているとイーウィムの部下たちで翼人族が数人やってくる。
「どうされました?」
「あ! 丁度いいところに! 実はお願いがあるのですが・・・」
「はい、なんでしょう?」
「多分なんですけど、あの雲の上にイーウィム将軍閣下がまだいると思うので終わったことを伝えて・・・いや、僕をあの雲の上まで運んでくれませんか?」
「ええ、構いませんよ」
男翼人族が素直に応じてくれた。
「ルマたちはこの男を逃がさないようにここで見張っていてくれ」
「「「「畏まりました、ご主人様」」」」
シフトはロープをフェイに渡すと男翼人族に抱えられて再び上空へと移動した。
雲の上を突っ切るとシフトが北を指さしたほうへ飛んでもらう。
向かった先ではユール、イーウィムたち翼人族、それにチーローが心配そうに下の雲を見ていた。
「おーい! ユール!! イーウィム将軍閣下!! 皇子殿下!!」
「あ! ご主人様!!」
「「シフト殿!!」」
合流すると心配そうに声をかけてきた。
「ご主人様、心配しましたわ」
「すまない、元凶の排除には成功したのだが解決後のことまで考えていなかった」
「「「「おおー」」」」
その言葉を聞き、その場にいた男性陣が感嘆の声を上げる。
「ご主人様、さすがですわ」
「うむ、さすがはシフト殿だ」
「であれば、これでもうここにいる理由はなくなったようです」
「はい、詳しいことは地上で話しましょう」
それだけいうとシフトたちは地上に戻りルマたちと再び合流する。
「「「「お帰りなさいませ、ご主人様!!」」」」
「ただいま」
「ただいま、戻りましたわ」
「ユールもお疲れ様」
「ふふん、ちゃんと役に立ってきましたわ」
ユールにしては珍しく誇っていた。
「そうだな、ユールがいなければ今回の作戦は無理だっただろう」
「当然ですわ」
シフトが褒めるとユールは機嫌が良く答える。
それからシフトはイーウィムとチーローを見ると礼を言う。
「皇子殿下、敵を【探知】していただきありがとうございます。 それとイーウィム将軍閣下及び配下の翼人族の皆さんも協力感謝します」
「朕もシフト殿の役に立てて良かった」
「私もだ。 お前たちも良く頑張ってくれた」
「「「ありがとうございます、イーウィム将軍閣下!!」」」
一通り労いの挨拶を済ませるとフェイがシフトに声をかける。
「ご主人様、これはどうするの?」
「それなんだけど皇子殿下に引き渡す」
「ん? シフト殿、その男は?」
「『この手に自由を』の構成員です」
「『この手に自由を』?!」
その言葉にチーローが驚いた顔をする。
「多分、今回の首謀者だと思いますのでどうするかは皇帝陛下や皇子殿下に任せます」
「うむ、それならばその男は朕が預かるとしよう。 それとシフト殿には事の顛末を聞きたいのでご同行願いたい」
「わかりました」
「それなら私も一緒に行こう」
シフトは男を引っ張って、チーローのあとをついていく。
皇宮につくと天皇陛下テンローがいる謁見の間へと移動する。
そこにはすでにテンローが座して待っていた。
部屋の中央までくるとチーローは膝を突きテンローに一礼する。
「陛下、ただいま戻りました」
「うむ、ご苦労。 それとイーウィム殿にシフト殿もこの異常事態に尽力してくれたことに礼を言う」
シフトとイーウィムはテンローに一礼する。
「それで、シフト殿。 その男はなんだ?」
「今回の首謀者と思われる人物です」
「ほう」
それを聞いたテンローが目を細める。
「それでどうするのだ?」
「陛下に引き渡すのでご自由に」
「・・・うむ、本来であれば国を混乱に陥れ崩壊させようとしたことから極刑にしたいところだが、そういう訳ではなさそうだな」
「それを決めるのは陛下にお任せします」
テンローはジッとその男を見る。
「うむ・・・息子よ、それを例の場所へ」
テンローの言葉にチーローは顔を蒼褪める。
「! か、畏まりました。 誰かここへ!!」
近くにいた衛兵たちがやってくる。
「この男を例の場所へ移動させろ」
「か、畏まりました」
衛兵たちも『例の場所』と聞いて顔を蒼褪めている。
シフトとイーウィムはその表情を見てあまりいい場所ではないと想像に難くない。
「さて、シフト殿。 事の顛末を聞かせてはもらえないだろうか?」
「はい」
テンローの言にシフトは応える。
チーローの助力により都の北に凍てつく雪を降らせている元凶を突き止めたこと。
上空から敵のところまで移動したこと。
結界を張って雪を遮断したこと。
敵を葬ることで凍てつく雪が止んだこと。
凍えて死にかけた『この手に自由を』の構成員を確保したこと。
「僕が知る限りのことは以上です」
シフトはそう締めくくるとテンローを見た。
シフトの言葉を黙って聞いていたテンローは目を瞑ると数瞬したのちに目を開く。
「大儀であった。 皇国を救ってくれたことに感謝する」
テンローは口角を上げ牙を見せるとさらに言葉を続けた。
「『この手に自由を』か・・・息子よ」
「陛下、心得ております」
「任せたぞ」
「はっ!!」
チーローはテンローの考えを理解し、すぐに行動に移せるように頭の中で組み立て始めている。
「それでシフト殿はいつまでここにいる予定かな?」
「とりあえずはイーウィム将軍閣下の帰国についていくのでそれまではここに留まります」
「ほう、イーウィム殿の・・・それは何用で?」
「翼人族の国から直々の依頼で翼人族の国に行って住民から【回復魔法】の使い手を発掘しに行きます」
テンローの目が細くめる。
さすがのテンローも国の依頼に割り込むほど野暮なことはしないはずだ。
「うむ、そうか・・・イーウィム殿はいつ出国する予定だ?」
「今はこの雪でドタバタしている。 今日明日と確認して特に問題なければ2~3日後には出発する予定だ」
「わかった。 それまでは皇国で羽を休めるがよい」
「気遣い感謝します」
イーウィムはテンローに一礼する。
「さて、本来であればここで祝杯を挙げたいところだが皇国の被害状況を確認せねばならぬ。 故にそのまま帰すことを許してほしい」
「お気遣いなく」
「息子よ、あとは任せるぞ」
「はっ!!」
「それでは私たちはこれで失礼します」
シフトとイーウィムはテンローに頭を下げるとチーローとともに謁見の間を退室する。
チーローの案内で門のところまで戻ってくると声をかけてきた。
「イーウィム将軍閣下、シフト殿、本日は皇国のために尽力していただき誠にありがとうございます」
チーローはシフトとイーウィムに頭を下げる。
「頭を上げてくれ。 私も皇子殿下には助けられたからな」
「たしかに皇子殿下がいなければどうなっていたかわからないな」
「御2人とも褒めても何も出ませんよ?」
チーローは頭を上げると困った顔をする。
「どちらかといえばシフト殿に助けられました」
「確かにそうだな」
「僕は助けたというよりも巻き込まれたから仕方なく動いたような感じなんだけど・・・」
聞いたイーウィムとチーローはついつい笑ってしまう。
シフトは溜息を突きながらもその雰囲気に流されて口元が緩むのであった。




